Yahoo!ニュース

今や時代にまったくそぐわない?名球会の入会基準

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
現地時間11日に日米通算2000本安打を達成した青木宣親選手(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

6月11日のエンゼルズ戦に先発出場し、青木宣親選手が今季2度目の3安打を放ち、日米通算2000本安打を達成した。今シーズンはすでに中日の荒木雅博選手が通算2000本安打を達成し、さらに巨人の阿部慎之助選手、ソフトバンクの内川聖一選手、ロッテの福浦和也選手、阪神の鳥谷敬選手が大台に到達する可能性を残している。

今更だが日本には名球会が存在する。NPB単独、もしくはMLB合算で打者なら2000本安打、投手なら200勝もしくは250セーブを達成すれば入会資格を得ることができる。だが名球会が1978年に誕生して以来40年が経過し、試合数や選手の起用法などプロ野球の環境は大幅に変貌した。にも関わらず入会基準は2003年に250セーブが加えられただけで旧態依然のまま。もう誰の目にも明らかだが、投手、野手間で“格差”が生まれてしまっている。

それを物語るように、前述通り打者は2000本安打目前の選手が目白押しである一方で、投手の方は200勝に最も近い存在が日米通算170勝の岩隈久志投手で、その後に続くのは石川雅規投手の156勝。また250セーブについては藤川球児投手が223セーブまで迫っているが現在はクローザーを務めていないので、最も近い存在は194セーブのデニス・サファテ投手ぐらいだろう。

こうした格差が生じてしまったのは至って簡単だ。1978年当時は公式戦が130試合制だったの対し、1997年以降徐々に試合数が増え現在は143試合制になっている。もちろん試合数が増えれば打席数が増えることになり、必然的に年間安打数も増加傾向にある。その一方で先発投手の起用法が現在は中6日が一般的となり、逆に先発投手の登板数は減少しているのだ。今や過去10年間で年間20勝を達成したのは2008年の岩隈投手(21勝)と13年の田中投手(24勝)の2人しかいない状況だ。

さらに投手の分業制が完全に確立し、確固たるクローザーがいないチームはリリーフ陣の中でローテーションを組みながらクローザーを入れ替える策を講じる場合もあるなど、なかなか長期に渡りクローザーを務めにくい環境にもなっている。またプロ野球の経歴を通してずっと中継ぎ専門で終わる投手も出現するようになり、完全に名球会からは蚊帳の外の存在になってしまっている。

この格差を解消し、投手、野手ともに同レベルの入会基準にするためには、やはり変更が必要になってくるだろう。

まず打者の場合は、単純に試合数が130試合から約1.1倍の143試合に増えているのだから、基準の2000本安打も1.1倍増の2200本安打にした方がいいだろう。日米合算の場合も同様で、MLBは162試合制でNPBより多いのだから、これを同等比較できるようにMLBの安打数は0.9倍で計算すればいい。

ただ過去の日本人メジャー選手の例からも判断できるように、イチロー選手以外、試合数が増えてもNPB在籍当時のペースで打つのが難しい傾向にある。やはりMLB、NPBの差を考慮すれば、これまで通りの日米合算でいいのかもしれない。これについて様々な考え方があると思う。

投手の場合はより複雑だ。もう200勝に到達するのが難しいことを考えれば、基準そのもののあり方を考えるべきだろう。前述通り投手の役割が細分化されてしまった以上、皆が名球会入りする権利を得るためにも勝利数、セーブ数に分けるのではなく、ホールド数も加えた合算記録を採用した方がいいのではないか。

例えばプロ在籍年数で中継ぎ経験が5年未満の投手は先発中心なので、合算記録で200(もしくは190?)とし、中継ぎ経験が5年以上なら合算で300(セーブ、ホールドは勝利数以上に記録しやすいので)とするというのはどうだろうか。これなら中継ぎ専門で過ごしたベテラン投手にも名球会入りのチャンスを得ることができるだろう。

いずれにせよ現状の基準のままなら、もう名球会に入れるのは打者だけになってしまう。またそもそも基準のあり方自体もおかしいと言わざるを得ない。打者は勝敗に関係なく安打数だけで判断されるのに、投手は勝利試合のみの勝利数、セーブ数が対象になるというのでは、この点においても不公平感を拭うことができない。そうした事象も含めた上で、すぐにでも入会基準を再考すべき時だと思う。

ただ個人的には名球会そのものの存在に違和感を抱いてもいる。せっかく野球殿堂もあるのだから、わざわざダブルスタンダードにする必要はないのではなかろうか。名球会が実施しているイベント事業も、殿堂入り選手たちも含めてできることだと思うのだが…。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

菊地慶剛のスポーツメディア・リテラシー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3、4回程度(不定期)

22年間のMLB取材に携わってきたスポーツライターが、今年から本格的に取材開始した日本プロ野球の実情をMLBと比較検討しながらレポートします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

菊地慶剛の最近の記事