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ミスター・トルネード 藤田哲也博士の貴重な講演映像が公開される

片山由紀子気象予報士/ウェザーマップ所属
アメリカでは一年に平均して1,245個(1991年~2010年)の竜巻が発生する(写真:アフロ)

 福岡管区気象台は24日、竜巻の強さを表す藤田スケールの考案や航空機事故を引き起こすダウンバーストの発見など世界的な功績で知られる藤田哲也博士(1920年-1998年)の講演動画を公開した。日本語による講演を撮影した映像はとても貴重で、これ以外、日本語の映像資料は残っていない可能性がある。

「ミスター・トルネード」の功績を知る第一級の資料映像

 この講演動画は1993年12月9日、福岡管区気象台で職員向けに行われた講演を8ミリビデオカメラで撮影した映像です。藤田博士は1953年(昭和28年)に渡米し、シカゴ大学で長く研究を続けました。そのため、日本語で行った講演は限られていて、関係者に聞いたところ、このような資料映像は他にはないそうです。

福岡管区気象台の藤田哲也博士の講演動画を紹介するページ(福岡管区気象台ホームページより)
福岡管区気象台の藤田哲也博士の講演動画を紹介するページ(福岡管区気象台ホームページより)

 今回動画を見て感じたことは藤田スケールを考案された方と知っていても、研究を始めたきっかけや研究の成果を直接、語り掛ける姿を見るのは初めてで、研究の様子をつぶさに、ときにユーモアを交えた話に学ぶことが多く、第一級の資料映像であると思います。

独特の観察力が生んだ成果

 今でこそ、竜巻や台風のなかに発生する小さな渦巻きが猛烈な風を吹かせて、車や建物などを根こそぎ吹き飛ばすことは知られていますが、藤田博士が渡米した当時、アメリカではこのような小さな渦巻きを観測する人はいなかったそうです。藤田博士の話を聞いていると、建物の壊れ方や木の倒れ方などから風が吹いた方向、風の強さをとても詳しく、あたかもその場面を見ていたかのように話すことに驚きました。

2022年3月22日、藤田スケール3の強い竜巻が米ルイジアナ州を襲った
2022年3月22日、藤田スケール3の強い竜巻が米ルイジアナ州を襲った写真:ロイター/アフロ

 気象の世界では空気の流れを立体的に考えることが最も重要で、それを習得するには最低10年はかかるとされています。今の天気予報はスーパーコンピュータを使って、実際の大気をそっくりまねることに重点が置かれていて、自然を観察することが疎かになっているように感じています。藤田博士の観察力が竜巻やダウンバースト、台風などの画期的な研究成果につながったと思います。

藤田イズムを学ぶ

 藤田博士は73歳とは思えないはつらつと姿で、この歳になってよかったことは飛行機酔いをしなくなったことと笑いながら話しています。しかし、このあと病に倒れ、78歳で亡くなりました。同気象台防災調査課の西郷雅典さんは当時を振り返って、これから台風の研究をすると熱く語っていたことが印象に残っているそうです。

 藤田博士は「あると思って探さないと見つからない」と言っていますが、私にはそこに何があるのかさえ思いつかない。この講演動画から天気を観察することの大切さや面白さを改めて感じました。気象関係者だけでなく、自分が思っていることをやり続けたい人に見ていただきたい講演動画です。

【参考資料】

福岡管区気象台:藤田哲也博士の講演動画の公開について、2022年3月24日

橋本昭雄、2014:藤田哲也研究、日本気象学会九州支部だより

饒村曜、2016:長崎に原爆投下 竜巻博士・藤田哲也は被害調査の中で、ダウンバーストの概念を得る

藤田哲也博士記念会の中村弘さんにお話を伺いました

気象予報士/ウェザーマップ所属

民放キー局で、異常気象の解説から天気予報の原稿まで幅広く天気情報を担当する。一日一日、天気の出来事を書き留めた天気ノートは117冊になる。365日の天気の足あとから見えるもの、日常の天気から世界の気象情報まで、天気を知って、活用する楽しみを伝えたい。著作に『わたしたちも受験生だった 気象予報士この仕事で生きていく』(遊タイム出版/共著)など。

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