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新生日本代表、地震で中止の試合に代わって初の紅白戦。被災地への思いを「心の底から」秘めて

川端暁彦サッカーライター/編集者
練習後、見学に訪れたファンと日本代表選手全員で記念撮影(写真提供:JFA)

 9月6日未明に起きた北海道胆振東部地震。北の大地を襲った災厄は、7日夜にチリ代表とのキリンチャレンジカップを控えて札幌市内で合宿を張っていたサッカー日本代表チームをも直撃することとなった。市内の電力・物資が枯渇する中での試合実施は不可能と言うほかなく、「森保ジャパン」の初陣となるはずだったチリ代表戦は中止となった。

 状況を思えば試合中止は至って妥当な判断だったが、11日にはコスタリカ代表との試合を大阪で控える中で、日本代表チームの活動自体を止めるわけにはいかない。一夜明けた7日午後、日本代表は札幌市内で練習を再開。チリ代表戦の代わりということで、フルコートでの紅白戦を実施した。

 もちろん、「この状況でサッカーができることに感謝しながら」(DF遠藤航)のトレーニングである。

代表での実績を欠く選手が多いだけに、よくも悪くもフレッシュなムードに……(写真:川端暁彦。以下全て)
代表での実績を欠く選手が多いだけに、よくも悪くもフレッシュなムードに……(写真:川端暁彦。以下全て)

 紅白戦のスターティングは以下の通り。

(ビブスなし組)

GK

東口順昭/G大阪

DF

室屋成/FC東京

三浦弦太/G大阪

槙野智章/浦和

車屋紳太郎/川崎F

MF

青山敏弘/広島

遠藤航/シントトロイデン(BEL)

堂安律/フローニンゲン(NED)

中島翔哉/ポルティモネンセ(POR)

FW

南野拓実/ザルツブルク(AUT)

小林悠/川崎F

攻撃時は南野が下がり目に動くことが多く、4−4−1−1のような機能。

(ビブスあり組)

GK

権田修一/鳥栖

DF

守田英正/川崎F

植田直通/セルクル・ブルージュ(BEL)

冨安健洋/シントトロイデン(BEL)

佐々木翔/広島

MF

三竿健斗/鹿島

天野純/横浜FM

伊東純也/柏

伊藤達哉/ハンブルク(GER)

FW

浅野拓磨/ハノーファー(GER)

杉本健勇/C大阪

伊東純也vs車屋紳太郎。生き残りを目指した白熱のマッチアップはあちこちで
伊東純也vs車屋紳太郎。生き残りを目指した白熱のマッチアップはあちこちで

 意外だったのは4バックシステムを採用していたことだろう。当の選手も「3バックをイメージしていた」(MF堂安律)のだから、少なからず驚きがあったようだ。あるいは、それも森保監督の狙いだったのかもしれない。「どんなシステムでも柔軟に対応できるようになろう」と強調した上で、「100%を出そう」とピッチに送り出した。

 日本代表新指揮官の代名詞と言うべき[3−4−2−1]をあえて封印したのは、単純に今回の23名を11対11で分けた場合、収まりが悪いという事情もあったかもしれない。遠藤が紅白戦実施最大の理由を「コンディション調整だと思う」と分析したように、試合勘を失うことなく11日のコスタリカ戦へ臨むというイメージがあったことも考えられる。とはいえ、「一つのシステムだけに限定する気はない」というのはU-21日本代表を指揮していたときから強調してきたフレーズでもあり、あらためて初陣の布陣を予想するのは難しくなった。

 紅白戦は「はじめまして」の選手も多かった今回の招集状況を反映し、どうにも呼吸の噛み合わないシーンが頻出。主力候補と思われるビブスなし組は主将に指名されたボランチの青山敏弘がリズミカルな組み立てを見せ、中島翔哉と堂安律の両翼が個人能力を押し出してゴールへ迫ったものの、今一つ機能し切れず。22分には中盤のボールロストから失点を喫してしまう。ビブス組のボランチ天野純が左に展開すると、攻撃参加した左SB佐々木翔がグラウンダーのクロス。これに走り込んだMF伊東純也がしっかり合わせて先制点を奪い取った。

意欲的なプレーを見せた堂安律だったが、「体がまだ重い」と欧州組としての難しさも痛感した様子だった
意欲的なプレーを見せた堂安律だったが、「体がまだ重い」と欧州組としての難しさも痛感した様子だった

 2本目はメンバーを大きく刷新。ビブスなし組の中盤はボランチの青山のみを残し、相棒に守田英正、左MFに南野拓実、右に伊東純也という並び。前線に浅野拓磨と小林悠が入り、バックラインは中央のコンビとGKはそのままに左は佐々木翔、右は遠藤航が入った。対するビブスなし組は堂安が4−2−3−1のトップ下に入り、中島翔哉が右MFに。GKにはシュミット・ダニエルが入った。

 この2本目はお互いに決め手を欠いて、0−0のまま日没を受けて早めに切り上げる形で終了。特に攻撃面でグループはもちろん、個と個が噛み合ったと言えるシーンは少なかったが、地震に伴うコンディション調整の難しさ、「はじめまして」が多い今回のメンバー構成を思えば、致し方ない内容とも言える。

新チームの主将となった最年長の青山敏弘はさすがの存在感
新チームの主将となった最年長の青山敏弘はさすがの存在感

 筆者自身も被災している身なので甘くなってしまっているのかもしれないが、今回の紅白戦については、このタイミングで「サッカーができること」(堂安)自体をポジティブに感じる思いのほうが強かった。単純に調整という意味でもここで芝生の上で実戦形式のトレーニングをできたことは、改めての初陣となるコスタリカ戦に向けてポジティブな材料だったに違いない。

 練習後、槙野智章の呼びかけで選手たちは自発的にファンの下へ向かい、一緒に記念撮影。冒頭に掲げた一枚の写真がそれである。

「僕らはサッカー選手なのでサッカーをやるしかない」(伊東純也)

 図らずも選手たち自身が被災者となってしまったが、すでに気持ちはプロフェッショナルとしてのそれに切り替わっている。オフシーズンに大阪でも地震に遭遇していた堂安は「二度も怖い思いをした」と率直に振り返りつつ、「元気や勇気を与えられるようにしていこうと、選手は心の底からそう思っている」と前を向く。

 まずは9月11日、パナソニックスタジアム吹田でのコスタリカ戦。「森保ジャパンの初陣」には違いないが、単にそれだけにはとどまらない、大切な意味を持つ試合となった。

サッカーライター/編集者

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカークリニック』『Footballista』『サッカー批評』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。著書『2050年W杯日本代表優勝プラン』(ソルメディア)ほか。

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