Yahoo!ニュース

減価するデジタル通貨と異次元の少子化対策

小黒一正法政大学経済学部教授
(写真:つのだよしお/アフロ)

昨日(2022年2月15日)、衆議院予算委員会にて、令和4年度予算案等につき、専門家が意見を述べる中央公聴会が開催されました。午前と午後で4名ずつ意見を述べたのですが、小職も午前中の1名として意見を述べました。

この意見の一部について、以下のとおり、NHKのNEWS WEBの記事で紹介がされています。

法政大学の小黒一正教授は、新型コロナ対策と財政運営について「新型コロナ問題を早急に解決することが重要で、財政が厳しい状況でも機動的な財政出動をするのは致し方ない。一方で、今の財政状況を考えると、平時と非常時の財政を切り分けるという意味で、東日本大震災のときのように新型コロナ対策特別会計を設置し、今後、債務を償還していくやり方も検討すべきではないか」と指摘

この意見は筆者が主張した内容のうち重要なことの一つなのですが、それ以外にも以下のことを述べています。

1)プッシュ型行政サービスと所得のリアルタイム把握(日本経済新聞「経済教室」2021年5月28日朝刊)

2)医療版マクロ経済スライドの導入(拙著『日本経済の再構築』第5章)

3)奨学金の出世払い方式(日本版HECSの導入)(拙著『日本経済の再構築』第7章)

4)減価するデジタル通貨による異次元の少子化対策

5)一人当たりGDPと時短政策

このうち、筆者が最も重要だと思うのは、4)の「減価するデジタル通貨による異次元の少子化対策」です(詳細はこちら)。理由は、出生率の目標を定めた地方創生を含め、政府もこれまで様々な少子化対策を行ってきましたが、現実には人口減少は加速しているからです。東京一極集中の是正といったゼロ・サム・ゲーム的な政策では限界があるのは明らかです(詳細はこちら)。

2021年の出生数は80万人割れを何とか回避できた模様ですが、2022年で出生数が80万人を割り込む可能性があります。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」(平成29年推計、出生中位・死亡中位)では、出生数が80万人割れとなるのは2033年と予測していましたから、政府の想定よりも10年ほど前倒しのスピードで人口減少が進んでいることを意味します。

日本の将来を担うのは、これから生まれてくる次世代であり、米中対立の安全保障や財政再建といった問題を除き、解決すべき最も重要な問題は人口減少の問題だと思います。「子ども保険」構想などもあり、筆者もその重要性は認識していますが、正直、この程度の政策で人口減少を転換できるとは思えず、何か「異次元」の政策が求められていると思います。この問題意識で提言したのが、「減価するデジタル通貨による異次元の少子化対策」です(奇策であり、一定の財政的リスクが存在するため、本気でこの問題を解決する政治的意思があることが条件ですが)。

なお、かつての日本のように頑張れば「豊かさ」を取り戻すことができるという試算が、5)の「一人当たりGDPと時短政策」です(詳細はこちら)。現在はワークライフバランス等の問題もありますから、一律に労働時間を増やすことを推奨するものではありませんが、「日本の真の実力」が衰えているとは言えないという認識も深め、自信をもつ必要があると思います。

法政大学経済学部教授

1974年東京生まれ。法政大学経済学部教授。97年4月大蔵省(現財務省)入省後、財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授等を経て2015年4月から現職。一橋大学博士(経済学)。専門は公共経済学。著書に『日本経済の再構築』(単著/日本経済新聞出版社)、『薬価の経済学』(共著/日本経済新聞出版社)など。

小黒一正の最近の記事