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プロ野球のセキュリティ態勢は現状のままでいいのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今や金属探知機と手荷物検査は必須になった米国でのスポーツ観戦(写真:ロイター/アフロ)

今年4月からプロ野球取材で何度も球場に足を運ぶようになって、2つのことを実感し始めている。まず1つが長年取材を続けてきた米国プロスポーツと比較した上での、セキュリティ態勢の違い。そしてもう1つが、訪日外国人旅行者の急増に伴い、外国人のプロ野球観戦者の増加だ。

今更説明するまでもないが、米国に限らず世界中でスポーツイベントのセキュリティ態勢は厳格を極めている。ここ最近になってスポーツ・イベントやコンサートなどをターゲットにした無差別テロが多発している。しかもテロリストが外から入国してくるのではなく、自国民が徐々に思想を変えていきテロリストになっていく『ホーム・グロン・テロ』が拡大しつつある。もう欧米ではいつ、どこでテロが起こってもおかしくない状況に陥っているのだ。

それを物語るように、ここ1、2年で米国のスポーツ・イベントのセキュリティ態勢はさらに強化されてきた。例えばMLBの場合、数年前までは大きなイベント(ワールドシリーズやオールスター戦等)以外の公式戦ではメディアがセキュリティ・チェックの対象になることはなかったのだが、一昨年辺りからどの球場でもメディア、球場スタッフ、選手などすべての入場者がセキュリティ・チェックの対象になり、金属探知機、手荷物検査を通らないと球場に入れなくなっている。これは他の4大スポーツと言われるNFL、NBA、NHLにおいても同様だ。

一方で、日本のセキュリティ態勢はどうだろうか?これまでプロ野球の取材で4球場を訪れているのだが、メディアに関してはまったくチェックが行われず完全スルー。ファンに関しても簡単な手荷物検査を行うだけで数秒のチェックで球場内に入れてしまう。

もちろん日本と欧米では取り巻く環境は違う。銃刀法の規制が厳しい日本ではテロリストが武器を球場内に持ち込むことは簡単なことではない。だがあれほど単純な手荷物検査では、バッグの奥に隠し持ったナイフや包丁を確認できるのかいささか不安だ。やはり最低限でも金属探知機と十分な手荷物チェックが必要になってくるではなかろうか。

しかも試合中に球場内を監視しているガードマンは決して訓練を受けて人たちには見えない。米国ではガードマンは屈強な体格をした訓練を受けた人が多く、緊急時に備えて催涙スプレーや手錠を常備しているのが当たり前になっている。しかも球場内には警察官も待機しており、いざという時は合同で対処する態勢を整えている。

これまで日本国内のスポーツ・イベントに関しては、日本人同士の“阿吽(あうん)の呼吸”で対処することができていたように思う。観戦者は「周りに迷惑をかけないように」と心がけ、警備する側も「入場者に余計な負担をかけないように」で良かった部分があった。なので理性を失った酔っぱらいやファン同士の喧嘩に対応するぐらいで良かった。だが前述通りの外国人観戦者の増加は、そんな環境を一変させるものだと言える。

せっかくなので外国人の意識調査も兼ね、球場に足を運んできた何人かの外国人たちに話を聞いたことがあるのだが、彼らは一様にプロ野球観戦を満喫していた。特に今ではプロ野球の風物詩にもなっている7回のジェット風船応援は、外国人にとって相当のアトラクションらしく、今後も外国人旅行者にとってプロ野球観戦は魅力的な乾燥素材になり得ると実感できた。今後も確実にその数を増やしていくことだろう。

つまり今後はそうした増加していく外国人観戦者にも対処していかねばならないわけだ。多種多様な人種の人たちが球場に足を運ぶようになれば、当然のごとくセキュリティもそれだけ難しくなってくる。やはりそれに即した態勢を整えていくしかないのだ。

また新たなセキュリティ態勢を採用するには、それをスムーズに機能させるために警備する側は訓練とある程度の経験が必要になってくるし、また観戦者側も厳しいセキュリティに慣れていかないと混乱が生じてしまう。

2019年にラグビーW杯、20年に東京五輪と国際的なスポーツイベントを控え、否応無しで日本もセキュリティ態勢を強化しなければならないのだ。その準備期間はあと2年しかないのだ。1日も早い対処が求められている。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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