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日本一達成の翌年だからこそ期待される日本ハム吉井コーチの手腕

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
若手先発投手陣の更なる飛躍に期待を寄せる吉井理人コーチ

昨年の日本ハムは、両リーグトップの防御率3・07を誇る堅実な投手陣を誇った。中でもリリーフ防御率2・67は両リーグでも突出した数字で、吉井コーチの下、確固たる投手分業制を確立したためでもあった。

だが日本シリーズまで戦ったことで、フル回転の投手陣も約1ヶ月長いシーズンを過ごさざるを得なかった。その分オフの調整にも多少の影響を受けながら今シーズンに備えなければならなかったわけだ。実際シーズンが開幕しても、4月9日時点でチーム防御率は3・97でリーグ4位、リリーフ防御率も2・63で同3位に留まっている。しかし吉井コーチは大きな不安を抱えている様子はなかった。

「優勝した翌年のシーズンは気持ちもそうなんですが、フィジカルなコンディショニングを整えるのは難しいですね。ただこのチームではシーズン中から(指導を)やっているので、あまり重点を置いているところではないんです。オフの過ごした方は優勝していなくても大事になってくるので、そこは選手がきちんとしているつもりです。(吉井コーチは参加できなかった)優勝旅行でもみんなが結構練習していたみたいです。

それにアメリカはシーズン終わってすぐ休むじゃないですか。そこから自主トレの準備期間に入って、キャンプもコンディショニングを上げるために使ってますよね。日本は秋季キャンプとかがあるので休む時期が少し遅いんですよね。そういう意味で日本の場合は、日本シリーズが終わってた後だと逆にちゃんとしたところで休みが取れている感じになっているんです。練習を再開する時期さえ間違えなければ大丈夫なんです。逆に負けたチームの方が秋の練習をやり過ぎて12月をサボってしまい調整が遅れるというパターンもあるので」

吉井コーチは日頃から投手たちを強制的に指導するのではなく、選手たちとの対話のなかで課題を見つけ、自主性を重んじながらその課題を克服させる指導を心がけている。つまりオフの過ごし方に関しても、優勝した、しないに関係なく選手たちが自ら考えて今シーズンに臨む調整を行ってくれたようだ。だから吉井コーチに不安はないのだ。

だが前述通り、開幕から投手陣は思うようなパフォーマンスを披露できていない。さらに大谷投手も4月8日の試合で左脚太ももを痛め翌日に出場登録を抹消され、投手復帰はさらに遅れる見通しだ。それでも吉井コーチは今季の投手陣に昨年以上の可能性を感じているという。それでは連覇を目指す上で、吉井コーチが考える理想像はどんなものなのだろうか。

「まずは先発投手に長いイニングを投げてもらいたいですね。去年も投手コーチとして必ず7回のマウンドに足をかけて欲しいなと思って送り出してたんですけど、結局5回ちょっとぐらいしか投げられてないんですね。そこをしっかり6回まで投げられる投手をつくれば中継ぎ陣への負担も減ってくるわけです。

それと勝ちパターンで投げられる新しい若いリリーバー(中継ぎ投手)が出てきて欲しい。チームB(吉井コーチは勝ちパターンで投げる主力リリーフ陣をチームA、それ以外のリリーフ陣をチームBと表現する)のレベルを上げてAのところでも投げられるようにしていけば、Aの投手の負担も減ってくるじゃないですか。でも投げる場面が減るのでAの投手たちが嫌かもしれないですけど(笑)。そこを分からないように(底上げを)したいなというふうに(キャンプから)重点的にやってきました」

実際吉井コーチは、底上げが進んでいることを実感しているようだ。彼の口からチームA入りできそうな可能性を秘めた投手として石川直也投手、公文克彦投手の名前が挙がった。さらに開幕は2軍スタートになったが井口和朋投手らも一軍で十分に通用するレベルに上がってきているそうで、リリーフ投手陣の底上げは着実に進行している。

そうなると課題は先発陣ということになる。果たして吉井コーチが望むように、投げる度に6回を投げ切れる先発投手は登場するのだろうか。

「去年活躍した先発投手たちは実質今年が2年目なので、去年よりレベルを上げなければならないですね。そこをどれだけ頑張ってくれるかですけどまだ未知数なので。こちらから色々やっているんですけど,あとは選手の頑張りですよね。

技術面を教えるのは簡単ではないですがそれなりにできるんですけれども、マウンド上の戦術とか必要に追い込まれ時の対処の仕方とか、そういう部分はなかなか教えられないので。自分で見つけて(解決策を)身につけていかなきゃいけないもの。それはこっちの我慢も必要になってくる部分もありますね」

吉井コーチの言葉通り、4月8日のオリックス戦に先発した有原航平投手が早い回で失点をされながらも8回まで任せたのも、栗山監督の考えもあり、先発として更なるレベルアップを期待している有原投手に何かを掴んで欲しいという思惑があったからだった。

たとえ大谷投手が長期離脱を余儀なくされたとしても、有原投手に限らず、加藤貴之投手、高梨裕稔投手の一本立ちに期待のかかる若手先発陣が揃う。さらに吉井コーチは、上沢直之投手、上原健太投手の台頭にも期待を寄せている。

これらの若手先発投手たちが吉井コーチ流の自主性重視の指導で一本立ちできるようになれば、間違いなく昨年以上の投手陣になるし、向こう数年間は安泰な投手王国を築けることになるだろう。

吉井投手コーチが思い描く青写真通りに進行するのかどうか、しばらく日本ハムの戦いぶりを見守る必要があるようだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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