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【NHL】カルガリーフレイムスはどこへ行く?

加藤じろうフリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家
ホームアリーナのスコシアバンクサドルドームにやって来たカルガリーフレイムスファン(写真:ロイター/アフロ)

今月6日から3日間にわたって、当サイトで紹介したシアトル(アメリカ・ワシントン州)のキーアリーナ改修への動きは、エド・マレー市長の決断によって、今後の方針が決定しました

その一方で、シアトルから北東へおよそ700キロ離れたカルガリー(カナダ・アルバータ州)でも、アリーナ問題が論じられています。

▼1988年のオリンピック会場

カナダで初めての冬季大会となった1988年のカルガリーオリンピック

日本では、男子スピードスケート500メートルで、黒岩彰選手が銅メダルを獲得するなどの話題が報じられましたが、ホスト国のカナダで最も注目されたのは、”国技” と呼ぶべき「アイスホッケー」(当時は男子のみ)でした。

そのアイスホッケーのメイン会場となったのが、スコシアバンク サドルドーム(現在の名称)!

乗馬の鞍(サドル)に似た屋根を持つサドルドーム(Photo: Jiro Kato)
乗馬の鞍(サドル)に似た屋根を持つサドルドーム(Photo: Jiro Kato)

NHLのカルガリーフレイムスをはじめ、毎年クリスマス前に世界最大のテディベアトスが行われる、WHL(ウエスタンホッケーリーグ=トップジュニアチーム)のカルガリー ヒットメン

さらに、NLL(ナショナルラクロスリーグ)のカルガリー ラフネックスなどのホームアリーナとなっています。

▼NHLのホームアリーナで最も古い

しかし、オリンピック開催に先立って1983年秋にオープンして以来、間もなく35年。

同じアルバータ州のエドモントンには、昨年最新の設備を兼ね備えたロジャーズプレイスが完成するなど、NHLのホームアリーナは次々と新しくなっています。

アメリカに目を転じると、デトロイト レッドウィングスも、今秋にオープン予定のリトルシーザーズアリーナが、新たなホームゲームの会場となる予定で、カルガリーより古いNHLのホームアリーナは、ニューヨークレンジャーズのマジソンスクエアガーデンだけ。

とはいえ、マジソンスクエアガーデンは、2010年代前半に大規模なリノベーションを実施し生まれ変わっていることから、「NHLチームのホームアリーナで(実質的に)最も古い」のはサドルドームなのです。

▼儲けが少ないサドルドーム

さらに加えて、サドルドームには他のアリーナと違う点があります。

収容人数は約19000人で見劣りしないものの、リンクに近く臨場感が味わえる1階席のシートが全体の3割強ほどと、他のアリーナに比べて少ないこと。

そのためチケット価格の設定にも影響を及ぼし、特に収入の柱の一つとなるシーズンシートの収益性が、他のチームのホームアリーナより低く、ありていに言えば「儲けが少ない」ことから、新しいアリーナの建設へ既に動き出しています。

▼一大プロジェクトが進行中

カルガリーネクスト」と名付けられ、カルガリー市が掲げた計画は、サドルドームから中心街を挟んで、およそ3.5キロほど西へ向かったボウ川に面した一帯に、NHLの試合を行うアリーナと、スポーツスタジアム。さらに商業施設や高層のオフィスビルを新設するという一大プロジェクト。

著名なアーティストのライブツアーが、同じアルバータ州のエドモントンでは行われているのに、州都のカルガリーでは催されないことが多いのは、ふさわしいアリーナがないからだと地元新聞が論じるなど、このプロジェクトが街の活性化と経済効果をもたらせると、大筋で賛同を得ている様子です。

▼カルガリーフレイムスも賛同!と思いきや・・・

このような経緯をご覧いただけば、カルガリーフレイムスも諸手を挙げて賛同! と思いきや、難色を示しているのが、チームのホッケー事業を司る ブライアン・バーク (61歳)

トロント メイプルリーフスのGMを務めていた頃をはじめ、歯に衣着せぬ、、、もとい、言いたい放題な強気の発言で話題を提供してきましたが、カルガリーの新アリーナ建設についても、公的資金を多く投じて開発を進めるべきだとの考えや、チームの運営会社(CSEC=カルガリースポーツ&エンターテイメント社)に対して優遇税制措置をとるのが必須だといった自論を披露。

さらに続いて、叶えられないのであれば、「たくさんのファンに愛されているチームは、この街から出ていくことになるだろう」とコメント。

NHLチームを招くために新設しながら、ジュニアチームの試合しか行われていない カナダ東部のケベックシティ(ケベック州)にあるビデオトロンセンターへの移転の可能性を口にするなど、(またまた)言いたい放題!

▼カルガリーフレイムスはどこへ行く?

これにはさすがに、CSECのケン・キング社長兼CEOから、同社の公的な発言でないとの声明が発表されましたが、カナダのメディアの一部には、かつて「ケベック ノルディックス」という名のNHLチームがあり(1995年にデンバーへ移転・現コロラドアバランチ)、今も尚、熱心なホッケーファンが多いだけに、ケベックシティへの移転の可能性を全否定することはできないとの見方もあるようです。

ちなみに、カルガリー市議会の議員らが行った世論調査によれば、新アリーナ建設の必要性を感じる市民は、およそ「50%」。対して、現在のサドルドームで十分だという意見は「20%」ほどだったとのこと。

しかし、世論調査の結果とは裏腹に、サドルドームでのホームゲーム(レギュラーシーズン)のチケット販売率は、一昨季から3季続けて100%に届かず・・・。

2季ぶりにプレーオフへ進んだ今季は、終盤の順位争いが白熱したにもかかわらず、チケット販売率は「97.1%」。全30チームの中でのランキングも、一昨季、昨季の「14位」から「20位」へダウンしてしまいました。

この現実を見て、

「地元ファンを呼び戻すために、新しいアリーナは必要不可欠だ!」

となるのか? はたまた、

「NHLチームを熱望し続けるケベックシティへ移転を!」

との声が大きくなっていくのか?

最近は海の向こうから「思いもよらない選挙結果」のニュースが届いていますが、NHLからも「思いもよらないチーム移転」のニュースが届くのでしょうか???

フリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家

アイスホッケーをメインに、野球、バスケットボールなど、国内外のスポーツ20競技以上の実況を、20年以上にわたって務めるフリーランスアナウンサー。なかでもアイスホッケーやパラアイスホッケー(アイススレッジホッケー)では、公式大会のオフィシャルアナウンサーも担当。また、NHL全チームのホームゲームに足を運んで、取材をした経歴を誇る。ライターとしても、1998年から日本リーグ、アジアリーグの公式プログラムに寄稿するなど、アイスホッケーの魅力を伝え続ける。人呼んで、氷上の格闘技の「語りべ」 

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