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こんなに違う 日米コロナ対策のいま

片瀬ケイ在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー
米国の空港も、機内もマスク着用は個人の判断。(DFW空港にて、筆者撮影)

陰性証明を携えコロナ第7波の日本へ

 8月上旬、筆者は3年ぶりに米国から日本に帰省した。東京で一人暮らしをする母は86歳となり、様々な面で心配が募るばかりだった。日本の水際対策も緩和されつつあるとはいえ、渡航規制の撤廃が進む欧米、アジア諸国と比べれば、日本はまだハードルが高い。

 私自身は米国ですでに4回目のコロナワクチンも接種し、人混みは避けて感染リスクの低いライフスタイルを心がけてきた。それでも日本への渡航前に義務付けられるPCR検査で、万が一陽性がでたらどうしようとドキドキした。

 日本政府指定の陰性証明を出してくれる医療機関での検査費用は200ドル(約2万7千円)で、飛行機代は一番安いエコノミー席でも35万円以上した。直前に渡航計画が狂ったら、手痛い出費だ。無事に陰性証明を手にしたあと、あわただしく日本政府のMySOSというシステムにワクチン接種証明や陰性証明などを事前登録した。

 第7波で爆発的に感染拡大している日本で1カ月半ほど過ごした後、米国に戻ってくる時にはワクチン接種証明も陰性証明も不要(筆者は米国永住者なため)なのだから、へんな話だ。成田空港への直行便だったが、多くは成田経由でベトナムやタイ、フィリピンなどへ行く乗客だった。こうした人達は渡航前にPCR検査は受けていない。

 また米国内の空港や機内でのマスク着用はオプション。マスクを着けている人もいたが、感染力の強いオミクロン株にはほぼ効果なしとされる布マスクの人もいれば、防御力の高いN95マスクで最大限の自衛をしている人もいる。14時間近くもいろいろな人が乗り合わせる機内で過ごすのだから、日本に上陸する人だけが渡航前に陰性だったと証明することにどれだけ意味があるのかと思ってしまう。

制度ありきの日本、どんどん変わる米国

 そうして到着した日本では、「行動制限のない夏」と「コロナ第7波で医療ひっ迫」というニュースに迎えられた。数日後には筆者の従兄からも、娘夫婦と孫がコロナに感染し、濃厚接触者である自分も自宅待機に入るので当面は会えないという連絡がきた。

 感染者が多いうえに、医療従事者も次々と感染したり、濃厚接触者になったりして、病院の対応能力に影響をきたしている。感染者の全数把握で発生する医療機関の作業負担に疑問の声が上がっている。そんな中で雇用先や学校、保険会社に陽性証明を提出するために受診する人がいると聞き、日本はつくづく必要以上に詳しいデータ収集や、証明書という形式が好きな社会だなと思う。

 日本のコロナ対応は、感染者を特定し、隔離するという感染症対策の基本と既存の制度ありきといった印象を受ける。逆に米国の対応はドラスチックな渡航制限やロックダウン(都市封鎖)からはじまり、巨額の公費を投入してのワクチンや治療薬開発の支援、その後は一転してマスク着用義務の廃止、自宅での抗原検査、水際対策や隔離基準の緩和へと、この3年で大きく変化してきた。

コロナはもはや日常生活を妨げない?

 そして8月11日には、米国の疾病対策センター(CDC)は、これまでの隔離、自宅待機基準をさらに緩和するガイドラインを発表している。例えば、濃厚接触者は自覚症状がなければ自宅待機の必要はなく、N95のようなマスクを10日間着用し、6日目に迅速抗原検査を受けることが推奨された。つまり圧倒的多数の濃厚接触者は、日常生活を変える必要はない(注1)。

 また感染者であっても、5日目に発熱がない状態で、その他の症状も改善していれば、たとえ迅速抗原検査で陽性とでていても、6日目以降に隔離を解除してよいことになった。隔離後も人がいる場所ではN95のようなマスクの着用が必要だが、症状がおさまり抗原検査(48時間あけて2回)の結果で陰性となれば、マスク着用もオプションでよいという。

 さらに人と人との間を6フィート(約1.8 メートル)あけるというお馴染みのソーシャルディスタンスも、もはや現実的でないとして推奨を廃止。感染者との接触がなく、自覚症状のない人のスクリーニング検査の推奨も取り消した。米国では新学期が始まるが、ほとんどの学校でマスクの着用はオプションで、濃厚接触者となった生徒らへの定期的な検査も廃止となる。

 新たな規制緩和についてCDCでは「パンデミックは終わっていない」としながらも、ワクチンや治療薬ができ、COVID-19による重症化や入院、死亡リスクはパンデミックが始まった当初より大きく下がったと説明。また「防御力の高いマスクの着用、検査の活用、換気の改善など有効な感染対策への理解も進んだ」とした上で、新たなガイドラインは「もはやCOVID-19のために日常生活が大きく妨げられることのない環境に向けたもの」との声明を発表した(注2)。

いまだ不透明なウィズコロナの日常

 だが米国の対策が日本より優れているというわけではない。米国はコロナですでに100万人以上の死者をだし、今も感染力の強いオミクロン変異株BA.5のために、一日に400人以上が死亡している。

 9月にはオミクロン変異株にも効果が高いとされるワクチンの追加接種が始まる見通しだが、既存の追加接種を受けた人の割合は32%にとどまっている。オミクロン株対応の追加接種といっても、どれだけの人が接種を希望するかは未知数であり、さらなる感染対策の緩和は感染増を招くだけと警鐘を鳴らす医療従事者も少なくない。

 BA.5による感染拡大にみまわれた日米。日本では官僚的、硬直的なコロナ対策では急増する感染者に迅速かつ柔軟な対応をとることができず、各地で医療崩壊の危機と不安が広がっている。他方、個人主義が強い米国では、多数の死者を出しているにもかかわらず、もはやコロナ感染症や政府に振り回されたくない国民に追従するかのように、米国政府も規制緩和を加速させている。

 パンデミック当初から「ウィズコロナ」という言葉が使われはじめたが、私自身はコロナ禍3年目を迎えても「ウィズコロナ」の日常というものを、今も想像できずにいる。

関連リンク

注1 新型コロナ感染に接触があった時はどうする?(CDC、8月11日改訂、英文リンク)

注2 市民がCOVID-19のリスクを知り、自衛するための指針を簡素化(CDC、8月11日プレスリリース、英文リンク)

在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー

 東京生まれ。日本での記者職を経て、1995年より米国在住。米国の政治社会、医療事情などを日本のメディアに寄稿している。2008年、43歳で卵巣がんの診断を受け、米国での手術、化学療法を経てがんサバイバーに。のちの遺伝子検査で、大腸がんや婦人科がん等の発症リスクが高くなるリンチ症候群であることが判明。翻訳書に『ファック・キャンサー』(筑摩書房)、共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)、『夫婦別姓』(ちくま新書)、共訳書に『RPMで自閉症を理解する』がある。なお、私は医療従事者ではありません。病気の診断、治療については必ず医師にご相談下さい。

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