日銀、量的緩和の未来は「テーパリング」か「ヘリマネ」か?

日銀の決断が迫っている?

==見直す余地があるのは「80兆円」ぐらいか?・・・==

日本銀行が、9月20日から21日にかけて行われる「金融政策決定会合」の中で、これまで続けて来た金融緩和策に対して「総括的な検証」を行うと宣言して注目されている。総括的な検証が何を意味するのかは不明だが、ことは日本の将来に関わることであり、何の準備もしないで「株が上がるのか、下がるのか」「円高になるのか、円安になるのか」といった程度の関心ごとでは済まない。

政策変更もあり得るニュアンスだから、ひょっとしたら日本経済の将来に大きな影響を与える決定が発表される可能性もある。そこで、想定できる日銀の「総括的検証」をチェックし、どんな可能性があるのか考えてみたい。

●インフレ率2%の見直し……日銀は当初から2年で、年率2%のインフレ率を達成させると宣言してきた。この2%を1%程度に引き下げるのではないか、という説もあるが、2%のインフレ達成は一連の『リフレ政策』の目玉的な存在だ。現在、同様のリフレ政策を実施しているユーロ圏なども2%を目標にしているため、日本だけ1%にするというのも違和感がある。円高になる、と予想する専門家もいるが、逆に日本は経済の成長スピードを緩めて財政再建を先延ばししている、と見られて円が売られるリスクもある。国際標準ともいえる2%を変更するのは、出口戦略に手を掛けた、と判断される恐れもある。

●目標達成期間の設定……インフレ率2%を2年で達成するという目標は、まもなく4年になろうとしている現在、まったく達成できる見通しは立っていない。すでに「2017年度中」にまで延長されたものの、達成できる見通しもない。手を付けるとしたら、この部分が最有力だが、問題はどう言いわけするかだ。自民党が首相の任期を延長させて、2020年の東京五輪まで安倍首相の任期を伸ばそうとしているようだが、そうなるとアベノミクスはあと4年も続くことになる。

仮に、現在のような異次元の金融緩和があと4年続けば、日銀のバランスシートにはさらに320兆円程度の「買入れ債券」が増えることになる。その影響をきちんとシミュレーションするのかどうか。記者会見でどんな答えになるのか注目したいところだ。

●金融緩和策(量的)……金融緩和政策の目玉的な政策である80兆円の国債買入れ。この規模を徐々に増やしていく方法が、おそらく最も現実的な政策と言えるかもしれない。7月の金融政策決定会合ではETFの買入れをほぼ倍増の6兆円に拡大した。さらに、これらの量的緩和に対して「まだ拡大の余地がある」と黒田総裁はジャクソンホールで発言している。年間80兆円の債券買い入れを一体いつまで続けられるのか。詳細は後述するが、日銀の金融緩和策が限界に来ているのではないか、と言われるのもこの点にある。

●金融緩和政策(質的)……国債やETFの買い入れといった量的緩和政策が、質的にも限界に近づいていることは明らかだ。8月29日の日本経済新聞電子版によると、日銀は「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)」と合わせて、東証1部上場企業の4社に1社の実質的な筆頭株主になっているそうだ。GPIFは運用総額130兆円のうち、日本株への投資を最大25%にまで増やし、日銀はETFを通じて年間3.3兆円から6兆円へと倍増したばかりだ。

こうした現実は、株式市場が完璧な「官製相場」になっていることを意味しており、むろんこのまま続けていくことも可能だが、その結果何が起こるのか。想像もしたくない悲惨な結果が待ち受けている可能性が高い。適正な株価が形成されずに、無理やり上昇させた株価はいずれ元に戻る。それが暴落という形なのか、長期的な衰退という形になるのかはわからないが、日銀の金融政策は限界に近い。

株式市場よりもっと深刻なのが債券市場、とりわけ国債市場だ。マイナス金利の導入で、日銀は実質的に利息の付かない債券を買い続けている。この状態をいつまで続けられるのか。日銀は、この部分をどう総括するのか。

●金利……マイナス金利を導入してから7か月。現在の「マイナス0.1%」をさらに深堀りする可能性を黒田総裁は示唆したが、現在日本以上のマイナス金利を導入している欧州圏を見ても、その効果は期待したものにはならないことがはっきりしている。地方銀行などの経営状況にも不安が出て来る。

==日銀にできることは「撤退」か「自爆」しかない?==

インフレ率2%が達成できるかどうかは、もはや議論の余地はなく「できない」という結論が出ている。もし出来るとしたら「ヘリコプターマネー」のような「異次元を超える超法規的な政策をとる」以外に方法はないのではないか。日本経済が今後発展していくためには、世界経済全体の景気回復も不可欠だ。しかし、今後世界経済が力強く成長して行くようにはとても思えない。世界経済のけん引役である米国経済も、やっと金利引上げのシナリオが見えてきた程度だ。

結局、日銀に残されている選択肢は「撤退」するか「継続」しかない。撤退は政権交代でもなければ実現しないだろうから、安倍政権の支持率が6割を超えている状況では、このまま異次元の量的緩和を続けていくしかない。問題は、継続することによって起きるリスクだ。アベノミクスを始める前の2011年6月の段階で、日銀の国債保有比率はわずか50兆円程度だった。

それがアベノミクスの開始で、現在では400兆円に近い水準まで保有高を高めている。この数字が、どのぐらい「異次元」なものかというと、保有する国債の「対名目GDP」の比率で見ると分かりやすい。すでに、日銀は7割に達しつつある水準に来ている。異次元緩和が始まる直前の2013年3月末には3割に満たなかったのが、いまや69.4%(2016年3月末)に急上昇している。これを同じ政策をとってきた「ECB(欧州中央銀行)」やすでに終了している「FRB(米連邦準備理事会)」と比較すると、保有する国債の対GDP比は1割程度に過ぎない。日銀の7割はいかにも異次元であり、異常な状態か分かる。

現在、日銀は毎年80兆円の国債を買い入れている状態だが、政府が発行する新規発行の国債と合わせて、銀行などの金融機関が保有する国債も購入することで、この水準を維持している。しかし、いまや大手銀行が保有する国債残高も総額で94兆6750億円(2016年4月末現在)にまで減少してきている。しかも、銀行にとって現在のマイナス金利は、保有する国債を売却したくない環境だから、日銀が国債を購入できる機会は徐々に減っていく。現状のままでは、どのみち国債買い入れ額を減少して行かざるを得ない。

要するに、「国債買い入れの縮小=テーパリング(金融緩和縮小)」の始まりが近い将来起こる可能性が高い。テーパリングと言えば、米国FRBが2013年6月のFOMC後の記者会見で、当時のバーナンキ議長が債券購入の規模を縮小する可能性を示唆して、世界中の株価や債券が急落。後に「バーナンキショック」と言われたイベントとなった。金融緩和にとって「テーパリング」は、好むと好まざるとに関わらず「出口戦略」を意味するからだ。

==「テーパリング」か「ヘリマネ」か、日銀は選択を迫られる?==

ポイントは、このテーパリングを実施する日が日銀にもいずれやってくる、という現実だ。これまで、日銀は一貫して国債買い入れ額を増やし続けてきたが、縮小せざるを得ない状況が迫っている。どうしても縮小したくない場合には、政府に利払いや償還を求めずに国債を引き受ける「ヘリコプターマネー(ヘリマネ)」を導入するしか方法がないのではないか。

テーパリングは、どう考えても金利の急上昇を誘発しそうだ。米国は、日本ほどの財政赤字もなく、中央銀行が保有していた債券の残高も相対的に少なかった。金利が上昇しても債券価格が暴落(金利急騰)することもなく、バーナンキショックはすぐに収束した。しかし日本は1000兆円を超す財政赤字を抱え、マイナス金利まで導入している。日銀がテーパリングを開始したとたんに、日銀の保有するETFや債券は暴落する可能性がある。日銀のバランスシートはさらに悪化し、GPIFの損失も拡大する。

投資家が、こうした状況を見限って債券、株、円を投げ売りしてくる可能性すらある。米国のようなシナリオには日本はなりそうもない。日銀は、いずれ「テーパリング」か「ヘリマネ」かの選択を迫られるはずだ。