Yahoo!ニュース

”アタッキングフットボール”でアジア王者を目指す横浜F・マリノスは悪化するピッチにどう挑んでいくか。

河治良幸スポーツジャーナリスト
松原健(提供:横浜F・マリノス)

カタールで集中開催されているAFCチャンピオンズリーグ(ACL)はヴィッセル神戸、FC東京とともに出場している横浜F・マリノスが韓国王者の全北現代に4ー1で快勝。最終節を待たずして、クラブとしては4度目のACL挑戦で初の決勝トーナメント進出を決めました。

選手たちが口々にあげるのが”自分たちのサッカー”を継続してやり抜くと言うこと。就任3年目で、来季も指揮をとることが発表された”ボス”ことアンジェ・ポステコグルー監督が掲げる”アタッキングフットボール”はボールを保持しながら自分たちからアクションを起こして相手のディフェンスを上回ることを志しています。

攻撃における幅の取り方やアウトサイドの内側に生じるスペースの使い方など具体的な戦術設計は多々ありますが、要は相手のストロングポイントを消すのではなく、自分たちのストロングポイントを最大限に発揮することで1点でも多く奪って勝ち切る。そのためにアクチュアルプレイングタイム(90分の中でオンプレーの時間)をなるべく増やして支配すると言うコンセプトがあります。

全北現代戦でも2点目のゴールを決めたマルコス・ジュニオールがゴール内のボールを拾ったエリキから受けて、カメラマンのいるコーナーサイドの地面にボールを置く。そして仲川輝人らとカメハメハのパフォーマンスをやっている間にもキャプテンの喜田拓也がボールを回収してセンターサークルに持って行くと言う”共同作業”が見られました。そうした行動にもアクチュアルプレイングタイムを増やすこだわりが見て取れます。

「全体の運動量が多いことと、相手に休むすきを与えないことが相手にとっては嫌なところだと思いますし、インプレータイムを少しでも早くしようと、ボスが就任してからの流れを継続しているところが、アジアの中でも通用している」

そう語るのは右サイドバックの松原健です。連戦の疲労やジャッジの難しさなども言い訳にせず、韓国王者を相手にボールを握ってゴールを重ねたマリノスですが、徐々に難しさを増しているのが現地のピッチです。マリノスのグループHが使用しているのは2022年カタールW杯の会場にも予定されるアルジャノブ・スタジアム。11月25日に行われた第3節の上海上港vs横浜F・マリノスが今大会の最初の試合でした。

全北現代戦は6日間で5試合目でした。22日から使用されているハリーファ国際スタジアムに比べると、まだまだ綺麗な印象もありますが、寄った映像ではところどころ悪くなってきているように見えます。

「昨日の試合に関して言えば、午後4時キックオフよりピッチが渇くのがすごい早くて、ボールフィーリングを合わせるのが僕はちょっとやりづらかったのが正直ありました」

そう振り返る松原は試合全体としては「複数得点を取って勝てたのがチームとして一番やりたかったこと。自分たちのサッカーも顕著に出せた」と手応えを語りますが、その中でも「もう少しボールタッチをうまくできたらよかった部分は自分としてありますけど、そこら辺がうまくいかないシーンは多々ありながらも、前線の選手たちがしっかり決めて勝てた」と語ります。

「正直難しいですよね。ピッチはどうしても集中開催で何試合も続けると荒れてきてしまうので。その中では仮にトラップがズレても、そこで慌てないようにとか、そういうところになってくるのかなとは思います」

松原は”自分の感覚としては”と言うところを強調していた通り、ピッチのフィーリングというのはチームの戦術どうこうとは別に個人個人がポジションやスタイル、技術的なベースによっても感じ方が違う部分ですが、大事なことはその中でイメージを共有しながら、難しい時に距離感の調整や相手との間合いなど、アジャストして行く必要があると言うことです。

ここから、さらに試合を重ねる中で悪くなって行くピッチにいかに適応して行くのか。ポステコグルー監督が就任して1年目、2年目、そして今シーズンとJリーグの中では”ピッチ負け”をしなくなっている印象はあります。そのマリノスをもってしても難しい状況は強くなって行くことは予想できます。

松原も「ピッチが悪くてもちょっと球が走れば、まだ何とかなるなって僕の中では印象があるので、昨日の試合に関していえば、ピッチが悪くなってきた、なおかつ芝が乾いてきて球足が重くなってきたとなると、厳しい部分がちょっとでみ見えてくるのかなと思ったりはします」と認めます。

すでにグループステージ突破を決めたマリノスは首位の座をかけてシドニーFCと同じアルジャノブで対戦し、順調に首位通過となれば12月7日に決勝トーナメントのラウンド16で中国の広州恒大か水原三星で勝ち上がった側とハリーファ国際で戦います。*

ハリーファはグループステージだけで7試合を使い、ラウンド16はヴィッセル神戸が13時キックオフの最位を先に行うため、同会場で9試合目ということになります。16時キックオフなので、散水後は乾きにくく、ボールの走りは出るでしょうが、逆に荒れ具合は強まるかもしれません。

そのさきは準々決勝、準決勝、西の王者ペルセポリス(イラン)が待つ決勝とアルジャノブでの戦いが続きます。会場慣れと言う意味では1つアドバンテージですが、試合ごとにピッチの状態は基本悪い方に変わって行くはずです。

マリノスが基本スタイルを変えずに戦い抜くことはおそらく間違いないですが、変えないからこそ、そうした環境の変化にどう向き合って行くのか。そこを乗り越えて行くこともアジアでの実績とともに、1つチームとしてのレベルを上げる要素になってくと考えられます。

*ヴィッセル神戸に2−0で勝利した水原三星が得失点差で広州恒大を上回り、グループステージ突破。ラウンド16でマリノスと対戦することになりました。水原三星はすでにハリーファを経験しており、その点ではアドバンテージかもしれません。マリノス も前日に監督スタッフと選手がハリーファのピッチをチェックしたとのことです。

■オビ・パウエル・オビンナ

(写真提供:横浜Fマリノス)
(写真提供:横浜Fマリノス)

ーー期限付き移籍していた栃木SCとマリノスでは攻撃の関わり方の違いがあることで、切り替える部分、生かす部分は?

もちろん僕が栃木に行くにあたって、最初は蹴らなきゃいけないじゃないけど、スタイル的に真逆のところに行って、戻ってきた時には戸惑いもありました。でも2つの選択肢が持てるようになった。マリノスでは近くにいる味方に出すことが多いけど、栃木で前を早く見るって意識があったので、自分の武器にも気づけた。近くがダメなら遠くって意識でやっています。自分の中の引き出しが多くなり、攻撃の形もできて、自信にもつながった。

……そうした選択肢があることはACLのピッチがどんどん悪化していく中で有効に?

その通りだと思います。つなぐ、後ろからリズムを作ることではつなぐことも大事だが、一番は早く攻める。絶対蹴るなと言われているわけじゃないし、チャンスがあれば狙っていきたい。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

河治良幸の最近の記事