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重要・原発推進が国連総会で国際公約に? 福島事故など完全無視して議論が進行中

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

原発推進が国連のコンセンサスに?

9月、国連総会を前に、国連周辺では、とんでもないことが起きています。

それは、原発推進を国連のコンセンサスにしようという動きです。

国連総会ハイレベルパネルが始まる前日である9月23日に「国連気候サミット」なる会合がニューヨーク国連本部で、世界のリーダーを集めて開催されるのですが、これにあわせて、コロンビア大学のJeffrey Sachs(ジェフリー・サックス)氏が、彼のお友達を大量動員して、気候変動の解決策として原発を推進することも求める手紙を国連に提出する予定だそうです。

そして、サックス氏が国連に提出する予定の手紙は以下のとおりです。

http://unsdsn.org/wp-content/uploads/2014/06/A-Message-to-World-Leaders-on-Climate-Change.pdf

かなりの数の賛同者が集まっているようです。

特にこの段落が問題視されています。

" Large-scale deployment of (...), carbon-capture and sequestration, next- generation nuclear power plants for those countries deploying nuclear power, (....) They can be pushed to commercial readiness and large-scale deployment through concerted public and private programs of research, development, demonstration, and diffusion (RDD&D) on a global scale."

つまり、気候変動に対応するために、エネルギーの革新が求められているが、原発エネルギー促進を強めるべきだ、ということなのです。

サックス氏とは?

ジェフリー・サックス氏とはこんな人です。

http://unsdsn.org/about-us/people/jeffrey-sachs/

サックス氏といえば、 「貧困の終焉」という本を発表、貧困をなくすグローバルな活動をしたり、アフリカ支援等で発言を強める一方、過去には、ナオミ・クラインの「ショック・ドクトリン」にも詳細に告発されている通り、途上国経済に深刻な悪影響を与えてきました。彼の評価は、人によって180度わかれ、なかなか難しいものです。

しかし、彼は国連では、ものすごい影響力のある人物です。

彼は現在、国連のシニア・アドバイザーというポジションにおり、

また、バンキムン事務総長肝いりで2012年に発足した、新しい国連開発目標設定のための、市民社会や科学者、企業関係者などの集まりであるグローバル・ネットワーク・SDSNのディレクターという立場にあります。

http://www.earthinstitute.columbia.edu/sitefiles/file/about/director/2012/SDSN_FINAL_release_9Aug.pdf

そうしたことから考えると、今回の動きは、ひとり気候サミットの結論と言うだけでなく、現在国連で議論されている、2015年からの国連の新たな開発目標であるPost2015の開発目標に影響することは必至と思われます。

国連の最も重要な開発ゴールに原発推進が固定化され、国際コンセンサスとなる可能性があるのです。

Post2015開発目標と進行するロビー

では、「Post 2015開発目標」とは何でしょうか。

2000年に策定された「国連ミレニアム開発目標」に続く、2015年からの国連の開発目標であり、現在、概ね開発目標が決まり、各ゴールの指標づくりが進んでいます。誤解のないように、と思いますが、この開発目標自体は、積極的な側面もあり、世界の市民社会が関わってよいものをつくっていこうとしていますし、全体としての取り組みには評価できるものも少なくありません。

この開発目標には、温暖化の防止と、エネルギーがゴールとして入っており、それぞれの細かな指標作りが議論されています。

そして、エネルギーに関する国連開発目標には「持続可能なエネルギー」を増やすという言葉が使われていますが、この「持続可能」のなかに、原発エネルギーが含まれるか否か、ということが争点となってきたのです。

最近では、国連本部の活動や意思決定に産業界が「ステークホルダー」として、深くかかわっています。

このエネルギーの議論ではとりわけ産業界が主導している様相で、それが国連の意思決定をゆがめていくのではないかと懸念されてきました。

私が今年3月に、ニューヨークで、国連内部の方も含むコアな関係者と意見交換をした際に聞いたところによれば、あまり公然とは言えない話ながら、こうした国連内部での「原発推進」は実はバンキムン事務総長とその直属のグループたちも関わって主導している、と言う話でした。その際、韓国産業界も原発政策・原発輸出を経済の切り札としたいという思惑が強くからんでいるのではないか、という見方さえ出ており、大変驚きました。

そうした状況を懸念して、国際NGOのなかでは、福島原発事故の教訓も生かし、原発は「持続可能なエネルギー」に入れるべきではない、というロビー活動も展開されてきました。

ところが、そうした議論状況のなかで、気候サミット直前のこのタイミングで、サックス氏らが大々的なキャンペーンを開始した、ということで、国連の世論が一気に原発推進に傾く危険性が懸念されます。

サックス氏ら個人レベルのレターのような形式をとりながら、実は、SDSNや事務総長の周囲で議論されてきたことをついに表立って表明し、国際世論をリードしよう、ということのようにも、見受けられるのです。

福島原発事故の経験については全く無視

日本も国連を構成する国なのですが、こうした国連内部の議論はあまり日本では知られていません。

福島原発を経験したばかりなのに、このエネルギー議論について日本がしっかりと意見を表明している、という様子もあまり聞こえてきません。

福島原発事故の経験・教訓をきちんと検証しようという国連側からのアプローチがあるのか、それもあるようには見られません。

特に、原発事故で深刻な犠牲を払ってきた被害者・被災者の方々の声がまったく国連の意思決定に反映されていない、という大変不当な状況が展開されています。

また、日本でも世界的にも原発稼働は全体としては二酸化炭素排出を増加させることはあっても減少させるものとはいえない、という議論が進行するなか、「気候変動の解決として原発」という議論はあまりに表層的で実態をみないものです。

この分野では、ニューヨークに近いところにいる人たち、お金やロビー力のある人たちの声が優先されているのが現状なのです。

ただ、これも日本政府が、原発事故後一貫してその被害や影響を過小評価し、近年では原発輸出・原発再稼働を推進する姿勢を鮮明にし、国際社会に対して原発事故の深刻な被害について誠実に訴えてこなかったことが大きく影響していることは間違いありません。

日本からも声を

サックス氏の国連への手紙に関して、米国の市民社会では、原発推進の内容を変更するように求める署名運動が始まりました。

しかし、今のところ多勢に無勢。

ノーマークのうちに国連で原発推進が国際公約となってしまわないように、是非日本からも署名を進めましょう。

http://www.gopetition.com/petitions/more-nuclear-power-is-not-the-answer-to-the-climate-crisis.html

こちら、拡散していただけると幸いです。

しかし、単にこの署名に賛同すると言うだけでなく、もう少しなんとかできないものでしょうか。

とり急ぎこちらの記事で、情報をできる限り多くの方にシェアさせていただき、これを機に議論が深まり、急いで行動が開始されることを期待します。

サックス氏らが(仮に確信犯でなければ)日本の声を知って考えを改める、もしくはそんな方向に追い込まれる、

または、世界のリーダーの多数が原発推進を国際公約にすることに慎重な立場をとるように考えさせることが必要です。

ヒューマンライツ・ナウでは、この気候サミットに合わせて、国際NGOおよびニューヨークの団体と共同で、

9月15日に国連チャーチセンターにて、国際セミナー「原子力は気候変動の解決策ではない」を開催いたします。

こちらにも各国代表部や市民団体、メディアの参加をお待ちしています。

http://hrn.or.jp/activity/event/915inhrn/

※ この件についてのアップデートは、私のFBの公開設定https://www.facebook.com/ito.kazuko?fref=nf

またはTwitterhttps://twitter.com/KazukoIto_Law

で行ってまいります。

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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