安倍政権の大学関連政策を振り返る~高等教育無償化は当たりも大学入試改革は大外れ

28日に辞任表明をした安倍晋三首相。大学関連政策を振り返る(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

◆大学関連の政策は多かった内閣

安倍晋三首相は28日、辞任を表明しました。これを受けて、各メディアとも安倍政権の政策振り返り記事を出すようになっています。

本稿では大学関連の政策(と話題)についてまとめました。後日、出す予定の労働・雇用政策は就職状況の改善など評価できる点がいくつかあります。

大学関連については私からすればやや疑問、という政策の方が多くありました。

◆国立大学改革(2015年~)→30点:学部名が余計に分かりづらくなった

結果:国立大学が文系学部を再編、学部新設を進める

2015年6月に「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」(下村博文・文科相決定)が公表されました。この「組織」には学部再編も含まれており、結果として文系学部の再編や学部新設が進みました。

この一環で誕生したのが滋賀大学データサイエンス学部(2017年)です。IT系学部として各メディアの大学特集でもよくネタにされ、実際に評価が高いものがあります。

ただ、この滋賀大以外の新設学部、グローバル系学部や地域系学部など色々ありますが、正直、微妙なところ。千葉大学国際教養学部がまずまず、というところでしょうか。

それから、既存の学部の改編も無理やり感があり、結果として規模縮小につながった、とも言えます。

別に学部新設については悪いことではありません。

しかし、既存学部を変にいじくるよりも、既存学部を残したうえで学部を新設する、という発想があっても良かったのではないでしょうか。

結局のところ、国立大学改革と言いつつ国立大学のリストラ策も見え隠れしていた、と言わざるを得ません。

学部名から何を学べるか、分かりづらくなった、という点でも評価できず、30点がいいところです。

◆大学入試改革(2013年~)→20点:理念はいいが各論不十分で迷走

結果:センター試験が2021年から共通テストに変更

2013年10月の教育再生実行会議提言から色々と代わり、2016年3月の高大接続システム改革会議最終報告を経てセンター試験は大学入試共通テストになることが決まりました。

目玉は英語の民間試験導入、国語・数学の記述式導入、ポートフォリオの導入などです。それと2024年以降は試験科目等の簡素化が予定されていました。

しかし、英語の民間試験は評価基準が試験ごとに異なり、試験会場も限度があります。

国語・数学の記述式についても、約30万人分の答案を公平・公正に採点できるのか、当初から疑問視されていました。

その後、プレテストで採点ミスの問題が改めて露出。2019年には萩生田光一・文科相の「身の丈」発言で反対論が沸騰。結果、英語民間試験の活用は2019年11月、記述式導入は12月にそれぞれ延期・見送りが決まりました。そのため、共通テストはセンター試験のマイナーチェンジに過ぎません。

英語の4技能を重視するとか、読解力を重視するなどの理念は誰もが否定することはありません。しかし、その手法としての大学入試改革はあまりにも杜撰なものがありました。ということで20点。

◆地方創生/東京23区の定員増加抑制(2017年)→10点:正直意味がない

結果:2017年から東京23区の学部定員増加が抑制された

「地方の大学に学生が集まれば地方創生につながる」→「地方の大学に学生を集めるには東京に進学しないようにしないと」→「だったら東京23区内の大学・学部の定員増加を抑制すればいい」という三段論法で決まった政策。

理屈があっているようであっておらず、大学の専門家たる私からすれば全く理解できない政策です。

そもそも、地方の高校生が東京の大学に進学していたのは大学数が少なかった1990年代以前の話です。

2000年代以降は、生活費等を忌避して地元志向、国公立志向が高まっています。そのため、23区内の学部定員抑制をしたところで、地方創生につながるか、と言えばほぼ無関係。

北海道、宮城県、石川県、山梨県、静岡県、岡山県、広島県、愛媛県、福岡県の9道県から伝統校または志願者数の多い私立大学21校を抽出し、2012年と2020の志願倍率を比較しました。

北海学園大学(北海道)1.6→2.1

北星学園大学(北海道)2.1→2.1

東北学院大学(宮城県)1.8→2.1

東北工業大学(宮城県)1.6→2.2

東北福祉大学(宮城県)2.4→2.8

北陸大学(石川県)1.0→1.5

金沢工業大学(石川県)1.9→2.3

山梨学院大学(山梨県)1.7→2.1

健康科学大学(山梨県)1.4→1.0

常葉大学(静岡県)1.7→2.8

聖隷クリストファー大学(静岡県)2.3→2.1

就実大学(岡山県)1.6→2.3

岡山理科大学(岡山県)1.7→1.9

広島修道大学(広島県)2.4→2.3

広島国際大学(広島県)2.3→2.1

広島工業大学(広島県)2.7→2.5

松山大学(愛媛県)1.8→2.0

松山東雲女子大学(愛媛県)1.0→1.1

福岡大学(福岡県)3.3→3.7

西南学院大学(福岡県)3.2→4.1

福岡工業大学(福岡県)1.9→2.9

※数字は左が2012年、右が2020年(出典は旺文社『蛍雪時代8月臨時増刊 全国大学内容案内号』2012年、2020年版)

※常葉大学は2012年は常葉学園大学の倍率

1ポイント以上、伸びているのは常葉大学と福岡工業大学の2校。

0.5ポイント以上と条件を緩めても北海学園大学、東北工業大学、就実大学、西南学院大学の4校。

逆に倍率を落としている大学は5校あります。

志願倍率は様々な要素に左右されますし、常葉大学は系列校の合併、福岡工業大学は大学改革の成功などによります。

そのため、一概には言えませんが、「地方創生のための23区内定員増加抑制が志願倍率の上昇につながった」とは言えないでしょう。

23区内の定員増加抑制は、都内の私立大の難易度上昇・激戦化という副作用をもたらしました。

大学を使っての地方創生策であれば、地方私立大学の公立化の方が大きな効果を示します。私立大だと志願者層に限度がありますが、公立大となると、その途端に全国から出願し、倍率が急上昇します。

千歳科学技術大学(北海道・2019年)1.2→5.3→1.6

長岡造形大学(新潟県・2014年)1.0→4.5→3.7

長野大学(長野県・2017年)1.7→6.5→2.3

福知山公立大学(京都府・2016年)非公表→17.1→2.0

公立鳥取環境大学(鳥取県・2012年)1.6→5.6→2.2

山陽小野田市立山口東京理科大学(山口県・2016年)1.4→9.1→4.5

高知工科大学(高知県・2008年)2.4→10.4→3.6

※数字は2002年・公立化した年・2020年の順/出典は前項目と同じ

地方創生というのであれば、私立大の公立化の方がはるかにましです。まあ、これも、どこを公立化して、どこを私立のまま残すのか、健全な競争を阻害しないか、などのもんだいはあるのですがそれはさておき。

いずれにしても、東京23区内の学部増員抑制は、全く意味がなく評価できません。

◆教育無償化(2019年~)→80点:中間層は不十分も格差是正に

結果:一定条件付きで学費・生活費が給付されることになった

この教育無償化、2019年参議院選挙の目玉としたいのか、あれよあれよという間に決まりました。そのため、導入初年度は高校の現場でも誰が対象で誰が対象外か、色々と混乱がありました。

という点を差し引いても、これはなかなかいい政策でした。地方の中堅以下の高校では進学希望であっても費用の問題で進学できない、という生徒が多くいます。そうした高校生を救い、進学率を引き上げる良い政策です。

マイナスは、導入初年度の混乱、それと中間層への支援になっていない点です。現在は、世帯年収などの条件があります。これとは別に、一定の成績(または相当の資格)で給付という方策もあるはず。たとえば、実用英検2級取得で入学金相当額を給付とか。

という改善策はさておき、この政策は80点。

◆専門職大学・短期大学(2019年~)→30点:中途半端な位置づけで盛り上がっていない

結果:2019年から専門職大学・短期大学設立される

実学のさらなる充実を、ということで、2019年に専門職大学・短期大学が誕生しました。

が、従来の専門学校(専修学校・各種学校)とのすみわけができていません。位置づけが中途半端で、高校生がどうとらえればいいのか、分かりづらいというのもあります。

理想から言えば、専修学校・各種学校のスクラップビルドを進め、専門職大学・短期大学に変えるというのが分かりやすいところ。が、そこまで大掛かりな話が簡単にできるわけもなく。

結果、2020年現在、専門職大学が9校、専門職短期大学が2校、合計11校の開校にとどまっています。なお、専修学校は2018年時点で3160校、各種学校が1164校。

教育関係者の間でも、ほぼ話題になっていないのが実情です。

採点するとしたら30点がいいところ。

◆番外・加計学園問題(2017年)→採点対象外:安倍内閣で起きたことだけれど

結果:岡山理科大学獣医学部(愛媛県今治市)が2018年に開設された

第2~4次安倍内閣の教育政策で大きな話題となったのが森友学園問題・加計学園問題です。私は大学・就職(雇用・労働)の専門家なのでこのうち、加計学園問題について述べるとしましょう。

野党側は開設にあたって忖度などがあったのでは、と責め立てました。安倍首相の退陣表明の記者会見でも「森友・加計・桜を見る会について~」との質問が出たほど。

この加計学園問題、不透明な部分があったことは私も否定しません。

ただ、それが安倍首相ないし政府・自民党と加計学園を結び付ける、確たる証拠があったか、と言えば特になく。だからこそ、激しい批判にもかかわらず、あいまいな状態で収束したわけです。

加計学園側のメディア対応などに問題があり、たとえば、加計理事長の記者会見を開かない、ようやく開いても東京・大阪のメディアが参加できない時間帯に実施で余計に怒りを買うこともありました。

とは言え、メディア側の批判も、相当疑問な部分が多くありました。

たとえば、「大学の図書館に本がほぼない」との批判は、開設1年目のキャンパスなら1年生しかいないわけで本が多くないのは他大学でもよくあることです。

「学内にワインセラーを設けるなんてけしからん」という報道もありましたが、そこそこ規模の大きい大学なら、学会とそれに伴う懇親会などに対応するためワインセラーくらい作っています。

他大学の事例を調べずに批判する、というのはあまりにも感情的で、同じマスコミ業界の人間としては疑問に思いました。

余談になりますが、図書館の話は某番組が出演を依頼してきたので「いや、他大学でもよくある話だし、これで加計がけしからん、というのは無理がありますよ。そういう内容でコメントしていいなら出演させていただきます」と返事をしたところ、この件はそれっきりとなりました。

出演料を稼ぎ損ねた、という個人談はともかく、この加計学園問題については、本稿では採点の対象外とさせていただきます。

◆総評:長期政権だからこそ話題は多かったが

7年8カ月もの長期政権だけあって、大学関連の政策・話題は意外と多くありました。が、この中で評価できるのは高等教育無償化くらいです。

国立大学改革は中途半端、大学入試改革は生煮えの状態で強行した挙げ句、英語民間試験・記述式・ポートフォリオという目玉をいずれも撤回することになりました。

大学関連の政策を振り返ると、高等教育無償化というヒットを抜きにしても、50点というところでしょうか。

次の政権では大学関連の政策が前に進むことを強く願います。

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。2018年は肩書によるものか、バイキング、ひるおびなどテレビ出演が急増。ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。主な著書に『大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ)『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書)『女子学生はなぜ就活に騙されるのか』(朝日新書)など累計30冊・62万部。2021年1月に『就活のワナ』(講談社プラスアルファ新書)を刊行。

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