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米日の乳がん、婦人科がん患者の支えに  5月末に「コロナワクチンとがん患者」ウェブ勉強会も

片瀬ケイ在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー
Japanese SHAREのホームページ(Japanese SHARE提供)

米国でがんになったら?

 米国には推計で440万人の日本人が在住している(2019年)。日本の県別人口で10番目に多い静岡県の人口約362万人をはるかに上回る数字だ。仕事や留学などで一定期間だけ米国に在住する人もいるが、これだけの人がいれば当然、がんを発症する人もいる。2008年に私が米国で卵巣がんの診断を受けた時も、本当に青天の霹靂だった。

 その時、私の在米生活もすでに12年目に入っていたが、それまでは病院といっても年に一度、健康診断のためにかかりつけのプライマリケア診療所に顔を出す程度。43歳になる直前の健康診断で、お腹に何かあるからCTスキャンをとってきてと言われた時は、「これから、どうなるんだろう?」と、果てしない不安に襲われた。私の場合は、幸いにもプライマリケア医が手際よく適切な専門医に橋渡ししてくれたが、専門医をどう選べばよいのか、医療サービスは日本とどう違うのか、米国の医療保険の仕組みはどうなっており、費用はどのくらいかかるのかなど、わからないことだらけだ。

 そんな時、がん経験者同士で情報交換をしたり、支え合ったりできる場が患者会である。米国には数多くの患者支援団体があり、患者同士のお喋り会や、電話やメールによるサポートだけでなく、医療者とともに患者への正しい医療情報の提供、より良いがん治療に向けた研究開発の後押しや政府への要請など、幅広い活動を行っている。ただし基本的にすべて英語で、ヒスパニック系を対象にスペイン語プログラムを時々見かける程度。英語を母国語としない日本人患者は、言葉の問題で気後れしてしまうことも多い。

日本語で乳がん、婦人科がん患者支える

 そこでニューヨーク在住の日本人乳がん経験者は、乳がん、子宮がん、卵巣がん患者支援のために設立された米国NPOのSHAREキャンサー・サポートを母体に、「日本語プログラム」であるJapanese SHAREを2013年に発足した。米国で暮らす日本人、日系人の乳がん、子宮がん、卵巣がん患者へのピアサポートや、最新医療事情を米日の医療専門家の協力を得ながら日本語で無料で提供している。

 この1年、コロナ禍で患者達が顔を合わせて支え合う機会も失われてしまったが、Japanese SHAREは定期的なオンライン患者サポートミーティングの開催を通して、全米に散らばっている日本人の乳がん、婦人科がんの患者、そして日本にいる患者も含めて幅広くつながり、支え合う機会を設けてきた。

 また米日から多数の医薬アドバイザーやカウンセリングアドバイザーの協力で、オンライン勉強会を通して、正確な情報提供も行っている。今年に入ってからも、「女性ホルモンの役割と更年期障害」、「乳がんの再発予防に向けた運動と食事」(注1 共にYouTubeで視聴可)など、多くの女性の興味をひく内容でオンライン勉強会を開催した。

がん患者対象のコロナワクチン・オンライン勉強会

 そして米国の5月29日東部時間20:00から21:30日本時間5月30日9:00から10:30)には、「コロナワクチンとがん患者」ウェブ勉強会を開催する。(注2)新型コロナウイルス感染症について正確な情報を発信をするプロジェクト「こびナビ」(注3)の協力で、病理専門医、医学博士の峰 宗太郎氏、米国内科専門医、感染症専門医の安川 康介氏が講師をつとめる。参加費用は無料だが、登録が必要。詳細と申し込みはこちら。(後日、YouTubeでも公開の予定)

 がん治療中の人はもちろん、サバイバーも新型コロナワクチンの接種に不安を持つ人がいるかも知れないが、米国国立がん研究所(NCI)は、ほとんどのがん患者やサバイバーに新型コロナワクチンの接種を推奨している。例外は、移植に伴う免疫抑制療法を受けている人などで、免疫が著しく下がっているとワクチンの効果が十分でないため、接種時期を医師と相談する必要がある(注4)。

 一方、大多数のがん患者では、新型コロナに感染してしまうことで重症化や、がん治療が中断される恐れがあるため、米国臨床腫瘍学会(ASCO)や米国がん協会も、がん患者への優先接種を各州に要望していた。(注5)SNSで流布している根拠のない情報に惑わされないためにも、医療専門家から日本語による説明をじっくり聞く機会があるのは本当に心強い。

不安なまま一人で治療に向かわずにすむように

 Japanese SHAREでは、時間帯が異なる地域に住む患者に配慮して、今では米国西部、東部、昼、夜と、乳がんや子宮がん、卵巣がん、転移性がんなど個別にオンラインの患者会を開いている。日本からの参加者もおり、問い合わせが増える一方の活動を、3人のスタッフとボランティアで支えている。

 在米日本人女性のがん患者を多数支援しているものの、これまでのところ在米の日本企業からの資金援助もなく、活動資金はとぼしい。寄付や健康な人を含む幅広いボランティアのサポートなしでは、日本語でサポートを求めている方への対応が不可能になりつつあるという。 

 それでもJapanese SHARE代表のブロディー愛子さんは、「アメリカの医療システムを理解して適切な治療を受けていただくことと、周りに日本語を話す方がいない地域にお住まいの方が、一人で治療に向かわないでも済むようになることを願っています」と話す。そうした思いからJapanese SHAREでは、居住地にかかわらず、サポートを必要とする人からの連絡、相談を公式サイトのコンタクトページで受け付けている。

 なお、Japanese SHAREの活動や、サポートミーティングなどのスケジュールは公式サイトのほか、フェイスブックツイッターインスタグラムで。また、寄付ボランティアも募集している。

参考リンク

注1 SHARE日本語プログラム - YouTubeチャンネル

注2 Japanese SHARE「コロナワクチンとがん患者」ウェブ勉強会

注3 こびナビの公式サイト

注 4 新型コロナワクチンとがん患者さんについてQ&A (NCI) 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT)翻訳

注5 がん患者をCOVID-19ワクチン優先接種対象に含めるよう各州に要請(ASCO)日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT)翻訳

日本癌治療学会、日本癌学会、日本臨床腫瘍学会(3学会合同)の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とがん診療についてQ&A

在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー

 東京生まれ。日本での記者職を経て、1995年より米国在住。米国の政治社会、医療事情などを日本のメディアに寄稿している。2008年、43歳で卵巣がんの診断を受け、米国での手術、化学療法を経てがんサバイバーに。のちの遺伝子検査で、大腸がんや婦人科がん等の発症リスクが高くなるリンチ症候群であることが判明。翻訳書に『ファック・キャンサー』(筑摩書房)、共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)、『夫婦別姓』(ちくま新書)、共訳書に『RPMで自閉症を理解する』がある。なお、私は医療従事者ではありません。病気の診断、治療については必ず医師にご相談下さい。

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