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雪は冷たいか?温かいか?何を今さら!と知っているようで知らない雪のはなし

加藤智二日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド・カメラマン
燕山荘からの新年 ※写真はすべて筆者が撮影

 日本に住んでいて雪のニュースを聞いたことがないという人はいないと思います。ニュースという性格上、私たちの生活に密接な交通障害やスキー場便りなどのレジャー関連が多いかと思います。

 今回は地上に降り積もった”雪”について、知って為になり、役に立つ話題を7つご紹介します。

富山県大品山 日本の素晴らしい雪山 ※写真はすべて筆者が撮影 
富山県大品山 日本の素晴らしい雪山 ※写真はすべて筆者が撮影 

1:雪はどこで生まれる?

 雨も上空では雪(氷晶)なのですが、地上に到達するまでに温められて雨になります。冬にはそれが融けずに地表に到達するから雪になるのです。上昇する気流で空気中の水蒸気が冷やされ小さな水滴となり、更に氷晶となります。重力による下降と上昇気流の激しいダンスパーティの中で雪(氷晶)は成長していくのです。

 概算ですが1000メートル高くなると凡そ6.5度気温が下がります。日本のアルプスであれば3000メートル級ですから、平地に比べて20度は気温が低いことになります。旅客機が飛行する1万メートル上空は凡そ65度も地上より低いのです。

旅客機座席ディスプレイの飛行高度 ※写真はすべて筆者が撮影 
旅客機座席ディスプレイの飛行高度 ※写真はすべて筆者が撮影 

旅客機座席ディスプレイの外気温度 ※写真はすべて筆者が撮影
旅客機座席ディスプレイの外気温度 ※写真はすべて筆者が撮影

 水は何度で凍るでしょうか。0度で凍ると覚えていてほぼ間違いないですが、正確には水に含まれる不純物や冷やしていく条件によって変わります。上空高いところでは極低温の世界なのですべてが凍り付く!と思ってしまいますが、どうも複雑な世界がそこにはあるようです。

 マイナス10度でも凍らない微細な水滴が存在します。これを過冷却な微細な水滴が私たちの上空に存在しているのです。

過冷却の微細な水滴は事物への衝撃で瞬間に氷化し成長していく ※写真はすべて筆者が撮影
過冷却の微細な水滴は事物への衝撃で瞬間に氷化し成長していく ※写真はすべて筆者が撮影

 空気中には窒素や酸素や二酸化炭素と微量の気体分子だけでなく”水蒸気”も含まれています。水蒸気は水(H2O)が気体になったものですから目で見ることはできません。暖かい空気はたくさんの水蒸気を含むことができ、冷たい空気にはそれより少ない水蒸気しか含むことができません。 ⇒ もっと詳しく知りたい方はご自身で調べてみてください。

 今は冬!朝玄関を出ると自分の吐く息が白くなる時期ですね。これは肺と気管支で十分に体温近くまで温められた湿った空気が外気に触れて急激に冷やされた結果、目に見えていなかった水蒸気が細かな水滴となって空気中に現れた現象です。

氷の結晶が空中を舞い太陽柱(サンピラー)が現れた ※写真はすべて筆者が撮影 
氷の結晶が空中を舞い太陽柱(サンピラー)が現れた ※写真はすべて筆者が撮影 

 ”白い息”は身近な現象ですが、私たちが住む地球の対流圏では複雑な気象現象が起きておりこの話題だけでも立派な本が出版されています。

 現在ではスマートフォンを通じて各種の情報が簡単に手に入る時代ですが、身近な自然現象を調べておもしろがることができるのは令和時代を生きる私たちの特権だと思っています。

 参考文献:順不同

 雪と氷のはなし 木下誠一著 技報堂出版

 雪と雷の世界 菊地勝弘著 成山堂書店

2:雪は何色?

朝陽に染まる西穂高へ続く稜線 ※写真はすべて筆者が撮影
朝陽に染まる西穂高へ続く稜線 ※写真はすべて筆者が撮影

 雪は白いものというのが定番ですが、なぜ白いのか疑問に感じたことはないでしょうか。融かしたら透明な水になる白い雪、雪にはたくさんの空気が含まれているから白く見えるのです。空気が一番身近な断絶材です。その空気をたくさん含む雪ならではのメリットは後述します。

 熱が伝わる大きな要素は伝導・対流・輻射(放射)を復習しておきます。

 熱伝導:触るなどして伝わる熱エネルギーの移動です。空気は気体で熱を伝えにくく、液体の水は空気の凡そ25倍も熱を伝導します。鉄などの金属は凡そ3400倍以上と熱を伝導します。

 熱対流:暖房している部屋の空気は天井付近は温度が高く、足元は冷たいですね。お風呂も上が熱くてもかき混ぜたら下層の冷たい水と混ざって温度が下がりますね。熱を対流で失わないようにするには小さな空間で空気を閉じ込めればよいわけです。ふわふわのダウンジャケットは身近なものです。発泡スチロールの食品トレイは熱を遮断する効果が高いですね。

 熱放射:太陽の日差しやストーブにあたって温かくなるのは日々経験することです。人工衛星を覆う金色のシートは強烈な太陽の輻射から衛星を守るサーマルブランケットというものだそうです。身近なレスキューシートは銀色と金色の薄いコーティングがされたものです。

3:雪は日本の自然環境のゆりかご

 積雪の下でじっと春を待つ植物を見ていて気の毒にと思うかもしれませんが、動植物を凍らせてしまう極寒の冬風から高等生物(動植物)を守っているのです。

厳冬を乗り切ったメスのライチョウ 北アルプス白馬乗鞍岳 ※写真はすべて筆者が撮影 
厳冬を乗り切ったメスのライチョウ 北アルプス白馬乗鞍岳 ※写真はすべて筆者が撮影 

 空気をたくさん含む積雪の布団は冬の強風と低温から動物や植物を守っています。野生生物が雪の中で越冬したり、極低温の強風が吹き荒れる厳しい森林限界エリアでハイマツが生育できるのも断熱性抜群の雪があるからです。もちろん可愛いライチョウも天敵の少ない厳しい多雪環境に適応して生きています。

3月の北アルプス八方尾根 日差しに誘われてうっかり雪上散歩でしょうか。 ※写真はすべて筆者が撮影
3月の北アルプス八方尾根 日差しに誘われてうっかり雪上散歩でしょうか。 ※写真はすべて筆者が撮影

 私たち登山者も雪洞という冬山登山技術を持っています。積雪後数日経過した締まった雪が大量にある場所を選んでショベルを使って掘って作るシェルターです。雪洞の中は外気温が極寒であっても0度前後で一定、雪の多孔性は断熱効果・吸音効果と吸臭効果もあります。水が欲しいときは雪壁から削る取るだけです。作製には時間と労力がかかりますが知っておきたい雪山技術です。

3:雪はふわふわ軽いか?雪はカチカチで重いか?

 降雪直後のふわりと積もった雪の密度はというと凡そ0.1グラム/立方センチメートルといわれています。積もった雪の上に繰り返し雪が積み重なることによって圧力が加わって徐々に固くなっていきます。これを圧密されていくといっています。ショベルできれいに切り取れるくらいの固さ、雪玉が程よく握れるくらいの雪なら凡そ0.3グラム/立方センチメートル、夏の白馬大雪渓のようなカチカチの雪なら0.5グラム/立方センチメートルと大雑把に考えられます。

 ※ 正確な数値ではありません。

 さて、1メートル×1メートル×1メートルの立方体に水を満たしたら重さはどのくらいになるでしょうか。 ⇒ 答えは1000Kg、1トンですね。では、夏の雪渓にある雪塊はといえば、そうです500Kgです。体積は3乗ですからそれぞれ2倍なら体積は8倍!大きな雪渓が崩壊すれば簡単に大型乗用車サイズということでとてもパワフルです。夏、涼しいからと言って雪渓の下(スノーブリッジ)には近づかない方が無難です。

7月中旬 北アルプス白馬鑓温泉の雪渓横断 ※写真はすべて筆者が撮影  
7月中旬 北アルプス白馬鑓温泉の雪渓横断 ※写真はすべて筆者が撮影  

 屋根に積もった積雪は大変な重量があり適切に雪下ろしをしなければ家屋を破壊しかねません。雪下ろしも重労働であり危険が伴います。滑り落ちてきた雪の直撃やその下敷きになれば怪我はおろか命も失いかねません。

4:氷河はどこに?日本にある7つの氷河とは?

  中緯度にある日本には現役の氷河は存在しないと思われてきました。近年言われる地球温暖化現象と考えわせてしまうと尚更です。ところが日本列島はユーラシア大陸との間にある日本海が巨大な水蒸気供給源となるためと同時に北からの寒気とヒマラヤ山脈から北朝鮮白頭山という山岳分けさせられていた偏西風が冬、日本海上空で合流するという現象が重なることで世界でも有数の多雪地域となっています。激しい地殻変動は3000メートル級の高所に日差しの差し込みにくい深く険しい谷を刻んできました。このような条件の中で日本独特ともいえる”氷河"ができたのではないかと思っています。

現役氷河は何処に?

・富山県:御前谷氷河(雪渓)

・富山県:内蔵助氷河(雪渓)

・富山県:三の窓氷河(雪渓)

・富山県:小窓氷河(雪渓)

・富山県:池ノ谷右股氷河(雪渓)

・長野県:鹿島槍ヶ岳カクネ里氷河(雪渓)

・長野県:唐松岳唐松沢氷河(雪渓)

遥か飯綱山から鹿島槍ヶ岳カクネ里氷河を遠望する ※写真はすべて筆者が撮影 
遥か飯綱山から鹿島槍ヶ岳カクネ里氷河を遠望する ※写真はすべて筆者が撮影 

 雪は千変万化、大量に降った雪は谷を深く深く埋め続けました。7月、8月、9月と雪の降らない時期を乗り越え、再び深い雪をため込むうちに雪はまるで氷のようになっていきます。その密度は凡そ0.83グラム/立方センチメートルといわれています。氷河として認められる決定的なポイントはそこを形作る氷体が重力によって下方に移動しているかでした。上記に上げた7つの雪渓は見事、流動性が証明され氷河認定されました。

立山と剣岳の氷河群 左から御前沢氷河・三の窓氷河・小窓氷河 ※写真はすべて筆者が撮影 
立山と剣岳の氷河群 左から御前沢氷河・三の窓氷河・小窓氷河 ※写真はすべて筆者が撮影 

 日本三大雪渓といわれる剱沢雪渓,白馬大雪渓,針ノ木雪渓は夏場にはスノーブリッジができ、氷体は形成されないので氷河ではありません。

5:雪は動く?

 雪はしんしんと降るばかりではありません。雨滴に比べて圧倒的に軽い雪は風上から風下に流されます。地表に到達した後も雪粒は落ち着く間もなく風下に流されていきま

地吹雪、上空は晴れていても雪上には雪が舞う雪煙となる ※写真はすべて筆者が撮影 
地吹雪、上空は晴れていても雪上には雪が舞う雪煙となる ※写真はすべて筆者が撮影 

 しんしんと降り続く雪、明日は何センチ積もるだろうか?と思いながら床に着いた経験もあるかもしれません。朝起きて周囲を見回した時、風に吹き払われて積雪は少なく、風下側にずいぶんと雪が溜まっていることに気が付いたでしょうか。

 登山では強風によって雪粒は風上から風下に移動します。稜線の地形や向きによって雪は風下側に多く積雪していきます。先ほどつけた雪上のトレースはあっという間に埋められていきます。

1985年ガッシャブルムⅡ8035m頂上にできた雪庇  ※写真はすべて筆者が撮影
1985年ガッシャブルムⅡ8035m頂上にできた雪庇  ※写真はすべて筆者が撮影

 風下側に溜まった積雪、それが雪庇です。庇状部分の積雪は雪庇全体の一部です。雪庇を持つ雪山に行くときに視界不良は最悪の条件のひとつです。先行者トレースが安全とは限りませんから、新たなラッセルをすることになっても自分の信じるより安全なルート取りを心がけましょう。

積雪は重力の影響を受けてゆっくり動く ※写真はすべて筆者が撮影 
積雪は重力の影響を受けてゆっくり動く ※写真はすべて筆者が撮影 

 意外に感じますが、屋根雪や道路わきのガードレールなどの構造物もじわりじわりと重力に従い下方に移動しながら破壊してしまうことがあります。

湿雪雪崩 最も象徴的な破壊力を見せるのが雪崩 ※写真はすべて筆者が撮影 
湿雪雪崩 最も象徴的な破壊力を見せるのが雪崩 ※写真はすべて筆者が撮影 

 斜面に積雪があれば様々なタイプの雪崩が発生します。事象は簡単に説明できるほど単純ではないので割愛し、別の機会にと思います。

6:雪は役立つ!

 山岳地帯に積もった雪は降雪が無くなった時期にも毎日融け、水となって田畑を潤し、ダムに流れ込んで電気をつくって私たちの生活を支えてくれています。もし日本列島に雪が降らずすべてが雨という形態だった場合、雪の持つエネルギー貯蔵効果を得られないことになります。

 雪自体の温度そのものを外気温との差をエネルギー源として活用している例もあります。そのエネルギーを発電に利用するというハイテク系もありますが、雪を保存して夏の冷房に活用することで石油やガスといったエネルギー使用量を削減することができます。雪室は気温0度付近、湿度90パーセント付近で安定しているので保管に優れているだけでなく、野菜の甘味旨味が増すなどの食品の品質向上にも役立っています。

 古くから氷室といって寒い時期に造り置いた氷を洞窟やおが屑などを活用して保管して、夏場に利用してきました。少し話はそれますが、氷穴は各地に存在しますが、冬の冷たいエネルギー源を夏に活用したり、四季を通じて低温を維持できることから古くは蚕産業に利用され、現代では酒類や農産物の熟成に利用されています。

 雪の活用の一例

・雪が紫外線が良く反射するのを利用し、唐辛子などを晴れた日に雪面に広げ、うま味を引き出し繊維質を柔らかくさせています。

・麻織物や竹細工、コウゾなどの和紙原料など繊維の漂白に雪を活用するのを”雪ざらし”といい、雪国の産業に欠かせない伝統技術です。

7:雪はキャンバス?芸術家?

森吉山の樹氷 冬の湿った冷たい空気は積雪だけでなく霧氷をもたらす ※写真はすべて筆者が撮影 
森吉山の樹氷 冬の湿った冷たい空気は積雪だけでなく霧氷をもたらす ※写真はすべて筆者が撮影 

 積雪は背の低い木や草を覆います。霧氷の白い花をつけた背の高い樹木、青い空とすっきりした雪面が素晴らしい景色を作り上げます。

伯耆大山 日本海からの季節風は美しい雪稜をつくる ※写真はすべて筆者が撮影 
伯耆大山 日本海からの季節風は美しい雪稜をつくる ※写真はすべて筆者が撮影 

 5月になって山肌の雪解けが進んでくると様々な文様が現れてきます。雪形です。各地に言い伝えられている雪形があるので探してみるのも良いでしょう。

5月 鹿島槍ヶ岳にはツルと獅子、爺が岳には種まき爺さん ※写真はすべて筆者が撮影 
5月 鹿島槍ヶ岳にはツルと獅子、爺が岳には種まき爺さん ※写真はすべて筆者が撮影 

 雪と一括りできないという一端をご紹介しました。各ポイントを掘り下げてみるとまだまだたくさん知らないことがあるのに気が付きました。

 雪は温かいか?冷たいか?

 皆さんはどう感じたでしょうか?様々な観点、相対的に考えれば、答えは一つではないのだと思います。

 最後に雪の楽しみとレジャーランドとの違いについて私の想いをお伝えします。

 登山などの自然環境下でアクティビティを楽しんだ後には疲れも残りますが、精神的なリフレッシュや脳の活性化、普段使わない筋肉への刺激と疲労といった人間が生きていく上で欠かすことができない肉体と精神のバランス修正ができると思っています。

 一方、人工的に作り上げられたレジャーランドでの施設やアトラクションでの体験も非日常であり夢の体験では有りますが、大量のゲストに同質の体験を提供する営利事業である以上、圧倒的な人的ストレスを受けざる負えないわけです。

 そういう意味で余暇の使い方には人それぞれの好みと決定によって得られる価値に大きな差が生じます。

 おもしろおかしい、ハプニングある楽しい休日をお過ごしください。

日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド・カメラマン

ネパール・パキスタン・中国の8000m級ヒマラヤ登山を経験。40年間の登山活動で得た登山技術、自然環境知識を基に山岳ガイドとして活動中。ガイド協会発行「講座登山基礎」、幻冬舎「日本百低山 日本山岳ガイド編」の共同執筆。阪急交通社「たびコト塾(山と自然を学ぶ)」、野村證券「誰でもできる健康山歩き」セミナー講師。山岳・山歩きに関するテレビ番組への出演・取材協力。頂上を目指さない脳活ハイキングの実践。登山防災協議会会員、一般社団法人日本山岳レスキュー協会社員、公益社団法人日本山岳ガイド協会安全対策委員会委員長、山岳ガイドステージⅡ。

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