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「大卒採用で高校名をチェック」記事を検証~10年前記事コメントを「最近では」の不思議

石渡嶺司大学ジャーナリスト
「大卒就職で高校名をチェック」記事を専門家が検証。実は結構、古いネタだった?(提供:イメージマート)

◆22日に「高校名を確認する意図」記事が公開

以前、読んだ漫画に「双方の岸より眺めての川」という言い回しが掲載されていました。

物事は一方的に、ではなく、多面的に判断すべき、という意味です。

ことわざではないのですが、私はこの言い回しが好きで本や記事を書く際の座右の銘としています。

さて、2023年6月22日にAllAbout発信のYahoo!記事で「採用に影響する学歴は『大学名』だけではない? 企業が『高校名』も確認する意図とは」が掲載されました。

これについて学生や社会人の知人から質問があったので、さっそくまとめました。

結論、「まあ、一方的な話で、しかも古いよね」

冒頭でご紹介した「双方の岸」、すなわち、新卒採用(就活)と大学・高校教育、両面から見ていけば結論は簡単に出る話です。

ただ、これだと、Twitterなどと大差ないので、以下、「高校名をチェック」について検証していきます。

◆AllAbout記事の概要

まずは、件の記事から。

記事執筆者はライフキャリアコンサルタントの小寺良二さん。

AllAboutのライフキャリアガイドを担当しています。プロフィールはこちら

米国の大学を卒業後、アクセンチュアを経てリクルートに入社し企業の採用・人材育成に携わる。2009年に独立後は「キャリア支援の専門家」として企業だけでなく大学や官公庁のプロジェクトに多数携わる。2021年に家族で沖縄県石垣島に移住。

※同社サイトより

経歴には、名立たる大企業を支援企業が並んでいます。

AllAboutには2013年から記事を掲載、しばらく出さない時期もありつつ、2023年ごろから増加した模様。

その一環で、AllAboutには6月20日、Yahoo!配信は6月22日の「採用に影響する学歴は『大学名』だけではない? 企業が『高校名』も確認する意図とは」記事が掲載されました。

記事冒頭で、企業が最近では、採用時に出身高校を確認する、と言い切っています。

企業が採用時に学生の出身大学を見ることは一般的だと思いますが、最近では、高校名も確認しているという話もよく聞きます。

※前記・AllAbout記事より

その理由として、入試形態の多様化をこの筆者は挙げています。

理由の1つとしては「入試形態の多様化」が影響しています。

以前は偏差値の高い大学に入るには、学力試験で高い点数を獲得する必要がありました。しかし最近では、推薦入試や総合型選抜入試(旧AO入試)など、学力試験を受けずして入学できる制度が一般化しています。特に大規模私立大学では、学生数確保のため指定校推薦なども含めた推薦入試組の学生が年々増えています。

そのため採用担当者も大学名だけでなく、出身高校も参考にすることでその学生の学力や経験値を客観的に評価しているのです。

※前記・AllAbout記事より

そして、記事は次のように締めくくられています。

出身高校はただ学生の学力や偏差値を知るためだけでなく、その学生を総合的に評価するための材料集めに活用されているのです。

※前記・AllAbout記事より

◆「高校名チェック」と同じ「入試形態チェック」論説

記事では、入試形態の多様化を挙げています。名指しして批判こそしていません。それでも、「偏差値の高い大学に入るには、学力試験で高い点を獲得する必要」と出しておいて、「学力試験を受けずして入学できる制度が一般化」というのは、要するに、簡単に入れることを示唆しています。

実は大卒就活で企業側が「高校名をチェック」という話と同じくらい、一時期広まったのが「入試形態をチェック」です。

この2つの論説は相当部分、重複していますのでまとめてご紹介します。

骨格としては、大学名だけでは信用できないというのがあります。

すなわち、

「難関大学だったとしても、推薦・AO入試だと簡単には入れてしまう。これでは基礎学力を推し量ることはできない。だったら高校名や入試形態をチェックすればいい。その高校が有名校・伝統校なら地頭がいい、ということになる。入試形態も、一般入試なら信用できるが推薦・AO入試ならハードルが低いので信用できない。これでわが社の人材チェックも完璧だ、ヒャッハー!」(石渡による超意訳)

というものです。

◆「高校名チェック」記事は10本未満

採用担当者が出身高校をチェックする、という話、ごくたまに私も聞きます。

ただし、ここ数年はネタ扱いされていることがほとんど。

とは言え、それは私が取材した採用担当者ないし業界・企業のみの話であって、大勢としては、AllAbout記事の方が正しいかもしれません。

そこで、記事検索システム「Gsearch」で関連記事がないか、文献調査をしてみました。

Gsearchは、「約150紙誌/過去30年以上にわたり収録した新聞・雑誌記事を一括検索。 全国、地方、専門、スポーツの他、海外紙の記事も提供」(同社サイトより)しており、付言すると、テレビ番組放送データも含みます。そのため、新聞・雑誌だけでなく、テレビでどれだけ取り上げられたか(あるいはそうでないのか)、文献調査をすることが可能です。

新卒/採用/高校名…8件

就活/高校名…15件

採用/高校名…147件

高校名/チェック…78件

※参考 学歴フィルター…188件

件数の多かった「採用/高校名」「高校名/チェック」は一覧を見ると、大卒採用とはほぼ無関係の記事ばかり。

もう少し、絞り込んだ「就活/高校名」だと15件まで激減します。こちらも半分は高卒就職の話で無関係。

「新卒/採用/高校名」まで絞り込むと8件しかありません。

参考までに、「学歴フィルター」で検索すると188件、ヒットしました。2023年だけでも8件あり、関心の高さが明らかです。

その点、「大卒新卒採用で高校名をチェック」との記事は10件未満。しかも、最新記事は2016年10月15日・週刊東洋経済「高校の人材輩出力--人事部は出身高校もチェックしている!」。

7年前の記事が現在の就活に当てはまるかどうか、微妙なところではないでしょうか。

◆「最近」が10年前と同じであることが判明

検索結果の記事を読んでいくと、意外な事実が判明しました。

2014年6月16日「AERA」の「企業が求める『最適学歴』 学歴再考・就活」記事に、この高校名チェックネタが登場します。

そして、コメントしているのが、AllAbout記事執筆者と同じ小寺さん。

就活コンサルタントで、オールアバウト「大学生の就職活動」のガイドも務める小寺良二さんは言う。

「どの業界でも正社員は、マネジメント層としてチームをまとめて成果を上げる能力を求められる。そのためにコミュニケーション能力と地頭のよさは必須。単純労働は非正規社員に任せたりアウトソーシングしたりすることが多いので、ただただ真面目とか勢いがあるというだけの人材では、必要とされないケースが増えてきました」

(中略)

大学以前にさかのぼって「学歴」を見ることもある。

「企業がほしいのは、学歴より学力。大学名は立派でも、AO入試や小中からのエスカレーター式で入学していて勉強していない学生もいる。大学名だけでなく、高校名や大学の入学方法まで見ようとしている企業もあります」(小寺さん)

※前記・AERA記事より

読者の皆さんは気付かれたでしょうか?

なんと、2014年のAERA記事のコメントと2023年AllAbout記事の内容がほぼ同じ。

しかも、AllAbout記事では「最近」と書かれていますが、いくら何でも、10年前の話を「最近」とするのは無理があるのではないでしょうか?

「10年前から現在に至るまで」の1行を忘れたのか、それとも、AllAbout編集部ないし小寺さん周辺の認識では「最近」が10年前の話も含むのか、はてさて…。

◆初出は就活生が生まれる前の1999年

「高校名をチェック」という与太話、もとい、記事の初出がいつか、文献調査を進めていくと、相当に古いことが判明しました。

1999年4月10日・週刊ダイヤモンド「特集 人事部長が選ぶ新大学ランキング 1999年版 役に立つ大学」記事です。

なんと、今の就活生が生まれる前の話でした。

多くの大学については、古くからあるイメージが最近急速に変わりつつある、という点で人事担当者の意見は一致している。特に推薦入試や入試科目を減らしている大学の評判が悪い。大学のほうは「建学の精神を身につけ、大学の雰囲気をつくるのは推薦入学者」と主張しているのとは対照的だ。

「6年前まで人事担当していて、3年間別のセクションへ。そして3年前に再び人事担当になったのだが、復帰後は大学名が学生の質を保証できなくなっているのに驚いた」(機械製造人事部長)

「いい学生はどこの大学にも1割くらいはいる。最近は、いい学生とそうでない学生の落差が大きくなっている」(保険会社人事部長)

そこで、企業は自己防衛に出ている。それが高校名だ。高校受験に際しては大学受験のようなテクニックは通用せず、本質的な知的能力の差を見るのに適しているという。また、生徒が成長過程にあるだけに、学校独自の教育方針が浸透しやすい。つまりブランドとして信用できるというのだ。

※前記・週刊ダイヤモンド記事より

1999年と言えば、私が大学を卒業した年です。今でこそ、しがない中年男性(48)と化していますが、その私が青年だった頃に初出だった論説であることが判明しました。

この週刊ダイヤモンド記事の存在から、「採用担当者が高校名をチェック」するのが「最近」とは、いくら何でも認めることができません。

◆「高校名チェック」は「地頭の良さ」(2010年・プレジデントファミリー)

1999年の週刊ダイヤモンド記事の次が実はしばらく空きます。

2010年11月1日「プレジデントファミリー」の「就活コンサルタントが断言 優秀な人事マンは採用時、出身高校名を必ずチェックします」では、記事タイトル通り、高校名チェックの理由をまとめています。

「とくに最近の傾向ですが、選考のプロセスで高校名はかなり気にしています。極端な話、大学よりも高校を見ているといってもいい」

というのは、学生からの人気も高い食品大手企業の担当者。

「その学生の人となりがどのように形成されてきたかを見るうえで、一〇代をいかに過ごしたかに注目するからです。名門といわれるような高校の出身者のポイントは高く、同じ大学からあと一人を選ばなくてはいけないようなとき、判断材料のひとつに浮上します」

建設、放送、バイオテクノロジー、外資などの大手企業で人事部長等として採用にかかわった経験をもち、現在は企業の人事や就職活動のコンサルティングを行っている、ヒューマントップ代表の菅原秀樹氏はこう発言する。

「人事担当者は必ず、高校名を見ていますよ。優秀な人事マンほど、出身高校名を重要なチェックポイントにしているといってもいい。私が人事の仕事をしていたころは、全国の上位進学校の名前を頭に入れていましたし、部下にも、応募してくる学生の出身高校を見るよう指導していました」

菅原氏はその理由を明快に語る。

「首都圏にしろ地方にしろ、その地域の名門高校には、教育レベルの高い家庭で小学校、中学校としっかり勉強してきた子が集まる。中学で一番、二番だった彼らは基礎ができていて、本来の能力が高い。いわゆる地頭がいい子たちです」

※前記・プレジデントファミリー記事より

1999年・週刊ダイヤモンド記事では「本質的な知的能力の差」がこのプレジデントファミリー記事では「地頭がいい」となっています。この「地頭がいい」、その後の「高校名をチェック」記事でも登場します。

ただ、このプレジデントファミリー記事、前段ではこんな文章も。

さっそく匿名を条件に大手企業数社の人事担当者に取材をしてみたところ、高校名まではチェックしていないという企業が多数派だった。

「大卒者の採用で、出身高校の名前が話題になることはまずありません。高校名が大学卒採用の合否にかかわるという話も、聞いたことがないですね

と答えるのは、自動車メーカーの人事担当者だ。

※前記・プレジデントファミリー記事より

前半と後半で言っている内容が違う、別の意味でツッコミどころのある記事でした。

ただ、記事の構造はともかく、実態として「高校名チェック」があるともないとも言える、という点で多くのことを示唆しています。

◆一般入試入学が有利の調査が判明(2012年・週刊東洋経済)

2012年には、全国大学生協連の調査で、一般入試入学者が就活で有利だったことが判明しました。

推薦やAO(アドミッションオフィス)方式で入学した大学生は、一般入試で入った学生に比べて、就職活動で苦労していることが、全国大学生協連の学生生活実態調査で分かった。

調査は2011年秋に実施。就職を希望していた当時の4年生1881人について分析した。調査時点の全体の内定率は67.4%で、一般入試入学者68.8%に対し、推薦・AO入試入学者は64.2%だった。特に、私立大学では、一般72.2%に対し、推薦・AO63.6%と開きが出た。同生協連は「一般入試に挑戦した入学者は、積極性があり、学力でもまさる分、就職活動で有利だったのでは」とみている。

※読売新聞2012年10月19日朝刊「[大学ing]一般入試入学者『就活で有利』」より

週刊東洋経済2012年11月24日号「【第2特集 就活のウラ側】--就活の裏側--面接までは機械的に選別 大量応募でドライな採用」では、この大学生協連調査を受けてか、AO入試や付属校についてこんな内容も。

企業の中には、ターゲット校の学生については、自動的に面接まで通過させるところもある。ただ、AO入試や付属校出身の学生の実力は安定しておらず、こうした学生の学力は念入りにチェックするという。

※前記・週刊東洋経済記事より

「サンデー毎日」2013年10月13日号「〔大学入試〕全国261私立大・推薦入試情報 AO、推薦入試は就職に不利か?」では、2012年・大学生協連調査を引用しつつ、解説しています。

入学までの時間をおろそかにすると、入り口の学力差のみならず、出口の就活で不利になるという指摘もある。全国大学生活協同組合連合会の第47回学生生活実態調査によると、推薦で入学した私立大生の就職率は63・6%で一般入試の72・2%に対し8・6ポイント低いのだ。

「文系の場合、大学時代に学んだ専門分野が仕事に直結すると考える企業は少なく、高校までの基礎的な学力を重視する傾向があります。AOや推薦で入学した学生は一般入試組より基礎学力が劣るとみる採用担当者は多く、有名大学出身者でも就活で苦労する学生がいます」(就活コンサルタント)

※前記・サンデー毎日記事より

◆内部進学の評価が変わる(2015年・週刊東洋経済記事)

さて、「高校名チェック」記事、前記のように数えるほどしかありません。

「週刊東洋経済」2015年6月27日号「【第1特集 早慶MARCH】--Part1 企業が求める大学(ブランド)はどこだ--学歴フィルターの真実を語ろう 採用担当覆面座談会」では、別記事で低評価だった付属校(東洋経済記事では内部進学)の評価が変わります。

──内部進学やAO入試など、大学への入り方もチェックするのでしょうか。

Aさん

私は必ず見る。内部進学者については、小学校からにしろ、中学からにしろ、ベースの能力、「地頭」はあるという見方だ。勉強をしっかりしてきた学生は大歓迎だし、何もしてこなかった学生でも、地頭がいいと判断したら採用する。社内で鍛えれば伸びるという感覚だ。

Eさん

内部進学者のほうが地頭はいいと感じる。一般的に、大学から入るより付属校に入るほうが難しい。

Bさん

AO入試組の採用については、失敗した場合だけ社内で喧伝されるんだよ(笑)。うまくいっている例もたくさんあるんだが。もともと特定の能力に優れた人がAOで入っているので、失敗した場合は「それ見たことか」みたいな話になる。

※前記・東洋経済記事より

そして、紙媒体では「最新」の「高校名チェック」記事が「週刊東洋経済」2016年10月15日号「【第1特集 高校力】--PART2 高校の人材輩出力--人事部は出身高校もチェックしている!」です。

一方、学校歴の基準となっているのはたいてい大学だ。偏差値の高い大学ほど「地頭力」、つまり学習能力が高く、物事を順序立てて考える論理的思考力があると見なす。

加えて人事担当者によっては出身大学だけではなく、出身高校も指標の一つにしている。ある総合商社の人事担当者はこう説明する。

「名門高校を出ている学生であれば、二流といわれる大学であっても、MARCH(明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学)クラスの中堅大学より底力は上と見ますね。当社は地方の伝統ある高校の出身者をわりあい多く採用していますが、いい意味でのプライドを持っているし、会社に入ってからも、頑張って結果を出している人が多い」

同じように出身高校を見ているという大手エンジニアリング会社の人事担当者は「大学受験というのは勉強できる力、持続する力が問われますが、高校受験は大学受験ほど勉強しないもの。中学時代の成績で担任の先生が『君はここを受けなさい』と指示して受験するケースが多い。そういう意味で高校を見るのは、地頭がよいかどうかの物差しになる」と指摘する。

※前記・週刊東洋経済記事より

◆日経では2012年「就活探偵団」で登場

Gsearchはすぐれた記事検索システムです。ただ、残念ながら日本経済新聞と関連新聞(日経産業新聞など)は対象外。「日経BP雑誌横断検索」という項目はありますが、これは記事見出しだけで記事本文までは検索できません。

そこで、日本経済新聞社サイトで記事検索を掛けました。なお、私は仕事の特性上、日本経済新聞の電子版Proを契約しています。そのため、未契約の方と検索結果が違う可能性があることを付言してきます。

日本経済新聞社サイトでの検索結果は3件。実質的には、日経産業新聞2012年12月12日「就活探偵団 付属校上がりはダメ?驚く採用の新基準」の1件のみです。

付属校とありますが、テーマは「高校名チェック」そのもの。

前記のプレジデントファミリー記事と構造が似ていて、前半では否定論が中心。

後半では、肯定論も。ある食品メーカーは大学受験というサバイバル競争を経ていない、という理由で付属校上がりをNG扱いに。

さらにこんなコメントも。

「出身高校は必ず見ます」というある大手建設会社は「例えば地方の優秀な高校出身なら、地元に赴任させれば人脈をうまく生かせるだろうと思うし、さらに大学受験もしていれば学力のポテンシャルもある程度分かる」と説明する。「実際にエントリーシートを見て難関大学出身者を採用したら期待した学力もコミュニケーション能力もなかったという例もあるので…想定が外れるのは困るんです」

※前記・日経産業新聞記事より

◆「高校名チェック」が令和では無意味な理由

ここまで、2023年・AllAbout記事以外の「高校名チェック」記事を振り返ってきました。

高校名・入試形態とも、背景には基礎学力(地頭)の有無をチェックすることが目的となっていることが明らかとなりました。

では、令和の現代においてはどうか。以下、私の取材と文献等調査から、企業側の「高校名チェック」は過去の話であることを示していきます。

理由1:企業側にそんな余裕がない

データ:就職率(文部科学省「学校基本調査」/卒業者に占める就職者の割合)

1999年・60.1%→2008年・69.9%→2010年・60.8%→2019年・78.0%→2022年・74.5%

解説:「高校名チェック」は企業からすれば、そんな余裕がありません。

仮にですが、「高校名チェック」で選別するのであれば、多くの企業は大卒新卒採用ができません。

上記データは、文部科学省「学校基本調査」が出している就職率(卒業者に占める就職者の割合)です。「高校名チェック」の初出は1999年。同年は就職氷河期の真っただ中です。その後、2000年代半ばから後半にかけて緩和しますが、2008年のリーマンショックで再び、就職氷河期に。

このあたりで、再び「高校名チェック」記事が登場します。

その後、2010年代半ばから売り手市場となり、コロナ禍で一時、落ち込みます。

ただ、全体としては、売り手市場が変わらず、70%台という高い水準で推移しています。

この売り手市場にあって、企業側は中小企業はもちろんのこと、大企業も採用氷河期と言っていいくらい、採用に四苦八苦しています。

高校名や入試形態を気にする余裕はどこにもありません。

理由2:総合型選抜・学校推薦型選抜の難易度が上昇

データ:早稲田大学全国自己推薦入試(社会科学部)の評定平均

2010年・3.5以上→2021年・3.9以上→2022年・4.0以上

解説:2020年まで推薦入試・AO入試だったものが2021年からは学校推薦型選抜・総合型選抜、と名称を変えています。

この2020年以前のAO・推薦入試については簡単に入れる、とのイメージが強く、実際に一部大学(それも一部の難関大学を含む)ではその通りでした。

これが「高校名チェック」「入試形態チェック」の根拠となっています。

このAO・推薦入試のザル入試批判は2014年の中教審答申でも出るなど、政府・文部科学省も問題視していました。

そこで、2021年の名称変更に伴い、日程の整理や「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」などをよりしっかりと問う選考へと変化しました。

しかも、首都圏・関西圏では2010年代半ばから定員抑制の影響もあって一般入試が激戦に。その影響でAO・推薦入試の出願者も増加していきました。

当然ながら、各大学は学生募集の条件を上げていきます。

上記では早稲田大学社会科学部の変化を示しました。これは中堅私大も同じで千葉工業大学(公募推薦)は2010年には条件なし。それが2022年は評定平均3.3以上となっています。

しかも、私大で難関校ほど、入試では面接だけでなく、難易度の高い小論文などが課されます。

本稿はAO・推薦入試の解説記事ではないため、詳細はおくとします。が、こうした変化から、企業側が入試形態チェックをする必然性がほぼ消滅しています。

理由3:大学の授業の出席・成績評価が激変

根拠:2007年・大学設置基準の改正

解説:高校名チェック・入試形態チェックの根拠として関連記事でたびたび挙げられたのが「地頭の良さ」でした。

要するに、基礎学力がきちんと身に付いているかどうかを見るためです。

さて、キャリア関係者の間でも意外と知られていないのが、2007年・大学設置基準の改正です。

細かい話を飛ばすと、同年を境に、授業の出席・成績評価が大きく変わっています。

それまでは文系学部を中心に、ろくに出席しなくても期末試験で答案用紙に名前さえ書けば単位は取れる、ということもありました。

そうした緩さが2007年の大学設置基準の改正でほぼ消滅しています。

今も昔も、学生は「大学では遊んでいる」と話しますが、その内実は大きく変わっています。

ベネッセ総合教育研究所の「大学生の学習・生活実態調査」は2008年から4年ごとに実施されています(第4回はコロナ禍の影響で2021年公表)。

「大学生活で力を入れたこと」で「大学の授業」は2012年・71.8%→2021年・76.9%、「大学の授業以外の自主的な学習」は2012年・42.0%→2021年・49.0%とそれぞれ増加しています。

この結果は、大学の授業や勉強にきちんと取り組まないと進級・卒業できないことを示しています。

当然ながら、採用担当者の多くは、こうした変化を知っています。高校名や入試形態などチェックする必然性がありません。

理由4:適性検査を利用すれば十分

データ:「企業が採用基準で重視する項目」性格適性検査の結果 43.6%(4位)、能力適性検査の結果 35.2%(6位)

※リクルート就職みらい研究所「就職白書2022」

解説:このリクルート就職みらい研究所の調査、例年、性格検査と能力検査合わせた適性検査の調査が企業側の「採用基準で重視する項目」では上位に来ています。

「SPI3」を販売するリクルート系の調査だから、とうがった見方もできなくはありません。が、多くの企業は適性検査を選考の一環で実施します。

この適性検査が年々、進化しており、就活生の学力や性格を正確に出すようになりました。

え?去年の替え玉受検騒動は?

あのときも、実は多くの企業は冷ややかでした。なぜか、テレビメディアでは、替え玉防止策などが登場していましたが、実はそんな面倒なことをやらなくても済みます。

すなわち、替え玉受検が可能なオンライン実施を選考序盤で実施。人数が絞れた中盤か終盤で、対面式で実施します。この手法だと、替え玉のしようがありません。

それで、結果が大きく異なる就活生がいれば、企業側は躊躇なく、落とすことができます。

実際、昨年、逮捕された自称・替え玉業者に依頼した女子学生は適性検査選考は通過できても内定を得ることができませんでした。

この観点からも、高校名・入試形態チェックの必然性は(以下略)。

理由5:高校数が減少/高校名だけでは判別不能(特に地方)

データ:高校数 1988年・5512校→2022年・4824校

※文部科学省「学校基本調査」

解説:2005年に『名門高校人脈』(鈴木隆祐、光文社新書)が刊行され、ヒットしました。その後、類書が複数刊行されています。同書に掲載されている高校数は約300校。

政治家や財界人、芸能人などをどの高校から排出しているか、まとめられており、こうした高校であれば、ある意味、分かりやすさがあります。

では、同書に掲載されなかった高校がダメな高校か、と言えばそうではないはず。

それと、これも各地方の教育関係者以外にはあまり知られていませんが、高校は漸減傾向にあります。「学校基本調査」によると、1988年の5512校をピークに減っていき、2022年は4824校でした。

各地方の自治体からすれば、小規模な公立高校を無理に維持するよりは統廃合した方が財政負担は減る、という事情もあります。

この高校の減少により、水面下で起きているのが、高校の「スーパー進路多様校」化です。

進路多様校とは、大学進学から短大・専門学校進学や高卒就職まで生徒の志向がバラバラな高校を指します。

そして、教育業界内では、進路多様校とは、大学進学者であっても、地元の国公立か私立大に推薦で数人入るかどうか、というレベル、との理解になっています。

これが高校の減少により、地方高校では私立だけでなく公立でも多様化。私は今年、上半期に青森県から宮崎県まで対面・オンライン含めて、30校で進路講演をしました。

その内容は、大学入試の変化から、志望理由書の解説、保護者向けのマネープラン講座までバラバラ。高校も、進学校から進路多様校までバラバラなのですが、うち、半数が「スーパー進路多様校」でした。

短大・専門学校志望者もいる一方で、大学進学者もおり、その進学先も「地元の国公立に数人」どころか、旧帝大や早慶・MARCHクラスも含まれます。単に進路多様校とまとめるには無理があるバラエティさです。

こうした高校が、普通科とは別に特進科、理数科などに分けていれば、まだ分かりやすさがあります。しかし、多くの高校では同じ普通科の中に、スーパー特進クラス・国公立進学クラスなどと分類しています。高校の偏差値ランキングでは、このクラス別の偏差値が出ていない高校もあります。

企業側が高校名チェックで、「あ、この高校は偏差値低い。地頭が悪そうだから」と落とした就活生が実は優秀な人材である可能性は相当に高いのです。

◆「高校名チェック」、それでもあるとしたら

ここまで、高校名チェック・入試形態チェックの必然性がほぼないことを、データ・根拠付きでまとめました。

もちろん、私の取材で及ばないところで、いまだに高校名チェック・入試形態チェックを実施している採用担当者がいるかもしれません。

可能性としては「極端なブランド志向」「単に企業(または採用担当者)が大学・キャリアの変化を理解できていない」など。

前者は外資系コンサルタントや一部のグローバル系メーカーで顕著です。外資系コンサルタントはブランド志向で東大・京大と早慶しか相手しないほど、学歴フィルターが強いところもありました。グローバル系メーカーだと、総合職採用では「技術部門が旧帝大・東工大など難関大出身者が多いので、それに釣り合う人材を、となると難関大出身者しか対象にならない」(採用担当者/2012年取材)とのこと。

とは言え、前者はブランド志向なら大学名だけで十分なはず。後者も、その後、売り手市場の高まりや各大学の国際系学部新設などの影響で相当変わっています。

実際、2012年に取材した某グローバル系企業の採用実績校を見ると、2012年またはそれ以前のものとは相当、変化しています。具体的には中堅私大も出るようになりました。

どちらも、可能性としてはあまり高いとは思えません。

それでも、高校名チェック・入試形態チェックがある、ということであれば、AllAbout編集部・小寺さんか、それ以外の方でも、情報提供ないし反論をお待ちしております。

ただし、反論の場合は、本稿のように、大学・キャリアの変化やデータ・根拠を元にお願いします。

AllAbout編集部・小寺さんとは何の利害関係も感情もないので、該当記事についてどうこうは言いません。某ビジネス週刊誌の大学記事のようにあからさまなフェイク記事でもないので、記事の修正・撤回等をするのか(あるいはしないのか)などはご自由にどうぞ。

ただ、ご自身が10年前にコメントされた内容を無視して「最近」としてしまうのは、ちょっといかがなものか、と思う次第。

それと、日本全国、ネットがつながれば、記事検索システムで簡単に情報が入手できる時代です。最低限の文献調査くらいはやった方がよろしいのでは、とお伝えして本稿を締めるとします。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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