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ウクライナ侵攻「ロシアメディアのフェイク」が制裁を潜り抜ける、その手法とは?

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
破壊されたロシア軍の戦車の上に立つ少女=5月7日、ウクライナ・マカリウ近くで(写真:ロイター/アフロ)

ウクライナ侵攻をめぐり、ロシア国営メディアが欧州連合(EU)による放送・配信禁止の制裁を潜り抜けて拡散を続けている――そんな調査結果が明らかになった。

ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、EUは3月初め、ロシア国営メディア「RT」「スプートニク」の域内での放送・配信を禁じる制裁措置を取った。

だがシンクタンクなどの調査によると、これらのメディアは制裁の“抜け穴”を突き、以後も拡散を続けているという。

そして、ロシア側のコンテンツの徹底したブロックには、高いハードルがあることも明らかになってきた。

ロシア国営メディアが拡散を続ける、その制裁回避の手法とは?

●「何歩も先を行く」

『RT』は、制裁を回避する方法を見つけただけでなく、規制当局の何歩も先を行く配信方法の変更を行ったのだ。

フランスのニュース専門局「ユーロニュース」やベルギーのニュースサイト「ユーラクティブ」は5月4日、「偽情報状況センター」による調査レポートの、そんな指摘を報じている。同センターは、ドイツのヘイトスピーチ対策のNPO「ヘイトエイド」、英国の過激主義対策のシンクタンク「戦略対話研究所」などによる共同プロジェクトだ。

欧州連合(EU)の行政機関、欧州委員会委員長のウァズラ・フォン・デア・ライエン氏は2月27日、ロシア国営メディア「RT」「スプートニク」が「プーチン大統領の戦争を正当化する嘘は拡散させない」と述べ、ウクライナ侵攻への制裁措置として、コンテンツ規制を表明。これを受けてEUは3月2日、両メディアがロシアによるウクライナ侵攻の推進に「重要かつ実質的な役割を担った」として、域内での放送・配信を禁止する措置を取った。

具体的には3月2日付で、「RT」の国際版(英語)と英国、フランス、ドイツ、スペインの各国版、そしてスプートニクについて、ケーブル、衛星放送、インターネットテレビ、プロバイダー、動画共有プラットフォーム、アプリなどあらゆる形態の事業者に対してEU域内での放送、配信を全面禁止している。

この制裁と相前後して、ソーシャルメディア各社も相次いでフェイク規制に乗り出している。

グーグル・ユーチューブは2月26日、「RT」などの国営メディアによる広告掲載禁止を表明。さらにユーチューブは、3月1日には欧州での「RT」「スプートニク」のブロックを実施。11日にはその範囲を全世界に拡大している。また、グーグル・プレイでのアプリの配信や検索結果での表示も停止している。

フェイスブックも2月28日、「RT」「スプートニク」のEU域内でのアクセス制限を表明した。ツイッターも、EUの規制に従うとした。また、ロシア発祥のメッセージサービス「テレグラム」もEU域内と英国でのアクセスをブロックしている。

だが「RT」「スプートニク」はこの制裁措置を潜り抜けており、ロシアのフェイクニュースは引き続き、ソーシャルメディア上で拡散し続けているという。

●コンテンツ排除のハードル

「偽情報状況センター」の調査によると、制裁対象の「RT」のコンテンツ規制に最も効果を上げていたのはツイッターだったという。それでも「RT」「スプートニク」関連の47のアカウントが停止を免れていた。

「ユーロニュース」の取材に対し、ツイッターは2月28日以降、26万件以上のロシア国営メディアのツイートにラベルを表示し、コンテンツの表示を30%抑制した、と説明している。

インスタグラムでは、関連する72アカウントのうち、対処できていたのは28アカウント。ユーチューブでも関連する44アカウントが対処できていなかった。

ロシア国営メディアは、どのように制裁の網を潜り抜けているのか。

「偽情報状況センター」にも参加する「戦略対話研究所」は3月18日4月5日のブログ投稿で、EUによる「RT」「スプートニク」への制裁の検証を行っている。

その中で指摘されているのが、制裁の範囲の広さと曖昧さだ。

ハーバード大学バークマン・クライン・センターの研究プロジェクト「ルーメン」は、「RT」「スプートニク」への制裁決定を受けて、グーグルの問い合わせに対するEU担当者からの3月4日付の回答文書を公開している。

回答文書では、今回の制裁措置が「非常に広範かつ包括的な禁止を規定することを意図している」と述べている。この「非常に広範かつ包括的な禁止」が、各プラットフォームの対応のばらつきにも反映されているようだ。

制裁の“抜け穴”の一つが、関連アカウントの運用だ。

これらのメディアは、メインのアカウント以外にも、様々な関連アカウントでコンテンツの拡散を行っている。EUの制裁対象のリストには、メディアの名前が示されているだけだ。関連アカウントをどこまで追うかの判断は、事業者側に委ねられている。

「スプートニク」の場合、ツイッターでは、同じメディアグループのドイツ支社「SNA」や、「ラジオ・スプートニク」のアカウントが引き続きEU域内でアクセス可能な状態だったという。

さらに、制裁を意図的に潜り抜けるメディア側の動きも確認されている。

コンテンツの配信サイトを、似たような別アドレスを使って新たに複数立ち上げる方法や、複数のソーシャルメディアを使ってコンテンツを拡散する方法などが取られているという。

「戦略対話研究所」の調査によると、「RTドイツ」は本来のサイトはEU域内からはアクセスがブロックされているが、別アドレスで立ち上げたサイトは、アクセスが可能だったという。

また「RTドイツ」は、「テレグラム」では相次ぐアカウント停止を受けたものの、保守派コンテンツの配信で知られる動画共有サイト「オデッセイ」や、ロシアを中心としたソーシャルメディア「フコンタクテ」、ロシアのポータルサイト「ヤンデックス」などのアカウントを使って存在感を維持しているという。これらのアカウントから、新規開設のサイトに誘導し、アクセスを確保しているようだ。

また、「RTドイツ」のツイッターアカウントでは、トップに表示される「固定されたツイート」の動画で、EUにおけるブロックを回避するためのブラウザの設定変更の方法を説明している。

このほか、国営メディアのアカウントではなく、スタッフのアカウントなどを使ったコンテンツの拡散も指摘されている。

「偽情報状況センター」の今回の調査レポートでは、「RT」編集長の個人アカウントが、コンテンツ拡散に重要な役割を果たしてきた、と指摘されている。

その方法は、単なるRTアカウントのリツイートではなく、コンテンツのテキストをコピーし、ツイートするという方法で、拡散させているのだという。

またその拡散方法も、まず「テレグラム」に投稿し、数分後に「フコンタクテ」、続いてツイッター、フェイスブックに投稿する、といったプラットフォームをまたがる規則性が見られるという。編集長のフォロワー数はこれらのサービスを合計すると100万人規模になるという。

●どこまで規制できるのか

「RT」「スプートニク」のコンテンツを、個人が複製した投稿についても公開してはならないし、公開された場合は削除する必要がある。(中略)また、「RT」「スプートニク」によるコンテンツと、個人が複製したコンテンツとの間には、線引きが必要だ。今回の規制は、比例原則と言論の自由の基本的権利に即したものとして理解される必要があるためだ。確かにこの線引きは、実際には難しいケースもあるだろう。ソーシャルメディアに負担がかかることは事実であり、さらにこれは電子商取引指令第15条に規定されている「監視のための一般的な義務の禁止」とも矛盾する。しかし、本規制で電子商取引指令から完全に逸脱することを決定したのは、意図的であり、現在の状況を鑑み、その時限的な性質を考慮した上で、正当化されるものである。

前述のEUからグーグルへの通知の中には、こんな記述もあった。

「非常に広範かつ包括的な禁止」には、一般ユーザーによる「RT」「スプートニク」のコンテンツのコピーによる再投稿も含まれる、という説明だ。

だがそれは、2000年に制定されたEUの「電子商取引指令」が、表現の自由を尊重する観点から、プラットフォームに「情報を監視すべき一般的な義務を課してはならない」(第15条)としていることに抵触する。その点を、EUも認めているのだ。

しかし、これが戦時であり、戦争終結までの時限的措置であることから、例外として正当化しているのだという。

この「電子商取引指令」を大幅改訂したのが、EUが現在検討中の「デジタルサービス法案(DSA)」だ。2022年4月23日、欧州理事会と欧州議会が基本合意しており、検討は最終段階に入っている。同法案の中でも、「監視のための一般的な義務の禁止」は引き継がれている

「戦略対話研究所」の調査では、このような個人アカウントによる、コンテンツの複製や拡散も確認されているという。だが、そこまでのコンテンツ監視を徹底することは、プラットフォームにとってもハードルが高そうだ。

「RT」「スプートニク」を複製した個々のユーザーのコンテンツを停止することは、一般的な監視を導入し、表現の自由への深刻な干渉の危険を冒すことなしには、まず実行不可能だろう。

「戦略対話研究所」は検証レポートの中で、そう指摘している。

EUの制裁に対する回避策としては、暗号通信の「仮想プライベートネットワーク(VPN)」や匿名通信の「トーア(Tor)」などによるサイトの閲覧の呼びかけも確認された、という。

これらの暗号技術は、ロシア政府の「デジタル鉄のカーテン」によってブロックされた西側サイトへのアクセス手段として、ロシア国内のユーザーによっても利用されている。

※参照:ウクライナ侵攻「デジタル鉄のカーテン」を突破する、ロシアに事実を知らせるこれだけの方法(04/25/2022 新聞紙学的

全く同じ技術が、情報戦の攻防の双方に“抜け穴”をつくるために使用されていることになる。

●さらなるメディア制裁も

我々は、ロシアの国営放送局3社を電波から追放する。もはや、ケーブル、衛星、インターネット、スマートフォンのアプリなど、どんな形であれ、EUでコンテンツを配信することは許されないだろう。

フォン・デア・ライエン氏は5月4日、ロシアへの制裁措置として、さらに3つの国営メディアを禁止することを明らかにしている。

ポリティコによると、RTRプラネタ、ロシア24、TVセンターの3メディアだという。

フェイクニュースの拡散を推進しているのは、国営メディアだけではない。

ロシア外務省や各国に駐在するロシア大使館などの政府公式アカウントも、フェイクニュースの増幅エンジンとして機能していることが明らかになっている。

※参照:ウクライナ侵攻「政府公式アカウント」がフェイク増幅エンジン、SNSが規制しない理由とは?(03/22/2022 新聞紙学的

※参照:ウクライナ侵攻「偽ファクトチェック」5カ国語で発信、大使館が次々に拡散する思惑とは?(03/14/2022 新聞紙学的

さらに英外務省は5月1日、「トロール(荒らし)工場」と呼ばれるロシアのグループが、各国首脳やメディアなどのアカウントを標的に、コメント欄にロシアのプロパガンダを大量投稿する情報工作を展開している、と発表した。

※参照:ウクライナ侵攻「ロシア・フェイク工場」が各国首脳・メディアを標的に、朝日・読売も(05/02/2022 新聞紙学的

情報戦の応酬は、なお拡大していきそうだ。

(※2022年5月9日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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