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U-20日本代表21名が決定。10年ぶりのU-20W杯に向けたロジカルな選考を読み解く

川端暁彦サッカーライター/編集者
「自信を持って選んだ」と宣言した内山篤U-20日本代表監督

9割決まった中での4つの焦点

U-20日本代表・内山篤監督は、3月のドイツ遠征を終えた際に「9割くらいは固まっている。というか、この段階で固まってなかったらマズイでしょ」とおどけて笑っていた。実際、この段階で21名中19名くらいまでは決まっていたのではないかと思われる。今回の選考において、流動的な要素を残していたのは4つだけだった。

「3人目の守護神は誰か」

「中山の控えは杉岡か町田か」

「ボランチの専門枠は市丸か神谷か」

「切り札となるストライカーは誰か」

具体的に話す前に、今回の選考の重要なポイントにも触れておきたい。つまり、23名(フィールダー20名+GK3名)が選べたアジア最終予選と異なり、世界大会の枠は21名(フィールダー18名+GK3名)と狭いことだ。枠の制約上、1ポジションに1名のサブ選手を用意できなくなるため、どこかで「2ポジション合わせて1名のサブ」という枠を作っていく必要が出てくる。その上で、「2ポジション合わせて2名のサブ」を用意できるポジションについても、別ポジションをこなせる選手が最低1名はいることが望ましかった。この場合、攻撃の切り札的な選手は確保しておきたいものなので、後方の選手から2名を削るのがセオリー。内山監督の考えはこうした軸の中にある。

[GK]3人目の守護神は誰なのか?

197cmの偉丈夫・波多野豪はドイツ遠征のSリエージュ戦でも好プレーを見せていた
197cmの偉丈夫・波多野豪はドイツ遠征のSリエージュ戦でも好プレーを見せていた

GKは3名で、1次予選から最終予選にかけて無失点を継続する正GK小島亨介(早稲田大学)は当確だったが、残りの人選は今年に入ってから流動的だった。最終予選の第2GKだった廣末陸(FC東京)は青森山田高校を卒業して加入した先のFC東京で同い年の波多野豪よりもクラブ内での序列で下になっており、波多野をおいて選ぶのは自然と難しくなった。波多野が合宿やドイツ遠征で堅調なプレーを見せたことに加えて、対世界を意識したときに197cmという規格外の高さを持つ波多野の個性も魅力で、一気に波多野がセカンドチョイスに浮上してきた。

その上で第3GKは、次代の資格も持つ大迫敬介(広島ユース)と、日仏ハーフで現在はフランスでプレーする山口瑠伊(ロリアン)の争いだった。大迫は昨年の最終予選でも結果的に負傷辞退となったものの、第3GKに入っていた選手。一方、山口は1次予選のメンバーである。結果的に、先のドイツ遠征で堅実なプレーを見せた山口が選択されることとなった。

[DF]中山の控えは杉岡か町田か

攻撃面に特長を持つ杉岡大暉はJ2でのハイパフォーマンスを受けてメンバー入り
攻撃面に特長を持つ杉岡大暉はJ2でのハイパフォーマンスを受けてメンバー入り

ディフェンスラインにおける唯一の不安はディフェンスリーダーの中山雄太(柏)が負傷離脱していたことだったが、メンバー発表前に実戦復帰したことでそれもなくなった。冨安健洋(福岡)と板倉滉(川崎F)という右利きのセンターバック2名と、左利きのセンターバックである中山は当確。もう1枚の左利きのセンターバックを、予選のメンバーである町田浩樹(鹿島)にするか、あるいは今季市立船橋高校から加入した早々からJ2リーグで活躍を見せる杉岡大暉(湘南)にするかという選択となった。ここは町田がクラブで出場機会を欠いていることに加え、杉岡が左サイドバックもこなせる点が一つのポイントになったと観る。杉岡を入れるなら、サイドバックの人数を3名に削りやすいのだ。

そのサイドバックは右の藤谷壮(神戸)、左の舩木翔(C大阪)、両サイドをこなす初瀬亮(G大阪)の3人が順当に選出。誰が出ても「2ポジション合わせて1名のサブ」になれる理想形である。

[MF]ボランチの専門枠は市丸か神谷か

ゲームを作れる、リズムを変えられる市丸瑞希は交代出場でも活躍できるタイプ
ゲームを作れる、リズムを変えられる市丸瑞希は交代出場でも活躍できるタイプ

中盤の両翼については堂安律(G大阪)と三好康児(川崎F)という「ダブルレフティー」が当確。その上で、遠藤渓太(横浜FM)と森島司(広島)が選ばれたが、これも予想どおりではある。遠藤は堂安や三好とは違ってスピードを武器とするタイプであり、この代表ではコンスタントにゴールも重ねており、スーパーサブ適性が高い。ドイツ遠征ではサイドバックでもテストされており、緊急事態となればそちらもこなせる点も魅力だった。森島はボールを収めてさばくことに長けた司令塔タイプで、他の3人とは異なるパサータイプ。広島ではシャドーの位置を経験したことでプレーの幅が広くなり、起用しやすい選手になっていた。本来はボランチの選手でもあり、そちらのサブも兼用できる点も魅力だった。

森島に加えて、板倉や冨安もクラブや代表でボランチをやった経験を持っており、そちらの候補にもなれる。となれば、ボランチの枠を1枚削って「2ポジション合わせて1名のサブ」のポジションにするのは自然な選択だ。主将であり、左サイドバックなど他のポジションを自在にこなす戦術的柔軟性に富む坂井大将(大分)と、他にいない守備力を強みとするボランチであり、ディフェンスラインの全ポジションについても経験者という原輝綺(新潟)の2名は当確。もう1名、ボランチの専門枠として市丸瑞希(G大阪)と神谷優太(湘南)のどちらを選ぶかという選択だった。負傷もあって今季出遅れていた神谷だったが、最近はパフォーマンスも明らかに上向き。予選突破の立役者だった市丸とどちらを選ぶかは、まさに「うれしい悲鳴」だろう。ここが内山監督にとって最も悩ましい選択だったかもしれない。縦に走って絡める神谷ではなく、「パスでテンポやリズムを作れる」(内山監督)市丸を選ぶということになった。ボランチ以外での起用が考えにくいこの二人について、両方を選ぶという選択肢はなかったと思われる。

[FW]切り札となるストライカーは誰か

4月のミニ合宿から一挙の下克上。田川亨介が最後の1枠に滑り込んできた
4月のミニ合宿から一挙の下克上。田川亨介が最後の1枠に滑り込んできた

FWについては日本人の中で最も9番が似合う小川航基(磐田)、J初ゴールを決めた高卒新人の岩崎悠人(京都)、15歳で史上最年少選出となった久保建英(FC東京)の3人目までは選出が決定的だった。それぞれ直前のドイツ遠征でも結果を残しており、誰もが納得の3人である。問題は4人目だ。これについて内山監督は「前線は最後までいじれるポジション」と語り、ギリギリまで選考したい考えを明らかにしていた。直前のJリーグで生きの良い動きを見せる選手や結果を出している高校生や大学生についても目を光らせながらの選考作業となった。

ドイツ遠征では大学リーグで目覚ましいプレーを見せている旗手怜央(順天堂大学)がテストされたが、初選出というエクスキューズはあれども、チームにフィットせず。個としても怖さを出し切れなかった。一方、Jリーグで主に交代出場から印象的なパフォーマンスを見せていたFW田川亨介(鳥栖)が続く4月のミニ合宿で選出された。前年のSBSカップでメンバー入りした際は、「自分らしさを出せなかった」という反省を踏まえて練習からアグレッシブなプレーを披露。左利きでスピードがあって上背もあるという他のFWにはない個性を持っている点も買われて、最後の「切り札枠」に滑り込み選出となった。スーパーサブ的な起用になるだろう。

「自信をもって選んだメンバー」

非常にロジカルな選考だったので、筆者も21名中20名までは当てることができた。会見で内山監督は「自信を持って選んだ」と堂々語っていたが、多様な緊急事態にも対応できる21名が選出されたのは間違いない。グループステージ初戦となる南アフリカとの試合は21日に行われる。そこから中2日のペースで南米王者のウルグアイ、欧州2位のイタリアと当たる流れは何ともタフというほかないが、選ばれた選手にとって大きな財産を与えてくれる時間になるだろう。また過去の大会を思い出しても、選ばれなかった選手が、選ばれなかった事実から奮起して伸びてくるのもよくある話。大会の前後から、そうした選手たちがJリーグを沸かしてくれることにも期待している。

U-20W杯・日本代表メンバー

GK

1小島亨介(早稲田大学)

12波多野豪(FC東京)

21山口瑠伊(ロリアン)

DF

2藤谷壮(神戸)

3中山雄太(柏)

4板倉滉(川崎F)

5冨安健洋(福岡)

6初瀬亮(G大阪)

15杉岡大暉(湘南)

19舩木翔(C大阪)

MF

7堂安律(G大阪)

8三好康児(川崎F)

10坂井大将(大分)

11遠藤渓太(横浜FM)

16原輝綺(新潟)

17市丸瑞希(G大阪)

18森島司(広島)

FW

9小川航基(磐田)

13岩崎悠人(京都)

14田川亨介(鳥栖)

20久保建英(FC東京)

サッカーライター/編集者

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカークリニック』『Footballista』『サッカー批評』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。著書『2050年W杯日本代表優勝プラン』(ソルメディア)ほか。

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