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森三中・大島さんの“子づくり休業”こそが、真のキャリア?

河合薫健康社会学者(Ph.D)
By: mellamokat

人気女性お笑いトリオ、森三中の大島美幸さんがずっと欲しかった第1子を授かるために子作りに専念するために、仕事を休業し、“妊活”に徹するのだという。

「いいなぁ……」―-。女性であれば、そんな言葉をついポロリとこぼしてしまったに違いない。

なんせ、「女性はしっかり子育てをしろ!」と言われているのか? それとも、「子育ても仕事も、両方やれ!」と言われているのか? ちっともわからない世の中だ。

少子化対策という名目のもと、働く女性たちは「キャリア志向の高い女性」を演じなきゃならないわけでして。もちろん、できれば結婚もして、子供も産んで、仕事だって続けたい。

でも、そんなに頑張れないし、頑張れる自信もない――。そんな自己嫌悪に陥っている人は少なくないのである。

残念ながら私自身は、子どもを産むという経験も、子育てをするということもないまま、この年齢になってしまった。

そう、現実は思いもしない方向に行ってしまうもの。CAになった時には「3年で辞めて、さっさと結婚しよう。30までに双子を産もう!(なぜか、双子だった…笑)」と本当に思っていた。

ところが気がついてみれば、この年齢。気がついてみれば、オヤジ並に「仕事中心」のキャリア人生を歩んでいた。でも、「何が何でも仕事」とは思っていない。こんな言い方をすると勘違いされてしまいそうだが、「仕事がイチバン!仕事のためには女であることも時には犠牲にする」とは、これっぽっちも思えないし、思ってもいなかった。

もし、社会に「働き方=生き方」という考えが広がっていたらなら……。

「もっと違う人生を選択していたかもしれないなぁ」などと思ったりもする。

そしてもし、社会に「究極のワークライフバランス」ともいえる、キャリア・レインボーの考え方が広まってくれれば、女性も、男性も、もっともっと「仕事」を楽めるし、人生だって楽しくなる。結果的には、少子化対策にもつながるにちがいない。

そこで、今回は「キャリア・レインボー」について、書こうと思う。

私がストレス研究、とりわけ人間の生きる力に関する研究に携わりたいと思うようになったのは、イスラエルの健康社会学者、アーロン・アントノフスキーのストレス対処力(SOC:sense of coherence)という概念に出会ったのがきっかけである。

ただし、産業ストレスをテーマにしたいと思ったのは、米国の教育学者、ドナルド・E・スーパーが提唱する「ライフキャリア・レインボー」に巡り合ったことだった。

スーパーは、「キャリア=職業」とはとらえず、「キャリアとは人生のある年齢や場面の様々な役割の組み合わせ」で、「家庭や社会における様々な役割の経験を積んでいくことがキャリアである」としていたのだ。

具体的には、人の誕生から死までを時系列で考え、キャリアには次の種類があるとした。

(1)子供

(2)学生

(3)余暇を楽しむ人

(4)市民

(5)労働者

(6)家庭人

(7)その他の様々な役割

それぞれの役割を、どれくらいの時間と厚みで経験していくかによって、その人の人生が彩られるとし、ライフキャリア・レインボー論を唱えていたのである。

当時の私は大学院生という立場で、自分がどこに向かっているのか分からなくなることがあった。自分で行きたいと思って大学院に進んだけれども、その経験が自分の仕事にどんなふうにつながっていくのか確たる道筋を描けなかったし、「自分が何を、どうしたらいいのか」が分からず、不安のどん底に度々陥った。

そんな状況だっただけに、スーパーの「キャリアとは人生のある年齢や場面の様々な役割の組み合わせ」という考え方に、心が揺さぶられたのだ。

今は「学生」として目の前のことを一生懸命やればいい。時には「学生」を離れて家事を一生懸命やって「家庭人」を全うし、またある時には、大好きな人のために料理を作って「彼女=その他の役割」を演じたり、ボランティアに参加して「市民」になったり。七色の虹のごとく、いろいろな色で自分の人生を彩ればいい。

すべてがキャリアなんだから。そうすることが「働く人」としての仕事にもプラスになる。

そう考えたら、少しだけ楽になった。人生を楽しめるような気がした。そして、もっとそういう世の中になれば働く人たちはもっとイキイキと働ける。そう感じたのである。

仕事も大切、家庭も大切。勉強もしたい、ボランティアもしたい。働く人たちの意識は、一昔前とは180度変わっている。男性も女性も長く働ける職場、長く働きたくなる職場。たとえ途中で、仕事人としてのキャリアを中断することがあっても、ほかのキャリアを生かした経験を、仕事人として再び生かせる職場。

もし企業が労働者以外のキャリアも、「仕事に生きる」ととらえることができたなら、女性の出産や育児経験も、海外での留学経験も、もっと企業のために生かしてもらうことができると思うのだ。男性にとっても女性にとっても、七色のどれかの色でずっといられる職場を作ることが、結果的に女性の活躍につながり、女性を最大限に活用できることにもなる。

以前、ある中小企業のトップが興味深い話をしてくれたことがあった。

「うちの会社ではね、出産して育児休暇を終えた女性をマネジャーにするんですよ。子供を持つと、ものすごく成長して帰ってくるんです。時間管理が上手になる。人の扱いもうまくなる。マネジャーに求められる能力が、子育てで養われるんだね。何よりも守るべき大切な人がいるってヤツは強いよ。多少のことじゃ、へこたれないからね」

これこそが、真の女性の積極活用なんじゃないだろうか。

このトップの会社では、育児休暇だけでなく、男性でも、独身の女性でも、長期休暇取得率が高いそうだ。

「どんな事情であれ、休みたい時には休めるようにしている。ただし、『休みたい』と社員が申し出た時には、その社員とチームのほかのメンバー全員とでまずはディスカッションしてもらい、誰がどの仕事を引き受けて、その社員の抜けた穴を埋めるかを考えさせる。そうするとね、不思議と『お互いさま』という感覚が生まれるんだよね。対話させることは大切だね」

このようにして、「休みたい」と申し出た社員を「休んでください」とほかのメンバーが送り出す。メンバーに送り出してもらうからこそ、休暇から戻ってきた時には、「ほかの人が休む時には、自分がその穴を埋めるぞ」と思うようになる。

そういう社員同士が対話できる組織作り。七色で彩られた職場作り。難しいかもしれないけれども、そんな職場を、そんな社会を、目指す価値は十分にあるのではないでしょうかね。

そして、自分らしいキャリアレインボーを描くために、よろしければこちらもお読みいただければ幸いです。

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健康社会学者(Ph.D)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。 新刊『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか』話題沸騰中(https://amzn.asia/d/6ypJ2bt)。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究、執筆メディア活動。働く人々のインタビューをフィールドワークとして、その数は900人超。ベストセラー「他人をバカにしたがる男たち」「コロナショックと昭和おじさん社会」「残念な職場」「THE HOPE 50歳はどこへ消えたー半径3メートルの幸福論」等多数。

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