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「らき☆すた」放送10周年 聖地巡礼は今も大人気

河嶌太郎ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)
「らき☆すた」10周年を祝うタペストリー=2017年7月9日撮影

2007年に放送スタートした「らき☆すた」

 アニメ「らき☆すた」の放送から今年で10年になる。「らき☆すた」は女子高生の日常をまったりと描いた物語で、2007年4月から9月にかけてテレビ埼玉やチバテレビなどの深夜の時間帯に放送された。主題歌の「もってけ!セーラーふく」がヒットし、日本レコード協会のゴールドディスク認定されたほか、ニコニコ動画の黎明期とあいまって、ネットを中心に一世を風靡した。

 だが、「らき☆すた」が当時メディアに多く登場した要因は、作品の面白さというよりも、埼玉県鷲宮町(当時)をはじめ、埼玉県内の各地が舞台になっており、舞台にファンが大勢押し寄せたことだった。この様子はNHKや民放の夕方のニュースでも取り上げられ、深夜アニメとしては“異例”の露出であった。こうした報道を通じて「らき☆すた」を知った人も多数いた。

町でイベント 声優が神社に参拝

「らき☆すた」のブランチ&公式参拝in鷲宮で賑わう鷲宮神社=2007年12月2日
「らき☆すた」のブランチ&公式参拝in鷲宮で賑わう鷲宮神社=2007年12月2日

 やがて、主舞台の一つ鷲宮神社のある旧鷲宮町では、地元商工会を中心に、観光や町おこしに繋げる取り組みを進めていく。2007年12月2日(日)には、商工会と「らき☆すた」の版元である角川書店が連携し、「『らき☆すた』のブランチ&公式参拝in鷲宮」を開催する。今でこそ地域とアニメやマンガの版元と協働してイベントを開くことは当たり前になったが、当時は画期的な取り組みであった。このイベントでは、柊かがみ役の加藤英美里や柊つかさ役の福原香織など、出演声優による神社への公式参拝が行われた。また、ポストカードや桐絵馬ストラップなど鷲宮限定のグッズも販売された。

 これ以降、鷲宮では「らき☆すた」に関するイベントを強化するようになり、他の自治体関係者からはアニメを使った地域振興の先駆けとして注目を集めるようになる。いわゆる「聖地巡礼」が初めて社会的な日の目を見た瞬間だった。行政だけでなく、学問の面でも北海道大学観光学高等研究センターが鷲宮商工会(当時)と協働して研究を進めるなど、産学連携という形で、はじめてアニメが地域振興に結びつく実証的研究がされるようになる。

柊かがみと柊つかさの絵馬も建立

 あれから10年、平成の大合併によって鷲宮町は久喜市の一部となり、鷲宮商工会も久喜市商工会鷲宮支所となった。2007年12月の「『らき☆すた』のブランチ&公式参拝in鷲宮」では、神社に住む双子の姉妹、柊かがみと柊つかさが描かれた、黒御影石から造られた大きな絵馬が建立された。この10年、この双子の姉妹は様々な変化を見てきた。

建立された柊姉妹の絵馬=2007年12月2日撮影
建立された柊姉妹の絵馬=2007年12月2日撮影

参拝者は3.6倍に

 「らき☆すた」が鷲宮に何をもたらしたか? 鷲宮神社の、正月三が日の参拝者数の推移を見るとわかりやすい。アニメ放送前の2007年は13万人だったが、アニメ放映終了後の2008年は30万人に倍増。2009年には42万人、2010年は45万人と増え続けている。2011年に47万人を記録して以降は、2017年まで47万人という数字で高止まりしている。2007年と比較すると約3.6倍。「らき☆すた」効果と言えるだろう。

「君の名は。」や「おそ松さん」の絵馬も

 一方、神社の境内の様相は変容を見せつつある。アニメ放映中の2007年の夏ごろから、後に「痛絵馬」と称されるようになる、キャラクターが描かれた絵馬が奉納されるようになった。これは現在も続いている。だが、この絵馬に、少しずつであるが“異変”が起こっている。当初は『らき☆すた』関係のキャラクターだけであったものが、それ以外の作品のキャラクターが“分祀”されるようになってきたのだ。例えば、2017年7月9日に参拝した時点では、半分強は「らき☆すた」に関わるものである一方、「ラブライブ!サンシャイン!!」や「艦これ」、「君の名は。」や「おそ松さん」など、縁もゆかりもないはずの作品のキャラクターまで勢揃いとなっている。「乃木坂46」や「NGT48」などアイドルグループに関するものまであった。

 これはつまり、鷲宮が「らき☆すた」の聖地から「オタク」の聖地へと変わりつつあるということだ。商工会の側も、「らき☆すた」のイベントと併せて、オタクのための婚活イベントを積極的に実施するようになった。「らき☆すた」に頼らずとも、より普遍的な「オタク」をターゲットにすることで、地域振興を継続させる狙いがある。

「らき☆すた」以外の作品も並ぶ鷲宮神社境内の絵馬掛け所=2017年7月9日撮影
「らき☆すた」以外の作品も並ぶ鷲宮神社境内の絵馬掛け所=2017年7月9日撮影

外国人観光客が聖地巡礼

 “異変”はもう一つある。2017年7月9日、鷲宮では、「『らき☆すた』柊姉妹誕生祭」が催されていた。その名の通り柊かがみと柊つかさの誕生日を祝うもので、毎年七夕の時期に行われる。10年経った今でも健在しているイベントの一つだ。筆者はこのイベントに訪れたが、境内やその周辺を歩くと、やたらと中国語が耳に入ってくる。紛れもなく、海外からわざわざ埼玉県の片田舎まで「巡礼」しているのだ。10年前は全く考えられなかった現象だった。

 こうした海外から訪れる“巡礼者”の増加は、これから全国的に見られそうだ。現在、観光庁を中心に、「インバウンド」と呼ばれる訪日外国人旅行を売りだそうとしている。2016年9月にはカドカワ・JTBらを中心に「アニメツーリズム協会」を設置。海外からの「巡礼者」を増やす取り組みを強力に進めている。今月下旬にも具体的な巡礼ルートが発表される見通しだ。

 「らき☆すた」から10年。「君の名は。」の大ヒットによって、「聖地巡礼」は2016年の流行語大賞にノミネートされるほど、メジャーになった。「聖地」に限らず、お盆と年末に開かれる同人誌即売会「コミックマーケット」も、アニメ・マンガ・ゲームなどのキャラクターを求めて世界中から参加者が集まるようになり、国際化が急速に進みつつある。今や「聖地」は日本各地に点在するようになったが、これからは外国人旅行者も地域を賑わせてくれることだろう。

10周年を迎えた柊姉妹誕生祭の様子=2017年7月9日撮影
10周年を迎えた柊姉妹誕生祭の様子=2017年7月9日撮影
ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)

1984年生まれ。千葉県市川市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。「聖地巡礼」と呼ばれる、アニメなどメディアコンテンツを用いた地域振興事例の研究に携わる。近年は「withnews」「AERA dot.」「週刊朝日」「ITmedia」「特選街Web」「乗りものニュース」「アニメ!アニメ!」などウェブ・雑誌で執筆。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。

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