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登山は誰にでも門戸が開かれているスポーツ、だからこそ覚悟を決めて登らなくてはいけないのです!

加藤智二日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド・カメラマン
北アルプス薬師岳を縦走する ※写真はすべて筆者が撮影

 「世界に一つだけの花、頑張らなくたって良いんだよ。」そんなフレーズに酔いしれていたこともありましたね。

 「楽しみたいと思います!自分を褒めてあげたい!」そんな前後の文脈を読まずに一流選手のフレーズを口にしたこともありましたね。

 近年の山岳遭難レベルの現状を振り返って見てみると、現代のデジタル文明社会での登山活動が動物としての人間と物事をやり遂げるという人間性のバランスをとっていく行為なのだとつくづく実感してしまいます。

北アルプス大キレットを縦走する ※写真はすべて筆者が撮影
北アルプス大キレットを縦走する ※写真はすべて筆者が撮影

 登山やトレッキングでは素晴らしい景色に出会うことで肉体的にも精神的にも良い効果があるという発信は多くされています。一方で暗くなった!ヘッドランプを持っていない!疲れて歩けない!など基本的な装備不足と認識間違い、運動不足や加齢による体力低下などに起因する遭難報道を目にする機会も増えています。正直なところ他人事で一人一人の心に本当に響いているのか、疑問に感じてもいます。

 自身の体力に見合わない登山のトラブルが発生しない日はないでしょう。トラブルを未然に防ぐことはもちろん大切ですが、安易にレスキュー要請をする前にすべきことはあるはずです。状況分析とトラブルを拡大させず自己で解決する方法を考え、実行する経験を蓄積することが本当に重要になってきています。

 参考:街から近い高尾山や秩父山系でも油断できず、昨年の山岳遭難者は過去最多の3506人

 様々なアクティビティに挑戦するハードルは低くなり、誰でもチャレンジできる時代に生きているからこそ、都合の良いことも悪いことも自分で受け止めることが大切です。

 質問です。

・他人の発信した情報の中に楽しさを見つけ出そうとしていませんか。

・体力の弱さ、努力する気持ちの弱さに向き合うことを避けていませんか。

・今日はやりきるという「覚悟」をダサいと思っていませんか。

天上で何を想う ※写真はすべて筆者が撮影
天上で何を想う ※写真はすべて筆者が撮影

 さて、来る夏山は何処を登ろうかと考えている人も多いことでしょう。登山情報で得られる体力度・技術度とニラメッコしながら装備やお休みの段取りなど充実した日々を過ごしていることだと思います。特別な技術と体力を求められるバリエーションルートに行くケースは除外して書いていますのでご了承ください。

 小さな山歩きにも未知なる要素があり楽しめた時代が懐かしく感じる筆者ですが、多くの皆さんが実感するように令和時代は登山に関するルート情報、気象に関する情報、便利で快適な服装や用品などは本当に入手しやすくなりました。老若男女がそれぞれの体力に見合った選択がされるのであれば、こんな素晴らしい時代は過去にはないのではないかと思います。

 しかし、一般的な感覚での安全管理されていない自然環境下で行う登山における技術や安全の土台は「体力・歩行能力」です。これが備わっていなければ砂上の楼閣というものです。

 では、自分自身で「体力に見合った選択」をするためにはどうしたらよいか?

親子登山 体験は一生の宝物 ※写真はすべて筆者が撮影
親子登山 体験は一生の宝物 ※写真はすべて筆者が撮影

 正直に言うと疲れない山登りなんて無いと思ってください。自身で振り返ってみてください。物であれ体験であれ、簡単に手に入ったものにさほどの価値は無いものです。

 1:必ずやっておくこと ↓

 日帰りの良く知っている登山コースを歩いて体力レベルを自分自身で自覚する。

 ・標高差と距離:例えば標高差1200m、歩行距離20km

 ・背負う荷物の重さ:体重の20パーセントの重量

 ・行動時間:10時間

 これらの要素を過去の自分との比較において、目標をもって歩いてみてください。挫折しても大丈夫。次はそこがあなたのスタートです。

 2:目標をもって覚悟をもって努力すること ↓

 自分で決めたことは頑張る必要があります。それを支えるのが覚悟であり目標です。本人が頑張らなければ、仲間や家族の支えは無駄になってしまうことでしょう。

今日も一日頑張った! ※写真はすべて筆者が撮影
今日も一日頑張った! ※写真はすべて筆者が撮影

 日頃からしっかりと山を歩く習慣を身につけて、素晴らしい日本の山岳景観を楽しんでほしいと思います。同じ山でも季節・天候・コース・日程を自分主体で考えて計画してほしいと思います。山は同じでも登山は十人十色で良いのです。

 「行けるところまで登る」のではなく、「自分の足で下山できるところまで登る」ことを忘れないで山に出かけたいものですね。

 素敵な山と出会えますように!

 流した汗は報われる!

日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド・カメラマン

ネパール・パキスタン・中国の8000m級ヒマラヤ登山を経験。40年間の登山活動で得た登山技術、自然環境知識を基に山岳ガイドとして活動中。ガイド協会発行「講座登山基礎」、幻冬舎「日本百低山 日本山岳ガイド編」の共同執筆。阪急交通社「たびコト塾(山と自然を学ぶ)」、野村證券「誰でもできる健康山歩き」セミナー講師。山岳・山歩きに関するテレビ番組への出演・取材協力。頂上を目指さない脳活ハイキングの実践。登山防災協議会会員、一般社団法人日本山岳レスキュー協会社員、公益社団法人日本山岳ガイド協会安全対策委員会委員長、山岳ガイドステージⅡ。

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