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香川真司の現状。レヴィア・ダービー後に「積極的なミスをもっとしたい」と語った真意とは?

河治良幸スポーツジャーナリスト
(写真:アフロ)

10月29日に行われたシャルケとのレヴィア・ダービーで前節のインゴルシュタット戦に続き先発出場した香川真司は4−3−3の右インサイドハーフとして79分までプレー。正確なパスと相手の10番ナビル・ベンタレブにタイトな守備で決定的なパスを出させないなど攻守を支えたが、チームとしても個人としてもゴールを決めることができずに試合を終えた。

「勝たなきゃいけなかったですけど、攻撃の形がぜんぜん少なかったですし、まあ難しい試合というか、点入る気がしなかったですね」

インサイドハーフでも左の方が攻撃のイメージがしやすいという香川だが、攻守のバランスを取りながら、攻撃のつなぎ役として重要な役割をこなしている。特にシャルケ戦はダービーということもあり、難しい局面が続く中で貢献は小さくなかった。しかしながら、トゥへル監督から求められるもいう1つの仕事をやり切れていない現状を強く認識している。

「(監督からは)バイタルに入っていけと言われる」

つまり中盤のポジションで自分のエリアを守りながら、バイタルエリアに侵入して行けという要求だ。香川としても意識はしているが、なかなかできないのは周りとのバランスを取る難しさが大きい。特に若い選手が多く、シーズン序盤戦は勢いに乗って勝利を積み重ねていたのが、ここに来てできなくなっている。その状況は逆に経験が豊富な香川にとってチャンスでもあったわけだが、「やっぱり若いチームですから、1つうまく行かないとなかなかずずっと行っている」という状況の中で、バランスを取らざるをえないのが現状だ。

公式データによれば香川は57本のパスを記録し、ミスはたったの4本だった。つまり93%のパスを成功させている。中盤の組み立てにおけるボールロストは皆無で、シャルケのタイトなプレッシャーをうまくいなして、右サイドバックのルカシュ・ピシュチェクやウィングのクリスチャン・プリシッチ、時に左サイドにボールを展開した。

しかし、バイタルエリアでボールを受け、危険なパスを狙うシーンやシュートが無く、後半は何度かゴール前に顔を出すも、味方のボールに合わせることができなかった。独力で打開するタイプではない香川にとって、チームの攻撃リズムが良くないと、現在のポジションからつなぎ役としては機能できても、ゴールに近い位置で直接チャンスに絡むのは難しい。

「チームとしてもミスが多かったので、そこでリズムを失いたくなかったですし、自分自身のプレースタイル上、そこで変なミスは起こしたくなかった。それがいいのか悪いのか分からないですけど、もっとトライをする形を見出せないと厳しいかなと思います」

一見して矛盾する言葉だが、チームのリズムを良い流れに持っていかないと、自身のゴール前での持ち味も出せないという意味だろう。「積極的なミスをもっとしたいんですけど。安定のパスを出すより積極的なミスをしたいし、チャレンジをしたいっていう意味で物足りなさは感じる」と語る香川にとって難しい状況にあるのは確かだ。

それを打破するにはチームのリズムが良くなることが一番だが、そうでない場合は数少ないチャンスをものにするか、時にリスクを負ってフィニッシュに絡んでいくかしかない。ダービーでは前半に縦のボールをオーバメヤンが競ったセカンドボールを拾った勢いでゴール前に飛び出したシーン、後半は左からのクロスに飛び込んだシーンなど、チャンスは限られたがゼロではなかった。

「ああいう形はチャンスなのかなと思ったので、まあ惜しかったですけど、シンプルにああいう形がもう1つ2つあってもいいと思うし、今は完璧に完璧にやろうとしすぎているところがチームとしてある」

後半はシャルケに疲労が出始め、ドルトムントが押し込む時間が増えた中で香川がゴール前に飛び出すシーンも増えたが、長いクロスが香川に合うことはなかった。特に後半の様な流れではインサイドの左を担うマリオ・ゲッツェとのコンビネーションなどが出ても良かったが、そこの関係も良い意味で構築されていないのが現状だ。

「(監督が)こう動いてこう出せというのをミーティングで常々やっているし、いい時はいいんですけど、うまく行かなかった時に苦労しているところはある」

そう語る香川だが、監督が戦術的に求めることを時に外れてでも、ゴールという結果を出すことで1つトンネルを抜けられることを認識している。最低限のタスクとして求められる役割ともう1つのゴールに絡むという役割はチーム状態が良くないと時に矛盾してしまう要素でもあるが、そこをこじ開けて行くのは本人でしかない。

「やあ、もう結果でしょ。それを出せるかは個人的には思っているので、やっぱり1つ、リーグでも点を取れていないので、もちろん出番が無い試合もあったので、別に焦る必要は無いですけど、この流れを自分のものにするためには目に見える結果が確実に必要ですし、それを今日も求めてましたけどうまく行かなかった」

セレッソ大阪からドルトムントに加入して来た時はある意味で現在の若手よろしくガンガン仕掛け、ゴール前で勝負して結果を出せば評価されたが、今は攻守のバランスをしっかり整えながら、そこから機を見てチャンスに絡んでいかなければならない。ベースとなるタスクは増えたが、結局のところ最終的に求められるもの、何より本人がこだわるものは変わらない。ゴールやアシストという目に見える結果だ。

「また次に出るために日頃から自分というものを忘れずに、縛られすぎずにやり続けていかないと、そしてここで1本取り切らないと状況は変わらないと思っているので、チームとして苦しい期間ですけど、やるしかないし、しっかりと結果がほしいですけどね」

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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