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アシックスらカンボジアの工場で女性労働者が数百人、連続して失神する。労働環境に深刻な懸念

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長
2017年2月、Bestseller factory社の委託先工場の労働者の失神

1 アシックス、プーマ、ナイキら・カンボジア: スポーツウェア製造工場で次々と起こる女性労働者の大量卒倒事故。

 カンボジアでは近年、縫製・靴工場で労働者が作業中に卒倒する事故が相次いでいます。

 カンボジアの国家社会保障基金(NSSF) によれば、2015年には32工場で1806人の労働者の卒倒事故があり、2016年は、18工場で1160人の労働者の卒倒事故があったといいます。

 国家社会保障基金(NSSF)のスポークスパーソンは、その要因として精神的問題(34 %), 肉体的問題 (22 %), 化学薬品の影響 (18 %)、労働者の長時間労働 (16 %) 等を指摘しています。

 こうした事態について2017年6月、デンマークの調査機関であるDanwatchと、イギリスの新聞Guardianが共同で、

 国際スポーツブランドであるナイキ、プーマ、アシックス、ベストセラーズ、VF Corporationのサプライヤー工場で働く労働者の聞き取りを行い、調査の結果を発表しました。ちなみに、Danwatchはヒューマンライツ・ナウと連携関係にある調査機関です。

 しかし、その後、目に見えた改善が進んでいるかというと懸念が残ります。

 これらスポーツウエア企業は、平昌オリンピックでもその製品が広く使用されており、例えばアシックスは日本代表選手団オフィシャルスポーツウエアを提供しています。

 そこで、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)はこのたびこの問題について声明を出し、大量卒倒の背景にある有名スポーツブランドの製造工場の労働環境に深刻な懸念を表明し、工場に製造発注をする著名ブランドに対し、事態を真摯に受け止め、再発防止を進めるよう求めました。

2 カンボジアの工場で相次ぐ労働者の卒倒事故

Danwatchは、2016年から2017年におけて、卒倒事故が発生した工場で働く14人の女性労働者にインタビュー調査を実施し、労働条件、通勤環境、食事、住居、労働条件に関する実情等を聞き取っています。さらに、医師、労働組合指導者、NGO、政府職員、また事業者団体にインタビューを行い、卒倒事故の原因究明を進めてきました。

 DanwatchおよびGuardianによれば、報告書発表前の6か月の間に、ナイキ、プーマ、アシックス、ベストセラーズ、VF Corporationの5ブランドのサプライヤー工場で、600人を超す労働者が大量卒倒した後、入院したとされます。

 このうち最大の事故は、2016年11月に日本のスポーツ用品等の製造・販売会社であるアシックスの靴を製造しているコンポンスプー(Kamong Speu)州のサプライヤー工場において、3日間で360人の労働者が卒倒したとされる件です 。

また、Danwatchの調査によれば、2017年2月には、ナイキの製造工場で28人の労働者が卒倒し、その直後にデンマークの会社ベストセラー の製造工場の労働者36人が卒倒して入院したとされています。さらに2017年3月には、40人ほどの労働者がプーマの工場で卒倒したとされています。 これらの数字は、国家社会保障基金(NSSF)によっても確認されている数字だとされています 。

3 大量卒倒事故の背景にある労働環境

 Danwatchらの調査によれば、卒倒事故の中には、火災事故や煙の発生等のアクシデントが工場内で発生し、労働者がパニックに陥って次々と労働者が卒倒したケースもあるとされています。同時に、Danwatchらは、こうした工場内のアクシデントが大量卒倒事故に発展する背景には、製造工場の劣悪な労働環境があると指摘しています。

Danwatchの調査報告書には、

・多くの工場では労働者の作業が行われる部屋は非常に高温多湿で換気も十分でないこと、

・長時間にわたり大量の作業を休憩なしで行っていること、

・労働時間内の水分や栄養の補給が十分に行えないこと  

等が指摘されており 、深刻な労働環境が大量卒倒事故の背景にあることがうかがわれます。

GuardianとDanwatchの調査の結果、労働者から指摘された労働環境上の問題は以下のとおりです 。

(1)雇用条件:長時間労働、低賃金、不安定な雇用

 Guardianの報道によれば、女性労働者たちの多くが、1日10時間、週6日間の労働を行っており、疲労困憊し、空腹の状態だったとされています。また、女性労働者たちの多くは一家の生計の柱として、子らや家族の生活を一手に支えているが、彼らの受け取る賃金は著しく低い状況にあります。

 カンボジアの2017年当時の最低賃金は月額153ドル(2018年から170ドル)とされるが、一家の生活に必要な「生活賃金」は少なくとも300ドル以上と推計されています。 ところが、調査対象となったスポーツブランドのサプライヤーでは、いずれも「生活賃金」が支払われておらず、その約半額に過ぎない最低賃金ベースの賃金支払いにとどまっています。

 Guardian及びDanwatchの報告書は、こうした状況では労働者は家計のやりくりのために栄養のある食事をとれないうえ、生活賃金を受け取るために法定を越えた残業を余儀なくされる可能性を指摘しています。

 さらに、これらの工場で雇用されている女性の多くが、短期間の雇用契約を締結しており、雇用が著しく不安定であることも事態を深刻なものとしています。

 調査によれば、女性たちは残業を断ることで雇用契約が更新拒絶されることを恐れ、長時間残業を受け入れざるを得ない状況にあるといいます。

 カンボジアの労働法規は、一日の残業時間の上限を2時間としており、経営側による残業の強制を禁止している。 そして、残業は「特別な緊急事態の場合」のみ許され、雇用主は残業を断った従業員に罰を与えてはならないと明記しています(この点では日本よりよい法律ですね) 。しかし、卒倒事故が発生した工場でこの法規制が果たして遵守されているのか懸念されます。

(2) 工場環境:高温多湿、換気不足

 Guardian及びDanwatchの調査はまた、工場の労働環境が著しく劣悪であると指摘しています。

 労働者へのインタビュー結果は、多くの工場で工場内の気温が非常に高いうえ、換気や空調の使用は十分とは到底言えないことを示唆するものです。

例えば、Danwatchらのインタビューに応えたアシックスのサプライヤー工場の女性労働者は、

「工場のいくつかの部門には温度を下げるための小さなファンが設置されているが、他の部門では埃を除去するために置かれているだけです」とし、工場内の温度は「非常に暑い」と訴えました。

 Danwatchが彼女に工場内の温度を計測してもらったところ、午前11時半は32~34度、数時間後には35~36度に上がり、一つの建物では37度と測定されたといいます。

 

インタビューに答えるアシックスの委託先工場の女性・提供Danwatch
インタビューに答えるアシックスの委託先工場の女性・提供Danwatch

 こうした状況にも関わらず、彼女の工場では、1時間に24アイテム、一日で240アイテムを生産しなければならず、彼女は「作業はきつい」と訴えたそうです。

 また、Danwatchらは、プーマの労働者にも工場内の温度を計測してもらい、その結果、35度という計測結果が得られたそうです。

 こうした高温・多湿の環境でありながら、多くの工場では、エアコンディショナーもなく、換気設備も十分でなく、労働者が栄養・水への十分なアクセスができないという。

 Danwatchの調査に、専門家は、製造過程で使用されている化学物質の健康への悪影響も指摘しています。

 こうした調査結果に対して、医学その他の専門家は懸念を示しています。ある専門家は、暑さ、水分補給の不足、栄養不足と消耗といった状況が重なれば、卒倒・ひいては大量卒倒は起こるべくして起こると指摘しており 、精神的プレッシャーの高い仕事に高温多湿、食料、水、休憩へのアクセスが否定されることは「奴隷的状況だ」と指摘しています。

 カンボジアの労働法は気温が高いことで労働者の健康に影響がある場合は、扇風機か空調によって職場の温度を低くしなければならないと定めています。しかし、ベトナムのように工場内の室温を32度以下とする規則は制定されていません。

 他方、今回問題が指摘されたアシックス、プーマ、ナイキ等のブランドは労働環境に関するポリシーを明確にしています。

 例えばアシックスはグローバル行動規範において、安全かつ衛生的な環境を提供することを約束すると表明し 、ビジネスパートナーには仕事場に「適切な[略]温度調節、換気システム等を含め、安全かつ健康的な労働環境を提供する」よう求めています。

 しかし、GuardianGuardian及びDanwatchの調査を踏まえれば、卒倒事故が発生した工場では、こうした法規制や企業ポリシーが遵守されていなかったことが疑われます。

4 カンボジア政府、カンボジアの縫製産業の業界団体、及び、ブランドが講じた対策

 こうした実情に対する政府・産業界の対応は、決して十分なものではありません。

(1) カンボジア政府は今年の1月より最低賃金を月額170ドルに引き上げたが、生活賃金とのギャップはまだ埋まらず、加えてカンボジア政府による市民社会に対する一連の弾圧の一環として、労働組合活動を抑制する法律が発効しています。

(2) 縫製産業の業界団体であるGMAC(Garment Manufacturers Association in Cambodia)は、Danwatchらの報告書公表の直後に極めて否定的な反応で答えました。

  GMAC事務局長のKen Loo氏は一連の大量卒倒事故について、「数字は常に誇張されている。」「GMACは大量卒倒問題に関して配慮するが、優先課題ではない 、「この大量卒倒事故の中には、労働者が示し合わせて卒倒したふりをしたものもあった。「労働者]は視察者を見たらわざと倒れる」 、「126人の労働者が被害を受けたと宣伝されているからと言って、労働者126人が実際に倒れたわけではない。労働者がこんなに多く卒倒すれば、世界中の医師はカンボジアに集まりこの現象を調査するはずだ」 などとして被害を過小評価し、背後にある労働環境の問題点を分析しようという姿勢が見受けられません。

(3) Danwatch、Guardianの指摘を受け、ナイキ、プーマ等の各ブランドも事態を深刻に受け止め、いくらか対策を講じていくと表明しました。

 ナイキは事態を深刻に受け止めるとし、コードオブコンダクトで、工場の室温を30度と定め、それを上回ることが監査で確認された場合は、サプライヤー工場の冷却装置とエアコンディショナーを導入させるとしています。また、短期雇用契約は許容しないと表明しました。 さらに、ナイキは2017年秋、海外のサプライヤー工場の労働環境について、独立した民間調査機関であるWorker Rights Consortiumによる独立監査を受け入れる合意をし、監査の透明性を高めています。

 (この背景に、米国ジョージタウン大学の学生たちがナイキの海外での労働環境を問題視する運動を展開して要求したことがあります。学生は、ナイキが改善しない場合、大学とナイキの間のスポーツ用品供給契約を破棄するよう大学に迫っていました)。

 プーマは、換気設備の定期整備を行うこと、健康診断の導入を進めること、労働者調整委員会の設置をすることをサプライヤーに要求したと報じられています。また、プーマは大量卒倒問題に対して,エネルギーバーの提供,健康診断及び換気扇の定期整備を行うようにサプライヤーに提言したと報告されています。

(4)  アシックスもGuardianに対し、労働者に対する意識と健康に関するトレーニングの実施や換気施設の改善等の具体的な措置を講じると回答したとされています。

  しかし、少なくとも日本語の公式ホームページ上には、大量卒倒事故に関する言及は見受けられず(2018年2月当時)、説明責任を果たしているとは認めがたい状況でした。

  そこでHRNがアシックスに問い合わせたところ、「報道にあったような37度という事実はないという報告を受けた」とし、大量卒倒事故の背景には、「まずインフルエンザで体調不良の労働者が業務中に大声を出して気絶し、それを見た周囲の労働者が卒倒し、連鎖したというサプライヤーからの情報があった」との回答を得ました。

 また、アシックスは、現在、室温が32度を超えないようにモニターしており、大型の扇風機も導入し、栄養がとれるように食事代の補助も工場が実施しているとも回答しています。

 アシックスはさらにHRNに対して、

卒倒の原因というのは、室温、化学物質、過去のポルポト政権の悪行による精神的な問題、仮病など色々な潜在的原因が指摘されているが、当社でも特定はできていない。カンボジアの労働者には低血糖が多く、卒倒しやすいとも聞いている。また、仮病がないかをGMACが見極めようとしているという情報もあるが、それに関わらす現地のステークホルダーと継続的に協働し当社商品に関わる人々の労働環境を改善していきたい

と回答しました。

 しかしながら、仮に室温が32度であっても上記のようなストレスのかかる環境下では高すぎるといえるでしょう。

 ISO(国際標準機構)7243及び国際労働機関が公表した『縫製製造業における労働環境・生産性向上』マニュアル というものがありますが、室温は20~25度が適切だと推奨されています。

 また、仮にアシックスの主張する「まずインフルエンザで体調不良の労働者が業務中に大声を出して気絶し」という経緯が事実だとしても、インフルエンザで体調不良の労働者が病休をとることもできないまま、就業する労働環境そのものの改善が必要ではないでしょうか。

5 責任の所在

(1) Guardian及びDanwatchの調査結果で指摘されているように、一連の大量卒倒事故は、近年、カンボジアで蔓延しており、女性労働者たちの健康を危機にさらし、過酷な労働環境での労働を強いています。カンボジア政府と現地工場には、良好な健康状態を保つ権利、安全で健康的な労働環境で働く権利を実現する責任があり、ILO条約、カンボジア労働法に違反する事態を速やかに是正する責任があります。

 残念なことに、縫製産業界には、大量卒倒を仮病と疑う傾向もあり、仮病と判断すれば厳しいペナルティが課される可能性もあるのが現状です。

  しかし、これまで見てきたとおり、Guardian及びDanwatchの調査及び専門家の分析によれば、劣悪な環境が卒倒事故を生み出している要因であることが強く疑われます。

 卒倒を仮病とみなして労働者にペナルティを課すような姿勢では、労働者は一層萎縮させられ、権利行使もできず、健康状態は危機にさらされることになりかねません。仮に表面的に卒倒事故に関する統計数値が低下したとしても、事態はいっそう深刻化する可能性があります。

GMAC(カンボジア縫製製造業協会)には、真摯に事態に向き合って調査し、労働環境を抜本的に改善すべきでしょう。

(2) しかし、国際ブランドも何の責任もない、というわけではありません。

  カンボジア製造工場に生産を委託しているスポーツウェアメーカーは、国連『ビジネスと人権に関する指導原則』(特に原則13)に基づき、サプライチェーン上で発生する人権への負の影響を防止し、既に発生している人権侵害を軽減し、被害を軽減し、是正措置を講ずる責務を負っています。

  アシックス、プーマ、ナイキら国際ブランドメーカーは、本件卒倒事故について、労働者の意見や置かれた環境について十分な聞き取り調査と分析を行い、原因を特定すべきです。そして、様々な専門家が指摘する、労働環境の改善を主導していく責任があります。

6 2020年オリンピックに向けて  ヒューマンライツ・ナウからの勧告

 アシックス、プーマ、ナイキらは、世界に向けて、クリーンな企業であることをPRし、コンプライアンスの重視を約束してきました。

こうした有名スポーツブランドで発生した深刻な人権問題について、うやむやな解決は許されないと考えられます。

 国連ビジネスと人権指導原則に基づき、カンボジアが批准した国際人権条約、ILO条約、カンボジア労働法に違反する事態は速やかに解決されるべきです。

 今回問題が指摘された工場に製造を委託していたスポーツブランドは世界的に著名であり、特にアシックスは、ワールドワイドオリンピックパートナー、及び、東京2020オリンピック・パラリンピックゴールドパートナーとして、東京オリンピック・パラリンピックのスポンサーに名を連ねています。

 2017年に、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下「組織委員会」)は、持続可能性に配慮した調達コード(第一般)を公表しており、その中でも、国際人権基準の遵守・尊重や、国際労働基準の遵守・尊重が含まれています。

 本件で問題が指摘されている工場において、組織委員会が調達する物品の製造が行われているか、又は、予定があるかについては不明でああるものの、オリンピックのサプライヤーには、「本調達コートに規定する事項に留まらず、社会における最新の課題やニーズを的確に把握し、持続可能性の一層の向上に取り組むことが期待され」ていることにも留意すべきです。

労働者の大量卒倒という異常な事態の再発を防止し、スポーツウェア工場の労働者を権利侵害から守るため、HRNは以下の勧告を行いました。

<カンボジア政府に対して>

・大量卒倒事故の原因に関し、労働環境との関連について適正な実態調査を行い、対策を講じること

・ 労働法上の労働者の権利に関わる規定がすべての事業所で実施されるよう、監督体制を高め、労働法違反への制裁を強化し、法の適切な実施を徹底すること

・有期雇用の更新拒絶権が濫用されないよう、法改正を検討すること

・生活賃金が保障されるよう、さらなる賃金向上について労働者との協議に応じること

<GMACおよび問題が指摘された製造工場に対して>

・工場内の温熱調節と換気を向上させ、職場のその他の危険要素を排除すること

・食事、水分補給、休息のために労働者に定期的に十分な休憩を与え、勤務中の水分補給を認めること

・違法な残業の禁止を徹底すること

・管理職に対し、労働法と国際条約に基づく労働者の権利について研修を行うこと

・労働者に健康、安全、労働者の権利について十分な教育をし、労働者に定期的に健康診断を受けさせること

・生活賃金の保障を実現すること

・短期間雇用制度を濫用し、労働者の雇用不安に付け込んで意に反する労働を強要する行為を行わないこと

<ナイキ、プーマ、アシックス等のグローバルなスポーツウェア会社に対して>

・大量卒倒事故が発生した原因を独自に究明する包括的な調査を実施してその結果を公表するとともに、再発防止のためのアクションプランを策定・実施すること。調査に際しては、公平な第三者機関を用いるなど、インタビューに応じて真実を語った労働者等が会社から報復を受けることのないよう配慮すること

・自社の労働環境ポリシーが製造工場で遵守されてこなかった原因を究明し、改善策を公表して説明責任を果たすこと

・製造工場における長時間残業、高温かつ危険な作業環境を改善し、職場の健康・安全を確保するよう支援すること

・生活賃金の実現を達成するようイニシアティブをとること

・未だサプライヤーリストの開示と独立監査の受け入れ表明をしていない企業は、これを実施すること

 さらに、オリンピックに向けて、以下のことも勧告しています。

<東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会に対して>

・「持続可能性に配慮した調達コード」を適切に運用し、効果的かつアクセスしやすい苦情処理制度を早急に整備するとともに、調達コード及び苦情処理制度の存在の影響を受ける労働者に広く知らせること

・調達コードの運用に際しては、本件および同種の労働者の権利侵害が、スポーツウェアの製造プロセスで未だ蔓延している危険性に十分に留意すること。

7 ブランドがすべきこと

 途上国の縫製産業の労働環境悪化を放置しているとさらなる大事故に発展する可能性があります。2013年には、バングラデシュで、安全性の低いビルに労働者と機械を大量に詰め込んで縫製業を進めていたビルが倒壊、1000人以上が亡くなるという事故に発展しました。

 

ラナプラザビル崩壊(Labour behind the label 提供)
ラナプラザビル崩壊(Labour behind the label 提供)

 カンボジアでは、最近政府が市民社会を弾圧し、声をあげにくくなっている状況だからこそ、ブランドはイニシアティブをとって改善していく必要があります。            

 スポーツブランドは私たちにとってとても身近な存在であるだけに、奴隷労働等からは無縁であってほしい、と強く願います。

 日本になじみ深いブランドで、2020年オリンピックに欠かさないアクターであるアシックスにはとりわけ、説明責任を果たし、改善に向けて動きを強めてほしいと願います。是非今後の対策に注目していきたいと思います。そして、スポーツウェアを買ってきている日本の消費者のみなさんにも、知らずに過酷労働に加担するようなことにならないように、こうした注目し、声をあげてほしいと思います。

※ 参考 

 ヒューマンライツ・ナウ声明

  http://hrn.or.jp/activity/13373/

 ガーディアン記事 https://www.theguardian.com/business/2017/jun/25/female-cambodian-garment-workers-mass-fainting

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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