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Xのヘイト投稿の98%「そのまま」、イスラエル・ハマス衝突で規約違反指摘後も

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
英AI安全サミットに出席したXオーナー、イーロン・マスク氏=11月1日(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

イスラエル・ハマス衝突を巡り、Xのヘイト投稿が、規約違反の指摘後も98%は「そのまま」になっている――。

英NPO「デジタルヘイト対策センター(CCDH)」は11月14日、そんな調査結果を明らかにした。

イスラエル・ハマス衝突を巡っては、フェイクニュースなどの有害コンテンツが氾濫。中でもXでの拡散の深刻さが指摘され、欧州連合(EU)は正式な調査に乗り出している。

Xは11月14日付で、この衝突を巡る32万5,000件の暴力、ヘイトなどの利用規約違反コンテンツに対処した、と発表している。

一方でXは、以前からX上でのヘイト拡散を指摘してきた同NPOを、広告主離反の「キャンペーン」を展開したとして8月に提訴している。

プラットフォームによるコンテンツ規制の後退の中での軍事衝突、そして有害コンテンツの氾濫。それぞれの発表から、その一端が見えてくる。

●閲覧数2,400万回

イーロン・マスク氏のX(旧ツイッター)は、イスラエル・ガザ危機を受け、反ユダヤ主義、イスラモフォビア(イスラム恐怖症)、反パレスチナなどのヘイトに満ちた主張を助長し、同プラットフォームの規則に違反する投稿の圧倒的多数を掲載し続けていることが、デジタルヘイト対策センターの調べでわかった。

同センターは11月14日付のプレスリリースで、そう指摘している。

それによれば、同センターはイスラエル・ハマス軍事衝突発生後、この紛争に関連する計101のXのアカウントによる200件のヘイト投稿を収集。10月31日にXの公式報告ツールを通じて利用規約違反を指摘したという。

その上で1週間後の11月7日、報告したアカウントと投稿を確認したところ、200件の投稿のうち196件(98%)はそのまま掲載され、閲覧数は計2,404万3,693回に上ったという。主な投稿内容は以下の通り。

  • イスラム教徒、パレスチナ人、ユダヤ人に対する暴力を扇動
  • 「ヒトラーはユダヤ人をありのままに見ていた」と主張
  • イスラム教徒は「臭いネズミ」だと主張
  • ガザのパレスチナ人を「動物」と記述
  • ホロコースト(ナチスによるユダヤ人虐殺)を否定
  • 反ユダヤ主義の風刺画像を宣伝
  • 反ユダヤ主義の陰謀論を促進
  • パレスチナ人の民族としての存在を否定
  • ナチスとナチズムを賛美

これらの投稿には、「表示制限中: このポストは、暴力的な発言を禁止するルールに違反している可能性があります」とのラベル表示も目に付く。

Xによる「表示制限」という措置では、「検索結果、おすすめ、トレンド、通知、ホームタイムラインから当該ツイートを除外」することなどによって、投稿が表示される機会を抑制するのだという。

ただ、「表示制限中」のラベルがついている投稿の中でも、「ホロコーストを否定」する投稿は12万7,000回もの表示数を集めている。同様に「表示制限中」のラベルつきの、「ガザのパレスチナ人を『動物』と呼ぶ」投稿は表示数3万4,000回、「反ユダヤ主義の風刺画像を宣伝」する投稿は2万回となっている。

一方で「反ユダヤ主義の陰謀論を促進」(表示数64回)、「パレスチナ人の民族としての存在を否定」(同86回)、「ヒトラーはユダヤ人をありのままに見ていた」(同97回)のように、表示数が2桁止まりのものもある。

「ナチスとナチズムを賛美」した投稿は、同センターの発表後、本稿執筆時点[11/16 06:00]までに削除された。これを含めると違反指摘投稿の掲載件数は195件(違反指摘の97.5%)となる。

101件の投稿アカウントのうち、チェックマークのついた「認証アカウント」は43。停止されたのは1つ、ロック(一時的な使用不能)されたアカウントが2つあったのみだったという。

●イスラエル・ハマス衝突のヘイトとフェイク

当社のエスカレーション(緊張対応)チームは現在までは、暴力的スピーチヘイト行為など、利用規約に違反する32万5,000件以上のコンテンツに対処してきました。

Xの公式ブログは11月14日付の投稿で、イスラエル・ハマスの衝突への対応について、そう説明している。また、ハマスを含む3,000件を超すアカウントも削除したという。

さらに、2万5,000件超のAIなどによる人工合成コンテンツや改ざんコンテンツにも対処。また投稿の組織的拡散や不正アカウントなどに対して、37万5,000件超のアカウントに停止を含む対処を行ったとしている。

イスラエル・ハマスの軍事衝突を巡っては、特にXを舞台としたフェイクニュースなどの有害コンテンツの氾濫が指摘されてきた。

EUは、10月7日の衝突開始から3日後の10日付で、Xに対して早急な対応を求める書簡を送付。さらに10月12日付で、違法有害コンテンツに関するプラットフォーム規制法「デジタルサービス法(DSA)」に基づく調査乗り出している。

※参照:ハマス・イスラエル軍事衝突でフェイク氾濫、EUがXを叱り、Metaに警告した理由とは?(10/12/2023 新聞紙学的

※参照:「イスラエル・パレスチナ紛争のAI生成画像」Adobeが販売、そのインパクトとは?(11/09/2023 新聞紙学的

その背景には、イーロン・マスク氏による同社の買収後、8割に上る大規模リストラの中で、フェイクニュースなどの有害コンテンツ対策の後退が顕在化していることがある。

※参照:「マスク流」フェイクニュース対策の後退がMeta、YouTubeに広がるわけとは?(08/28/2023 新聞紙学的

同社は2023年5月には、EUの違法・有害コンテンツ対策の自主的ガイドラインである「行動規範」からも離脱している。

Xは10月11日付で、EUに今回のイスラエル・ハマスの軍事衝突への対応を説明している。

また、これまでにも指摘されてきた、反ユダヤ主義の投稿の氾濫についても、今回の衝突に先立つ9月8日付で対策の強化を表明していた。

ただ、Xの対応はそれだけではない。

●Xの提訴とCEOのコメント

Xは7月末、今回の調査結果を発表した「デジタルヘイト対策センター」を提訴している。

同センターは6月1日付で、やはりツイッター(*企業としては4月4日付でXに併合、サービス名としては7月24日付でXに変更)上のヘイト投稿についての調査結果を公表している。調査結果では、優良ユーザーである青いチェックマークを付けた100アカウントによるヘイト投稿について、ツイッターに報告したところ、99%が対処されぬままだった、としていた。

これに対してXは、7月31日付で同センターをカリフォルニア北部地区連邦地裁に提訴。訴状では同センターが「Xのプラットフォームから広告主を追い払うための恐怖キャンペーンに乗り出した団体」だとし、「Xから不正にデータを収集した」などと主張している。

イーロン・マスク氏が2022年10月にツイッターを買収して以降、スタッフの8割に上るリストラ、コンテンツ管理の低下に伴うフェイクニュースやヘイトスピーチなどの有害コンテンツの氾濫の中で、広告主の離反が顕在化している。

ロイター通信によると、広告分析会社ガイドラインのデータでは、ツイッターの広告収入は2022年11月に前年同月比57%減、12月に78%減となり、以後も2023年1月72%減、2月61%減、3月65%減、4月60%減、5月57%減、6月61%減、7月65%減、8月60%減、と不振が続く

この広告主離反の原因の一つとして、同センターの調査を位置付けているようだ。

同センターCEOのイムラン・アーメド氏は今回の調査に添えて、こんなコメントをしている。

Xは、ヘイトスピーチに対処していると広告主や世間を安心させようとしているが、我々の調査によれば、それは空虚な言葉に過ぎない。

イスラエル・ハマスの軍事衝突には収束の兆しは見えず、有害コンテンツの氾濫にも沈静化の動きは見えない。

(※2023年11月16日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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