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生活保護者は4倍!向精神薬大量処方と“心のケア”の偽善

河合薫健康社会学者(Ph.D)
著作者:Bao Tri Nguyen Phuoc

「生活保護者への向精神薬「多剤処方」、健保加入者の4倍 」ーー。

こんな見出しの記事が、25日付の日経新聞で報じられた(以下、抜粋)。

「生活保護の受給者が、医師から睡眠薬など複数の向精神薬を大量に出される「多剤処方」の割合が、健康保険組合加入者の約4倍に上ることが、厚生労働省研究班の全国調査で分かった。受給者の処方割合を自治体別に見ると、最高は兵庫県西宮市で最低は富山県。都道府県別では関西地方が多かった。

生活保護受給者の医療費に自己負担はなく全額が公費。過去に受給者が病気を装って入手した向精神薬がインターネットで転売される事件が発覚するなど、制度の悪用が懸念されている。研究班は『適正な処方に向けてより詳細な分析が必要だ』としている。」

記事を簡単、かつ乱暴にまとめると、

「生活保護の身分を悪用して、薬をたくさんもらって、転売して儲けてるだなんて、けしからん!」

ってことになる。

ふむ……。ただで手に入り、ネットなどで売れるのであれば……、「不正に手にいれてやるか」といった不届きモノがいる可能性は否定できない。

実はこの問題は今から4年前の2010年に取りざたされ、当時、厚労相だった長妻昭氏は、

「不適切に向精神薬を入手しているか判明していないが、多くのケースで過剰に処方されている疑いがある。追跡調査して見極めたい」

とコメント。自治体に対し、複数の医療機関から向精神薬を処方された受給者の病状や処方状況を把握するよう求める通知を出しているのだ。

だが、ホントにこれでいいのだろうか? 何か大切なことを忘れてないかい?

なんせ生活保護者と高精神薬の関係は、不正だけでは語れない深刻な問題も潜んでいるわけで。

そうなのだ。「生活保護受給者の心のケアを!」ーーといった大合唱のもと、元気のない人たち(生活保護者)のために、医師が薬を向精神薬を積極的に処方しているケースも存在するのである。

生活保護を受けている人の自殺率は非常に高く、全国平均の2倍以上もある(厚生労働省調べ)。特に30代で自殺率が高く、5倍以上も多い。

また、うつ病などの精神疾患患者も多く、2008年には「生活保護受給者の精神疾患患者の割合は16.4%で、全人口の2.5%を大きく上回る」ことが明らかになった。

これらの結果を受け、国は「うつになっている人の多さが、自殺率の高さに関係している」としたうえで、「生活保護受給者には、心のケアの支援も強化させましょう」との方針を、極めて短絡的に示した。

なぜ、生活保護者がメンタルを低下させてしまうのか? という根本的な調査を行うことも、考えることも、議論することもなく、ただただ、「心のケア」という思考停止ワードで片付けてしまったのだ。

確かに心のケアは大切なので、その取り組みを否定する気などさらさらない。彼らの不安を聞いたり、孤立しないようにすれば、救われる人は少なくないだろう。 睡眠薬を処方してもらい、ぐっすり眠れれば、元気になる人もいるに違いない。たった1人でも救われる命があれば、それだけでいいじゃないか、という思いもある。

だが、以前インタビューに協力してくれた、生活保護者の言葉が脳裏をよぎる。

「『働くのはお金のため』なんてことを言うのは、自分が納得できるような仕事ができていないことの言い訳。そんなこと言えるのは、ぜいたくもんだけだ」

これは、生活保護を受けている方たちを取材する中で、ある年配の生活保護受給者の男性が、語った言葉だ。

生活保護者の悪行ばかりがマスコミでは取り上げられるが、実際に取材を重ねると、ほとんどの人が、「働きたい。人のために働きたい。金じゃないんだ」と必死に仕事を探していた。

「生活保護が受けられれば、とりあえずは暮らしていける。でも、どうしても働きたい。仕事ができないっていうのは、『お前は生きている意味がない』って、社会から言われているような気持ちにさせるんだ」ーー。彼らはこう訴える。

ところが、どうやっても働く場が得られない。どうあがいても仕事にありつけない。そんな人たちが、命を絶つ人。「生きている資格が自分にはない」と、生きる力を失っていくのである。

そんな「働きたい。でも、働けない」人への心のケアって、いかなるものが有効なのか? いかなる心のケアが効果をもたらすのか? 申し訳ないけど、私にはよく分からない。

心のケアよりも、仕事を見つけることの方が、大切なんじゃないか、と。それが最大のうつ病対策なんじゃないだろうか? そう思えてならないのである。

そもそも自殺に至るには、複数の要因が重なっていることが多い。生活保護を受けて、とりあえず生活できたとしても、経済的不安や将来への不安は重くのしかかることだろう。社会的に孤立することも関係しているかもしれない。そして、「働けない」ことも、最後の決断の大きな引き金になったことは、想像に難くない。

さらに、うつ病は脳内のホルモン分泌異常から生じる症状で、脳内のホルモン異常は睡眠不足から起こる。

うつ病だから眠れないのではなく、眠れないからうつ病になる。

眠れないという状態が続いたり、睡眠時間が足りなかったりという状態が続くと、「昼夜リズム」が乱れて脳内ホルモンの分泌異常が起こり、うつ病になることが多いのだ。

要するに、うつ病を防ぐには、睡眠薬なんかなくとも、眠れる状態を作ること。それが最大のうつ病対策になる。

働ける場を得られれば、安心できる。安心すれば、少しは眠れることになる。働けば肉体だって使うだろうから、身体が休養を必要とし、眠くなる。十分な睡眠が取れて肉体が元気になれば、心だって元気になる。 働くことさえできれば、睡眠薬も必要ないし、精神疾患など患わずに済むし、元気でいられるのだ。

たとえ経済的状況が改善されなくとも、賃金の低い不定期な仕事であっても、働いている人は働いていない人より、活動的で自立心が高く、精神的にも肉体的にも安定していて、健康であることがいくつかの調査で明らかにされている。

一方、仕事を一時的に解雇された人は、その後も賃金をまるまる得ていたにもかかわらず、精神的にも身体的にも健康度が低下した、との報告もある。

仕事が日常に組み込まれていると、ついつい、仕事とお金は対をなしていると考えてしまいがちだ。しかし、仕事がある日常から外された人にとって、仕事は仕事、お金はお金。本来、人間にとって仕事っていうのは、お金とは別個の次元に存在するもので、生きていくうえでお金も仕事も大切なものとなる。

当然ながら生きていかなくてはいけないのだから、仕事よりもお金の方が優先順位は高いかもしれない。でも、「働きたい」と仕事を求めるのは、「もっと稼いで裕福になりたい」というのとは訳が違う。生きていくためにはお金が欠かせないように、人が人でいるためには仕事が欠かせないのである。

私も、かれこれ働き始めて20年以上がたったが、働いているとイヤなことも山ほどあるけれど、いいこともたくさんあるってことは、幾度となく経験した。

人から感謝されたり、誰かの役に立ったことを実感できたりした時には、やっぱりうれしかった。自分には無理だと思っていたことができたり、自分の力を十分に発揮できた時も、うれしかった。

仕事がある、ことはうれしいことなんだと、素直に思う。仕事さえあれば幸せになれるとは、これっぽっちも思わないけれど、仕事があることで救われたり、ハッピーになれたりすることは実際に多い。

生活保護者へのバッシングはあとをたたない。が、叩くより、問題の本質に向き合って欲しい。少なくとも、仕事の大切さを教えてくれた彼らに、私は感謝している。

健康社会学者(Ph.D)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。 新刊『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか』話題沸騰中(https://amzn.asia/d/6ypJ2bt)。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究、執筆メディア活動。働く人々のインタビューをフィールドワークとして、その数は900人超。ベストセラー「他人をバカにしたがる男たち」「コロナショックと昭和おじさん社会」「残念な職場」「THE HOPE 50歳はどこへ消えたー半径3メートルの幸福論」等多数。

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