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世界経済危機 それでも温暖化が止まらない訳

片山由紀子気象予報士/ウェザーマップ所属
コロナ経済危機 原油先物価格は史上初のマイナス値(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナが経済に与える影響が深刻化を増している。前例のない経済危機により石油需要は記録的な減少となる見通し。二酸化炭素の排出量が減少しても、直ちに温暖化にブレーキがかかるわけではない。海の水温上昇が足かせになっている。

石油産業の崩壊

 この数か月で世界は一変しました。当初、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に端を発した世界経済危機は2008年-2009年の経済危機(リーマンショック)以来と目されていましたが、国際エネルギー機関(IEA)は最新のレポートで、前例のない経済危機が起こっていると危機感をあらわにしています。

 国際エネルギー機関の予測によると、2020年の石油需要は今年後半、経済封鎖が解除された場合でも、2019年と比べ日量930万バレル減少するとみられ、この10年の成長がほぼなくなる見通しです。原油先物価格が先日、史上初のマイナス値を記録した背景には現在の状況が続けば、日量1200万バレルの在庫が積み上がり、今後数週間で石油産業の流通管理システム(オイルタンカー、パイプライン、貯蔵タンク)が破綻するおそれがあるからです。

経済危機と二酸化炭素の排出量

 経済活動と密接にかかわっているのが二酸化炭素(CO2)の排出量です。二酸化炭素は温室効果ガスの筆頭に挙げられ、これ以上温暖化を進行させないためには二酸化炭素の排出量を少しでも少なくすることが必要です。

 こちらは国際エネルギー機関がまとめた、世界の二酸化炭素の排出量です。1990年から2017年まで、一貫して増加しています。

【世界】二酸化炭素の排出量グラフ(1990年-2017年、国際エネルギー機関(IEA)より)、著者作成
【世界】二酸化炭素の排出量グラフ(1990年-2017年、国際エネルギー機関(IEA)より)、著者作成

 しかし、よく見るとわずかに減少した年(赤破線)があり、これは2008年-2009年の経済危機です。世界経済の深刻な停滞と言われましたが、二酸化炭素の排出量の増加スピードからみれば、わずかなものです。新型コロナによる、前例のない経済危機がどのような数字となって表れるのでしょうか。

二酸化炭素の濃度は減少せず

 経済活動によって放出される二酸化炭素は約44%が大気で、約23%が海洋で、約29%が陸上で吸収されています。

 上記は経済からみた二酸化炭素でしたが、こちらは気象からみた二酸化炭素です。世界気象機関(WMO)が発表した温室効果ガス年報によると、2018年の大気中に含まれる二酸化炭素の世界年平均濃度は407.8±0.1ppmで、一年間に約2ppmの割合で増加しています。

【世界】二酸化炭素の年平均濃度(2004年-2018年、WMO温室効果ガス年報より)著者作成
【世界】二酸化炭素の年平均濃度(2004年-2018年、WMO温室効果ガス年報より)著者作成

 2008年-2009年の経済危機では排出量が減少しましたが、濃度は減少せず、わずかに伸び率が低下しただけでした。二酸化炭素の排出が少なくなれば、すぐに影響が大気に現れる、そう単純ではないようです。

 大気と海洋は常に二酸化炭素のやり取りをしていて、海洋は大気の二酸化炭素を引き取る役割があります。しかし、水温が高くなると、海洋が二酸化炭素を吸収する力が弱くなります。今、世界の海で水温の上昇が続いています。温暖化により気温が高くなったことが海にも影響し始めたのです。前例のない経済危機は今後の温暖化対策の進め方に一石を投じることになると思います。

【参考資料】

国際エネルギー機関(IEA)、2020:石油市場レポート 2020年4月

https://www.iea.org/reports/oil-market-report-april-2020

気象庁:WMO温室効果ガス年報(気象庁訳)

気象庁ホームページ:海洋による二酸化炭素の吸収・放出の分布

気象予報士/ウェザーマップ所属

民放キー局で、異常気象の解説から天気予報の原稿まで幅広く天気情報を担当する。一日一日、天気の出来事を書き留めた天気ノートは117冊になる。365日の天気の足あとから見えるもの、日常の天気から世界の気象情報まで、天気を知って、活用する楽しみを伝えたい。著作に『わたしたちも受験生だった 気象予報士この仕事で生きていく』(遊タイム出版/共著)など。

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