「オンライン自分ごと化会議~新型コロナとの付き合い方」距離の壁を乗り越えた市民対話

全国各地の30名を超える市民がオンライン上に集まって議論(配信映像より)

新型コロナウイルスの感染拡大によって、行政が主催するイベントは中止が続いており、市民の意見を聴くような場もなくなっている。ただし、だからといって市民との対話がなくてよいわけではない。

私が所属する構想日本では、この状況下での市民との対話の場として、緊急事態宣言期間中の4月29日に、多様な市民との議論をオンラインで行う「オンライン自分ごと化会議」を実施。北海道や福岡県から20人の市民がオンライン上に集まった。会議室に一堂に会して対面で議論するスタイルからの転換を図る試みだ。当日はYouTubeでのライブ配信も行った。

自分ごと化会議とは?

「自分ごと化会議」とは、国民が社会や政治・行政のことを「他人事」ではなく「自分ごと」にすることを目的とし、無作為に選ばれた住民が地域の重要課題について専門家の意見を交え議論する会議で、構想日本が発案した。

この会議の最大のポイントは「無作為抽出」で、2009年に開始して以降、これまで71自治体で145回行っており、参加した住民の総数は1万人に及ぶ。その多くは、参加するまで行政や政治との関わりがほとんどなかった人たちで、会議参加を経て意識が高まっているほか、行動の変化も様々起きていることが、アンケート調査からわかっている。

議論のテーマは「コロナウイルスによって変化する社会との付き合い方について」。政府が打ち出す政策(今回でいけば感染防止策や経済対策など)は、大きい網を掛けることはできるが、必ずしも国民の生活周りのことに目が行き届いてはいないため、「自分ごと化会議」の参加経験者と、コロナ問題の事実を冷静に把握したうえで、自分たちは何ができるか、行政は何をすべきかなどを議論しようというのが「オンライン自分ごと化会議」の趣旨だ。

多様な市民と専門家が同じ目線で議論することの重要性

「オンライン自分ごと化会議」に参加したのは、これまで「自分ごと化会議」を行った7自治体(群馬県太田市、島根県松江市、和歌山県海南市、千葉県富津市、福岡県大刀洗町、北海道清水町、岡山県新庄村)20名の参加経験者、過去に自分ごと化会議を主催した団体(行政や住民グループ)の関係者10名のほか、政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議のメンバーでもある岡部信彦さん(川崎市健康安全研究所所長)など専門家3名にも加わってもらった(コーディネーターは筆者)。総勢33名での議論となった。

構想日本オフィスの様子(構想日本スタッフ撮影)
構想日本オフィスの様子(構想日本スタッフ撮影)

初めに岡部さんから、新型コロナウィルス問題の現状や、なぜ「ソーシャルディスタンス」が必要なのかを説明してもらった。特に100年前に大流行した「スペイン風邪」の時にも距離を開けたことで効果があったことなど歴史の事実に基づいた話は非常に説得力があり、参加者も一様に納得していた。

新型コロナに関しては、専門家の中でも違う意見が出るなど、事実が何かを知ることはとても難しい。だからこそ、岡部先生の政府での議論やエビデンスに基づいた話を土台とすることによって、生活者目線での議論が地に足のついたものになると実感した。

政治・行政への注文ではなく、自分たちで何ができるかの議論

当日を迎える前に参加者全員のLINEグループを作成し、自己紹介や「新型コロナに関していま最も強く感じていること」などを表明してもらった。「準備体操」ができていたのでお互いに様子見することなくスムーズに議論に入ることができたという意味において、このプロセスは非常に重要であった。

岡部先生の話と事前に記入してもらった内容を併せて議論を進めた。そして、大きく3点が中心的な論点となった。

1. メディアの情報に踊らされず、現実を直視して正しく恐れる

「正しい情報を取り入れたいと思っていても、連日のコロナ関連の報道やネットの情報が多すぎてデマも拡散されているのでとても難しい」「情報を処理しきれず自分の感情の浮き沈みが激しくなっている」といった意見が多く出された。この状況で、正しい情報を取捨選択することはとても難しいが、現実を直視して事実は何かを自分の頭で考えなければいけないことは参加者全員で共有した。

また、休校中の子どもが公園やコンビニにいることを注意されたニュースや、「ステイホーム」の言葉のインパクトから、外出自体を控える人が多くいた。岡部先生から、「専門家会議でも公園がだめだとは一度も言っていない。むしろ子どもが家に閉じこもるのはストレス解消によくないので、親子連れでゆっくり公園を散歩するのはよいことだしジョギングも良いこと」との発言があった。終了後のアンケートにも、「この言葉に安心した」「子どもにしっかり伝えて気を付けながら外出するようにしたい」との記載が目立った。

ソーシャルディスタンスを、「政府が言っているから」「ネットニュースに書かれているから」ではなく、なぜ守らなければならないのかその中身を自分で考えることが大切なのだろう。

2.最もストレスを抱えている子どもを中心に考える

「ゲームばかりして注意しても、子どものイライラが増すばかりでうまくいかない」「中高生は部活ができない、大会に出られないことのストレスが大きい」「オンライン授業を行っている学校としていない学校の格差が大きく受験に影響しそうでとても不安(高校3年生)」など、3月下旬からこの時点で1か月以上休校になっている子どもたちのメンタルや学習面の心配の声が相次いだ。

「当事者である子どもの意見を聴く場はあるのだろうか」との高校生の発言があったが、そのような機会はほとんどない(政府による集中ヒアリングで就職活動をする大学生2人が対象にはなった)。そのプロセスがあると少しは子どもたちの納得感も出たのではないか。いきなりの休校、卒業式や入学式の中止、遊びたい盛りなのに家中心の生活。子どもたちはコロナ問題の一番の被害者ともいえるのではないだろか。

コーディネーターである筆者がホワイトボードに論点を書き出し適宜振り返る(構想日本スタッフ撮影)
コーディネーターである筆者がホワイトボードに論点を書き出し適宜振り返る(構想日本スタッフ撮影)

3.「ポジティブな同調圧力」をつくる

「『コロナに感染=犯罪者』のような雰囲気があるので検査を受けることに抵抗を感じる人がいる」「テイクアウトのみの営業をしている近くの飲食店が『他のお店も閉めているのにうちだけ開けていると非国民のような気がして』と言っていた。行き過ぎた相互監視になっていて怖い」など、ネガティブな同調圧力による弊害が出た。

すると、「発想の転換で『ポジティブな同調圧力』に変えられないか。配達員に対する悪口もあると聞くが、流通を支えてくれている貴重な人材。配達の際にありがとうを伝えるなど、一人一人の意識で簡単にできることもある」と現状を前向きに捉えようとの発言があり、「買い物が減少するので大量消費からの転換が図られるし、移動が減ることによる環境負荷の軽減にもなるのではないか」「平日は毎日出勤という考え方自体が変わってきた。働き方改革のスピードが速まり良い方向に変わっているように思う」など、コロナ問題が良い方向に向かうきっかけにもなりうるという意見が続いた。

現状を悲観的に捉えることはある意味では簡単だが、そればかりでは先に進まない。どのような状況でも前向きに捉えて良い面を見つけようとする姿勢は大切だし、そのような雰囲気こそが無作為に選ばれた人たちとの対話の醍醐味だと私は思う。

ホワイトボードに書きだした内容(構想日本スタッフ撮影)
ホワイトボードに書きだした内容(構想日本スタッフ撮影)

世界で注目を集める「くじ引き民主主義」へ向けた実験

「オンライン自分ごと化会議」は、「無作為手法の活用による多様な市民との合意形成」と、「ICT技術を活用しての討議」の2つの実験の場でもあった。

 前者は、日本で実践しているのは構想日本くらいだが、フランスで昨年、マクロン首相の主導で無作為に選ばれた150人の市民が気候変動に関する議論を行うなど、欧州を中心に海外で広まっている。このいわゆる「くじ引き民主主義」は、利害にとらわれない多様な市民による合意形成が可能となる。何より議論の内容が建設的で実質的になる。「所詮素人の議論」という意見を時々見かけるが、自分ごと化会議を傍聴したことのある人からは真逆の感想しか聞いたことがない。日本で現在採用されている間接民主制の補完もしくは代替機能になりうるとすら、実践の当事者として感じている。

 さらに今回は、その仕組みをオンラインによって行った。対面の方が細かな表情を見ることができたり一体的な空気感を作りやすいため対話しやすいと感じるが、「だからやらない方が良い」わけではない。今回同様に、不測の事態が起きて物理的な分断が起きる可能性は十分にあるし、子育てや介護などで直接対話の場に行けない人もいる。子育て中の参加者が「会議室での会議だと子どもを連れて行きにくいし、一緒に参加できたとしても、おむつ替え・授乳のための出入りに気を遣ったりするが今日は気兼ねなく参加できた」と振り返っていたように、距離の壁を乗り越え日常生活の延長線上で参加できることがオンラインの強みだろう。

 今後さらに事例を増やし、いかなる状況においても市民との対話ができる環境を作っていきたい。