大阪公立大学の英語表記は「大阪大学」?~英語表記は過去に騒動も

大阪公立大学の運営法人サイトより。英語表記に大阪大学が抗議

◆大阪府立大学と大阪市立大学、統合で「大阪公立大学」

2020年6月26日、 大阪府立大と大阪市立大を運営する「公立大学法人大阪」は両大学を統合し、2022年度に「大阪公立大学」として開学する、と発表しました。

大阪市立大学は1880年(明治13年)設立の大阪商業講習所が源流。大阪府立大学は1883年(明治16年)設立の獣医学講習所などを母体としています。2005年に大阪府立大学・大阪女子大学・大阪府立看護大学の3校が統合。

2009年2月、橋下徹・大阪府知事(当時)が、「公立大に100億円が投じられているのはバランスが悪い。市大と統合し、大阪の強みを発揮してほしい」(※2009年2月10日産経新聞夕刊)とコメント。ここから府立大・市立大統合が政治問題となりました。

2013年~2014年には大阪市議会の関連予算案否決で、一度は統合が先送りになります。その後、議会勢力が変化したこともあり、2017年には大阪府議会、2018年には大阪市議会でそれぞれ統合案が決定します。

2019年には大阪府立大学、大阪市立大学の運営法人が統合した「公立大学法人大阪」が発足。2022年に新大学が開学、2025年には新大学の象徴となる森ノ宮都心メインキャンパスが新設される予定です。

◆日本最大の公立大学となるが

大阪公立大学が開設されると、学生数は約1.6万人。これは東京都立大学の約6800人を抜き、日本最大となります。

ただ、私個人はこの統合、正直申し上げるともったいない、と感じています。

両校とも140年もの歴史があり、規模も大きなものがあります。大阪府外から学生が集まり、それが経済効果につながっています。

土木事業ですとか、水道などであれば、大阪府と大阪市、別々にやるより、一緒にやった方がコストは削減できるでしょう。しかし、公立大学の場合、運営資金は自治体が出すとは言え、その大元は国からの補助金です。つまり、統合してもしなくても、それほど運営コストが変わるわけではありません。

2000年代に入ってから、公設民営方式の大学が続々と公立大に転換しているのはその自治体が裕福だからではありません。国から補助金が入って、地域外から学生が集まる分、メリットがあるからです。

あえて言えば、運営法人を統合したうえで、別大学として運営する、1法人2大学方式ならまだ運営コストは減らすことができる、と言えるでしょう。

が、無理に統合して、重複する分野の学科・研究科について定員を減らすなどすればどうでしょうか。統合しなければ、府外から集まった学生が、統合・削減すると、その分だけ、府外から学生が集まらなくなります。

わざわざ森ノ宮に新キャンパスを作る余裕があるなら、「第二大阪府立大学」「第二大阪市立大学」を新設する方がよっぽど良かった、と思わずにはいられません。

◆英語表記だと大阪大学?

さて、この大阪公立大学、英語表記は「University of Osaka」。

国立大学の大阪大学は「Osaka University」であり、区別できるようにしていますが、「University of~」は他県の国立大学にもある英語表記です。

紛らわしい、と言えば紛らわしい英語表記ではあります。

大阪公立大学の運営法人サイトより
大阪公立大学の運営法人サイトより

◆大阪大学は不快感示し再考求める

大阪大学は即座に反応。26日には大学サイトにコメントを出し、不快感を表明。さらに29日は再考を求める声明を大学サイトに出しました。

大阪府立大と大阪市立大を統合し、2022年度に開学する新大学「大阪公立大学」の英語表記「University of Osaka」を巡り、国立の大阪大は29日、府や市、運営法人に表記の再考を求める声明をホームページ上に掲載した。阪大側は学術論文などで既に使用され混乱を招くとするが、新大学側に応じる気配はない。

新大学の名称は26日、運営法人の理事長と吉村洋文知事、松井一郎大阪市長の3者が協議して決めた。阪大の西尾章治郎学長は同日、同大のホームページに「意見交換が行われないまま決定がなされたことは誠に残念」とコメントし、強い不快感を示していた。

阪大によると、同大の正式表記は「OSAKA UNIVERSITY」だが、海外の有名大学や学術論文では「University of Osaka」と表現されることも多い。この表記をインターネットで検索すると大阪大が最上位に表示されており、「無用の混乱を招くことのないよう再考いただくことを強く申し入れる」と訴える。

※「大阪公立大:大阪公立大も大阪大も University of Osaka? 阪大側、再考求める『英語表記、混乱招く』」(2020年6月30日 毎日新聞朝刊)

◆県立大学・国立大学の先行例で大阪大は不利?

これに対して、吉村知事は29日、記者会見で変更を否定しました。

一方、吉村知事は29日、府庁で記者団に対し、高知や長崎などの公立大と国立大の英語表記が大阪と同じ方法ですみ分けられていると説明。「変更は考えていない。混乱することもないだろう」と述べた。

※前掲と同じ、6月30日毎日新聞朝刊記事

吉村知事のコメントにある、国立大学と都道府県が設立した公立大学の校名が類似しているのは18例あります。

岩手大学 Iwate University 岩手県立大学 Iwate Prefectural University

秋田大学 Akita University 秋田県立大学 Akita Prefectural University

埼玉大学 Saitama University 埼玉県立大学 Saitama Prefectural University

東京大学 The University of Tokyo 東京都立大学 Tokyo Metropolitan University

新潟大学 Niigata University 新潟県立大学 UNIVERSITY OF NIIGATA PREFECTURE

富山大学 University of Toyama富山県立大学 Toyama Prefectural University

福井大学 University of Fukui 福井県立大学 Fukui Prefectural University

山梨大学 University of Yamanashi 山梨県立大学 Yamanashi Prefectural University

静岡大学 Shizuoka University 静岡県立大学 University of Shizuoka

滋賀大学  Shiga University滋賀県立大学 University of Shiga Prefecture

京都大学 Kyoto University 京都府立大学 Kyoto Prefectural University

島根大学 Shimane University 島根県立大学 University of Shimane

岡山大学 Okayama University 岡山県立大学 Okayama Prefectural University

広島大学 Hiroshima University 県立広島大学 Prefectural University of Hiroshima

山口大学 Yamaguchi University 山口県立大学 Yamaguchi Prefectural University

高知大学 Kochi University 高知県立大学 University of Kochi

長崎大学 Nagasaki University 長崎県立大学 University of Nagasaki

熊本大学 Kumamoto University 熊本県立大学 Prefectural University of Kumamoto

※石渡調べ/左が国立大学、右が公立大学/なお、「福岡県立大学・福岡大学(私立大学)」「横浜国立大学・横浜市立大学」などの事例は掲載していない

このうち、国立大学と公立大学の英語表記が明らかに違うのは、「東京大学・東京都立大学」のみ。

残り17例のうち、公立大側で「県・府」などを意味するPREFECTUREを冠しているのは「新潟大学・新潟県立大学」「滋賀大学・滋賀県立大学」の2例。

公立大側で「県の」を意味するPrefecturalを冠しているのは「岩手大学・岩手県立大学」など11例。

残り4例は公立大学側が「University of~」となっています(静岡、島根、高知、長崎の各県立大)。

吉村知事の指摘通り、公立大学の英語表記が「University of~」であっても、それで国立大学側とトラブルになった、という事例は今のところありません。

少なくとも、記事検索で調査したところ、関連記事はゼロでした。

大阪大学からすれば「公立大学ならPrefectureか、 Prefectural を冠してくれればいいのに」との思いがあるかもしれません。

が、先行事例が4例もある以上、大阪公立大学側の言い分が有利、という状況です。

◆英語表記だと「近大・大学」の近畿大

大学名による騒動と言えば、昨年2019年、京都造形芸術大学(当時)が2020年に京都芸術大学に変更する、と発表。京都市立芸術大学と京都市長が不快感を示し、9月には名称差し止めの訴訟を京都市立芸術大学側が起こし、現在も係争中です。

京都造形芸術大学の名称変更に異論続出~紛らわしい大学名で騒動の行方は(Yahoo!ニュース個人 2019年8月29日公開)

大学名は大きな看板であり、イメージ形成や、ひいては受験生集めなどにもつながります。英語表記も同様で、海外の研究者・スポーツ交流にも影響する、と言っていいでしょう。

そのため、過去には英語表記をめぐり、各大学とも苦労し、改称することもあったのです。

2008年には近畿大学が英語表記を変更しました。

今でこそ、志願者数日本一、いや、マグロで有名、いや、つんくの入学式がすごい、などなど話題に事欠かない近畿大学も2008年当時はまだそれほどでもありませんでした。

近畿大学が英語表記をこれまでの「Kinki University」から「Kindai University」へ変更することを検討し始めた。近畿が英語で風変わりや異常趣味を意味する“kinky(キンキー)”とほぼ同じ発音で、教員が海外で研究発表する際に笑いが漏れるなど大学の威厳が損なわれかねないため。しかし「異常趣味」と「大学」の組み合わせの面白さから、近大Tシャツが欲しいと海外から問い合わせがあるなど、思わぬニーズも浮上している。

「友達に『Kinki Universityで働く』と伝えると『ナイスジョーク』と笑われた」というのは近大英語学習スペースのスタッフで、オーストラリア出身のマシュー・ソーントンさん(34)。

また、海外のシンポジウムなどで研究発表や研究者と交流を行う教員らは、大学名を名乗ると笑いをこらえられたり、驚いた顔をされることが多々あるという。近大関係者によると、「呼び方で工夫しようと、近と畿の間に間をあけて話しても、笑われてしまう」。

※「KinkiからKindaiへ 国際化に“支障”…でも思わぬ人気」2008年2月16日産経新聞夕刊

記事では、ジョークとして面白がることからTシャツの注文が入った、ともありますが、近畿大学からすれば嬉しい話ではありません。かくて、直訳すれば「近大・大学」となる「Kindai University」となりました。現在、大学グッズはいずれも「Kindai」となっています。

近畿大学校友会のグッズサイトより
近畿大学校友会のグッズサイトより

◆略称を一度は変えたが失敗した東大

近畿大学は日本語の略称をそのまま、英語表記にしました。同じように、一度は日本語の略称を英語の略称にしたものの、失敗したのが東京大学です。

「トーダイ」から「ユートーキョー」へ――。東京大学の外国語表記による略称が、ローマ字から英語表記に改められる。実は、長い間複数の表記が混在していたのを、6年前にローマ字表記を縮めた「Todai」に統一したばかり。大学の国際競争が激しさを増す中、「日本語を知らなければ、理解されない」と早々の見直しを迫られることになった。

東大内に今年9月、略称「Todai」を「UTokyo」に改めるとの理事名の通知が回った。切り替えが進められている。

東大の英語名称は「The University of Tokyo」。1948年には冠詞「The」を除いた原型が決まっていた。ただ、略称は「UT」や「Tokyo Univ.」など複数が混在していた。紛らわしさを解消しようと、同大の役員懇談会が2007年、日本人になじみ深い「東大」のローマ字表記「Todai」を略称に決定した。

ところが、「日本語を知らない海外の人には、東京大学を指すと分からない」と浸透はいま一つ。論文引用数などを指標にした世界の大学ランキングが注目される中、研究者らからは「研究論文の検索引用の国際競争でも不利になりかねない」との懸念も出ていた。

※「Todai」改め「UTokyo」 東大「海外で通じない」略称見直し

2013.11.15 朝日新聞夕刊

東京大学サイト・英語版より。大学ニュースの部分(画面左中央)には「UTokyo」の表記
東京大学サイト・英語版より。大学ニュースの部分(画面左中央)には「UTokyo」の表記

なお、2007年に「Todai」としたときの記事があるか、と文献調査をしましたが、今回は該当記事を見つけることができませんでした。

その東大と紛らわしい、ということで英語表記を変えたのが東京理科大学。

東京理科大は13年、英語名称を「Science University of Tokyo」から「Tokyo University of Science」に変更した。以前の英語名称では、文法的に東京大学理学部と誤解を招きかねず、「東大と誤解をうけるのはありがたいような話だが、やはりまぎらわしい」という。

※前掲2008年産経新聞記事

◆アジアのどこか、不明な校名変更も

最後に、英語表記ではないのですが、物議を醸した校名変更ネタを。

2007年、系列高校に甲子園の常連校を抱えていた秋田経済法科大学が改称しました。その名も、ノースアジア大学。

ノースは北ですから、つまり、北アジア。

日本地理学会は、

「北アジアという言い方は学術用語ではあまり使われていない」

と語る。高校で一番使われている帝国書院の地図ではアジアの区分は「東」「南」「西」「東南」となっており、日本は東アジアに含まれている。一方、歴史学では北アジアという概念が用いられるが、山川出版社の『北アジア史』で言及されているのはシベリア、モンゴル、中国東北部までだ。

※AERA2007年4月23日号「君の名は ノースアジアってどこ?」

日本は東アジアなのですが、ノースアジアだと、どこ?

と受験生が疑問に思ったかどうかは不明ですが、2018年現在、学部定員280人に対して、新入生は207人(旺文社『蛍雪時代臨時増刊 全国大学内容案内号2019』)と低迷しています。

なお、ノースアジア大学の英語表記は「NORTH ASIA UNIVERSITY」。

これが海外でのイメージアップにつながっているかどうかは不明です。

追記(6月30日17時30分・訂正)

NORTH ASIA UNIVERSITYの表記が誤っていたので訂正しました。ご指摘いただいたチョウ様、ありがとうございました。

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。2018年は肩書によるものか、バイキング、ひるおびなどテレビ出演が急増。ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。主な著書に『大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ)『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書)『女子学生はなぜ就活に騙されるのか』(朝日新書)など累計28冊・55万部。

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