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この夏のエルニーニョは? 平常の可能性が70%

片山由紀子気象予報士/ウェザーマップ所属
2020年は最悪のハリケーンシーズンとなった。イオタに襲われた中南米ニカラグア(写真:ロイター/アフロ)

 ラニーニャ現象はこの春、終息した。夏から秋にかけては平常の状態となる可能性が高いが、過去には間を置かずにエルニーニョ現象が発生したことも。カギを握るのは海洋内部の暖水だ。

日米豪ともにラニーニャ終息

 4月のエルニーニョ監視海域(南米ペルー沖)の海面水温の基準値との差はマイナス0.8度で、2020年6月から11か月連続で基準値を0.5度下回りました。貿易風(東風)は太平洋赤道域の中部で平年より強くなりましたが、日付変更線付近の対流活動は平年並みだったことから、平常の状態に戻りつつあります。

 また、米気候予測センター(CPC)とオーストラリア気象局(BoM)も同様の見方を示し、ラニーニャ現象は終息し、現在は平常の状態(neutral)であるとしています。

今後の見通しは?

 気象庁(JMA)のエルニーニョ予測モデルによる最新の予想では夏から秋にかけて70%の確率で、平常の状態となる可能性が高いとしています。

エルニーニョ予測モデルから得られた今後の予測(気象庁の予想から著者が作成)
エルニーニョ予測モデルから得られた今後の予測(気象庁の予想から著者が作成)

 上図の折れ線グラフはアンサンブル平均値です。そして、薄い灰色で示した範囲は海面水温の基準値との差が70%の確率で入る範囲を示しています。

 アンサンブル平均値は夏に向かって基準値に近づき、エルニーニョ現象発生の目安となるプラス0.5度に近づく可能性がありますが、秋にかけて概ね平常の範囲に収まる見通しです。

過去にはエルニーニョ発生も

 ラニーニャ現象が終息する季節にははっきりとした特徴があり、春が全体の6割を占めます。

ラニーニャ現象が終息した季節:1949年以降の15シーズンを季節で分けたグラフ(著者作成)
ラニーニャ現象が終息した季節:1949年以降の15シーズンを季節で分けたグラフ(著者作成)

ラニーニャ現象が春に終息した年はその後、どうなったのでしょう?調べてみると、そのまま平常の状態が続いた年が6年、エルニーニョ現象が発生した年が3年ありました。事例は少ないですが、過去には2018年のようにあまり間を置かずにエルニーニョ現象が発生することがあるようです。

暖水の東進がカギ

 夏から秋にかけての天候を考えるうえで、エルニーニョ・ラニーニャ現象は重要な要素です。これには海洋内部の水温がカギを握ります。エルニーニョ現象は海面水温で説明されますが、エルニーニョ現象を支えているのは海洋内部の暖水です。

太平洋の赤道に沿った水温の平年偏差の断面図(2021年4月、気象庁ホームページより。理解を助けるために著者が矢印と言葉を加えた)
太平洋の赤道に沿った水温の平年偏差の断面図(2021年4月、気象庁ホームページより。理解を助けるために著者が矢印と言葉を加えた)

 上図は赤道に沿った海洋内部の水温を平年と比べた図(2021年4月)です。太平洋赤道域西部の深さ100メートルから200メートル付近に平年より水温の高いところがあります。この暖水が東に進み、南米ペルー沖の海面水温をさらに上昇させるものとみられます。

 これだけでエルニーニョ現象が発生することはありませんが、継続して暖水の影響を受けるようになったら、状況が変わる可能性もあります。

【参考資料】

気象庁(JMA):エルニーニョ監視速報(No.344)、2021年5月12日

米気候予測センター(CPC):EL NIÑO/SOUTHERN OSCILLATION (ENSO)

DIAGNOSTIC DISCUSSION、13 May 2021

NOAA Climate.gov:May 2021 ENSO update: bye for now, La Niña!、May 13, 2021

オーストラリア気象局(BoM):Climate Driver Update Large scale climate drivers neutral、25 May 2021

気象予報士/ウェザーマップ所属

民放キー局で、異常気象の解説から天気予報の原稿まで幅広く天気情報を担当する。一日一日、天気の出来事を書き留めた天気ノートは117冊になる。365日の天気の足あとから見えるもの、日常の天気から世界の気象情報まで、天気を知って、活用する楽しみを伝えたい。著作に『わたしたちも受験生だった 気象予報士この仕事で生きていく』(遊タイム出版/共著)など。

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