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新型コロナワクチンで正常化に近づく米国  お互いを守り合うメッセージは届くか

片瀬ケイ在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー
ワクチン接種完了の人は、屋外でのマスクなしの食事も安全。(ダラス市、著者撮影)

マスクなしで散歩したい? 

 米疾病対策センター(CDC)は4月27日、新型コロナワクチン接種を完了して2週間を経過した人は、マスクを着用せずに野外で散歩やジョギングをしたり、レストランの屋外座席で少人数で食事をしたりしても、安全であるという新たなガイドラインを発表した。(注1)

 「なんだ、その程度か」と思う人もいるかもしれないが、市民の健康を守ることをミッションとするCDCは、政治から離れて実証データによる科学的な根拠をもとに、慎重にガイドラインを考案する。今回も野外は風によって空気中のウイルスが分散され、室内に比べて安全であることを示す研究結果や、米国を含め、実際に新型コロナワクチンの接種を推進してきた国々から有効性を実証する複数のデータが示されたことに基づいている。(注2)

 ただしワクチンで100%コロナ感染を予防できるわけではないので、ワクチン接種済みの人も、ショッピングセンターや美術館などの屋内施設では、引き続きマスクを着用することが強く推奨されている。また野外であっても、コンサートやイベントで人が密集し、ワクチン未接種の人が多数いる場合には、マスクの着用が必要だ。

 ワクチンの2回目接種が進むにつれ、CDCはこれまでも少しずつ、「接種を完了して2週間すぎたら、安全に再開できること」を発表してきた。(注3)例えば接種済みの人同士が、少人数で屋内でマスクなしで集まる、あるいは接種が済んだ人は、未接種の人を含むもう一家族とマスクなしで会うなど。後者は未接種の子供がいる家族でも、接種済みの高齢者を訪問し、マスクなしで語らい、ハグし合えることを意味している。

 また米国内を移動する際にも、ワクチン接種を完了していれば、移動前後にPCR検査を受けたり、自主隔離をしたりする必要はなくなる。一年ちょっと前までは当たり前だった日常生活が、ほんの少しずつだが、ワクチン接種とともに戻りはじめるのを感じる。

ワクチン接種はここからが正念場

 4月28日現在で、米国では18歳以上の約55%が少なくとも1回のワクチン接種を受け、約38%が2回のワクチン接種を完了した。65歳以上の高齢者では、68%が2回の接種を終えている。接種を受けた一部の若年女性でまれな血栓が起き、一時中断されていたジョンソンエンドジョンソンのワクチンも、リスクとベネフィットを慎重に評価した結果、パッケージに警告を記載することで利用再開となった。

 米国では、すでに16歳以上の全員がコロナワクチンの接種対象となっているが、ここへきて出足が鈍るようになった。休みがとりにくい、交通手段がない、副反応が心配、急いで受ける必要性を感じないなど、様々な理由で接種を先延ばしにしている人も少なくない。また宗教上の理由や、SNSなどで見た偽情報から「新しいワクチンは危険」、「政府や製薬会社の陰謀だ」と決めつけてしまう人もいて、「義務じゃない限り受けない」、「絶対に接種したくない」という人も合計で2割程度いる。(注4)

 この一年、米国を含む多くの国々が繰り返しロックダウンや行動制限措置をとってきた。市民生活に大きな打撃を与えるこうした措置も、医療崩壊を防ぎながらある程度の社会機能を維持することが目的で、長期的にコロナウイルスを遠ざけるものではない。英国由来の変異株の影響で第4波が心配された米国も、一定の行動制限と積極的なワクチン接種のおかげで、4月半ばまで1日あたり約8万人の新規感染者がでていたのが、下旬には6万人に、そして4月末には5万人程度と減少しはじめた。

 mRNAワクチンは、英国由来の変異株にも有効。CDCはこれまでのデータから、2回接種を終えた65歳以上の高齢者は、コロナのために入院する率が94%減るとの分析を発表した。(注5)

集団免疫の獲得に向けて

 感染を1日あたり1万人程度まで抑え込んでいくには、行動制限だけでは無理で、1日も早く、一人でも多くの人がワクチン接種を受け、集団免疫に近づくしかない。大多数の人が免疫を持てば感染が広がらないので、接種を受けた人だけでなく、子どもや健康上の理由やワクチンを打てない人も守ることができる。また感染を抑制しないと、新たな変異が生じる機会も増えてしまう。バイデン大統領はより多くの市民がワクチン接種をし、お互いを守り合う環境をつくり、みんなで7月4日の独立記念日を祝おうと呼びかけている。

 筆者の住むテキサス州ダラス郡の場合、すでにコロナに罹患して回復した人が多いことから、これまでのワクチン接種との合計で、住民の64%が新型コロナに対して免疫を持っていると推計されている。ダラス郡の医療専門家は、迅速なワクチン接種を続ければ、6月半ばにはダラス郡住民の80%が免疫を獲得し、集団免疫獲得に近い状態で独立記念日を迎えられると予測していた。

 しかしワクチン供給は潤沢にあるにもかかわらず、4月中旬から接種希望者が大きく落ち込んでしまった。積極的な人はすでに接種済みで、ワクチンへジタンシー(接種をためらう人)に接種対象の中心が移ったからだ。このため、集団免疫の獲得も7月末頃にずれ込む見通し。(注6)しかし接種希望者が増えていかなければ、集団免疫はさらに遠のいていく。

必要なワクチン情報のアップデイト

 日本でも米国と同じファイザー社のmRNAワクチンの接種が始まっている。医療従事者であっても新しいワクチンの効果に疑問を持つ人がいるかも知れないので、3月23日に米医学誌ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに報告された、テキサス大学サウスウエスタン・メディカルセンターの経験を紹介したい。

 同病院では、昨年12月15日のワクチン接種開始から31日間で、2万3000人の医療従事者の59%が1回目の接種を、30%が2回の接種を完了した。その間、未接種の従事者の2.6%がコロナに感染したが、2回接種した人での感染率は0.05%だった。ワクチン接種により、感染や濃厚接触のために隔離や待機が必要となる従事者が90%以上減ったこという。(注7)臨床試験の結果だけでなく、こうした実社会での効果を確認することで、ワクチンへの信頼感が増すのではないだろうか。

 テキサス州ヒューストン市には多数の病院があり、そこで働く日本人医師らが在住日本人向けに新型コロナワクチンについて、動画でわかりやすく説明してくれている(全体で1時間20分程度)。日本では5月後半にも、モデルナ社のmRNAワクチンの承認判断も下されると聞く。mRNAワクチンは英国由来の変異株にも有効。動画には、ファイザー、モデルナのワクチン接種を受けた在米日本人対象とする副反応アンケート結果も含まれている(私も回答しました)。すでに両方のワクチンを経験した米国在住の日本人の経験を聞くことは、ワクチンに関する疑問解消に役立つと思う。このゴールデンウィーク、ぜひ視聴してみて下さい。

参考リンク

注1 コロナワクチンを完了した人のガイドライン変更(CDC 英文リンク)

イラスト:未接種と接種済みの人、マスクはいつ必要?右側が接種済み、緑色は安全、黄色はマスクをしても注意、赤はマスクをしてもアブナイ(CDC 英文図版)

注2 ワクチンの有効性を示す様々な最近のデータ(CDC 英文リンク)

コロナワクチンは発症だけでなく感染も予防する、わかり始めた大きな効果(ナショナルジオグラフィック 日本語記事)

注3 コロナワクチン接種を完了した人へ(CDC 英文リンク)

注4 ワクチンへジタンシーの割合は昨年12月より下がったが、絶対受けないという人も。カイザー財団の調査(英文リンク)

注5 mRNAワクチンの2回接種完了の65歳以上人口は、コロナによる入院が推計で94%減る(CDC 英文リンク)

注6 ワクチン接種ペースが落ち、ダラス郡での集団免疫見通しが7月末にずれ込む(CBS DFWニュース 英文リンク)

注7 UTサウスウエスタン・メディカルセンターでのワクチン接種の効果(UTSWプレスリリース 英文リンク)

上記に関するニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンの記事

在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー

 東京生まれ。日本での記者職を経て、1995年より米国在住。米国の政治社会、医療事情などを日本のメディアに寄稿している。2008年、43歳で卵巣がんの診断を受け、米国での手術、化学療法を経てがんサバイバーに。のちの遺伝子検査で、大腸がんや婦人科がん等の発症リスクが高くなるリンチ症候群であることが判明。翻訳書に『ファック・キャンサー』(筑摩書房)、共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)、『夫婦別姓』(ちくま新書)、共訳書に『RPMで自閉症を理解する』がある。なお、私は医療従事者ではありません。病気の診断、治療については必ず医師にご相談下さい。

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