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米国内で“ムネロス”を味わっているのはファン以上に彼を知る選手たちだ

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
川崎選手の存在感を十分に理解しているのは彼と時間を共有した選手たちだ(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

「本当に?カワがいなくなって寂しいよ…」

川崎選手が帰国の途につく機上の人になった後、数人の選手たちに報告メッセージを送ったところ、そのすべての反応がこのような惜別の言葉ばかりだった。

特にこれらの選手の1人は、解雇直前まで3Aに回ってからのスケジュールがどうなるかの確認も行っていたほどだ。まさに川崎選手の帰国は青天の霹靂(へきれき)というべき出来事だったはずだ。

報告をした選手たちは、すべて川崎選手と仲が良かった選手たちだ。なぜメディア風情の自分が選手たちの連絡先を知っているかといえば、それも川崎選手がいたらからこそなのだ。

昨年まで何度となくメジャーではなくマイナーに在籍していた川崎選手の取材に回っていた。もちろん現場で取材する記者など地元メディアを含めほぼゼロの状態だ。川崎選手のみならず、他のチームメイト達も皆距離を縮めてこちらに接してくれた。その環境で取材を続けている中で、改めて川崎選手がどれほど選手たちに愛されているのかを実感できた。

1つの例を挙げよう。昨年6月のことだった。チームが遠征中に、川崎選手自らの誕生パーティーを開くからと日本食レストランに選手たちを集めた。もちろん通訳のいない川崎選手はその交渉をすべて1人で行った。さらに川崎選手は、取材に回っていた自分にも声をかけてくれたのだ。選手たちと一緒に素晴らしい時間を共有できたし、この時に元阪神のマット・マートン選手とプロ野球の話を含め、いろいろな話で盛り上がることもできた。

また試合前にランチを食べに行こうと誘われたこともあった。宿泊ホテルに迎えに行くと、待っていたのは川崎選手だけでなく、別の選手も一緒にいた。「寿司が大好きだから一緒に連れて行きたい」と3人で遠征先の日本食レストランで寿司を食べることになった。この選手こそ、今季からDeNAに在籍するスペンサー・パットン投手だった。このランチを機に、パットン投手とも気軽に話をできる間柄になっていた。まさに川崎選手は皆の“垣根”を崩してくれる存在だった。

これこそが過去5年間、川崎選手が所属チーム内で行ってきたことだ。これまで何度も目撃したことだが、英語もスペイン語も片言しか喋れない日本人選手の周りに自然と選手が笑顔で集まってきた。20年以上MLBの取材を続けてきて、こんな光景が日常茶飯事だった日本人選手は他にいなかった。

これはマイナーの世界だったからではない。メディアが深部まで入れないメジャーでもまったく変わらなかった。数日前にカブスのキャンプにスポーツ専門ラジオ局の一員として取材に訪れたブルージェイズ時代の同僚だったJP・アレンシビア氏は、自分の仕事を度外視して取材スタッフに以下のように言い訳していた。

「とりあえずカワに挨拶させて欲しい。彼は本当に素晴らしいナイスガイなんだ」

川崎選手の笑顔を直に見られなくなった選手たちの悲しみは、さらに広がっていくことだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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