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Facebookがついにニュースを見限った、その3つの理由とは?

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
フェイスブックには喫緊の課題が山積する(写真:ロイター/アフロ)

フェイスブックがついにニュースメディアを見限った――。

アクシオスウォールストリート・ジャーナルは、フェイスブックが米大手メディアと結んでいたそれぞれ年間数千万ドル規模の契約の打ち切りを、契約先に通告し始めた、と相次いで報じている。

フェイスブックが3年前にスタートした「フェイスブックニュース」について、契約の期限切れとともに、更新はしない方針だという。

フェイスブックは数年前まで、ニュース拡散の最大のプラットフォームだった。そして、地盤沈下が止まらないジャーナリズム支援にも乗り出していた。

だが今回の契約打ち切りは、「もはやフェイスブックにニュースはいらない」という宣言のようだ。

フェイスブックがメディアを見限った、その理由とは?

●「ニュースは過剰投資」

米国では3年前、「フェイスブックニュース」としてニュースのリンクを試験的に追加する契約を結んだ。だがそれ以来、多くのことが変わった。ほとんどの人はニュースを見るためにフェイスブックに来ているわけではないし、ビジネスとして、ユーザーの好みに合わない分野に過剰投資することには意味がない。

アクシオスの7月28日付の記事の中で、フェイスブックの広報担当者は、そう指摘している。

「フェイスブックニュース」には数百社がコンテンツを配信していたが、このうち50社は配信料の支払い対象となっていたという。

このニュースは、ジ・インフォメーションが5月9日に報じ、続いてウォールストリート・ジャーナルが6月9日により具体的な内容を伝えていた。

ウォールストリート・ジャーナルによると、「フェイスブックニュース」へのニュース配信料は、ニューヨーク・タイムズが年額2,000万ドル(約27億円)以上で、ワシントン・ポストが年額1,500万ドル以上。ウォールストリート・ジャーナルは年額1,000万ドル以上だが、これは親会社のダウ・ジョーンズが締結した年額2,000万ドル以上の包括契約に含まれている。

これらがすべて、打ち切りになるという。

親会社のメタが7月27日に発表した第2四半期の売上高は、景気減速の中で前年同期の290億8,000万ドルから288億2,000万ドルへと1%減。フェイスブックの2012年の上場以来、初の減収となった。

メタは、アップルのiOSのプライバシー保護強化によるターゲット広告の落ち込みで、2022年に100億ドル程度の減収が見込まれるとしている。またメタバース事業の推進で、2021年だけで100億ドル以上の投資を行っている。

さらに急速に存在感を増す動画共有サービス「ティックトック」への対抗策としての機能改修と、ショート動画のクリエイターをひきつけるための投資に重点を置くという。

7月21日に発表された機能改修では、AIの「ディスカバリーエンジン」が、フォロー先ではないクリエイターによるショート動画などのあらゆるコンテンツから自動判定で推す、「ティックトック」型のアルゴリズムをメインに据え、これまでメインだった友人や家族の投稿は脇に追いやる。

これら山積する喫緊の経営課題の中で、「フェイスブックニュース」が「過剰投資」と判断された。これがニュースを見限った第1の理由だ。

ただ、今回の判断はさらに根が深そうだ。

●メディアに支払う動機

フェイスブックには、メディアに金を払う動機があった。フェイクニュース拡散をめぐる逆風だ。

きっかけは2016年の米大統領選でのフェイクニュース氾濫と、大方の予想を裏切ったドナルド・トランプ氏の当選だった。

2016年の米ピュー・リサーチ・センターの調査では、米国の成人の44%がフェイスブック経由でニュースに接触しており、ソーシャルメディアの中では群を抜いていた。

そんな「世界最大のメディア」としてのフェイスブックが、フェイクニュース氾濫の舞台となったことで、その責任を問う声が高まる。

※参照:トランプ大統領を生み出したのはフェイスブックか? それともメディアか?(11/13/2016 新聞紙学的

当初は「バカげた考え」と述べていたCEOのマーク・ザッカーバーグ氏も、批判の高まりを受けて、対応に乗り出す。

2016年12月にはファクトチェック団体と提携したフェイクニュース対策、翌2017年1月にはジャーナリズムの強化を支援する「フェイスブック・ジャーナリズム・プロジェクト(現メタ・ジャーナリズム・プロジェクト)」、と矢継ぎ早に施策と打ち出した。

だがフェイスブックは、フェイクニュースをめぐる批判が苛烈さを増す中で、ニュースコンテンツそのものをトラブルの元凶と見定め、距離を置くようになる。

2018年1月には、ニュースフィードのアルゴリズムを変更。友人や家族の投稿の表示を優先し、ニュースの優先度を下げるという大幅な方針転換を行う。

※参照:フェイスブックがニュースを排除する:2018年、メディアのサバイバルプラン(その3)(01/13/2018  新聞紙学的

このアルゴリズム変更は、フェイスブック上の拡散に大きく依存していたウェブメディアに深刻な打撃を与えた。

またこの頃、デジタル広告市場の6割のシェアを握るグーグルとフェイスブックの「デジタル複占」への批判とともに、メディア業界からは適正なニュース使用料支払いを求める不満の声が高まる。

そしてニュース使用料の法制化が加速する。EUでは2019年4月、メディアに複製権、公衆送信権などの「著作隣接権」に基づく報酬請求を認める新たな「デジタル単一市場における著作権指令」が成立。これを受け、まずフランスがEU指令を国内法に適用する。

これらの動きの中で、フェイスブックは同年10月、まず米国で「フェイスブックニュース」を展開する。2021年1月には英国、2022年2月にはフランスでも開設している。

一方でフェイスブックはこの間、2018年3月には8,700万人分のユーザーデータ不正流出となったケンブリッジ・アナリティカ事件が発覚し、2021年9月からは元社員、フランシス・ホーゲン氏による内部告発、フェイスブック文書のキャンペーン報道が大きな波紋を呼ぶ。

集中砲火が相次いだフェイスブックにとって、「フェイスブックニュース」という形で主要メディアに一定額の支払いを行うことは、法規制の動きや相次ぐ批判をめぐる、PRコストの側面も色濃くにじんだ。

●各国に広がる「ニュース使用料」法制化

だが、支払いはそれだけでは済まない情勢になってくる。

オーストラリアではグーグル、フェイスブックを標的とした強力な規制法「ニュースメディア・デジタルプラットフォーム契約義務化法」制定の動きが急速に進む。

審議の過程で、フェイスブックはニュースフィードからニュースコンテンツを排除するという強硬策で抵抗するが、最終的には折れた。

※参照:Google、Facebookの「ニュース使用料戦争」勝ったのは誰か?(02/19/2021 新聞紙学的

その動きは、カナダなど他の国々にも飛び火していく。

※参照:Google、Facebook「支払い義務化法」が各国に飛び火する(03/01/2021 新聞紙学的

この動きが、「フェイスブックニュース」契約更新打ち切りについての、ザッカーバーグ氏の腹を決めさせたようだ。

ウォールストリート・ジャーナルは、ザッカーバーグ氏が「フェイスブックやアルファベット傘下のグーグルなどのプラットフォーム上に表示されるあらゆるニュースコンテンツについて、メディアへの支払いを強制しようとする世界的な法規制の動きに失望した」としている。

これがニュースを見限った第2の理由。「フェイスブックニュース」は、メディア懐柔には効果がなかった、という総括になる。

●「ニュースは見られていない」

第3の理由は、前述のアクシオスの記事の中でフェイスブックの広報担当者が指摘した、「ほとんどの人はニュースを見るためにフェイスブックに来ているわけではない」という点だ。

フェイスブックは2015年、それまでニュースコンテンツへのアクセス元(リファラル)として独走していたグーグルから、トップの座を奪う

フェイスブックでの拡散がニュースの主舞台となる「ソーシャルニュース時代」の到来だ。だが、その時代はわずか3年で終焉を迎える。

2018年1月のフェイスブックのアルゴリズム変更は、「ソーシャルニュース時代」の終わりを告げる号砲となった。

以後、ニュースリファラルのトップをグーグルに譲り、ニュースとの関わりを離れていく。

2021年2月、フェイスブック副社長のニック・クレッグ氏はオーストラリアの法規制をめぐり、ニュースフィードで表示されるコンテンツのうち、ニュースへのリンクを含むのは25分の1(4%)以下だと主張した。

同社はそれに先立ち、ユーザーは政治コンテンツを望んでいない、としてその削減に乗り出したことも明らかにしている。

●「ニュースフィード」から「フィード」、そして「ホーム」

そして、フェイスブックは2022年2月、「ニュースフィード」から「ニュース」という文言を削除し、ただの「フィード」へと名称変更をした

さらに7月には、その「フィード」もメインのタブを「ホーム」に譲る

ユーザーにニュースを回避する動きが広がっていることは、これまでも指摘されてきた。原因の一つは「ニュース疲れ」だ。

英オックスフォード大学ロイター・ジャーナリズム研究所が2022年6月に発表した「デジタル・ニュース・レポート2022」では、多くのネットユーザーが、意識的にニュースを見ることを「避けている」実態を明らかにした。

※参照:「ニュースを見るのが嫌」38%のユーザーが伝えたい、その切実な本音とは?(06/17/2022 新聞紙学的

※参照:「ニュースに関心ない」新型コロナで広がるメディアへの憂鬱(06/25/2021 新聞紙学的

米国における「フェイスブックニュース」契約打ち切りの余波が、どこまで広がるのかはわからない。

ただ、メディアとプラットフォームの関係が、大きな節目を迎えていることは間違いなさそうだ。

(※2022年8月1日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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