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災害時にトイレに水を流してよいか

加藤篤特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

災害時にトイレに水を流してよいかどうかについて、質問を受けることがよくあります。結論を先に言うと、発災直後は流さない方がよいです。その理由は災害による水洗トイレへのダメージの具合は一律ではないため、状況が分からないからです。状況が分からないというのは、水洗トイレを機能させるための設備に問題がないかどうかが分からない、という意味です。

そこで今回は、災害時に水洗トイレが使えるかどうかを居住者自身で確認する方法について説明します。

停電でも断水する可能性がある

水洗トイレは、便器に水を供給する設備、大小便を処理施設まで管で運ぶ設備、大小便を適切に処理する設備等のすべてが機能して成り立つシステムです。そのため、これら機能のどれか1つでも損傷すると水洗トイレは通常通り使えなくなります。

たとえば、中高層住宅の場合、ポンプの力を利用して上層階に水を供給しているため停電すると水を送ることができなくなります。水洗トイレの1回あたりの洗浄水量は、節水タイプだとしてもおおよそ6~8リットルですので、飲料水さえ入手することが困難なときに、トイレに流す水を自力で確保するのはかなり大変です。

北海道胆振東部地震のときは、停電により断水し、エレベーターも動かないため、マンションに住んでいる高齢者や障がい者、車いす利用者のために、住民の有志が水を運びました。また、西日本豪雨では、倉敷の避難所運営者から「井戸水をポンプでくみ上げ、トイレ前に並べて置いた。しかし、全ての人が上手に流せるわけではないので、トイレ環境が悪化していった」という話を聞きました。

トイレに流してはいけない場合

発災直後、トイレに水を流さない方がよい理由を説明します。

もし、地震による地盤沈下や液状化などで便器から先の排水管が損傷した場合、無理に水を流すと、排水管から漏水したり、詰まったり、下階の住戸に逆流したり、敷地内で汚水が溢れたりと、様々なトラブルが起きる可能性があります。

東日本大震災のように下水処理施設やし尿処理施設が被害をうけた場合は、汚水を処理することができないため、住宅の排水設備に問題がなかったとしても、できるだけ汚水を流さないようにすることが必要です。アンケート調査結果では、上水・下水道管が仮復旧するまでに要した日数は約1か月間でした。

岩手県釜石市では、震災時、「下水道使用自粛のお願いについて」という広報資料を配布し、トイレ・風呂・洗濯などの下水道の使用を最小限にとどめる協力を市民にお願いしました。私たちは自らの建物における排水設備だけでなく、その先の処理についても意識する必要があります。

ちなみに、豪雨や洪水で床下浸水している場合は、排水設備や下水道、浄化槽も浸水しているため流すことはできません。浸水時のトイレ対応はこちらの記事を参考にしてください。

東日本大震災被災自治体におけるライフライン別の仮復旧までの日数(回答:29被災自治体)調査:NPO法人日本トイレ研究所
東日本大震災被災自治体におけるライフライン別の仮復旧までの日数(回答:29被災自治体)調査:NPO法人日本トイレ研究所

トイレに流してよい場合

トイレに水を流してよい場合というのは、排水設備と処理施設が機能している場合です。ただし、集合住宅等でトイレからの汚水を一旦、汚水槽に溜めてから下水道にポンプで流すタイプの場合、停電時はポンプが止まるため、トイレを使用し続けると汚水槽が満杯になりトラブルが起きる可能性があります。このようなタイプは、別途検討が必要です。

トイレに水を流してよいかどうかを判断するには、排水設備と処理施設が機能していることを把握することが必要になります。処理施設については、市町村に確認するとよいでしょう。ホームページで情報が提供されるのか、防災無線なのか、チラシが配布されるのかなど、どのように情報提供されるのかを確認しておいてください。

次に排水設備の確認方法です。専門業者に点検してもらうことがベストですが、災害時に業者はすぐには来てくれません。

居住者自身で実施する点検方法の考え方

以下に、居住者自身による点検方法の考え方を大まかに説明します。

①排水系統の要所を目視で確認する

トイレから公道のマンホールもしくは、トイレから浄化槽に至るまでの排水系統を目視で確認します。マンホールが飛び出していたり、汚水マスの中が土砂で閉塞していたり、排水管が埋設してあるところが大きく地盤沈下している場合は流さない方がよいです。また、排水管が断絶している場合も流せません。汚水マスとは地中に埋まっている排水管の点検口のことです。

なお、目視確認を始める前に、トイレに携帯トイレを取りつけてください。発災後、誰かがトイレを使ってしまうことによるトラブルを回避するためです。過去の災害では便器が大小便で満杯になり、酷い状態となりました。携帯トイレの使い方はこちらの記事を参考にしてください。

排水設備の破損 出典:災害時のトイレ、どうする?(国土交通省水管理・国土保全局下水道部)
排水設備の破損 出典:災害時のトイレ、どうする?(国土交通省水管理・国土保全局下水道部)

(動画・漫画:災害時のトイレ、どうする?)

②目視で異常がなさそうであれば水を確保して流してみる

外観の目視確認で異常がなければ、トイレを使用したあとバケツ等で水を流します。ただし、トイレットペーパーは詰まりの原因になるため流さないようにします。

排水設備の損傷は流してみないと分からない場合があること、またトラブルは流さないと分からないことから、少々乱暴のように感じますが、使いながら状況を把握するという方法をとります。

③トラブルの兆候があれば流すのをやめて携帯トイレで対応する

トイレに水を流して使い始めた後、便器内の水位があがったり、便器から水が跳ねだしたり、便器に溜まっている水から空気がボコボコと出てきたりしたらトラブルの可能性あるので、水を流すのをやめて携帯トイレで対応するようにします。

④第一汚水マスや公共汚水マスに汚水が流れているかどうかを確認する

第一汚水マスは建物にもっとも近い場所にあるマスで、公共汚水マスは公道にもっとも近い場所のマスです。第一汚水マスの中にトイレットペーパーを丸めて投入し、汚水が流れているかどうかを確認します。しばらくたった後に再確認して、無くなっていれば汚水が流れていると考えます。流れていなければトラブルが起きている可能性があるので、水を流すのをやめて携帯トイレで対応します。

以上の内容を実践するには、事前に建物の給排水設備等の仕組みを大まかに把握し、点検箇所と点検方法を決め、平時の状態を目視で確認しておくことが必要です。管理会社や設備業者などに相談しながら実施するとよいでしょう。

平時の状態を把握しておけば、災害時に異常があるかどうかが分かります。異常があれば流すことはできません。目視で異常がなくてかつ水を確保できれば、トイレに水を流して使い、トラブルの兆候が出たらすぐに使用を停止することが必要です。この対応方法については、避難生活を送るうえで重要になるため、計画を作成することが必要です。

具体的な内容は「集合住宅の『災害時のトイレ使用マニュアル』作成手引き」(集合住宅の在宅避難のためのトイレ使用方法検討小委員会)に詳しく書かれているので、参考にしてください。

また、日本トイレ研究所では毎年5月と12月に災害時トイレ衛生管理講習会を開催し、防災トイレ計画づくりについて学ぶ機会をつくっていますので、あわせて参考にしてください。

特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事

災害時のトイレ・衛生調査の実施、小学校のトイレ空間改善、小学校教諭等を対象にした研修会、トイレやうんちの大切さを伝える出前授業、子どもの排便に詳しい病院リストの作成などを実施。災害時トイレ衛生管理講習会を開催し、人材育成に取り組む。TOILET MAGAZINE(http://toilet-magazine.jp/)を運営。〈委員〉避難所の確保と質の向上に関する検討会・質の向上ワーキンググループ委員(内閣府)、循環のみち下水道賞選定委員(国土交通省)など。書籍:『トイレからはじめる防災ハンドブック』(学芸出版社)、『もしもトイレがなかったら』(少年写真新聞社)など

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