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ぼくらのキャリアはどこにある・1~総合職と専門職の違い・その1

石渡嶺司大学ジャーナリスト
(提供:イメージマート)

◆立場が違う悩み、その共通点は

1:高校生「将来の進路がよくわからない。やりたいことがはっきりしないし」

2:高校の進路指導教員「進路未定の生徒が多すぎて、どう指導したものか」

3:就活生「志望業界がはっきりしない。どうしよう」

4:知名度の低い企業の採用担当者「知名度の低さからうちを敬遠する就活生が多い。どうアピールしたものか」

…。

……。

この4者の悩み、バラバラのようで、実は一本の糸でつながっている。

それは、他でもない、キャリアという糸だ。

自身の経歴をどう決定していくのか、あるいは、どのように進路指導や採用につなげていくのか、いずれも、キャリアという糸でつながっている。

もちろん、高校生、大学生、高校教員、採用担当者、それぞれ立場は異なる。個別の細かい解決方法・ノウハウや情報もまた異なる。

しかし、ある一点を知っておけば、四者の立場が異なっても、そう難しい話でもない。

その一点とは、総合職・専門職の違いである。

◆総合職・専門職ってなんだ?

専門職とは、その名の通り、専門的な職業であり、スポーツ選手や医師・看護師といった医療職などがその典型だ。

一方、総合職とは基幹的業務に従事する正社員で、広義としては民間企業の社員や公務員(事務系)を指す、と考えていただきたい。

◆夢を推すキャリア教育にはまるのはどっち?

2000年代に広まり、現在も続くキャリア教育において、特に小中では「夢を大事にしよう」という点を重視している。

これは高校の一部でも引き継がれ、「夢を実現できる大学(または短大・専門学校)を選択しよう」という内容になる。大学の一部でも、この夢推しは変わるところがない。

ここで出た「夢」とは、もちろん、職業にひもづいたものである。サッカー選手になりたい、カリスマユーチューバーになりたい、歌手になりたい…などなど。

まあ、小学生くらいならそれもいいだろう。しかし、中学・高校と年齢が上がるにつれ、現実が見えてくる。小学生のころはサッカー選手になりたかったとしても、どうも運動能力が劣っているらしい。

歌手になりたかったけど、歌唱能力はそこまで高くない…。

そうした現実が見えてきた高校生に「夢=職業をきちんと考えろ」と言われても、これはいわゆる無理ゲーでしかない。

そもそも働いた経験がない以上、仕事がどのようなものか、想像できないからだ。

そこで多くの高校生は冒頭に出したような「将来の進路がわからない」と悩むことになる。

この悩み、実は先に出した総合職・専門職の違いを考えれば、それほど難しいことではない。

すなわち、高校生が悩むのは「夢=職業をきちんと考えろ」と言われたとき、想像できるのは専門職が大半だからだ。それに、総合職=会社員・公務員と言われても想像できる高校生はほぼいない。

「夢=職業をきちんと考えよう」というキャリア教育の功罪は別稿にて改めたい。

この「夢=職業」というのは、当てはまるのは専門職である。

専門職も色々あるが、そのほとんどは早期に進路選択をしたうえで、専門的な訓練を積むことが必須条件となる。

スポーツ選手や音楽家、将棋棋士などはその典型だ。

専門職を目指す、という点においては「夢=職業」とするキャリア教育がピタリと当てはまる。

◆夢推しキャリア教育がはまらない総合職

一方、総合職はどうか。専門職と異なり、業務内容は幅広い。地方公務員だと、土木・建築もあれば福祉もあり、観光や農業を担当する部署もある。

民間企業も同じで、営業もあれば法務や広報、採用・人事部門だってある。しかも、大きな企業だと複数のビジネスを展開しており、部門が違えば異なる商品・製品を担当することもある。

幅が広いので、「××という仕事がしたい」という夢があっても、企業からすれば「うちの業務のひとつでしかないしねえ」と困ってしまう。

しかも、日本企業の大半は総合職の新卒採用において、見込み採用(ポテンシャル採用)を取っている。

これは、大学の学部・学科など専門性はほとんど考慮せず、「●●しそう」という見込みを企業が持てるかどうか、その判断で採用の是非を決める。

つまり、「夢=職業」というキャリア教育が総合職についてはしっくりこない。

この違いを高校の進路教員が理解していれば進路指導がしやすくなるし、高校生も進路を無理に専門職に絞る必要がなくなる。

◆夢推しに引きずられる就活生

さて、就活生は、「学生時代に頑張ったことは何ですか?」(いわゆる、ガクチカ)を聞かれたら、学生時代に長く続けたサークルなりアルバイトなりの話をすれば、内定を取れる確率が高くなる。

これは、長く続けた話から、企業が見込みがあるかどうか判断できるからだ。

ところが、大学生の多くは学部を問わず、「夢=職業」のキャリア教育の影響を受けている。

これは、大学生になっても大きくは変わらない。

しかも、就活では、古い言説がなぜかネットやオンラインサロンなどでダラダラと生き残る、という不思議な状態が続いている。

その結果、毎年のように就活生の悩みとしてよく出てくるのが「志望業界を絞らなければ」というものだ。

業界構造がはっきりしていた1990年代ならまだしも、業界のバーダーレスが進んだ2020年代、業界を絞って得することはあまりない。公務員やマスコミ業界など一部の業界だと、採用選考が特殊なので絞るメリットはあるが、それ以外の業界だと無意味。

この悩みも、総合職・専門職という違いを分かっていれば、そこまで悩むことはなくなる。

そして、この裏返しでBtoBの知名度の低い商社・メーカーやIT業界などの「うちは知名度が低いから」「専門性が高くないとダメ、と誤解されてしまう」という採用担当者の悩みもそう難しくはない。

つまり、学生が敬遠するのは「就職=専門性が必要」と勝手に誤解しているからだ。

ということは、早い時期に「日本の企業の新卒採用、特に総合職採用は見込み採用で専門性は二の次」という総合職・専門職の違いを説明すれば、それだけで反応は大きく異なる。

◆唐突に筆者についても

私は19年間、大学・教育と就職・キャリア、両方をテーマとして本や記事を書いてきた人間だ。

どちらか一方、という専門家・書き手は多いが、両方、というのは私くらいなものだろう。

そのため、「石渡さんの専門は大学?就職?どっち?」などと聞かれることが一再ならずある。

このYahoo!ニュース個人有料版にしてもYouTubeにしても、大学・教育と就職・キャリア、両方が対象であり、そのどっち付かずの姿勢がコウモリみたい、とお叱りを受けることもある。

当のコウモリとしては「いや、両方なんですよ」と苦笑いするしかない。

そのコウモリである私は、遅くても2023年度内に、キャリアに関連する本を出したい、と考えている。

コンセプトは「高校生が読めば進路の悩みが解消する本」。もちろん、大学生や保護者、高校教員や採用担当者などが読んでも役立つ本を目指したい。

その試し書き、というか、メモをこの有料版で今後、随時出していきたい。

もちろん、そのメモがさらに膨らんでいくのか、あるいはバッサリと切るのか(あるいは、2023年度以内の出版が不首尾に終わるか)は不明である。

さしあたり、しばらくは「総合職と専門職」、この違いについて説明していきたい。

◆この連載について

実は高校生向けに進路選びについての本を2021年~2022年春ごろまでに出す予定だった。

ただ、出版社との調整不足、それと、どこからどこまで書くのか構想が十分に固まっていなかったことなどから刊行にこぎつけていない。

そこで、このYahoo!ニュース個人有料版で不定期に、キャリア・進路選択関連の草稿・メモを出していきたい。

どれくらいのボリュームになるのか、そもそも刊行にこぎつけられるのか、そこは筆者も想像がつかない。

いずれにせよ、最低でも月に2回はこのシリーズを出していく予定なのでお付き合いいただければ幸いである。

※今回の有料版公開部分は0文字です(当回が「ぼくらのキャリアはどこにある」シリーズの見本を兼ねているので/有料版部分にもこれと同文が出ているだけです)。

2回目以降は3~5割程度を公開、残りは有料版購読者のみの公開となります。

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大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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