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最大級に発達か? エルニーニョの現状と影響

片山由紀子気象予報士/ウェザーマップ所属
エルニーニョが発達(日付変更線から南米のペルー沿岸にかけ海面水温が平年より高い)

2015年は史上最高の気温

Land&Ocean Temperature Percentiles(NOAA)
Land&Ocean Temperature Percentiles(NOAA)

米海洋大気局(NOAA)は22日、今年1月から7月までの世界の平均気温(陸と海)が観測史上最高となったと発表しました。

20世紀の平均より0.85度高く、これまで最高だった2010年の記録を上回りました。

特に、注目したいのは緑の丸で囲った領域です。

太平洋東部から北米西部にかけ、記録的な高温となっています。太平洋東部では海面水温が通常より高くなるエルニーニョ現象が発生していて、現在も海面水温が上昇しています。また、エルニーニョ現象の影響で、7月はアフリカやアジア、南米で気温が高くなりました。

世界的な高温の背景には発達を続けるエルニーニョ現象があります。

欧州は記録的熱波

最高気温は33度近くに達した。(8月上旬,オーストリア・インスブルック)
最高気温は33度近くに達した。(8月上旬,オーストリア・インスブルック)

夏の暑さで言えば、欧州は記録的な熱波に見舞われました。

オーストリア気象地球力学中央研究所(ZAMG)によると、ウィーンではこの夏、熱帯夜が14日に達し、これまでの記録13日を上回りました。ウィーンの夏は日本でいえば旭川あたりでしょうか。旭川では過去一度も熱帯夜はありません。

ウィーンの朝晩は15度くらいまで下がるのが当たり前ですから、この夏の異常さがわかります。

8月上旬、オーストリアを訪ねたとき、気温が30度を超え、かつてない暑さに驚きました。日中は暑さで人通りが途絶えたほどです。

でも、日本人の感覚からいえば、日本のまとわりつくような蒸し暑さとはまったく違います。ちょうど、5月のよく晴れた日の暑さでしょうか。

台風の発生位置に変化

今のところ、日本の天候にエルニーニョ現象時の特徴はみられていません。

しかし、平年より多く発生している台風にはエルニーニョ現象時の特徴が現れているようです。下図は、これまでに発生した台風16号まで、発生位置を領域別に調べたものです。

2015年 台風の領域別発生頻度(16号まで)
2015年 台風の領域別発生頻度(16号まで)

オレンジで示した部分は台風の発生が多い領域です。今年は発生多発海域より東で多く発生していることが分かります。とくに、長年の平均では発生頻度が小さい東経150度より東で、全体の約6割が発生しています。

エルニーニョ現象時は、台風の発生位置が南東側にずれることが知られています。エルニーニョ現象が発生すると、海面水温の高い領域が通常より東に広がるためだと考えられます。

過去最大級に発達か

過去最大級のエルニーニョ現象(気象庁,1949年以降)
過去最大級のエルニーニョ現象(気象庁,1949年以降)

今後、エルニーニョ現象はどうなるのか?

日本を始め、海外の気象機関はこの冬をピークに発達を続けると予想しています。

ヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)は18日、エルニーニョ現象の現状は1997年以来の規模で、過去最大級まで発達する可能性があると発表しました。

1997年ー1998年といえば、統計史上最大のエルニーニョ年で、世界各地で異常気象が発生しました。日本では秋の訪れは早かったものの、12月は雪不足、全国的な暖冬となりました。

いよいよ、この秋以降、日本にもエルニーニョ現象の影響が現れるのか、注目しています。

【参考資料】

米海洋大気局(NOAA):Global Analysis- July 2015

オーストリア気象地球力学中央研究所(ZAMG):Hitzewellen 2015 eines der extremsten Jahre der Messgeschichte

気象庁:エルニーニョ監視速報(No.275),2015年8月10日

ヨーロッパ中期予報センター(ECMWF):El Nino set to strengthen further,18 August 2015

宮北吉美,2005:台風に関わる海の状況、ITCZ、昨年のコース等について,「台風」日本気象学会関西支部 第27回夏季大学テキスト.2-15.

気象予報士/ウェザーマップ所属

民放キー局で、異常気象の解説から天気予報の原稿まで幅広く天気情報を担当する。一日一日、天気の出来事を書き留めた天気ノートは117冊になる。365日の天気の足あとから見えるもの、日常の天気から世界の気象情報まで、天気を知って、活用する楽しみを伝えたい。著作に『わたしたちも受験生だった 気象予報士この仕事で生きていく』(遊タイム出版/共著)など。

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