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紙一重だった”宮代ゴール”の表裏。川崎の逆転劇に見えた、神戸のブレない攻撃姿勢を考える。

河治良幸スポーツジャーナリスト
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

川崎フロンターレはホームでヴィッセル神戸に苦しみながらも終盤にレアンドロ・ダミアンのPKと宮代大聖のJ1初ゴールで逆転し、リーグ戦3連勝を飾りました。

神戸のスローインからの攻撃に対して、センターバックのジェジエウと谷口彰悟が続け様に弾き返し、セカンドボールを拾った脇坂泰斗からの縦パスをダミアンが粘り強くつなぎ、宮代大聖のディフェンスを外しながらのリターンを脇坂が受けて持ち上がると、外側から併走した宮代が神戸ディフェンスの右脇に生じたスペースで受けて、最後は右足で神戸GK飯倉大樹の横を破りました。

直接ボールに絡んでいませんが、脇坂と宮代の攻め上がりに合わせて三笘薫、大島僚太、さらに少し遅れ気味に車屋紳太郎も反対サイドから走り込んでおり、まさに全員の意識が宮代のシュートに乗り移ったような逆転ゴールでした。

同点ゴールが後半38分、逆転ゴールが2分後の40分。この流れだけ見ると同点に追い付いた川崎が、その勢いのままに逆転につなげたように受け取られやすい試合展開ですが、実際は違った側面が見られました。それが同点に追い付かれた直後に神戸が見せた攻撃姿勢です。

菊池流帆のレイトタックルによるファウルは川崎の猛攻を粘り強く弾き返していた最中の不運な状況で起こりました。そこで神戸がわが下を向いて流れに飲まれてしまうのか、引き締めて川崎の勢いを止めるのか。実際はどちらでもなく、神戸は下を向くどころか、すぐに切り替えて川崎陣内に押し上げて攻めの姿勢を見せます。

最終ラインをハーフウェーまで押し上げ、相手陣内に8人が入って川崎のブロックを攻め崩しにかかりました。左から酒井高徳が絡んだ攻撃はわずかにラインを割ったと判定され川崎ボールに替わりますが、神戸の選手たちは高い位置でプレッシャーをかけて、2回目のスローインの流れから、逆に神戸がわのスローインに移りました。

左のタッチラインから前方に酒井が投げますが、ジェジエウが古橋亨梧の背後から体を入れて手前に弾き、さらに入ってきたボールを今後は谷口彰悟が小川慶治朗を制して弾き返します。そのボールが混線を抜けて脇坂のもとへ。そこに対して神戸はプレッシャーをかけにいきますが、脇坂が素早くダミアンに縦パスを出します。

そこにも菊池が激しく襲いかかりますが、ダミアンがバランスを崩しながらもラグビーのオフロードパスのように、粘り強く繋いだことで川崎の鮮やかなカウンターにつながりました。最後はゴール前の守備がダンクレーと右サイドバックの西大伍のみ。そこに二人、三人と逆走で戻りますが、川崎の選手の方が人数が多い状態であり、仮に宮代のフィニッシュをなんとか止めたとしても、セカンドボールを押し込まれた可能性が極めて高いシチュエーションでした。

こうした神戸の姿勢には賛否両論あって然るべきですし、同点になった直後でもあるだけに、一度は落ち着かせてからギアを入れ直すとか、勝ちに行く中でも違ったやり方があるかもしれません。そこはチームそれぞれのゲームコントロールに通じるところでもありますが、川崎の逆転にいたる流れがかなり紙一重の攻防から生まれたものだったことは確かです。

今回は結果として裏目に出ましたが、全く同じシチュエーションから勝ち点3に持っていくケースも起こりえます。その結果は多かれ少なかれ両方ありうると思いますが、攻撃的な姿勢を継続しながら強い相手から良い結果を得るにはクオリティを高めて行く必要があるでしょう。

長いシーズンで勝ち点を積み重ねて行くためには終盤のゲームコントロールで、勝ち点1を拾って行くことも非常に有効な選択肢ですが、やはりこういうギリギリの攻防から生まれる勝ち越しゴールは非常に見応えがあり、ドラマチックです。そうした部分もサッカーの醍醐味の1つだと再認識させられる試合でした。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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