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「後継CEO探している」辞任投票後のマスク氏にかかるテスラの重圧とは?

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
サッカーW杯をカタールで観戦したマスク氏。後継CEO探しが難航しているという(写真:ロイター/アフロ)

「後継CEOを探している」と米メディア。そして、辞任投票後のイーロン・マスク氏にかかるテスラの重圧とは――。

米CNBCは12月20日、関係筋の話としてツイッターCEOのイーロン・マスク氏が、後継CEO探しに積極的に動いている、と報じた。

ツイッターの混乱が続く中でマスク氏が行った、自らのCEO辞任の賛否を問うツイッターでのアンケート結果は、1,750万件の投票の6割近くが「辞任すべき」。だが、マスク氏はその後、自らの去就について音無しの構えを続けている。

一方で、マスク氏をめぐっては、各方面から重圧もかかっている。その舞台は、テスラだ。

●「誰が実際に適任なのか」

(マスク氏は)候補者リストの中から誰が実際に適任なのか、積極的に探し、尋ね、見つけ出そうとしてきたと聞いている。いろいろな名前を聞いたが、今のところ確信をもって話せるような名前はない。

ジャーナリストでCNBCのアンカーを務めるデイビッド・ファーバー氏は12月20日、番組内でそう述べている。

後述のように、ツイッターのポリシー変更をめぐる混乱が続く中で、マスク氏は自らのCEO辞任の賛否を問うツイッターでのアンケートを実施。

日本時間の12月19日夜に公開された結果は、1,750万件の投票の6割近くが「辞任すべき」。だが、マスク氏はその後、去就については音無しの構えを続けている。

ファーバー氏は、後継CEO探しはこのアンケート以前から行われていたという。

マスク氏は以前から、ツイッターを後継CEOに委ねることについて公言。11月16日には、自身のテスラでの給与水準をめぐる裁判で証言に立ち、「ツイッターに割く時間を減らせることを望んでいる」と述べていた。

ツイッターを本当に存続させることができる人は、誰もこの仕事を望んでいない。後継者がいない。

マスク氏はCEO辞任をめぐるアンケートを実施中だった12月18日、そうツイートしている

そのマスク氏に、テスラを舞台とした重圧が増している。

●テスラをめぐる重圧

マスク氏がツイッターを買収後の当初数週間において、同氏がテスラのリソースをツイッターに流用しているかどうかを含め、証券法などの法律に違反する可能性について疑問がある。

マスク氏の批判派として知られる民主党上院議員、エリザベス・ウォーレン氏は12月18日、テスラ会長、ロビン・デンホルム氏への書簡で、そう述べている。

テスラCEOでもあるマスク氏を取り巻く環境は、厳しさを増す。

ツイッターへのマスク氏の関与とその混乱が、テスラにダメージを与える、との懸念が広がっている。

テスラ株は、ツイッターの「外部リンク禁止」騒動(後述)を受けた週明けの12月19日には150ドルとなった。

マスク氏がツイッターの株式9.2%を取得したことが明らかにされた4月4日の382ドルから6割減、マスク氏の買収が成立した10月27日の225ドルから見ても3分の2に下落している。

またマスク氏、12月14日には新たに36億ドルのテスラ株売却を発表。今年に入ってからの売却総額は400億ドル近くに上るという。売却の理由は明らかにされていない。

フォーブスによれば、富豪世界一の座は12月7日、マスク氏の資産の大半を占めるテスラ株の下落が響き、LVMHのベルナール・アルノー氏にとって代わられた、という。

テスラ第3位の個人株主、レオ・コグアン氏は12月13日に、「イーロンはテスラを見捨て、テスラは実働するCEOが不在だ」と批判し、新たなCEOが必要だと指摘している。

ツイッターの混乱は、テスラをも巻き込んでいる。そしてその混乱は、マスク氏のツイッター運営を評価してきた層からも、反発を招いている。

●「我慢の限界」とマスク氏支援のプログラマー

我慢の限界だ。もうやめだ。私のサイトには新しいマストドンのプロフィールへのリンクがある。

ベンチャーキャピタル「Yコンビネーター」の共同創設者としても知れる著名プログラマーのポール・グレアム氏は12月18日午前11時すぎ(米西海岸時間)に、そうツイートした。

グレアム氏がツイートでリンクしていたのは、ツイッターが同日公開し、その後削除された競合ソーシャルメディアへのプロモーションリンク禁止のポリシーだ。グレアム氏のアカウントは、このツイートの後、一時的に停止させられた、という。

ポリシーはこの日午前9時半過ぎ(同)にツイートされたが、やはり後に削除された。

ツイートでは、「他のソーシャルプラットフォームを宣伝することのみを目的として作成されたアカウントや、以下のプラットフォームへのリンクまたはユーザー名を含むコンテンツを削除する:フェイスブック、インスタグラム、マストドン、トゥルース・ソーシャル、トライバル(Tribel)、ノストル(Nostr)、そしてポスト(Post.)」としていた。

マストドンはオイゲン・ロホコ氏が立ち上げたオープンソースのソーシャルメディア、トゥルース・ソーシャルはドナルド・トランプ氏が立ち上げた。トライバル、ノストル、ポストは新興のソーシャルメディアだ。

グレアム氏はこれまで、マスク氏のツイッター運営方針を支持する立場だった。

ノストルはツイッター元CEO、ジャック・ドーシー氏資金提供先でもある。リンク排除のポリシーには同日午前11時すぎ(同)に、「なぜ?」と疑問を呈した。

暗号資産(仮想通貨)交換大手「コインベース」の元CTO(最高技術責任者)で、ベンチャーキャピタル「アンドリーセン・ホロウィッツ」の元ゼネラルパートナー、バラジ・スリニバサン氏も同日午前10時半すぎ(同)、「このポリシーはひどい。撤回すべきだ」とツイートしていた。

マスク氏は同日午後3時すぎ(同)には、「今後、大きな方針転換の際には、投票を行う。申し訳ない。二度とこのようなことはしない」とツイートしている。

●条件反射的な方針変更

アカウント停止やポリシー変更など、条件反射的で気まぐれのように打ち出され、時にユーザーアンケートを募る方針変更は、10月末のマスク氏の買収以来、ツイッターで繰り返されてきた。

特に12月に入ってからの迷走ぶりは際立っていた。

今回のフェイスブックやマストドンなどへのリンク禁止にも、その条件反射的な動きがうかがえる。

マスク氏は、12月13日に起きたという自身の息子が乗った自動車への「ストーカー」トラブルをめぐって、同氏のプライベートジェットの動きを公開情報をもとにツイートしていたアカウント「イーロンジェット」を運営する大学生、ジャック・スウィーニー氏に法的措置を取る、と主張。

12月14日には、そのアカウントを停止した。さらに翌15日には、この騒動をツイッターで扱うなどしたジャーナリストのアカウントも一斉に停止した。

その動きは「イーロンジェット」やその他のアカウントが避難先としていた「マストドン」へのリンクを、ツイッターの投稿から排除するという措置にも広がった。

※参照:「ジャーナリスト追放」「マストドン排除」マスク氏の「表現の自由」の意味とは?(12/17/2022 新聞紙学的

この措置は、国際的な批判も呼んだ。

欧州委員会副委員長のベラ・ヨウロバー氏が「レッドライン(超えてはならない一線)というものがある。そして、すぐに制裁も」と警告。

国連のグローバル・コミュニケーション担当事務次長、メリッサ・フレミング氏も「メディアの自由はおもちゃではない」とすぐさま懸念を表明した。

アカウントを停止された1人、ワシントン・ポストのドリュー・ハーウェル氏と、同僚のテイラー・ロレンツ氏報道によると、「ストーカー」のトラブルは、「イーロンジェット」がマスク氏のプライベートジェットがオークランド空港からロサンゼルス空港への移動を投稿してから23時間後、空港から42キロ離れたガソリンスタンドでの出来事だったという。

報道では、警察はトラブルと「イーロンジェット」との関連は見いだせていない、としている。

この記事のために、ロレンツ氏がマスク氏にコメントを求めるツイートをしたところ、ロレンツ氏のアカウントも直後に停止されたという。

ロレンツ氏は停止される前に、インスタグラム、ユーチューブ、サブスタック、ティックトック、マストドン、タンブラー、ポストのアカウントを列挙した投稿をしていた。

ロレンツ氏は「このツイートで停止されたようだ」と復旧後の投稿で述べている

またロレンツ氏は、この時点ではツイッターの外部ソーシャルメディアへのリンク禁止ポリシーはなかった、としている。

まず排除の対象があり、それに合わせてポリシーを作り出し、アカウント停止やコンテンツ排除を行う、ということが続いていたようだ。

停止が判明していた9人のジャーナリストのアカウントはツイッターアンケートで大半を占めた「即時復活」の結果に基づいて、復活された。「イーロンジェット」とスウィーニー氏の個人アカウントは、その後も停止措置が続いた。

●条件反射と熟考

マスク氏のツイッターの舵取りには、条件反射的な方針変更が目立ち、それが混乱を引き起こす原因となった。

だが、辞任アンケートの結果をめぐっては、今後、社の方針にかかわる内容の投票を有料サービス「ツイッター・ブルー」のユーザーに限定する考えを示しただけだ。

自らの去就に関しては、熟考を続けているようだ。

(※2022年12月21日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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