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住民票と居住地の住所が違う皆さん、参院選の投票はできます。

伊藤伸構想日本総括ディレクター/デジタル庁参与
(写真:イメージマート)

今日から参議院選挙が始まった。事前の報道では、盛り上がりが低く、投票率の低下も指摘されている(3年前の投票率は55.93%)。

3年前の参院選の際に、「下宿をしていて住民票は実家に置きっぱなしの皆さん、今からでも投票はできます。」というタイトルで、住民票と居住地の住所が違う場合の選挙権が自治体によって違うこと、不在者投票の必要性について書いた。

あれから3年。改善はされているが、制度的に明確になっているわけではないので、加筆修正をして再度掲載する。

以前、19歳の誕生日を迎えたばかりの大学生と話していた際に「初めての選挙の投票に行きたいけど住民票を実家に置きっぱなしなので行くことができない」と言っていた。これは間違いだ。実家に住民票を置いたままで下宿をしている人でも投票はできる。是非とも周辺に該当する人がいたら伝えてほしい。

住民票と居住地の住所が違うと投票できない?

以前、私が教えていた法政大学の講義で、過去に投票に関するアンケートをとった(有効回答数273)。

これまでの選挙(国政、地方)で投票に行ったことがあるかとの問いには、「欠かさず投票に行く」人は約2割、一度も投票に行ったことがない人は、選挙権のない(まだ選挙がない)人を除くと45%という結果となった。

法政大学講義でのアンケート結果(筆者作成)
法政大学講義でのアンケート結果(筆者作成)

次に、投票に行かなかった理由を聞くと下図の通りとなった。

法政大学講義でのアンケート結果(筆者作成)
法政大学講義でのアンケート結果(筆者作成)

上記理由のうち、「投票日に用事があった」(28%)は、期日前投票が簡単であることを知っていれば減少していただろう。もう一つ、「住民票が実家にある」(39%)と答えた学生の大部分は、そもそも投票ができないと考えていた。

「不在者投票制度」という言葉を多くの人が聞いたことがあると思う。それが使えるだろうと考える人も多いと思うが、「下宿先に住民票を移していない学生はこの制度を使うことができない」という意見がある。

これは本当なのだろうか?

住民票を実家に残したまま東京で下宿している複数の学生が、実際に実家のある選管に問い合わせてみたところ、「不在者投票が可能」という選管が大部分。ただし、「引越しをすれば住民票を移すことが原則になっているので住民票と実際の居住地が違うのなら不在者投票はできない」と言われた選管が1つだけあった。

民主主義の根幹である「投票」できるかどうかが、地域によって異なるというのはどう考えてもおかしいのではないだろうか。

では、不在者投票が断られた理由は何かというと、「そもそも実家を離れているのなら住民票を移さなければならない。不在者投票制度は長期の出張や旅行によって期日前投票、投票日の投票ができない人を対象にしている」とのこと。この根拠は、「住所が変わった場合に住民票の移動は14日以内に行わなければならない」という住民基本台帳法によるものと考えられる。

住民票を移すべきかどうかの判断は「生活の本拠」がどこにあるかによると解されている。例えば国会議員の多くは、地元には週末程度しか帰らず東京の議員宿舎に泊まることが多いが、住民票は地元にある。これは、長く滞在するのは東京であったとしても定期的に帰るなど本拠は地元にあるから。

同じように考えれば、下宿をしていても夏休みや冬休みなど季節ごとに帰る学生や、今住んでいる場所に卒業後も継続して住むと決めているわけではない学生は実家が本拠ということになろう。

であれば住民票を移さなくても良いと解釈できる(逆に、ほとんど実家に帰らず卒業後などその先も帰らないと決めている学生は移す必要が出てくる)。実際に「不在者投票可能」としている選管は以上の考え方によるものとしている。

法の解釈が時代の変化に追いついていない

この論争、実は長い歴史がある。「不在者投票はできない」としている選管は、昭和29年の最高裁判決を拠りどころとしている。大学の寮に入っていた学生が、実家のある自治体での投票ができないことはおかしいとして裁判で訴え上告までしたが、判決は、「休暇に際してはその全期間またはその一部を郷里またはそれ以外の親戚の許に帰省するけれども、配偶者があるわけでもなく、又管理すべき財産を持つているわけでもないので、従つて休暇以外は、しばしば実家に帰る必要もなく又その事実もなく、主食の配給も特別の場合を除いてはa村(筆者注:現在居住している自治体)で受けており」(基本選挙人名簿異議決定取消請求、昭和29年10月20日)

この判決を踏まえて、各自治体は、選挙権が付与される20歳(当時)を迎えた人に、選挙人名簿への登録の有無を判断するため現在地と住民票届け出場所に関しての調査を行うこととなった(公職選挙法第21条の5)。

公職選挙法施行令第12条には「市町村の選挙管理委員会は、その定めるところにより、選挙人名簿に登録される資格を有する者を常時調査し、(中略)被登録資格を有することについて確認が得られない者を選挙人名簿に登録してはならない」と記載されている。

ただし、実際にはこの調査をしていない自治体が多い(私の周りの学生でも調査されたという人はいなかった)。

調査していないのは自治体の怠慢とも言えない。自治体の担当者に聞くと、調査の時間が取れないことも確かだが「生活の本拠」の概念は曖昧なので、調査の意味が薄いと感じているとのこと(例えば「今は下宿しているけど地元で就職活動をするので3年生になったら実家から通う予定」の人は移さなくても良いと判断している)。学生に限らず二地域居住など多様化しており、「生活の本拠」を明確にすることは極めて難しい。

選挙を所管する総務省選挙課に問い合わせてみると、

「住民票が現住所地と異なる場所にあることをもって選挙権の有無が判断されるものではない。登録のための調査を行うことによる登録抹消如何は、自治体の判断となる」

とのこと。

不在者投票のしかた

住民票を実家に残したまま下宿をしていても不在者投票は可能であると指摘したうえで、では、不在者投票はどのようにするのか? ざっと以下のような流れになる。

1.住民票のある市町村のホームページから「不在者投票請求書兼宣誓書」(写真)をダウンロードする。もしホームページになければ選管に連絡して送ってもらう。

「不在者投票の投票用紙等の請求書兼宣誓書」(総務省ホームページより)
「不在者投票の投票用紙等の請求書兼宣誓書」(総務省ホームページより)

2.「請求書兼宣誓書」を記入して住民票のある市町村の選管に送る。

3.住民票のある市町村選管から投票用紙が届く。

※マイナンバーカードを持っている人は、マイナポータル「ぴったりサービス」からオンライン請求することも可能

4.実家の選挙区の候補者をチェックした上で、現住所のある市町村の選挙管理委員会で投票を行う。

5.投票後は投票した選管から住民票のある選管へ送付される。

投票用紙が住民票のある選管に届く締切が投票日の20時「必着」となる(消印はダメ)。今回の参議院選挙であれば7月10日の20時までとなる(締切日時は選管によって対応が異なる可能性もあるのでぎりぎりになりそうなときは選管に確認する方が良い)。

他の人の投票に比べれば手間がかかることになるが、離れている選挙区の投票をするのだからある意味では当然。「住民票を移していないから投票したいけどできない」人たちの投票行動が変わるだけでも大きいだろう。

繰り返しになるが、自治体の解釈によって民主主義の根幹である投票ができる学生とできない学生が存在する事実をもって、現在の仕組みには欠陥があると言わざるを得ない。それが、現在最も課題とされている若年世代の選挙への関心の向上という流れを止めかねない状況はすぐにでも解消しなければならない。

制度を所管する総務省が、時代の変化に仕組みも合わせていくことが必要ではないだろうか。

住民票と居住地の住所が違う皆さん、投票に行くことをあきらめることなく、今から手続きをしてほしい。

構想日本総括ディレクター/デジタル庁参与

1978年北海道生まれ。同志社大学法学部卒。国会議員秘書を経て、05年4月より構想日本政策スタッフ。08年7月より政策担当ディレクター。09年10月、内閣府行政刷新会議事務局参事官(任期付の常勤国家公務員)。行政刷新会議事務局のとりまとめや行政改革全般、事業仕分けのコーディネーター等を担当。13年2月、内閣府を退職し構想日本に帰任(総括ディレクター)。2020年10月から内閣府政策参与。2021年9月までは河野太郎大臣のサポート役として、ワクチン接種、規制改革、行政改革を担当。2022年10月からデジタル庁参与となり、再び河野太郎大臣のサポート役に就任。法政大学大学院非常勤講師兼務。

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