京都造形芸術大学の名称変更に異論続出~紛らわしい大学名で騒動の行方は

京都造形芸術大学と京都市長の発表・コメント(各サイト)。言い分は真っ二つに割れる

京都造形芸術大学、京都芸術大学に名称変更を発表

8月27日、京都造形芸術大学は「開学30周年『グランドデザイン2030』と『京都芸術大学』への名称変更(2020年4月1日~)について」を発表しました。

これが今、炎上、もとい、問題案件となりつつあります。

開学30周年を来年に迎える京都造形芸術大学は発表の記事タイトルにもある通り、京都芸術大学への名称変更を打ち出しています。で、該当部分がこちら。

2020年4月1日より「京都芸術大学」へ大学名称変更

「造形芸術」の枠を超え、「藝術立国」の実現に向けて

学校法人瓜生山学園「京都造形芸術大学」は、2020 年 4 月 1 日より、学校法人瓜生山学園「京都芸術大学」に名称を変更いたします。

※その略称としては、「瓜芸(うりげい)」「KUA(ケーユーエー)」を使用し、「京芸」「京都芸大」は使用いたしません。

※なお、申し上げるまでもなく、本学は、公立大学法人「京都市立芸術大学」とは異なる大学です。

単なる名称変更だけならまだしも、その後ろに、但し書きが2点、ついています(太字強調は著者による編集です)。

ここに問題点が見え隠れします。

既存の京都市立芸術大学は反発

京都芸術大学なのに、略称は「瓜芸(うりげい)」「KUA(ケーユーエー)」。ちなみに「瓜」は運営する学校法人瓜生山学園から。

「京芸」「京都芸大」でいいじゃないか、と思いきや、こちらの略称は、但し書きの二番目にある公立大学法人京都市立芸術大学の略称としてすでに使われています。

そこで、うちは「瓜芸(うりげい)」「KUA」で行きますよ、と、わざわざ但し書きに出したのでしょう。

が、当然ながら、京都市立芸術大学は、「ああ、そうですか」とはなりません。

京都造形芸術大学の名称変更の翌日、2019年8月28日、理事長名による「京都造形芸術大学の名称変更について」を発表しました。

京都造形芸術大学が「京都芸術大学」に名称変更されることについて,当該名称は本学の名称や一般に通用している略称と同一あるいは酷似しているため,受験生や本学の学生・卒業生をはじめ,市民の皆様や芸術を愛する幅広い人々に大きな混乱を招くと大変危惧しております。

そのような事態にならないよう,京都造形芸術大学に対しては名称変更を中止再考されるようお願いしてまいりましたが,その願いを聞き届けていただけなかったことは誠に残念です。

本学は,京都にある芸術大学として「京芸」「京都芸大」の名称で親しんでいただいており,大学の名称・略称は,市民の皆様に育んでいただいた大切な財産であり,誇りです。

その大切な財産を守るため,また,多くの関係者の皆様に無用の混乱を招くことのないよう,引き続き,京都造形芸術大学との協議を続けてまいりますが,

当事者間では解決の方向性を見出し難いと判断した場合は,法的措置も含めた適切な対応をとってまいります。

公立大学法人京都市立芸術大学

理事長 赤松玉女

京都市立芸術大学の発表からは、事前に京都造形芸術大学側からの働きかけがあった、と推察できる部分があります。

一般的に、大学は何かを公表するとき、あまり刺激的な表現は使いたがりません。

それを「幅ひろい人々に大きな混乱を招くと大変危惧しております」と、懸念を表明したうえで「法的措置も含めた適切な対応をとってまいります」とまで言い切るのは、異例中の異例と言っていいでしょう。

相当、怒り心頭であることがうかがえます。

着物市長も懸念を表明

さらに、京都市立芸術大学はこの発表の下に運営自治体である京都市の門川大作市長(普段から着物を召していることで有名)のコメントも出しています。

公立大学と言えば、入学式・卒業式の式辞などを除けば、大学の発表についていちいちコメントを出す首長はほぼいません。

それがわざわざコメントを出した、というのはこれも相当、怒っているとみていいでしょう。

市長コメントは、京都市立芸術大学の運営自治体の首長であると同時に、自治体の中にある私立大学の話でもあるためか、京都市立芸術大学の発表よりはやや抑えた表現になっています。

京都造形芸術大学の名称を「京都芸術大学」に変更されると聞き,驚愕しています。大学が新たに名称を変更される場合は,既存の大学と混同しないよう,明確に識別できるようにすべきであります。

京都造形芸術大学におかれては,今一度新しい名称を再考され,両大学が共に伝統と文化を継承し,発展していくことを望みます。

なお,京都市立芸術大学は,教育方針をはじめ,自主的・自律的な運営・決定を行う大学法人であり,今後については,京都市立芸術大学において適切に対応されることと考えます。本市は,大学及び卒業生の意志を尊重してまいります。                                    

                

                                                    京都市長 門川大作

やや抑えているとはいえ、「驚愕しています」と出して、「今一度新しい名称を再考され」とも出しています。

いくら自治体の中の大学とは言え、私立大学の名称変更に市長が要望を出すのは異例中の異例の話。

余談ですが、門川大作市長は、2019年6月、アメリカの女優、キム・カーダシアンが自身プロデュースの補正下着のブランド名に「KIMONO」の名前を商標登録しようとした騒動で抗議の書簡を送っています。結果として、カーダシアン側が同名称を撤回することで騒動が収まりました。

この騒動から二か月、今度は京都市内の大学の名称でまた関わるとは、市長の思いや、いかに。

紛らわしい大学、日本の他の例は?

日本に四年制大学は2019年現在、786校あります。

ここまで多いと、当然ながら、紛らわしい大学名、というものは存在します。

ケース1:立地する地名を名称に利用

横浜国立大学・横浜市立大学や秋田大学・秋田県立大学などがその典型。

ただ、横浜国立大学・横浜市立大学の場合、地元では「横国(よここく)」「横市(よこいち)」と違う略称が通称となっています。

秋田大学・秋田県立大学の場合も、後者は「県大」などと呼ばれるのが一般的。ちなみに、秋田大学は「秋大(しゅうだい)」など。これは、他の地域(広島大学・県立広島大学、山口大学・山口県立大学など)でも同じ。

ケース2:県庁所在地名を使っているのに私立大学

青森大学、盛岡大学、仙台大学、奈良大学、高松大学、松山大学、福岡大学が該当。

ただ、こちらは特に紛らわしい、という話にはなっていません。地元ではそれぞれ、私立大学として認識されています。

ケース3:同じ「成蹊」

東京の成蹊大学と、大阪成蹊大学・びわこ成蹊スポーツ大学が該当。どちらも中国・司馬遷の「史記」の一節、「桃李(とうり)もの言わざれども下おのずから蹊(こみち)を成す」から付けられています。

ただ、成蹊大学は学校法人成蹊学園、大阪成蹊大学・びわこ成蹊スポーツ大学は学校法人大阪成蹊学園が運営。で、資本関係などはない、全くの別法人です。

大阪成蹊大学/学校法人大阪成蹊学園側には

「※本学と成蹊大学とは、伝統や組織の異なる別々の学校法人の設置した大学で、姉妹校等の関係はありません」

との注意書きがわざわざ付いています。

ケース4:同じ「じんだい」「しんだい」

神戸大学と神奈川大学が該当。神戸大学は兵庫県神戸市の国立大学、神奈川大学は神奈川県内にある私立大学です。

略称はどちらも「神大」。読みは「じんだい」と呼ばれており、神戸市民と横浜市民が会話する時に「じんだい」と出ると、やや混乱することも。

なお、神戸大学は「しんだい」と読むこともあり(人によっては「『じんだい』なんて聞いたことがない)、そうなると、今度は信州大学の略称「しんだい」と重複。ああ、ややこしい。

ただ、大学の立地は神戸大学・神奈川大学だと新幹線で約2時間も離れており(神戸大学・信州大学だと3時間以上)、日常的に混乱が起きるか、と言えばそんなことはありません。

他にもいくつか例はありますが、それほど大きな話でもないため、大学トリビアはこれくらいで。

こうしてみると、既存の大学に酷似した大学名に変更しようとするのは大学業界史上において、少なくとも現代においてはおそらく初のケースではないでしょうか。

京都造形芸術大学、受験生減少の焦りも?

京都造形芸術大学が京都市立芸術大学や京都市の反発を招いてまで名称変更をしようとするのはなぜでしょうか。背景には、志願者数の減少が考えられます。

旺文社『蛍雪時代臨時増刊 大学案内号』(各年度)によると、2008年、志願者数は2206人。それが2018年は1290人と約1000人、減少しています。2019年は1421人と盛り返していますが、大きく戻したわけではありません。

※なお、京都造形芸術大学企画広報課から指摘があり、旺文社資料は一般入試・センター試験利用入試の数値。AO入試・推薦入試を合わせた数値は2018年4358人、2019年5149人と増加している、とのこと。

芸術系学部は、学費が医学部・歯学部・薬学部に次いで高く、実習費用等も相当、高額です。それでいて就職がどうなるか、一般人にはわかりづらいところがあります。そのため、芸術系学部の人気は低迷しているのが現状です。

京都造形芸術大学はAO入試・推薦入試を合わせた志願者数は増加しているとしています。

しかし、大学の人気バロメータはやはり一般入試・センター試験利用入試の志願者数にあるわけで、その数は2008年以前と比較した場合には減少傾向にあります。

そこで、より分かりやすい名称に、と考えるのも無理からぬ話です。

と、言いますか、受験生減少の焦りがない、というのであれば、無用の摩擦を招いてまで、京都市立芸術大学に酷似した名称に変更する理由がありません。

略称は自分で付けるもの?

とは言え、この名称変更騒動、京都造形芸術大学側の方が分は悪いです。

いくら発表で

その略称としては、「瓜芸(うりげい)」「KUA(ケーユーエー)」を使用し、「京芸」「京都芸大」は使用いたしません。

と出しても、それを一般市民が使うかどうかは別の話。

京都造形芸術大学の内部ないし関係者に大学業界事情に詳しい方がどれくらいいるかは不明です。ただ、ちょっとでも調べれば、大学側が自ら付けた略称は地元では定着しなかった話などいくらでもあります。

京都造形芸術大学側が「いや、うちは瓜芸ですから」と言い張っても、どうでしょうか。

事情を知らないタクシーの運転手さんが「京都芸大まで」「あいよっ」と勘違いして、違う大学に運んでしまう、などの事態は容易に考えられます。

こうした事態になった場合、京都造形芸術大学側はそれでも「いや、うちの略称は瓜芸ですから。間違える方が悪いです」と言い切れるのでしょうか。

在学生からも反発、署名は2000人突破

この名称変更騒動、京都造形芸術大学の在校生からも反発が出ています。

在校生が「change.org」で反対署名を募ったところ、8月29日16時時点で2100人を突破。

在校生によるchange.orgの署名。
在校生によるchange.orgの署名。

在校生のツイートによると、

今回名称変更というわかりやすいことが起きてみんなが動いているけれど、一番の問題はネーミングセンスではなく、大学側が変更の効かない決定を事後報告で済ましていることだと私は思っています

とのこと。

大学の名称変更については、昨年、首都大学東京→東京都立大学の変更時に、このYahoo!ニュース個人で「大学改称のコスパ勘定68校調査~首都大学東京は損だったのか」

を公開しました。

この記事で過去の名称変更事例68校について調査したところ、女子大の共学化、公立化、専門大学から総合大学への変化、専門性の追求だとそれぞれ志願者数増加の効果が出ていました(そうでない大学もあり)。

一方、不祥事隠しや地名関連の名称変更は大きな効果が出ていないことも明らかになっています。

仮に、ですが、京都造形芸術大学が文系学部を大量に設置するから「造形芸術」のイメージを薄めたい、ということであれば、名称変更は意味があります。

ただ、「『造形芸術』だと分かりづらいから『芸術』にしよう。でも、既存の市立芸術大学とは略称は分けないと」ということであれば、相当な問題があります。

京都造形芸術大学だけでなく、全ての大学関係者には名称変更が意味あるものになるのかどうか、精査することが求められるでしょう。

さて、この紛らわしい大学名称騒動、行方はどうなるのか。今後に注目したいと思います。

2019年8月29日21時30分・追記

中ほどにある「ケース4:同じ『じんだい』」を「ケース4:同じ『神大』『じんだい』『しんだい』」に変更したうえで一部、加筆しました。

「神戸大学の略称は『しんだい』ではないか」とのご指摘を複数の読者からご指摘いただきました。

改めて精査した結果、神戸大学の略称は「しんだい」が多数ながら「じんだい」を使う方もいるため、加筆した次第です。

ご指摘いただいた、@shikiteibakin 様、@pinkprisoner8 様、@gakeau 様、他、ご指摘いただいた方に感謝申し上げます。

2019年8月30日14時25分・追記

京都造形芸術大学企画広報課ご担当者様より指摘があり、旺文社資料にある一般入試・センター試験利用入試の志願者数は記事にある通りだが、AO入試・推薦入試を合わせた志願者数は増加しているとのことでした。

そのため、記事の該当部分を大幅に加筆しました。