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内田篤人ロールモデルコーチの言葉は重い。ただし”神格化”するべきではない理由(U−19日本代表取材)

河治良幸スポーツジャーナリスト

影山雅永監督が率いる”01ジャパン”Uー19日本代表は9月14日から3日間の合宿を行いました。前回は新型コロナウイルスの陽性反応が出た影響で順延となり、ようやく実現した合宿でしたが、今回は直前にサプライズのニュースがありました。

鹿島アントラーズで現役を引退した内田篤人ロールモデルコーチの就任と、それにともなう合宿参加です。現役引退したばかりで、まだ指導者ライセンスを持たないために用意された役職ですが、反町康治技術委員長は「選手の見本となるようなアドバイスなど、目線を変えた中で活動してもらいたい。まだグランドが似合っている人間。選手に一番近い存在としてアドバイスしてくれたら」と期待を寄せました。

合宿での役割に関しては影山監督に一任されたという今回の活動でしたが、3日間の活動を終えた取材で影山監督は「もう馴染んで、昔からコーチングスタッフやってるみたい」と語るほど、気さくなキャラクターで自然に馴染んでいた様子だった。

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最初の全体練習は招集メンバー29人中、GKを含めて14人ほどの参加でしたが、いきなりミニゲームにフリーマンとして混じってボールをさばきながら、メッセージ性のあるパスなどを出して、短いフレーズで選手に声かけをしていました。

ちょうどオランダ遠征の関係で記者陣のオンライン取材に応じていたA代表と東京五輪の森保一監督は「ピッチに立っている時のシルエットがかっこいい。羨ましいと思ってます(笑)」と(本音まじりの?)ジョークを飛ばした後で、こう語りました。

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「コーチ経験が無いのはもちろんあると思いますけど、彼のようにCL準決勝の場でプレー、ヨーロッパのトップトップで長年活躍し、日本代表でも世界と渡りおあった日本人選手はいない。指導経験がなくても、その経験を伝えるだけでも選手にはすごく刺激になる。一流の舞台で活躍してきている選手ですけど、立場が変わったら、その立場でしないといけないことをできるという素晴らしい姿勢をU-19のキャンプでも見せてくれている」

初日の午後練習の前には影山監督が内田コーチに選手の前で話機会を設けました。内田コーチは独特の優しい口調で、しかし厳しい言葉を話歳選手たちに発したと言います。

櫻川ソロモン(ジェフユナイテッド市原・千葉)

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「内田選手(コーチ)は今回初めて関わらせてもらったんですけど、そんなに厳しく物事をいうわけじゃないですけど、今日の午前中のプレーを見て、まだまだ足りないと。もっと集中して1個1個のプレーを大切にしないといけないという言葉をいただいて、それで午後の練習は最初のパスコントロールから集中してやれたので、そこは良かったと思います」

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松村優太(鹿島アントラーズ)

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「ちょっと変な感じはあるんですにはど、今までは先輩としてチームで一緒にやっていた。立場が変わっても僕は僕、内田さんは内田さんなわけで。もちろんアドバイスをもらいつつ、内田さんは僕だけではなく全体を見ているわけなので、元チームメートという立場ですけど、そこは1コーチとして指導を受けて刺激にしていければと思います」

影山監督は「我々が目指すべきものはどこなのかを話したときに、せっかく内田コーチが来ているからいろいろ話をしてもらおう」と機会を設けましたが、選手たちの食い付きは期待通りだったようです。

「世界で戦うとはどういうことかをみんな必死にやってるけど、そんなんじゃまだまだ届かないよと。優しいながらも厳しさに溢れた口調で言ってもらいまして、僕らコーチングスタッフがワーワーギャーギャー厳しことを言うよりも、彼に一言言ってもらうとすっと締まるといいますか、そのおかげで非常にいいトレーニングができたと思います」

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午後は練習用具の準備を手伝いながら、ピッチの横から選手たちのプレーをじっと観察していましたが、ゲーム形式の練習でプレー外だった右サイドバックの成瀬竣平(名古屋グランパス)にジェスチャーを交えながら熱心にアドバイスをしている姿が見られました。

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2日目は体幹トレーニングで選手たちの間に立ちながら、正しい姿勢でサボらずやっているかをチェック。その後、グラウンドよこに設置された大型スクリーンを使った冨樫剛一コーチの説明を選手とともに聞き入っていました。

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この合宿で4回目のトレーニングとなる午後練習は初めて1グループを受け持って、パス&ランの指導を行いました。多くを語るわけではありませんが、タイミングよく短い言葉で指示するなど、この短い期間でも様になってきているのは伝わりました。

その後、11対11のゲームを行いながら基本的なシステムやポジショニング、パスワークのチェックなどを行いましたが、ライン側から選手たちを見守る内田コーチは同サイドでプレーしていた成瀬に「しっかり動いて、相手を外してから出そう」と言った具体的なプレーの判断をアドバイスしていました。

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その成瀬と対面していた、相手チームの左サイドバックであるバングーナガンデ佳史扶(FC東京)にも「今の飛び出しは良かったよ」と言葉をかけていました。

成瀬竣平(名古屋グランパス)

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「ポジショニング、受けた後のイメージでどこから観てるか、どこに要求するか、サイドバックとしての大事なところを重点的に教えてもらいました。世界で活躍された選手なので、自分も目標にしている1人。身近なところで指導してもらえるのはプラスになりますし、そういったところで教えてもらったこと、自分で考えるところもそうですけど、プレーにどんどん出していければ」

3日目は3本×30分の紅白戦が行われました。ゴールを所定の位置に運んだり、試合の準備を手伝っていた内田コーチはすっかりスタッフの一員という様子。途中でラインズマン(副審)も担当しました。

世界を経験した元A代表の選手がまるまる3日間、直接指導することは選手たちにプラスになったことはもちろんですが、内田コーチが本格的に指導者を目指して行く第一歩としても有意義であったことは間違いありません。

斉藤光毅(横浜FC)

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「全部印象に残ってますけど、1つ1つのプレーにこだわらないと上にいけない、覚悟が足りないということを認識できました。世界のトップレベルで戦っていた方なので、発言や言動は刺激にもなりますし、自覚しないといけない」

日頃から”01ジャパン”を取材している記者の立場でも、やぱり内田篤人コーチがいることで合宿の雰囲気が違うというのは感じました。これだけ話題性を持って一挙手一投足が注目されるのことはなかなか無いかもしれませんが、このカテゴリーに関わらず、代表合宿の現場で選手に指導して行くのは良いことだと思います。

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そして反町委員長は”下駄をはかせるつもりはない”と宣言していますが、やはり指導者として研修を積んでいく上で、日本サッカーの総本山である代表活動に現場のコーチとして関わることは大きなアドバンテージになることも間違いないという意味で、非常に”ウィンウィン”な関係であるように思います。

その一方で強調したいのが、この合宿においてもベースのところで環境作りをしていたのは影山監督であり、冨樫コーチをはじめとする経験豊富なスタッフであるということ。内田コーチの指導や言葉と言うのはその上にあるプラスアルファでしかありません。そのプラスアルファが本当に大きなものではあるのですが、ベースのところは指導者として学んでいくべきところだと思います。

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今回のロールモデルコーチの就任について反町委員長はアンダーカテゴリーの代表チームの注目度をアップさせる狙いもあることを否定しませんでした。メディアで内田篤人の言葉や存在が大きく報道されるリスクについて質問すると「だからこうして皆さんに会見の場を設けているのもあります。写真にしても内田篤人のピンばかりではなく、選手と一緒のところを写してもらえたらいい」と語りました。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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