Yahoo!ニュース

【Jユースカップ】横河武蔵野FC、203cmの大型FW畑中を封じてベスト16へ!

川端暁彦サッカーライター/編集者
203cmの長身FW畑中。鳥取のジャイアント封じは、横河側のポイントとなった

バトル・オブ・山梨

11月2、3、4日で福島、長野、そして山梨を巡るという、3日間の不思議な遠征だった。前の2つが全国高校サッカー選手権県予選であり、最後の山梨が、Jユースカップ。元々は全国に存在するJリーグの下部組織(アカデミー、ユースチーム)が頂点を競う場として創始された大会だが、現在はJリーグ以外のクラブ、たとえばJFL以下のカテゴリーのユースチームや、地域の街クラブなどにも広く門戸が開かれるようになっている。対象となる年代は高校年代なので、ちょうど高校サッカー選手権の“裏”で開催されている大会であり、「部活」という道を選ばなかった高校生たちにとっての「冬のタイトル」である。

その名は武田菱丸。一見して猫だと思ったが、実は犬らしい
その名は武田菱丸。一見して猫だと思ったが、実は犬らしい

その1回戦が、2日と4日に全国各地で分散して開催された。私が目指したのは、山梨中銀スタジアム(旧称:山梨県小瀬スポーツ公園陸上競技場)。風林火山の旗印を脇に掲げるファンシーな猫(と思ったら、実は甲斐犬だった)に送られるように降り立った甲府駅からバスに揺られること約30分の場所にある、ヴァンフォーレ甲府の本拠地である。ちなみにバスは通っているが、Jリーグの開催日でないと、かなり本数が少ない。根性があるならば、南甲府駅や甲斐住吉駅から歩くという選択肢もある。

その第2試合に登場したのは、ガイナーレ鳥取U-18と横河武蔵野FCユース。前者は初めての決勝トーナメント進出に沸く新興のJクラブであり、後者は東京都の街クラブ。Jクラブと街クラブの対戦というと、後者が前者の胸を借りるといったニュアンスになりがちだが、横河の伝統と実績を思えば、そうした見方は的外れだろう。実際、試合は均衡したものとなった。

圧倒的サイズと、いかに向き合うか

203cmと168cm。こういう競り方だと、まず勝負にならない
203cmと168cm。こういう競り方だと、まず勝負にならない

鳥取にはジャイアントがいる。2年生FW畑中槙人は203cmの長身で、恐らく日本人サッカー選手としては史上「最長」ではないかという巨躯を誇っている。これに対した横河の増本浩平監督は「ウワサには聞いていたが、夏の全国大会に出たときの記事を読んだくらいで、特に情報はなかった。まあ、何とかなる!ということで…」と笑いながら話してくれた。ちなみに、その記事って、たぶん僕の書いたやつですよね…。

とはいえ、セオリーはある。空中戦に強いセンターFWがいるときの対応の鉄則は、以下4つ。

(1)押し上げる

空中で競り負ける地点がゴール前であれば、直接シュートとなる可能性もあるし、「事故」も起きやすい。オフサイドラインを押し上げることで、できるだけゴールから遠い位置に空中戦のポイントを設定できれば、仮に競り負けても「大惨事=つまり失点」は避けられる(ことが多い)。よって、ラインを高めに保つのは有効だ。普段から低いラインで戦っているチームだとキツかったりするのだが、横河はそうではないので、問題なし。

(2)蹴らせない

タマのない大砲など単なる置物も同然。というわけで、長身FWへの弾丸、すなわち後方からのロングボールやサイドからのクロスボールを「蹴らせない」、あるいは蹴られても精度を削るような積極的な守備が求められる。これはラインを押し上げて守るときのセオリーでもあるので、(1)とも自然と連動する項目である。

(3)それでも競る

とはいえ、セットプレーならばプレッシャーなどかけられないし、ある程度実力が拮抗した相手であれば、すべての場面でプレッシャーをかけきることは不可能というもの。ボールが入るときは入るものである。そうなったら、競るしかない。マトモに競っては勝てないので、対応が必要だ。横河のGKからは盛んに「飛ばせるな!」という指示が出ていたが、まさにそれである。横河が意識していたのは203cmの畑中を「挟む」プレー。ジャンプしにくい状況を作り、十分な狙いを持ったヘディングをさせないことを狙っていた。また厳密には反則であるが、相手の体を使ってジャンプしたり、ユニフォームをこっそり引っ張ったりといった小技もある。しかしこれは言うまでもなく、ファウル→PK・FKというリスクと隣り合わせだ。

(4)そして拾う

あとは「負けることを前提に守る」意識である。空中戦で競り負けた、その先のルーズボールをめぐる戦いに勝ち切ること。これもまた肝心である。

逆に言えば、長身FWを抱えるチームはこの「逆」ができればいいとも言えるだろう。相手のラインを押し下げ、プレッシャーに負けずに正確なボールを蹴り込み、邪魔されてもキッチリ競り、そしてルーズボールを拾ってしまう。それができれば、おのずと勝機は見えてくる。もっとも、難しいのは鳥取U-18が必ずしも長身FWを生かすサッカースタイルではないこと。畑中が競るシーンは実のところそこまで多くない。畑中に集中している余り、ほかのヤツにやられるというパターンのほうが怖そうな印象すらあった。横河にしてみると、的が絞りにくいとも言えるが、よく声を掛け合いつつ、横河は(1)から(4)を実践し続けていく。

先制点から明暗が分かれる

このシーン。中央が西村、左から2番目が畑中だ
このシーン。中央が西村、左から2番目が畑中だ

鳥取のビッグチャンスは11分。畑中のキープ&スルーパスから抜け出したFW西村洸佑がDFを1枚かわして、右足シュート。絶好機だったが、これは横河GK宗仲光が的確な位置取りからセーブし、ゴールを許さない。

拮抗した試合の先制点はセットプレーから
拮抗した試合の先制点はセットプレーから

逆に横河の反撃は、26分に結実。ゴール左寄りで得た直接FKのチャンス。MF長岡克憲の右足から放たれたシュートは、鋭く曲がってGKのニアサイドを破り、ゴールイン。大きな先制点が生まれる。「ずっと別の選手が蹴っていたのだが、彼が『蹴る』と言ったので」(横河・増本監督)任せたという一撃が、試合を動かした。鳥取も39分、西村がオーバーヘッドキックでゴールを狙うビッグチャンスがあったのだが、これはゴールバーを直撃。同点ゴールを奪えぬまま、前半を終えることとなってしまった。

味方の祝福を受けるバースデーゴーラー佐野
味方の祝福を受けるバースデーゴーラー佐野

鳥取が惜しまれるのは、クロスボールが中に合わないどころかそのままゴールラインを割ってしまうシーンが頻出し、セットプレーでも精度を欠いていたこと。まさに(2)の逆で、前線のストロングポイントを生かし損ねていた。そして後半開始早々の52分に生まれたゴールが、試合の行方を決定付けた。決めたのはこの日誕生日のFW佐野樹生、18歳。裏への抜け出しから左足シュートを突き刺すと、続く60分にも、またしても左足で追加点。勝負を完全に決めてしまった。ロスタイムには交代出場のFW北原祐希の得点も生まれ、4-0で試合終了。謙虚に「1回戦突破」(増本監督)を目標に掲げていた横河が、その目標を達成することとなった。

11月10日に行われる2回戦の相手は鹿島ユース。自分たちの力を量るには、「これ以上ない相手」(増本監督)と言えそうだ。正面からぶつかるのみである。

なお、大会の詳しい日程などはJリーグ公式サイトを参照していただければと思う。

試合後、横河イレブンは声援を送った控え部員や家族に向かって勝利の挨拶
試合後、横河イレブンは声援を送った控え部員や家族に向かって勝利の挨拶

Photos

画像

鳥取の1年生ボランチ磯江太勢。この日もセンスあるプレーを何度か見せてくれたが、戦局を左右するまでには至らず。来年以降の成長とリベンジを期待したい。

画像

豪快な2得点で1回戦突破の原動力となった殊勲の佐野(11番)は「はっぴばーすでーとぅーゆー」のかけ声と共に、試合後は水攻めに…。寒そう。

画像

ゴールこそなかったが、非凡な技術と発想を見せた横河の2年生MF渡辺悠雅。「ウチはパス中心のサッカー。下(小学生)から一貫していて、だからパスのできる選手が育ってきますね。渡辺? あいつも下から上がってきた選手で、でも何故かドリブラーですよね……」と増本監督も首をひねる、ナチュラルボーンドリブラー。

画像

選手に指示を出す横河の増本監督。いまの選手たちは知らないのだろうが、かつてはベルマーレ平塚ユース(現・湘南ベルマーレユース)で茂庭照幸(C大阪)とCBコンビを組んで高円宮杯と全日本クラブユース選手権で共に準優勝を果たし、国体選抜でも活躍した猛者であった。当時を知る身としては「監督」となった現在の勇姿を観られたのは、ちょっとうれしい。

(追記)すっかり(というか、うっかり)書くのを忘れていたが、かつてガイナーレ鳥取でもプレーしていた選手である。

サッカーライター/編集者

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカークリニック』『Footballista』『サッカー批評』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。著書『2050年W杯日本代表優勝プラン』(ソルメディア)ほか。

川端暁彦の最近の記事