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コロナで大学入試が大混乱~オンライン遮断で面接終了も

石渡嶺司大学ジャーナリスト
大学入試の要項、文部科学省の配慮通知(石渡が作成)。オンライン面接も一波乱?

◆改革迷走で混乱している世代に追い打ち

明日、9月15日は総合型選抜(旧・AO入試)の出願日です。後述しますが、これもコロナショックの影響による後ろ倒し。本来なら9月1日が出願日でした。

コロナショックは日本の社会に大きな影響を及ぼしています。それは教育、そして大学入試も例外ではありません。

今年はもともと、大学入試改革の初年度となり、その改革が昨年、大きく迷走しました。

1990年から31年間続いた大学入試センター試験が大学入学共通テスト(以下、共通テストと略)に変わります。

これに伴い、英語民間試験の導入、国語・数学での記述式の実施、ポートフォリオの導入などが目玉となるはずでした。

しかし、萩生田光一文科相の「身の丈」発言で地域格差などがクローズアップされ批判が強まります。さらに記述式についても採点ミスの確率が高すぎるなどの問題が噴出。

結果、英語民間試験は2025年入試まで延期、記述式は実施見送りがそれぞれ2019年に決定。ポートフォリオは今年8月に入り導入見送りが決まりました。

高校教員からは批判が強く出ています。

「英語民間試験は導入されるから、ということでその対策講座を準備した。その受け付け初日に導入延期が決定。生徒も我々教員も振り回されていい迷惑だった」(西日本・高校教員)

「ポートフォリオは導入している大学が少なく、教員の間でも『どう活用するのか』と疑問だらけだった。導入見送りは当然だろう」(関西・高校進路指導部長)

「記述式は高校入試でもあるが、数百人の採点を教員総出となってそれでも数日かかる。採点ミスがないか、かなり神経を使うのに、数十万人の答案を、しかもアルバイトが採点するなど無理な話。改革ありきで進んだとしか思えない」(埼玉・高校教員)

迷走した結果、共通テストは読解力重視の内容に変わる、というマイナーチェンジでようやく決着、というところに起きたのがコロナショックです。

◆コロナに加えて9月入学でさらに混乱

コロナショックが日本の社会に大きな影響を及ぼしたことは言うまでもありません。教育についても同様ですが、大学入試の場合、さらに9月入学の是非、という問題でさらに混乱することになりました。

4月に高校生の9月入学実施を訴えるTwitterや署名サイトが話題となりました。これを受けて4月29日、安倍首相は衆議院予算委員会で9月入学について「前広にさまざまな選択肢を検討したい」と、前向きな発言をします。

これにより、9月入学の是非をめぐる議論が過熱。結果、すぐの実施は無理、ということで6月5日、萩生田文科相が「制度として直ちに導入することは想定していない」と断念したことで一応の決着は見ました。

しかし、この間、文部科学省は9月入学の是非について検討する作業が最優先となってしまいました。9月入学が難しいことは2011年に東大が検討し、断念していることでも明らか。それより前だと1986年の中曽根内閣・臨教審(臨時教育審議会)でも検討されています。

改革で迷走し、コロナショックがあり、さらに9月入学の迷走といういわば三重苦で大学入試の詳細はなかなか決まりませんでした。

◆入試範囲配慮と一部後ろ倒し・追試で決着

大学入試の実施時期は高校側からは「延期を」と求める意見もありました。一方、大学側は予定通りの実施を望む意見が強くあったのです。

6月17日、文部科学省は共通テストを含む大学入試の実施内容を決定します。主な内容は以下の通り。

・共通テストは1月16、17日に予定通りに実施

・2週間後の1月30、31日に第二日程を実施し、現役の高校生は選択が可能(他に追試を選択可能)

・各大学は通常行っていない追試実施や出題範囲の縮小など配慮を求める

共通テストの前身となるセンター試験は過去にも本試験とは別に追試を実施していました。つまり2回開催だったのですが、追試は例年数百人程度と小規模です。

2020年のセンター試験だと、全体の志願者数は55万7699人。追試の許可を受けた受験生は2日間累計で278人しかいません。試験会場も東京、大阪の2か所しかありません(2020年の追試は2日目のみ北海道、筑波の両校でも実施)。

共通テストの第2日程は47都道府県で会場を設置。9月下旬からの出願で高校側が希望を取りまとめることになります。

◆共通テスト第2日程はまだ受験会場が未定

では、この第2日程がコロナ対策になるか、と言えば、これはこれで高校現場から非難ごうごうです。

「共通テスト第2日程は、1月末の実施。2週間遅れで学習の遅れを取り戻せるわけがない。しかも、2月上旬から私立大の一般入試が始まり、国公立大の前期・2次試験も2月下旬からある。第2日程からだと各校の入試対策に切り替える時間が不十分。生徒には勧められない」(東京・高校進路指導主事)

「センター試験だと終わってから自己採点をしたうえで、進路教員とどの大学に出願するのか検討していく。第2日程だとその余裕がないので、現実問題として無理がある。第2日程は入試延期を求める地方の高校側をなだめる『方便』としか思えない」(九州・高校教員)

東北地方の高校教員は、第2日程の受験地についても懸念していました。

「どこでやるのか、未定。もし、うちの高校所在地が受験会場から外れた場合、車で往復3時間以上。渋滞が起きれば4~5時間は、かかる。移動の負担を考えると生徒がかわいそうだ」

センター試験は2010年、新型インフルエンザに対応するため、例年は2会場のみの追試を47都道府県48会場で実施しました。

共通テスト・第2日程も、この2010年の追試会場を踏襲するもの、と見られています。このときは東京都が東京芸術大学(台東区)と一橋大学(国立市)の2会場。他の道府県は全て国立大学1会場での実施でした。

これを当てはめていくと、実施が想定される国立大学から受験会場が離れており、移動が大変な受験生が相当数、いることが想定されます。

私が2020年センター試験の各受験会場データを分析したところ、以下の結果となりました。

離島、それから100人以上の受験者がいる会場と第2日程会場(が想定される国立大学)が離れている地方が複数ありました。

※以下、受験者数は会場所在地の累計

その1・離島/5県

新潟県(佐渡市203人)

島根県(隠岐の島町68人)

長崎県(五島市119人、壱岐市113人、対馬市62人)

鹿児島県(奄美市314人)

沖縄県(宮古島市121人、石垣市104人)

その2・受験者数が2・3番目の都市が1000人以上/9県

青森県(青森市1288人、八戸市1211人)

茨城県(水戸市3669人、日立市1331人)

栃木県(足利市1332人、小山市1189人)

群馬県(高崎市2100人、桐生市1040人)

長野県(長野市3084人、上田市1605人)

岐阜県(瑞浪市1120人、羽島市1112人)

静岡県(浜松市4901人、三島市2340人)

兵庫県(西宮市4337人、姫路市2118人)

広島県(広島市7110人、福山市2164人)

その3・受験者数が2~4番目の都市が1000人以上/4県

北海道(旭川市1398人、江別市1350人、函館市1004人)

福島県(郡山市1808人、いわき市1172人、会津若松市1109人)

滋賀県(草津市1965人、大津市1590人、彦根市1189人)

福岡県(北九州市4812人、久留米市1521人、太宰府市1293人)

その4・受験者数が2~5番目の都市が1000人以上/6県

埼玉県(坂戸市2537人、川越市2501人、越谷市2472人、新座市2470人)

千葉県(習志野市3525人、船橋市2550人、市川市1953人、松戸市1797人)

東京都(八王子市8798人、世田谷区8636人、文京区6870人、千代田区5688人)

神奈川県(川崎市4060人、相模原市2335人、厚木市2080人、平塚市1470人)

愛知県(刈谷市2947人、豊橋市1950人、日進市1924人、豊田市1910人)

大阪府(大阪市5163人、東大阪市3285人、堺市2945人、豊中市2913人)

その5・会場が想定される国立大から100キロ以上の遠隔地で受験者数が100人以上/14県

北海道(旭川市1398人、函館市1004人、帯広市819人、北見市672人、釧路市634人)

青森県(八戸市1211人、むつ市205人)

岩手県(大船渡市257人)

秋田県(大館市406人)

山形県(鶴岡市531人、酒田市432人)

福島県(いわき市1172人)

茨城県(日立市1331人)

千葉県(銚子市432人)

新潟県(上越市933人)

福井県(小浜市250人)

長野県(飯田市563人)

岐阜県(高山市484人)

京都府(福知山市509人)

兵庫県(豊岡市524人)

島根県(浜田市615人)

※離島の会場は含まない

27都道府県では、会場が1校どころか2校にしても第2日程を選択した受験生に不利益が出る可能性があります。

2010年センター試験でインフルエンザ流行対策としての追試は、5万人の受験を想定していたものの、結果は509人(他の理由による受験者を含めると993人)にとどまりました。

「今回の共通テスト・第2日程も、どうせそこまで受験しないだろう、という見込みがあったのだろう。それと『第1を受けた方が得』と誘導しているように思えてならない」(西日本・高校教員)

「追試(特例追試)は2月中旬(13、14日)の実施。しかも、問題はセンター試験の追試を利用する予定とのこと。共通テストは全く別の試験であり、もし、追試を受検することになれば、それだけで大きな不利となってしまう」(東京・高校教員)

7月の文科省調査によると、第2日程を希望した高校生は3.2万人。第1は43.1万人でした(7月31日読売新聞夕刊)。文部科学省は今後、受験地を決めていきます。

◆オンライン遮断なら面接終了に文科省が再通知

総合型選抜や学校推薦型選抜では大学によって面接があります。この面接をオンラインで実施するのはコロナショック後ならではの特徴でしょう。

ところが、このオンライン面接について大学が高飛車と言いますか、受験生に配慮していないことを明らかにしたのが9月9日の朝日新聞朝刊記事「通信切断なら面接『打ち切り』 複数大学、募集要項に オンライン入試」です。

出願が15日に始まる大学入試の総合型選抜(旧AO入試)や、11月1日に始まる学校推薦型選抜(旧推薦入試)について、複数の大学が募集要項などで、オンラインでの面接が通信不良などで切断された場合、面接を打ち切る可能性があるとしたり、同意書への署名を求めたりしていることがわかった。

※記事より

オンライン会議システムはzoomを含め、コロナショック以降、社会人・学生とも利用者が急増しました。その結果、どんなに高速回線の契約をしていても、回線が切れてしまうことはあります。

これは入試の面接でも同じで、回線切れの責任を全て受験生側に帰するのは無理があるでしょう。

記事の反響の大きさを受けてか、あるいは、記事取材時点で問題を認識したのか、文部科学省は記事掲載の9日付け(サイト掲載は10日)で「令和3年度大学入学者選抜におけるオンラインによる選抜実施について」という通知を出します。

各大学においては、十分にご配慮いただいていることと思いますが、今般、一部高等学校関係者から、オンラインによる選抜実施にあたっての受験機会の確保について、懸念する声が寄せられました。

つきましては、引き続き上記5月 14 日付け及び6月 19 日付け高等教育局長通知を踏まえた対応をお願いするとともに、例えば試験実施中に通信環境の不具合等が生じ試験の継続ができない場合や、入学志願者において通信環境を整えることができない場合等については、入学志願者と個別に連絡を取り、代替措置を講じるなど特段の配慮をお願いします。

(配慮の参考事例)

・通信環境の不具合が生じ、試験続行が困難になった場合、当日の時間繰り下げや予備日を設けて選考を行う

・入学志願者において通信環境を整えることができない場合、大学でのオンライン受験も可能とする

・大学にサポートデスクなどの連絡窓口を設け、不測の事態に個別対応できるようにする

https://www.mext.go.jp/nyushi/index.htm#r3

※文科省サイト「令和3年度からの大学入試」より

大学側も旗色が悪いと感じたのか、記事に出てきた信州大学は10日に注意事項を変更、実践女子大学は同意書を9日に変更しています。

信州大学

機器やインターネット回線の不良により,面接員が試験続行不可能と判断した場合は(4)のトラブル発生時連絡用の携帯電話を用い,状況を確認したうえで対応を検討します。(5)も参照してください。

<対応例>

面接を一時中断し,他の受験者の面接が全て終了した後に再度試験の時間を設ける。この際,通信の不良による影響ができるだけ少なくなるよう,必要に応じて面接時間を延ばす等の配慮を行う。

(中略)

インターネット接続環境を整えることが難しい場合はご相談ください。静謐な個室の確保できる宿泊施設等のネット環境を利用することも一つの方法と思います。事前に接続テストを行い,安心して受験できる環境の確保に協力させていただきます。それでもインターネット接続環境が整わない場合には,信州大学繊維学部上田キャンパスに来学し,大学の設備(パソコン等は大学が用意)を利用してオンライン面接を受験することも可能です。

実践女子大学

通信接続確認期間中に、安定した接続ができない場合には、本学入学支援課までご連絡ください。

オンライン遮断については、入試に限らず、就活の面接でも起きていますし、大学の授業でも同様です。責任の全てを受験生に帰するかのごとく、要項に記載、あるいは、同意書提出を求めるのは配慮がない、と言わざるを得ません。

文部科学省がわざわざオンライン面接でも配慮を求める通知を出した以上、高飛車に対応する大学はさすがにないでしょう。

ただ、受験生の大半はオンライン面接が初めてとなります。これは大学も同様です。もし、オンライン遮断について要項等に特に記載がない場合は、大学に問い合わせ、緊急連絡先を聞いておくと良いでしょう。

それと、就活の面接でもよくあったのですが、オンライン面接だと、ノートパソコンかタブレットなどを用意しておく方が無難です。スマートホンや携帯電話はマナーモードにしておいて、オンライ遮断が起きるとすぐ連絡できるようにしておく方が無難です。

◆入試範囲は縮小、横国大は2次試験なし

一般入試では、文部科学省の配慮要請を受け、全国の大学の85.5%が何らかの配慮を実施することが決まっています。

追試のみは早稲田大、明治大、関西学院大など195校で、国立大は82校中79校が追試のみで対応する。追試はせず振り替え受験を認めるのは国立の旭川医科大、青山学院大、法政大、立命館大など335校。いずれの措置も取らない大学が10校あった。

長期休校による現役生の学習遅れへの配慮に関しては、5割以上の396校が出題範囲の制限などを実施する。

※2020年8月24日毎日新聞朝刊「大学入試、コロナ救済85% 追試など 出題範囲配慮も」

国立大学では横浜国立大学が2次試験を中止。共通テストの点数と自己推薦書で合否を判断します。

一般選抜においては、全国から集まっていただく数千人に及ぶ受験生の皆様に対し、そのような場を確保することは困難であると判断しました。苦渋の決断ではありますが、令和 3 年 2 月~3 月に本学で行う予定としていた個別学力検査は行わないこととし、大学入学共通テストの得点及び一部の学部では出願時に課題の提出等により選抜することとしました。

※横浜国立大学サイト・7月31日付け学長メッセージより抜粋

法政大学などは共通テストの振り替えによる合否判断。京都大学、名古屋大学、中央大学、上智大学などは出段範囲の制限や選択制問題の導入、出題の際に注釈を加える、などの配慮を実施予定です。

こうした動きから、今年の一般入試は共通テストの比重が高くなる、と見ていいでしょう。これが例年通りのセンター試験であれば、まだ対策の打ちようがあります。しかし、今年は共通テストの初年度。

「読解力が相当問われる問題になる。英語はプレテストの段階で単語数は5400語もあった。センター試験は1990年初年度だと2500語。読む量が単純に倍になっている。読解力がないと問題を全て解くことができない」(東京・高校教員)

「共通テストは未知数でセンター試験よりもどうなるか、はっきりしない。そのため、今年は例年以上に安全志向で行く生徒が増えるだろう。その分、中堅私立大は例年のように激戦となりそうだ」(大阪・高校教員)

混乱が続く2021年大学入試は明日から始まります。これ以上、混乱が起きないことを切に願います。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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