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シリア戦で完勝した日本代表。久々の90分で存在感を示した酒井高徳のビジョンとは?

河治良幸スポーツジャーナリスト

日本代表はハリルホジッチ監督が今年の最も大事な試合に位置づけるシリア戦で前半こそ苦しんだものの、後半にゴールを重ねて3−0の勝利を飾った。立ち上がりは芝の長いピッチと相手のプレッシャーでビルドアップのミスが目立ち、そこから失点しかけるシーンもあった。

そうした中で、チャンスの起点として確かな存在感を示したのが右SBの酒井高徳だ。シュトゥットガルトからハンブルガーSVに移籍した今季だったが、今回のメンバー選考の時点で公式戦の出場はゼロ。合流前のヘルタ・ベルリン戦でようやく後半45分間のプレー機会を得た。

ここまで継続的に試合に出ていた酒井宏樹が負傷で選外となり、サンフレッチェ広島の塩谷司が新たなライバルとして加わった今回、ハリルホジッチ監督は前日会見で「迷っているポジションがある」と語っていたが、その1つが右SBであることは想像に難くないが、当日のスタートリストに入ったのは酒井高徳だった。

前半は中盤がなかなか機能しない状況でボールを捌いて相手をいなし、何度か相手にカットされる場面はあったものの、前方の本田圭佑をフックに使いながら効果的な攻め上がりを見せ、高い位置でクロスに持ち込んだ。守っては推進力のある7番アル・ジャファールの自由を奪い、ロングボールを起点に攻め込まれた場面でも2トップとの関係を分断していた。

右サイドから攻守に渡りチームの生命線となっていたのは間違いない。しかし、後半になると上下動が少なくなった。実際に疲れていたという酒井高徳だが、バランスを取りながら機を見て攻撃に絡むプレーは確かな経験の積み重ねが可能にするものだろう。ある種の手応えと、やはり普段から90分出る大事さを味わった試合後の酒井高徳に話を聞いた。

ーー立ち上がりは中盤でなかなかボールがつながらない状況で、主に高徳選手のところがビルドアップの起点になっていた様に見えました。どういうイメージでプレーしていたのでしょう?

「スカウティングでも相手の7番は残りがちというのがあったので、彼がどういった守備をしてくるのか、あるいは前に残のかをしっかり見ながらポジションを取っていたというところで、(本田)圭佑くんの近く、あるいは高い位置を取って中に入れるというよりは、逆に自分のところの足下で7番を引き付かせて、圭佑くんのところにスペースを作ってプレーエリアを広げようと思っていました」

「前半にも何回か圭佑くんに当ててワンツーで抜けてというのができたし、そういう意味では7番をうまく引き出そうという意識で、わりとそれで崩せたので、よく相手の状況を見ながらプレーできていたと思います」

ーー相手の13番のサバグが本田をマンマーク気味にしていて、そこで空いたスペースを突けていた印象です。

「僕が圭佑くんに近すぎて、7番が相手のラインに近づいてしまうと圭佑くんのトラップするエリアというかプレーエリアが狭まると思ったので、あえて低い位置にポジションを取って、7番を自分の位置に来させて、(吉田)麻也君から圭佑くんに入れたり。圭佑君のプレーエリアを広げたところで自分が前に出て行こうとしたら、13番(左SB)が圭佑君に食い付いていったので、そのタイミングを見てするするっと前に行くことができたと思います」

ーーいい形でクロスまで持っていくシーンも目立ったが、そこからゴールにつながっていれば良かった?

「そうですね(笑)。一番最初に抜け出したところで、相手の足に当たったやつは(香川)真司くんから「マイナス!」って聞こえたので、クロスを上げるタイミングでたぶん相手の足が開いてくるかなと思って股下を狙ったんですけど、あんまり開いてこなかったので、それが通らなかった」

「2本目は(山口)蛍と(原口)元気のところでもうちょっとコミュニケーションを取れていればトラップしてシュートまで行けたと思うけど、3回目は単に切れてしまった。あのへんのクロスの精度というのはやっぱり自分の中でも課題だとは思っているし、突き詰めてやりたいと思います」

ーーただ、試合に出られていなかった割にクロスのイメージは周りが見えてできている?

「そうですね、だからこそというか人に合わせすぎているのかなというところもある。人を見てしまう分、その人に合わせてしまうので、スペースにしっかりボールを入れる、危ないところに入れるクロスの配球の仕方をもっと練習した方がいいかなと個人的には思います」

ーー給水する後半30分の前ぐらいには足が止まっていた?

「足が止まったという言い方もあるかもしれないですけど、全体的に“ちょっとこれくらいでいいかな”的な雰囲気が出てしまったというのもあった。そこでハセさん(長谷部)が「おい、しっかり行こうよ!」という風に言っていたし、球際を再びしっかり行くことを言っていたので、そのへんで選手たちがすぐ感じ取って修正したのは良かったと思います」

ーー高徳選手は最近90分やってなかったので途中で疲れたのかなと心配したが実際は?

「僕は疲れましたね。けっこうきつかったし、後半10分過ぎたぐらいから急に足が重くなってしまった。そこで、まずは失点しないような守備とポジショニングを意識しながらというのと、攻撃の時に効率よく前に出て行こう、組み立てのところに参加して前に出て行こうと意識していたので、最低限のことは後半もできたかなと思います」

ーー塩谷選手という強力なライバルは入ってきたが、酒井宏樹が怪我で参加できず、出場チャンスを得て、クラブでも45分間だが出て、現在地は?

「試合できていることにすごく感謝しているし、それをしっかり自分のものにしようとしているし、でもやっぱり90分間やってないことは否めないし、現に試合をしていても、ああこういうところが出てないせいで少し劣っているなというところも自分の中で感じるところは合ったし、体力的なところも最低限のことはできたというけど、もっともっと前目に行けたなら試合展開がどう変わったのかと自分の中で考えたい。

今日に関しては難しい戦いで久しぶりに代表戦をやることを踏まえて、今日のやり方で良かったと思いますけど、出場できる試合に入った時に、どれだけ自分の感覚と試合に対する感覚というのを組み合わせることが一番大事になってくると思うので、それをしっかり意識してやりたいなと思います」

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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