反ワクチンがフェイスブックの「コメント欄」に氾濫し、接種呼びかけを覆っていく――。

米ウォールストリート・ジャーナルは9月17日、フェイスブックの内部文書を基にした一連のスクープの中で、社内からそんな懸念が出ていたことを明らかにした。

フェイスブックはワクチン接種推進のキャンペーンを掲げ、誤情報対策をうたってきた。

だが一方で、フェイスブックはワクチンデマなどの誤情報拡散の舞台とも指摘されてきた。

特に、今や新型コロナ再拡大の兆しも見える米国では、ワクチン接種のさらなる浸透を図る政権から、バイデン大統領を含め、フェイスブックへの激しい批判の声が相次いでいる。

そして、その批判を裏付けるようなデータを、フェイスブック自身も把握していたようだ。

ウォールストリート・ジャーナルが報じたフェイスブックの社内調査によれば、新型コロナワクチンに関する投稿へのコメントのうち、接種に否定的な内容は実に4割に上っていたという。

投稿自体は正しい情報でも、コメント欄に誤った情報が溢れれば、ユーザーは結果的に誤った情報に影響される恐れがある。

巨大化し、制御が効かないプラットフォームが、ワクチン接種に影を落とす。

●41%が「ワクチン忌避」

英語によるワクチン関連投稿への、ワクチン忌避コメントの割合は、ワクチン関連投稿そのものの割合の2倍に達する(41%対21%)。

米ウォールストリート・ジャーナルのサム・シェクナー氏らによる9月17日付のスクープは、フェイスブックの社内文書から、そんな内部調査のデータを明らかにしている。

フェイスブックの最高経営責任者(CEO)、マーク・ザッカーバーグ氏は3月15日、自身の投稿で「5,000万人の人々が新型コロナワクチン接種に向かうための、グローバルキャンペーンを開始します」と宣言している

内部調査データは、その数週間前のものだった、という。

さらに内部文書は、ユーザーがワクチン関連の投稿へのコメントを、1日あたり7億7,500万回閲覧しており、その多くを占めるワクチンへの否定的なコメントが悪影響を与えることについて、社内の研究者が懸念を示していた、という。

フェイスブックによる新型コロナの誤情報対策は、拡散の主な舞台となったフェイスブックページ、そして投稿そのもの、さらにその投稿アカウントなどに照準が当てられてきた。

フェイスブックはこれまで、20億人を公的機関による関連情報に誘導する一方、1,800万件以上のコロナ関連の誤情報を削除、1億6,700万件を超す投稿にラベルをつけて表示優先度を下げてきた、という

フェイスブックの社内文書によると、新型コロナ関連の誤情報で停止されたアカウントは15万件近くに上り、そのわずか5%が誤情報全体の半分を発信していたという。

誤情報や陰謀論をめぐって、しばしば指摘される増幅の構造であり、ワクチンに否定的なグループによる戦略的な拡散がうかがえる。

●コメント欄が落とす影

誤情報は、投稿のそのものだけでなく、コメント欄を通じてもユーザーに大きな影響を与える。

フェイスブックの社内文書によると、社内の研究者らは、公的機関による信頼できるワクチン情報でさえ、「反ワクチンコメントの汚水槽になりつつあった」と述べ、修正の必要性を指摘していたという。

また2018年と2019年の社内の研究で、「たとえ記事自体は無害と思えるものでも、それに対するコメントが誤情報の重要な発信源になっている」ことも指摘されていた、という。

否定的なコメントが、投稿への反応に影響を与えるという指摘は、これまでにも示されている。

独コブレンツ・ランダウ大学などの研究チームは2015年、フェイスブックの投稿記事とコメントを分析。否定的コメントが、投稿記事の説得力を弱める効果が見られた、との結果を明らかにしている。

また、誤情報対策に取り組むNPO「ファーストドラフト」が2021年4月に、オーストラリアの大手メディア「9ニュース」(フォロワー・200万人超)と「スカイ・ニュース・オーストラリア」(同・100万人超)のフェイスブックページを対象にした検証でも、「ワクチン」という言葉を含む投稿に対するコメントの20%に、新型コロナやワクチンについての誤った情報が含まれていた、という。

フェイスブックも、関連していくつかの対処を明らかにしている。

同社は3月末、投稿へのコメントを、より細かく制御できるように、仕様変更したことを発表している

さらに4月には、保健当局などの公的機関の投稿に対するコメント数の上限設定を、1時間あたり300件から、13件に絞り込んだという。

フェイスブック副社長のニック・クレッグ氏は9月18日、同社の公式ページで、ウォールストリート・ジャーナルの一連のスクープが「意図的に誤解を与えるものだ」とし、こう反論している。

フェイスブックの英語ユーザーにおけるワクチン忌避は1月から50%減少している。(ウォールストリート・ジャーナルは)この重要な事実を無視し、誤情報が当社のコロナワクチン対策を圧倒していると述べている。

●バイデン政権からの批判

ただフェイスブックは、情報開示に積極的な企業とは見なされていない。

フェイスブックが新型コロナやワクチンの誤情報に、具体的にどう取り組んできたのかは、今回のようなメディアのスクープなどを通じて、かろうじて明らかになってきた。

そして、それは社会一般の受け止め方だけでなく、行政の受け止め方でもあったようだ。

ウェブメディア「アクシオス」は7月初め、米コロンビア特別区(ワシントンDC)の司法長官がフェイスブックに対して、ワクチンの誤情報拡散防止への取り組みを示す文書の提出を要求したが、フェイスブックが提出を拒否したため、文書提出命令を出した、と報じていた。

※参照:コロナワクチンのデマ対策、Facebookに司法長官が問いただす(07/04/2021 新聞紙学的

そして、当初は米独立記念日の7月4日までに成人の1回目ワクチン接種率70%を掲げたバイデン政権は、接種率伸び悩みによって、目標達成がほぼ1カ月ずれ込む。

そんな中で、バイデン政権の誤情報批判は、フェイスブック批判へとつながっていく。

政府の公衆衛生総監、ビベック・マーシー氏は7月15日、ホワイトハウスで記者会見を行い、ワクチンの誤情報を含む新型コロナウイルス誤情報が「公衆衛生への差し迫った脅威」であるとして、対策強化の勧告を発表する。

その中でマーシー氏は「誤情報が命を犠牲にした」と断じ、アルゴリズムの見直しを含むソーシャルメディアなどのプラットフォームの対策強化を強調した

※参照:「SNSはアルゴリズム見直せ」コロナデマ拡散で衛生トップが勧告(07/16/2021 新聞紙学的

そしてその翌日、バイデン大統領が、報道陣から「新型コロナの誤情報について、フェイスブックのようなプラットフォームへのメッセージを」と問われて、「彼らは人々の命を奪っている」と批判のトーンを上げている。

※参照:「命を奪ってる」ワクチンデマでFacebookを大統領が非難する事情(07/17/2021 新聞紙学的

またフェイスブックは8月、同社としては初めてとなる「コンテンツ透明性レポート」を公開。今年第2四半期分の人気コンテンツリストなどをまとめ、情報公開をアピールした。

だがそれに先立って、お蔵入りとなった第1四半期分の「コンテンツ透明性レポート」が存在することが、ニューヨーク・タイムズのスクープで明らかになった。

お蔵入りの「コンテンツ透明性レポート」に掲載されていた最も読まれた人気記事のトップは、「ワクチン接種後に医師死亡」というもので、経営幹部が「広報面での問題点」を検討し、棚上げを決めたのだという。

※参照:Facebookが「人気コンテンツリスト」をひた隠しにした後ろめたい理由(08/27/2021 新聞紙学的

「透明性」のアピールは、逆に隠蔽体質の印象を残すこととなった。

●制御しきれない規模

アカウントやページ、投稿への対策に加えて、さらにコメント欄をめぐる誤情報の氾濫。

ウォールストリート・ジャーナルは、9月に開かれた幹部会議での参加者のこんな発言を紹介している。「我々が作ったマシンを我々は制御できていない」

制御不能な状態は、新型コロナとワクチンをめぐって、一層鮮明に、そして深刻になっている。

(※2021年9月21日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)