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米国インフル流行でオンライン診療の利用者急増

片瀬ケイ在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー
熱があるのに、病人でいっぱいの病院に行くのは矛盾しているかも。(写真:アフロ)

混雑で医者の予約がとれない

 インフルエンザが大流行中の米国では、各地で学校閉鎖が相次ぎ、押し寄せる患者対応で病院が駐車場にトリアージ用のテントを設営するといったニュースが続いている。アラバマ州では、インフルエンザで公衆衛生緊急事態宣言を出したほどだ。米国疾病対策センター(CDC)によれば、今年、米国で猛威をふるっている「H3N2」型は予防接種も30%程度しか有効性がなく、蔓延しやすいという。かかると重症化する傾向にあり、高齢者や子供にとっては脅威である。米国ではすでに30人の子供がインフルエンザに命を奪われた。

 米国で医者にかかる場合、通常は、かかりつけの家庭医に診てもらう。ただし予約制なので、今のように多くの患者が医療機関になだれ込む時期は、同日の予約がとれず、最短でも3日後と言われることもある。もちろん、土日や夜間は休診である。

 すぐに診てもらいたい時には、予約なしで受診できる応急医療クリニックや、病院の救急医療室に行くことになるが、咳き込む患者達で満杯の待合室で、長時間待たされるのを覚悟する必要がある。感染リスクが極めて高そうな環境と言わざるを得ない。しかも、かかりつけ医の何倍もの費用がかかるのだ。

スマホですぐに診療を

 こうした状況の中で注目度が高まっているのが、どこからでもスマートフォンやコンピューターを利用してインターネット経由で行う「Telemedicine(オンライン診療)」である。これまでは、医療機関が近くにない地域に住む人のための仕組みといったイメージで、電話やビデオチャットによる受診の信頼性などに疑問を持つ人も多かった。

 もちろん、こうしたオンライン診療は、緊急を要する症状や病気、骨折などの怪我には適さない。しかし風邪やインフルエンザなどで熱がある時に、ベッドから出ることなく、土日でも24時間、いつでもすぐに医師にかかれるなら、これほど楽なことはない。筆者が加入しているテキサス州大手の医療保険会社も、昨年末にMDLIVEというオンライン診療サービスと契約。保険会社のウェブサイトを見たらすでに使えるようになっており、急にオンライン診療が身近になったように感じた。

 MDLIVEによれば、医師を特定せずに、すぐに診てもらいたい場合の平均待ち時間は15分以内だという。必要があれば、薬も処方してくれる。またアプリもあるので、スマートフォンがあれば、勤務先からでも旅行先からでも簡単に利用できる。

保険適用、費用の安さも後押し

 すでに33州と首都ワシントンの州法により、民間医療保険会社に対しオンライン診療を保険適用とするよう定めている。他の多くの医療保険会社がAmerican WellDoctor on Demandといった類似のオンライン診療サービスと契約しており、このようなTelemedicine関連の会社は全米に多数ある。

 また、こうしたオンライン診療サービスは、医療保険に加入していなくても利用でき、例えば非加入者でも、MDLIVEの利用料は59ドル(約6500円)、Doctor on Demandでは医師の診察15分間で75ドル(約8200円)という設定。日本の医療費に比べれば高いと思うかもしれないが、米国では加入している医療保険プランによって個人負担額は違う。

 筆者の医療保険プランでは、かかりつけ医に診てもらっても自己負担額は90ドル(約9800円)。たとえ風邪やインフルエンザでも、応急医療クリニックに行けば200ドル(約2万1000円)程度、病院の救急医療室を利用しようものなら400ドル(約4万3000円)くらいの出費は覚悟しなければならない。コスト面や利便性を考えると、オンライン診療の利用が急増しているのも納得がいく。

もっと使えるオンライン診療

 さらにオンライン診療では、風邪などのちょっとした症状のほかに、糖尿病や高血圧といった慢性疾患の管理、禁煙や減量などにも対応している。また精神科のカウンセリングや婦人科、泌尿器科など、病院の門をくぐるのにちょっと勇気がいるという人は、自宅などプライベートな場からスマホで気軽に医師に相談できるといった利点もある。

 米国の場合、かかりつけの家庭医、専門医、救急対応の医師、検査施設は役割が明確に分かれており、各機関や医師間のコミュニケーションがスムーズにいかないと、患者は誰の言うことを聞いたらよいのか、とまどってしまうことも多い。そこにオンライン診療が加わることで、さらに複雑になりそうな気もするが、患者が使いやすく、価格も手ごろな医療サービスの選択肢が増えることは歓迎したい。

在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー

 東京生まれ。日本での記者職を経て、1995年より米国在住。米国の政治社会、医療事情などを日本のメディアに寄稿している。2008年、43歳で卵巣がんの診断を受け、米国での手術、化学療法を経てがんサバイバーに。のちの遺伝子検査で、大腸がんや婦人科がん等の発症リスクが高くなるリンチ症候群であることが判明。翻訳書に『ファック・キャンサー』(筑摩書房)、共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)、『夫婦別姓』(ちくま新書)、共訳書に『RPMで自閉症を理解する』がある。なお、私は医療従事者ではありません。病気の診断、治療については必ず医師にご相談下さい。

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