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慣例にも臆されないDeNA筒香が続けるアスリートとしての社会貢献

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
27日の阪神戦に子供たちを招待し試合前に交流するDeNA筒香嘉智選手

筒香選手が中学時代に在籍していた『堺ビッグボーイズ』に新設された小学部のスーパーバイザーに就任することが発表されたのは、今年1月のことだった。当時も現役選手が野球少年の指導に長期的に携わるということで、各メディアで報じられたりもしていた。

とはいえシーズン中の現役選手が直接指導するのは不可能なことで、現在は横浜高校時代のチームメートだった佐野誓耶(せいや)コーチを窓口にして、指導陣と意見交換しながらチーム状況を把握している日々だ。そんな中、自らの関西遠征に合わせ、子供たちを阪神戦に無料招待することになったというわけだ。

今回は所属36人中34名が参加。筒香選手が守る左翼後方の席から監督、コーチ、父兄らとともにお手製プラカードを手に熱い声援を送った。試合中も声援に気づいた筒香選手から手を振ってもらったり、中にはキャッチボールしていたボールをプレゼントされた子供もいて、すっかり大興奮の1日だった。

お手製のプラカードを手に筒香選手を応援する堺ビッグボーイズ小学部の選手たち
お手製のプラカードを手に筒香選手を応援する堺ビッグボーイズ小学部の選手たち

実はそれだけではない。残念ながら全選手とまではいかなかったが、選抜された4人が試合前のグラウンドに招待され、DeNAの打撃練習を見学させてもらったのだ。4人は筒香選手からサイン入りの打撃グローブをプレゼントしてもらっただけでなく、アレックス・ラミレス監督やスペンサー・パットン投手からもサインをもらえるなど、夢のような時間を過ごすことができた。

DeNAの打撃練習中パットン投手と記念撮影する4選手
DeNAの打撃練習中パットン投手と記念撮影する4選手

その1人に選ばれた小学部のキャプテンを務める大國克真(小6)くんは、満面の笑みを浮かべながら以下のように話してくれた。

「(甲子園に)観戦に来たことはあります。グラウンドに立つのは初めてです。思ったよりグラウンドが広くて、皆ライナーとかですごいバッティングでビックリしたり、それと送球がめちゃくちゃ速くてビックリしました。(今まで経験した野球観戦より)全然楽しかったです」

長年MLBを取材してきた立場からすれば、こうした選手たちの社会貢献活動は決して珍しい光景ではない。だが今シーズンからNPBの公式戦に足を運び、試合前は選手たちが練習や準備に多くの時間を割かれる実態を知り、日本ではシーズン中にMLBのような社会貢献活動やファンサービスを行うのは、かなり選手へ負担を強いるように実感し始めている。

例えばMLBではデーゲームの際に事前に指名された選手たちがファン向けにサイン会を実施したりするのが通例なのだが、それはデーゲームの際は試合前の練習を休んだり、オプション(自主参加)にしたりするから可能になるからであって、日本のように毎試合しっかり練習する環境では、選手が練習以外の貴重な休憩時間を削らないと対応できないわけだ。

まして遠征試合ともなると、宿泊ホテルから全員でバス移動してくるので、ますます個人的な時間が制限されてしまう。それでも筒香選手はほとんど前例がないことを自ら望んで実行した。その真意を直接本人に確認してみた。

「(子供たちにとって)プロ野球選手がすべてではないですけど、憧れるような(存在に)というか…。せっかく(子供たちが)野球をやっているので野球から学んで欲しいと思っていますし、野球だけやっていていても僕は意味がないと思うので。またここに来たら何かを感じる部分があると思いますし、それでまた頑張ってくれたら嬉しいなと思います。

向こう(堺ビッグボーイズのグラウンド)で交流するのと、こうしてここに招待させてもらうとのでは全然意味が違うと思います。僕もみんなにいい姿を見せられたらいいと思います。

僕は野球界に(身を)置かせてもらっているので野球界に還元しないといけないと思っています。ただ自分さえ良ければいいというのは違うというのがあります。小さい子供たちのために(何かをしてあげたい)という思いが強いです。日本のシステムは変わりにくいですけど、誰かがやらないと変わらないですし、こういうことをどんどんやっていきたいですね」

筒香選手にとって今回の試みはスーパーバイザーとしての仕事というよりも、野球を通じて知り合った子供たちに自分の職場を見せることで彼らに社会見学の場を与えたかった、とも話してくれた。

試合観戦後に記念撮影する堺ビッグボーイズ小学部の選手たち
試合観戦後に記念撮影する堺ビッグボーイズ小学部の選手たち

筒香選手を取材するようになってからまだ日は浅い。それでもスーパーバイザー就任であったり、今回の社会貢献活動であったり、はたまた主力選手でありながらドミニカ・ウィンターリーグに武者修業に行ったり等々、慣例に捕らわれない発想力、信念、そして実行力は25歳の若者とは到底思えない潔さを感じずにはいられない。

これからも筒香選手は野球を通じて少年少女たちに夢を与えられる存在であり続けてほしい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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