「世界の品評会」U-17W杯。一変した視線を受けつつ、日本はより強く、より逞しく、4強を目指す

一躍、世界の視線を集めるようになった韋駄天FW若月大和(写真:佐藤博之)

日本人選手が大会の注目株に

 U-17W杯第2戦の試合前、記者席で見知らぬ白人男性から話し掛けられた。対応するのが面倒くさかったので、隣にいた他の記者も巻き込んでしまったが(彼は英語が達者なので!)、要約するとこの男はエージェントであり、こういうことを求めてきていた。

「日本の9番(若月大和=桐生第一高校)と10番(西川潤=桐光学園高校)とコンタクトを取りたい。間を繋いでほしい」

 スタンドに来ている日本人選手の家族にもすでにアタック済みだったようで、「彼ら二人のファミリーは来ていないみたいだからね」なんて話も。アグレッシブすぎる彼にはお引き取り願うしかないのだが(日本の常識的には、記者がそんなことできるはずもないのだ)、それだけ二人が注目されているとも言えるし、U-17W杯という大会が「選手の品評会」という性格を色濃く持っている証だと言える。

 会場には日本人選手を買い集めるモードに入っているマンチェスター・シティを始めとして欧州各国のスカウトが詰め掛けており、初戦で彼らがよく知るオランダが「物差し」となったことで、試合はもちろん、局面の勝負でも圧倒した日本人選手の株は大きく上がった。一番上がったのは若月で間違いないのだが、別に彼らだけが注目されているわけでもない。後ろの選手たちの中にもスカウト陣の視線を集める選手がいる。

「フワフワしていた」代償

 こうした世界からの視線が強烈なモチベーションになるのは間違いない。大会前にDF半田陸(モンテディオ山形ユース)が「海外に行きたいと思っている選手ばかりなので」と語っていたように、夢をかなえるためのビッグチャンスが転がっている大会なのは確かで、だからこそオランダ戦も素晴らしいパフォーマンスが出たのは確かだろう。

 ただ一方で、チームが一丸になって戦う上では足を引っ張る要素になりかねないリスクもある。スカウトへのアピールを意識してエゴイスティックなプレーが増えるようでは日本代表が世界で戦う上での生命線であるチームプレーに支障が出る。もちろん、露骨にそんな振る舞いをするような選手は出ないけれども、初戦でオランダに大勝したこともあり、どこかに少し心理面でのアンバランスが生まれていたのは否めない。選手の一人は「フワフワしてしまっていたところがある」という言葉で第2戦に向けた心理状態を悔いていた。

 第2戦がスコアレスドローに終わったのは、純粋にサッカー的な要素も当然あるが、やはりチームメンタルの部分にも一因があった。オランダ戦で見せたような雰囲気をチームで作れなかったことは選手も認めるとおりで、若月はこう振り返る。

「準備の部分で足りなかったのかなと実感しています。アップ含めてオランダ戦より声が出ていないといった部分は自分も感じていて、やっぱり自分から声を出して盛り上げるとかが必要でした。一人ひとりが声を出していたのがオランダ戦で、アメリカ戦は声が出ていないところはあったのかなと思う」

 サッカー的な要素としては、何と言っても米国が本来の形を捨てて守備から試合に入ってきたこと。攻め残りをする10番のMFジョバンニ・レイナ(ドルトムント)を先発から外してまで「守備で頑張るサッカー」(森山監督)に切り替えてきたのはちょっとした驚きであると同時に、日本代表への評価の高さを感じさせるものだった。負ければ敗退濃厚の彼らには並々ならぬ気迫もあり、日本は苦戦を余儀なくされることとなった。

 ただそもそも、この世界大会で相手が最初から自分の形を捨てて「日本対策」をしてきたこと自体、つまり「日本をリスペクトしてきた」(森山監督)こと自体が、チームへの評価が大きく上がっていることの裏返しだった。

狙いはあくまで16強以降

 米国戦の結果はスコアレスドローだったが、個人的にはまったくネガティブにはなっていない。強国に大勝した次の試合が難しくなるというのは森山監督も事前に予想していたとおりで、練達の指揮官が試合後に苦渋の表情を浮かべるようなこともなかった。

「冷静に考えてこのグループで2試合終えて勝ち点4は悪くない」

 これもまた偽らざる実感。チームの目標はあくまで4強であり、そのためにコンディションのピークも「ラウンド16に合わせて準備している」(森山監督)。西川をこの第2戦で休ませる判断を下したのもその一環で、練習の運動負荷もコントロールしつつ過ごしてきた。こうしたフィジカル面での計算上も、第2戦でパフォーマンスが落ちることは織り込み済みだったからだ。

 2試合で勝ち点4を確保したことで、ノックアウトステージへの進出は他グループの結果次第の部分も残るとはいえ、ほぼ心配なくなった。「もっと悪い結果で最終戦を迎える可能性も考えていた」指揮官にとってみると、この結果は悪くないのだ。米国戦でもハーフタイムで「最悪、ドローでもいい」と選手たちにはハッキリ伝えていた。その上でもこうも語った。

「選手は1戦目がうまくいき過ぎていたのでがっかりしていた部分もありますけど、ポジティブに捉えている。次勝てば1位ですし。ただ、U-20W杯では、次の第3戦で行き切ってしまってケガ人が出てしまった。あくまで決勝トーナメントの1発目に向けて考えたい」

 照準を合わせるのはあくまで16強以降の戦い。まるで強国のようなスタンスだが、日本もここまで来たという見方もできるかもしれない。第3戦について指揮官は、「2位で抜けると、E組の1位とやることになるが、強いところと対戦したいと思っているので、それでもOK」とまで言い切った。その場合はスペインやアルゼンチンとの対戦が予想されるが、「育成年代の代表なんだから、強いところとやらないとダメ」と言い切っていた指揮官らしい発想である。この大会が持つ「品評会」という一面を考えても、強烈な「物差し」となるチームとノックアウトステージでぶつかるのは問題ないどころか、大歓迎とすら言える。

 セネガルとの第3戦はここまで出番のなかった選手たちを出して、フレッシュな選手たちにもこの「世界の品評会」を体感させたい考えだ。

「この2試合で『俺を出せよ』と思っていた選手を出す。『やってみろよ』というのを煽りたいし、それで勝てたら最高でしょう」(森山監督)

 代表のユニフォームを背負って戦う以上、負けていい試合などあるはずもない。ただ、これが育成年代の大会であることも森山監督は意識している。

「スタメンで出ている選手と差があると感じているからこそ、そういう起用をしてきた。ただ、これから逆転することも十分にある年代です。W杯に来て1試合も出なかったのか、ちょっとでもピッチに立ってあの雰囲気を味わい、相手の圧力を感じられるかどうか。その中でコントロールがちょっと大きくなったら相手の足が伸びてきたとかを感じると、初めてパスの質やコントロールでこうしないといけないなという気付きもできたりします。判断が遅かったとか、見えていなかったなとかね。それをちょっとでも感じてもらいたい」

 もちろんここで序列を覆すパフォーマンスを見せる選手がいるなら、それはそれで大歓迎。実際、森山監督の過去のチームでもこうした機会に序列がひっくり返った例はある。選手は燃えないはずがないし、それはスタメンで出てきた選手たちにも発奮材料となるはずだ。

 第3戦で勝つことだけを考えるなら、スタメンの選手を継続して出したほうがいい。ただ、この大会での先を見据えることはもちろん、日本サッカーの今後も見据えるなら、違う考えが出てくる。ただ、こうは言っていても、森山監督が最終戦で負ける気は毛頭ないのも確かである。

「笛が鳴ったら『戦え』と言いますよ。当然勝負がかかっている。どんなメンバーが出るにしても、たとえ相手がレアル・マドリードでも一泡吹かせてやると思ってやらないといけない。(勝つために)チャレンジできることをやっていく」

 世界のタレント品評会たるU-17W杯。自身の未来と国の名誉を懸けた真剣勝負の連続の中で、選手たちはさらに逞しく成長しようとしている。