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「氷上のヨーロッパチャンピオンズリーグ」には、全てのチームに必ず注目してしまう選手がいる!

加藤じろうフリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家
ヨーロッパ13ヶ国から48チームが参戦する「チャンピオンズホッケーリーグ」(写真:ロイター/アフロ)

ヨーロッパのクラブチームナンバーワンを争う「UEFAチャンピオンズリーグ」が、多くのサッカーファンを沸かせていますが、同じくヨーロッパでは、アイスホッケーの欧州最強チームを決めるチャンピオンズホッケーリーグが、クライマックスを迎えようとしています!

▼2014年に始まったチャンピオンズホッケーリーグ

サッカーと同様に、ヨーロッパのアイスホッケー界では、かねてから国内リーグと併せて、国境を越えて戦う大会が行われてきました。

20世紀後半からの歩みを振り返ると、チェスカモスクワ(旧ソビエト)が最多優勝回数を誇った「ヨーロピアントロフィー」に続いて、1990年代には「ヨーロッパホッケーリーグ」がスタート。

21世紀に入ってからは、再び「ヨーロピアントロフィー」の名前で大会を開いたあと、開催を見送ったシーズンなどを経て、2014年8月から「チャンピオンズホッケーリーグ(以下CHL)」誕生したのです。

▼氷上のヨーロッパチャンピオンズリーグ

CHLは、文字どおり「氷上のヨーロッパチャンピオンズリーグ」

設立にあたり、国際アイスホッケー連盟と参加を表明したチーム、さらに各チームが在籍している国のアイスホッケー連盟が、それぞれ出資をして、リーグの運営組織を新設。

いち早く参加を表明したチームに永久出場権を与えたのに続き、各国リーグの優勝チームや、レギュラーシーズンの1位と2位チームなどにも参加資格を与えたところ、12か国44チームが顔を揃える「氷上のヨーロッパ チャンピオンズリーグ」が、新たに始まることになりました。

▼決勝のチケットはソールドアウト!

翌年からは参加チームが「48」に増えたCHLは、3年目のシーズンが佳境を迎え、「フロルンダ ヨーテボリ(スウェーデン) vs スパルタ プラハ(チェコ)」の顔合わせによる決勝が、今夜(現地時間)ヨーテボリで行われます。

ヨーテボリは、3季続けて決勝に勝ち上がってきたチーム。

昨季に続く2連覇への地元ファンの期待は、高まる一方!

対して、チェコのアイスホッケー界で名門中の名門 スパルタプラハのファンも、掛け値なしに激熱!

ビジターゲームでも、スタンドを埋め尽くすほどのファンがいる人気チームとあって、決勝のチケットは既に完売となりました。

▼KHLの台頭によって苦しむCHL

しかしながら、CHL全体を見渡すと、常にスタンドがいっぱいになる人気チームは数えるばかり。逆に観衆が数百人程度の試合も、珍しくはありません。

そのため、スポンサーの獲得に苦心するチームが少なくなくないようで、CHLは来季から参加チーム数を16チーム減らして「32」に減らすことを、既に発表しています。

CHLの多くのチームが苦心を強いられる要因の一つに挙げられるのは、KHL(コンチネンタル ホッケーリーグ)の台頭です。

2008年9月から、ロシア連盟が国内のトップリーグ(スーパーリーグ)を発展解消する形で「KHL」を発足。初年度こそ、ロシア以外のチームは、カザフスタン、ラトビア、ベラルーシから1チームずつでしたが、その後、エクスパンションを繰り返し、今季からは新設した中国のチームも加盟。8か国から29チームが参加するヨーロッパ随一のビッグリーグとなりました。

さらに今後もイギリスでのチーム設立へ動いているなど、拡大路線へ舵を切った針路を進み続けていく模様。

ヨーロッパのクラブチームに比べ、総じて財政面では強みがあるKHLのチームは、好待遇を提示して選手をFA移籍させ戦力を拡充。その余波によって、「スター選手が流出し、観客動員やスポンサー獲得に苦心を強いられる」という負のスパイラルに陥り始めている CHLのチームも見られるようです。

▼選手の背中に何か書いてある!

だからと言って、CHLは手をこまねいていたわけでは、ありません。

スター選手が流出してしまったのなら、新たなスター選手を!との狙いから、このような企画を取り入れています。

まず下の動画で、ゴールを決めた選手を注目してご覧ください。

「背中に何か書いてある」のに気づかれましたか?

どんな言葉が書かれていたのかというと、、、「TOP SCORER」です!

▼必ず注目してしまう選手!

このジャージを着てプレーする選手は、文字どおり「チーム屈指のポイントゲッター」で、全チームから一人ずつ選ばれ、背中に「トップスコアラー」と書かれたジャージを着てプレーします。

動画でご覧いただいたとおり、一人だけ違うジャージとヘルメットを着けているため、スタンドから観戦していると、ついつい「トップスコアラー」に目がいってしまいます。

現地へ視察に赴いたことがある日本製紙クレインズ(アジアリーグ)の竹内元章監督も、「(トップスコアラージャージを着た選手が出ていると)今、プレーしているのが主力メンバーだなと分かる」と話していました。

国際リーグであるが故に、熱心なファンを除けば、「他の国から来た対戦チームの主力選手まで分からない」というファンは少なくないはず。

しかし、たった一枚のジャージと、たった一つのヘルメットで、観客が必ず注目してしまう選手が誕生するのです。

ちなみに、選手が着用したジャージとヘルメットは、オークションにかけられ、売上はスポンサー企業を通じて、チャリティなどに活用されています。

▼アイスホッケーには打ってつけ!

ヨーロッパのスポーツ界では、他のスポーツでも、同じように(名称は異なっても)「トップスコアラー」ジャージ(or ユニフォーム)などを採用しているリーグも。

しかし、アイスホッケーは目まぐるしく攻守が入れ替わり、消耗が激しいことから、40秒から長くても1分前後で、たとえインプレー中であっても、選手たちは次々と交代していきます。

インプレー中も選手交代が頻繁に行われる(Rights of Jiro Kato)
インプレー中も選手交代が頻繁に行われる(Rights of Jiro Kato)

リンク中央でプレーに参加している選手がいる一方、観客席の前にあるベンチに戻る選手と、それに入れ替わって出場する選手が見られ、(しかも試合展開に影響が及ばないポジションの選手から交代していくため、見逃してしまいがちです)何度も足を運んでいる方でないと、「試合を追いかけるのに精一杯で、どの選手に注目すればいいのか分からない・・・」と言いたくなってしまいますよね。

それだけに、まさしく、アイスホッケーには打ってつけのアイディア! だと言えそうです。

フリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家

アイスホッケーをメインに、野球、バスケットボールなど、国内外のスポーツ20競技以上の実況を、20年以上にわたって務めるフリーランスアナウンサー。なかでもアイスホッケーやパラアイスホッケー(アイススレッジホッケー)では、公式大会のオフィシャルアナウンサーも担当。また、NHL全チームのホームゲームに足を運んで、取材をした経歴を誇る。ライターとしても、1998年から日本リーグ、アジアリーグの公式プログラムに寄稿するなど、アイスホッケーの魅力を伝え続ける。人呼んで、氷上の格闘技の「語りべ」 

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