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危機感が「分かりやすく伝わる」防災気象情報とは? 警戒レベル導入から半年

片平敦気象解説者/気象予報士/防災士/ウェザーマップ所属
令和元年台風第19号(2019年10月11日/ウェザーマップ資料より筆者作成)

■ 警戒レベル 導入から半年

 防災情報の「警戒レベル」が導入されて、先月末(2019年11月)で半年になった。これまでからあった様々な防災情報について、「住民がとるべき行動」という視点で5段階の数字をラベリング(併記)するようにしたものである。

 災害が予想される場合には様々な防災情報が発表されるが、情報の上下関係や意味が必ずしも十分に住民に伝わっておらず、「分かりにくい」という声が上がっていたことを受けて実施された対応ともいえる。まだ全ての情報についてではないが、自治体が発表する避難情報や、気象台が発表する防災気象情報の一部(大雨災害が中心)について、情報とともに対応する警戒レベルが併記されるようになった。

 

筆者が2019年5月31日に紹介した「警戒レベル」についての記事のスクリーンショット。
筆者が2019年5月31日に紹介した「警戒レベル」についての記事のスクリーンショット。

 警戒レベルの内容については、5月に詳しく紹介したので以下の記事を参照してほしい。(防災情報の「警戒レベル」開始 今までと何が変わって、何が変わらないのか?(2019年5月31日発信記事))

 

 なお、気象台が発表する防災気象情報については、原則的に市町村ごとに発表される各情報では、避難行動が実際に必要とされる地区の範囲に比べると発表される範囲が広い。本当に危険になっている地区は対象とする現象により市町村内でもさらに絞り込まれるものであり、地区を絞り込んで出される警戒レベルそのものと、防災気象情報の役割は異なるのだ。防災気象情報は市町村ごとの現在の危険度状況を随時示す「警戒レベル相当情報」とされているものが多く、危険度に応じて住民にとるべき避難行動を促すために地区を絞って出される警戒レベルそのものとは情報の性質が違うのである。

 

 少々分かりにくいので具体例を挙げて補足する。例えば、〇〇市に土砂災害警戒情報が発表されても、○○市内全域にくまなく土砂災害の危険が差し迫っているわけではない。通常、市内全ての地区が崖・斜面の下にあるわけではないからだ。基本的には、土砂災害警戒区域に代表されるような崖・斜面の近くにおいて、土砂災害の危険性が高まっている。○○市に降ったこれまでの雨の量や土にしみこんでいる水分量を検討した結果、〇〇市では土砂災害の危険性が高まっている状況になっている所がありそうだ、という意味合いのものが土砂災害警戒情報で、市内のより具体的な地区名までは絞り込まれていない。すなわち、土砂災害警戒情報が出たから「市内全域で、全員避難」ではなく、「土砂災害のリスクが想定される地区では、全員避難」という使い方が適切となる。

 

 この半年の間にも、台風第15号、台風第19号など甚大な被害をもたらす台風が日本に来襲した。気象庁や我々気象解説者などはその都度、適宜警戒を呼びかけ、危機感を精いっぱい伝えてきたつもりだが、それでもなお今年も多数の犠牲者を出してしまう大きな災害になってしまっている。気象庁などでも検証・検討は行われているが、気象解説者の視点・立場で改めて、どんな情報や伝え方であれば、我々が抱くいわば「危機感のバトン」を確実に伝えていけるのか、本記事では「警戒レベルなどの情報体系」について可能な限り絞って論じることで考えていきたい。

 

■ 警戒レベルの認知度は?

 警戒レベルは今年(2019年)5月末に導入されて以降、その直後や災害が予想される場面など、様々なタイミングで頻繁に報じられた。テレビ・ラジオ・新聞のほか、私も書かせていただいたがウェブ記事においても紹介・解説されることが多く、一定程度の認知度になっているのではないかと感じている。

 

筆者のTwitterのページ。11月末~12月初旬にアンケートを実施した。フォロワー数は約2万9千。
筆者のTwitterのページ。11月末~12月初旬にアンケートを実施した。フォロワー数は約2万9千。

 筆者は、自らが日頃から情報発信をするTwitter上で、今年11月末~12月初旬にアンケート調査を行ってみた(フォロワー数は約2万9千人)。この場を借りて、ご回答くださった大勢の方々に深く感謝申し上げる。アンケートの結果は、以下の通りだ。

(※ なお、回答された方々はおそらく大半が私のフォロワーであり、そもそも、気象解説者である私をフォローしているという気象に関して「意識が高い」属性の方々である可能性がある点は考慮しておくべきだと思う。また、研究機関の正式な学術調査ではないため高度な分析は難しいと思っているが、それでも回答してくださった方の数は500~600名以上になっており、とても価値ある貴重なものだと思っている。)

 

 警戒レベルについての認知度は、「全く知らない」が7%であり、程度の差こそあるものの知っている人は93%と、とても高い水準に達していることが分かった。

 「知っている」人の回答を詳しく見ると、「警戒レベルがあることは知っている」(しかし、避難行動との具体的な対応などは知らない)が54%と最も多く、避難行動まで知っているのは26%、避難行動に加えて各情報との対応まで詳しく知っているのは13%だった。

 

筆者がTwitterで実施したアンケート結果(質問1)。
筆者がTwitterで実施したアンケート結果(質問1)。

 レベルに応じた避難行動(レベル4→全員避難、など)を知っている方々は4割近くに達しており、筆者が想像していたよりもかなり浸透しているという印象を持っている。やはり、数字と避難行動をシンプルに結び付けた仕組みは、住民の方々に比較的容易に理解していただきやすい、のではないかと思う。講演会などで私も警戒レベルの話をよくするが、「レベル4は全員避難、レベル3は時間のかかる人が避難開始」などと明確に伝えると、来場者の方々が非常にはっきりと理解してくださるのを肌で感じている。

 

 一方で、警戒レベルの存在は知っているが、どう行動するかすぐには分からない方々が全体の半数以上もいるわけでもある。ここは、より一層の周知活動を根強く続けていくべき部分だ。せっかくレベルがあることを知っているのに、それぞれのレベルの持つ意味を知らないのでは、結局は防災行動に結びつきにくいのではないかと心配される。これまで、様々な情報が乱立していて多過ぎるし、漢字で長ったらしくて覚えられないし…という声を多く聞いてきた。「数字」というこれ以上ないほどのシンプルなものに集約するようになったのだから、さらにもう一歩進んで、レベルごとの対応を覚えていただき、命を守るために活用できるようにしてほしい。

 

■ 認知度の低い 警戒レベル「相当情報」

 防災気象情報には、警戒レベルそのものと異なり、警戒レベル「相当情報」とされているものがある。これについて聞いてみた結果は、以下の通りだ。相当情報について「全く知らない」と回答した人は半数以上と最も多かった。「名称を聞いたことがある」人は36%、「内容を正しく知っている」人は12%だった。

 

 極論すれば、「相当情報」という呼び名は知らなくても良いと筆者は思っている。しかし、「相当情報」とわざわざされている理由にもつながる、正しい使い方はぜひ知っておいてほしい。

  

筆者がTwitterで実施したアンケート結果(質問2)。
筆者がTwitterで実施したアンケート結果(質問2)。

 使い方としては、レベル〇相当の情報が出たら、自ら、その対象災害が起こりやすい場所に自分が今いるのかどうかを確かめる。そして、その危険な場所にいるのであれば、レベルに応じた防災行動(4であれば直ちに全員避難)をとる。

 土砂災害警戒情報(レベル4相当)が自分のいる市町村に出されたから、即、全員避難、と一足飛びで(誤って)考えるのではなく、自らの今いる地区の災害リスクを考慮した上で、自ら考えて、必要あらば避難行動・安全確保行動をとってほしいということである。

 

 「レベル4=全員避難」だけが独り歩きすると、土砂災害警戒情報が発表されるたびに、その市町村内にいる全ての人々が逃げなくてはいけない、と誤解されてしまうことになりかねない。繰り返すが、この例では、本当に避難が必要なのは崖や斜面の近くなどに限られる。防災気象情報は、住民一人ひとりがとる防災行動の「キッカケ情報」と理解してほしい。

 

 孫子の兵法に「彼を知り 己を知れば 百戦 殆(あや)うからず」という言葉がある。彼(=予想される気象状況など)のことを知るだけでは不十分で、己(=自らの地区の災害リスク、家族構成、コミュニティの強さなど)を知って初めて、百戦殆うからず(=災害から命を守る確率が上がる)となるのだ。これは、私淑する気象庁の元予報官の方がかねてからおっしゃっていることなのだが、私も講演会などでは必ずお話しさせていただくたとえだ。情報を正しく使うためにも、自らのことをしっかりと把握しておくことは極めて重要なのである。

 

■ 警戒レベルを軸に 情報「名称」の整理・シンプル化を

 認知度についてのアンケート結果に鑑みると、住民のとるべき行動(避難の段階など)を5段階の数字と結び付けてシンプル化した「警戒レベル」は、住民に理解されやすい有力なツールになると強く感じられる。もちろん、各レベルの意味を知らなければ不十分だが、それを周知する際にも、非常に簡潔にまとめて示すことができると思う。

 

 以前の記事にも書いたが、最終的には、災害(現象)ごとにレベルを列記する形式が、防災情報の基本的な形になっていくのかもしれない、とも思っている。道路に設置されている信号機は、青・黄・赤の3段階で、シンプルだが意味するところは明確だ。「赤:止まれ」などと但し書きがなくても、色だけでみんな判断できる。警戒レベルの各レベルの意味が正しく知られるようになれば、信号機よりはステップが多いものの、「え~と、この情報の意味は何だっけ?」と考えることなく迅速に、避難行動に直接的に結びつきやすくなるのでは、と感じている。

 

 一方、発表される各種の防災気象情報を数字だけで示すことには抵抗がある、という人も少なくないかもしれない。しかし筆者は、この部分に防災気象情報の「分かりにくさ」が凝縮しているように感じている。

 

気象庁が発表する防災気象情報と警戒レベル等の対応表。(気象庁ホームページより引用)
気象庁が発表する防災気象情報と警戒レベル等の対応表。(気象庁ホームページより引用)

 前述したが「漢字が多くて、長ったらしくて、意味が分からない」という声は以前からよく耳にしていた。おそらく、主な防災気象情報が「注意報」「警報」の2つだけだった時代は、こんな声は大きくなかったのではないか。信号機と同じく、青(注意報も警報も出ていない)、黄(注意報)、赤(警報)の3ステップで、「今どの程度の危険度のレベルなのか」が把握しやすかったのだと思う。

 

 「より詳しい情報を提供してほしい」というニーズに応え、予測技術の開発・向上を経て、いわば「建て増し」を繰り返していったのが現在運用されている防災気象情報の体系だと思う。それぞれの情報の意味を正しく知っていれば問題がないが、情報の上下関係(どちらのほうが危機感が高いか)が名称を見るだけでは素人には容易には分からない、というのが今の状況だと思う。

 

 数字で示す「警戒レベル」のみにすれば、これ以上ないほどのシンプル化が果たせると思うが、その一方で、「情報名がない」というのも伝達のうえでは抵抗を感じる人がいるかもしれない。数字だけでは味気なさ過ぎて危機感が伝わりにくい、ということも考えられるだろう。そこで、今のように情報に名称がある前提で改善策を考えるならば、筆者は警戒レベルに連動させた「情報名称の整理・シンプル化」を強く提案したい。以下に例示するが、使われている言葉についてはあくまで私案であることをご承知おきいただきたい。

 

 今ある防災気象情報は、「〇〇警報」「○○警戒情報」など、名称を見ただけではどの程度の危機感の高さなのか分かりにくい。これを、避難行動の段階に応じて(警戒レベルに応じて)しっかりと整理し、名称としては、

 

【「災害の現象名 + 危険度を示す言葉 + 情報」を名称の基本とする】

 警戒レベル4相当 :〇〇〇〇危険情報 (紫色)

 警戒レベル3相当 :〇〇〇〇警戒情報 (赤色)

 警戒レベル2相当 :〇〇〇〇注意情報 (黄色)

 警戒レベル1相当 :〇〇〇〇準備情報 (白色)

  (※警戒レベル5相当については、後述。)

 と、準備<注意<警戒<危険と整理して、危険度の段階に応じた順位付けをし、「〇〇〇〇」の部分には「土砂災害」「氾濫」「高潮」などの災害の現象名を入れる組み合わせにシンプル化できないかと考えている。現象名とその後に続く「危険」などの言葉を見れば、何の現象がどのくらい危険な状況なのか明確に分かるという設計だ。合わせて、統一されたテーマカラーを設定し、信号機のようにイメージしやすくもできないだろうか。

 

 大雨警報は現在のところ、「大雨警報(土砂災害)」「大雨警報(浸水害)」と、同じ警報の中でカッコ内に示して、どちら(あるいは両方)を対象にしているのか明示している。これも、上記の構成内でしっかり分けて、大雨という漠然とした言葉でまとめずに明快に示すことが可能な時期に来ているのではないか、と思っている。

 

(※上記の名称案だと、大雨警報(土砂災害)は「土砂災害警戒情報」になり、従来の土砂災害警戒情報は「土砂災害危険情報」という名称になり、ややこしい点は懸念される。ただし、今は大雨警報と土砂災害警戒情報と、どちらも「警報」や「警戒」という同じ意味合いの言葉が使われているがその一方で警戒レベルは異なっており、これも「どちらが上位か分かりにくい」原因になってはいまいか。)

 

 なお、レベル5(相当)については、氾濫が発生したという実況把握の情報や、大雨特別警報のように「災害発生の蓋然性が高い」情報が入り混じっており、この情報を待ってはいけない(いわばある種の「手遅れ」情報)という意味では、このレベル構造からは超越した別枠として設定すべき「緊急情報」なのではないか、という思いも持っている(そもそも、特別警報の英文訳は、気象庁ホームぺージには「Emergency Warning」と記載されており、「Special Warning」ではないのだ)。

 災害発生を覚知した場合や50年に一度の危険度に到達した場合などに応じて、「氾濫緊急情報(発生)」や「土砂災害緊急情報(50年に一度の危険度到達)」など、カッコ内表記やサブタイトル併記のような方法を別枠で設けて、「これを待ってはいけない」ことを明確にした「黒色」扱いの情報を発信するほうが、「レベル4より上がある」「4は最上位ではないからまだ大丈夫」という誤った認識・誤った使い方をなくせるのではないか、と強く思う。

 

 これまで長年使ってきた「注意報」「警報」をはじめとする名称がなくなるとすれば、大きな抵抗や反発もあるかもしれない。しかし、建て増しを続けて使いにくくなり、さらには老朽化した「家」は、使いやすくするために手間をかけてでも「建て替え」をする必要もあるだろう。昨年、今年と大きな気象災害が頻発している今だからこそ、10年先、20年先の防災・減災を見据えた大きな改革を行う必要があると筆者は思っている。上記は、あくまで個人的な私案であるが、読者の皆様はどのように思われるだろうか。

 

<引用文献・参考資料>

 防災情報の「警戒レベル」開始 今までと何が変わって、何が変わらないのか? (2019年5月31日・筆者発信記事)

 筆者のTwitter(文中のアンケートは2019年11月29日~12月6日実施)

 防災気象情報と警戒レベルの対応について (気象庁ホームページ)

(2019年12月12日21時40分 追記:

 本文3段落目の警戒レベルと警戒レベル相当情報の意味について、より正確な表現に改めて修正しました。)

気象解説者/気象予報士/防災士/ウェザーマップ所属

幼少時からの夢は「天気予報のおじさん」。19歳で気象予報士を取得し、2001年に大学生お天気キャスターデビュー。卒業後は日本気象協会に入社し営業・予測・解説など幅広く従事した。2008年ウェザーマップ移籍。平時は楽しく災害時は命を守る解説を心がけ、関西を拠点に地元密着の「天気の町医者」を目指す。いざという時に心に響く解説を模索し被災地にも足を運ぶ。関西テレビ「newsランナー」など出演。(一社)ADI災害研究所理事。趣味は飛行機、日本酒、アメダス巡り、囲碁、マラソンなど。航空通信士、航空無線通信士の資格も持つ。大阪府赤十字血液センター「献血推進大使」(2022年6月~)。1981年埼玉県出身。

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