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問題だらけの共通テスト~英語民間試験の延期だけでは終わらない

石渡嶺司大学ジャーナリスト
2018年度センター試験会場にて。2020年度の共通テストはどうなる?(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

「身の丈」発言で炎上、延期へ

2019年11月1日、この日はセンター試験に代わる大学入試共通テスト(以降、共通テストと省略)の共通ID申し込み開始日でした。

言うなれば、共通テストのスタート日でもあったのです。その当日、読売新聞と毎日新聞が1面で、英語民間試験の導入延期記事を掲載。

そして、同日午前、萩生田光一・文科相は2020年度の英語民間試験導入を2024年度に延期する、と発表しました。

この日、具体的に決まったのは3点あります。

・2020年度の英語民間試験の導入は延期とする

・共通テストの英語は2021年1月に実施

・新たな英語試験を今後1年かけて検討し、2024年度からの実施を目指す/英語民間試験の導入についても同様

急きょ、延期が決まった背景には政治判断があります。

9月11日に第4次安倍第2次改造内閣が成立しましたが、10月25日に菅原一秀・経済産業相、10月31日に河井克行・法相が公職選挙法違反の疑惑から辞任。そこに萩生田・文科相の「身の丈発言」(10月24日)から、共通テストと英語民間試験の導入について、批判論が強まっていました。

しかも、Yahoo!ニュース個人記事2019年10月30日配信「萩生田文科相「身の丈」発言で英語民間試験の延期論も~問題・欠陥はどこにある?」でまとめましたが、英語民間試験の導入はあまりにも筋の悪い話でした。

制度自体は決まっていても会場は未定。どれか1つの問題点を修正すれば別の問題点が大きくなるリスクがあったのです。

それもあってか、

「もう風圧に耐えられない。大臣が2人辞め、英語試験のごり押しはできない」(自民党幹部)(「朝日新聞」2019年11月1日朝刊「見送り 世論おそれ」)

と、実質的には官邸が主導する形で延期が決まりました。

野党は勢い、推進派議員は反論

与党・自民党の敵失に野党は勢いづきます。

立憲民主党の安住淳国対委員長は1日、大学入学共通テストの英語民間検定試験の導入延期が決まったことをめぐり「学生にこれだけ迷惑をかけたので、ただじゃ済ませない。文部科学行政の責任者、関わった政治家は徹底的な検証と責任追及をする」と述べ、政府の対応を厳しく批判した。国会内で記者団に語った。

(「産経新聞」2019年11月1日朝刊「『学生に迷惑、ただじゃ済ませない』立憲・安住氏 英語試験延期で追及」)

一方、推進してきた与党議員からは実施延期に否定的な意見や制度不備を認める意見も。

英語入試民間活用先送りという一部報道がある。萩生田大臣には大変だと思うが是非改善の努力を続けていただきたい。裁量労働制法制化先送りに加えて本件を先送りしたら、日本のグローバル化対応や改革に対する信用は大きく失われてしまう。(柴山昌彦・前文科相Twitter・11月1日投稿)

自民党の新藤義孝政調会長代理は地域格差などに触れ「どう是正するのか、詰めが甘かった」と陳謝。英語能力を向上させる必要があるとして「教育改革の本質を見誤らず、万全の体制を整えていきたい」と述べた。公明党の石田祝稔政調会長も都市と地方の公平性の問題に関し「クリアしてもらいたい」とした。(「京都新聞」2019年1月4日朝刊「英語民間試験活用 野党『白紙撤回を』与党、制度不備認める」/共同通信配信)

責任論の是非などは週明けの国会で論戦があることでしょう。

そのあたりは、政治の領域であり、政治家の皆さん、頑張ってください、という程度にとどめておきます。私としては、同じYahoo!ニュース個人オーサーの安積明子さんのレポートに期待しております。

それはさておき、大学・就職関連取材18年の私としては萩生田文科相の責任論よりも、今後、どうするのか、そちらの方に強い関心があります。

関心というよりも、すぐにでも決めるべき事項があり、もっと言えば、すぐにでも決めなければならない事項です。これが決まらない(あるいは、なかったことになる)と、共通テスト一期生である現・高校2年生がいい迷惑。というよりも、大きな不利益を受けることになります。

「2024年度に延期した」でも「萩生田文科相の責任を追及する」でも、どちらでも受験生は救われません。

すぐにでも再検討・決定した方がいい事項はさしあたり、4点あります。

その1:共通テストの英語の配点

2020年センター試験)筆記200点(80分)、リスニング50点(60分、うち解答時間30分)

2021年共通テスト)リーディング100点(80分)、リスニング100点(60分、うち解答時間30分)

変更維持のままだと:成績上位層と下位層の二極化構造ができてしまう

共通テストでも英語の試験自体はあります。そのため、英語民間試験の導入が見送られても、英語の優劣を判定しない、というわけではありません。

ところが、同じ英語試験でもセンター試験と共通テストとでは配点が異なります。

センター試験では筆記200点・リスニング50点となっているのに対して、共通テストではリーディング(筆記)100点、リスニング100点。

この配点は、英語民間試験を導入するという前提条件があってのものです。

「各大学の判断で共通テストと認定試験のいずれか、又は双方を選択利用することを可能とする」(大学入試センター・サイトより)としていました。

ところが英語民間試験の導入は延期。

そこで、残ったのが共通テスト・英語試験の配点です。

現在のセンター試験におけるリスニングは「実用英語検定だと準1級~2級の間くらいのやや難しいレベル。ただ、対策をちゃんとやれば得点できる」(首都圏・高校教員)と言われています。

進学校だと、リスニングでもしっかり得点を取るために対策をしています。

そのため、共通テストの配点が100点・100点のままだと、リスニング対策をちゃんとした成績上位層とそうでないはない下位層の差が、センター試験よりも大きくなることになります。

その2:各大学の英語入試の再構築

現状:民間試験の導入を前提に入試の制度設計がすでに終了

→導入延期となった以上、再設計が必要

共通テストの配点も問題ですが、それ以上に問題となるのが、各大学の英語入試です。

国公立大学は2次試験、私立大学は一般入試で、それぞれ、独自試験を課します。

共通テスト・英語民間試験の導入によって、国公立大学・私立大学とも、英語入試を変更する大学が多くありました。

「身の丈」発言の翌日、10月25日の文部科学省発表では、大学・短大合わせて629校、全体の58.9%が利用を表明しています。

その中には首都大学東京や上智大学などのように、英語の個別入試を廃止する大学もありました。それから、一般入試を実施したうえで英語民間試験の成績を加点評価する入試方式の大学もあります。

そもそも、英語民間試験の成績は一度、大学入試センターが受験生から情報を集め、それを各大学に提供するシステム(大学入試英語成績提供システム)を運営予定でした。

利用延期に伴い、このシステムも当然ながら延期となります。

そうなると、各大学は民間試験の成績を受験生から個別に提供してもらうことになります。

全面的に利用予定だった大規模の大学は、大学側で受験生の個々の成績を個別に見て、合否に反映できるだけの余裕が果たしてあるのか。(中略)国は一刻も早く、共通テストの修正の有無の方針を公表、私立大学を含めた各大学にも11月末、年内など、期限を切って講評を求めていく対応を、早急にすべきだろう。

※「朝日新聞」2019年11月3日朝刊「英語民間試験の利用延期どうすれば」/コメントは石原賢一・駿台教育研究所進学情報事業部長

その3:民間試験実施団体・企業への補償は?

現状:特に言及なし

→実施団体・企業から損害賠償請求の訴訟も?

すでに日本英語検定協会による「英検2020 1 day S-CBT」については来年度実施分についての申し込みが始まっていました。

当初はキャンセルを認めない、との姿勢でしたが、9月に入り、「会場がどこか、見通しもないのに予約させるのか」との批判が殺到。11月5日~11日に返金申し込み期間を設けるようになっていました。

これが、今回の導入延期によって、こちらも延期。

先般、本日11月1日9時半からの萩生田文部科学大臣の英語民間試験活用の延期発表を受けまして、当初、来週11月5日(火)から11月11日(月)に予定しておりました、「S-CBT」の返金申込受付期間につきましては一旦延期とさせていただきます。

(日本英語検定協会サイトより)

返金期間が延期になるにせよ、いずれは受け付ける見込みであり、これによって、受験生が不利益になることはないでしょう。

問題はこの日本英語検定協会を含む、民間試験の実施団体・企業です。

すでに来年の試験実施にあたり、大量の受験者数増加を見込んだうえで試験会場を手配しています。

それが実施延期となった以上、受験生はどう動くでしょうか。どう考えても、民間試験受験をする受験生より、回避する受験生の方が多いに決まっています。

そうなると、確保した会場をキャンセルする必要が実施団体・企業には出てくるのが自然です。会場だけでなく、試験監督などの人員も不要ということに。

そうしたキャンセル料などを含む補償はどうなるのでしょうか?

今のところ、文部科学省から補償に関連する方針は示されていません。

このまま、特に補償をしない、となると、実施団体・企業は大きな損失を被ることになります。

実際、11月1日の利用延期を受けて、関連企業の株価は下落しました。

ベネッセコーポレーション(ジーテックなどを運営) 2834円(前日比73円下落)

EduLab(エデュラボ/実用英検の事業委託) 4890円(前日比1000円下落)

受験機材の開発、会場確保など多額の投資をしてきただけに、損害賠償を求める動きも出てきそうだ。

※「日刊スポーツ」2019年11月2日「英語民間試験延期にベネッセなど戸惑い、株価も影響」

その4:記述式を本当にやる?

現状:プレテストで採点ミスや自己採点の不一致が発生

→実施だとトラブル続出?

野党が英語民間試験の延期に続いて、標的としているのが、国語・数学の記述式導入です。

こちらも英語民間試験と同様、欠陥が多すぎます。守る側の文部科学省ないし与党側はかなり苦しく、こちらも延期なる可能性が出てきました。

まずは、共通テストの記述式についての現時点での決定事項をおさらいします。

・共通テストの国語と数学で記述式問題を各3問出題する

・文字量は80字~120字

・採点は委託を受けた民間事業者が実施

・民間事業者の選定は9月に入札終了。ベネッセコーポレーションのグループ会社・学力評価研究機構が61億円で落札済み(2024年までの契約)

・民間事業者は大学院生等のアルバイトを約1万人、採用。10日~2週間で50万人分の答案を採点

・大学入試センターは解答例を示し、受験生は自己採点をしたうえで2次試験出願校を決定

・国語の記述式はマーク式(200点)とは別に採点

・国語の記述式は「正答の条件」をどの程度満たしているかにより、小問ごとに段階別で評価。記述式全体を5段階で総合評価

・数学は記述式・マーク式と合わせて採点・評価

さあ、この時点で、クエスチョンマークが点滅する読者の方が続出していることでしょう。特に「総合評価」という点について。

現行のセンター試験であれば、マーク式です。採点も機械で進むため、結果が出るまでの時間はかかりません。受験生側の自己採点も大きな問題となることはほぼありません。

採点はアルバイトでミスも多発?

ところが。記述式が導入となると、機械採点だけでなく、人の手によって採点していく必要があります。

受験者数は約50万人。これを約1万人のアルバイトで本当にできるのか、というところがポイント。

秘密保持は契約書にきちんと盛り込めばどうにかなる(と信じたい)、としましょう。

問題は採点の質が本当に担保できるのか、という点にあります。

大学入試センターは2017年11月と2018年11月に試行調査(プレテスト)を実施しました。採点の修正率は1回目が0.2%、2回目が0.3%。

なんだ、その程度か、と思った方は軽く見すぎています。約50万人が受験するわけですから、0.2%でもその数は1000人にもなります。1000人もの受験生が採点ミスの被害を受けるわけです。

しかも、プレテストに参加したのは、約7万人。このうち、採点の正誤を確認する検収作業数は1回目が4000~5500人、2回目は8500~9000人でした。つまり、全数を研修作業したわけでなく、実際には0.2~0.3%どころか、もっと多かった可能性もあります。

さらに、これが約50万人の受験となるとどうでしょうか。

一般入試などの記述式問題では、定められた採点基準では正否を判断できない答案があった場合、採点者で議論し、全員の答案を見直すこともある。本番では上位採点者が1万人の答案を抜き出して採点基準を確定し、1次採点者は基準に従うとしているが、約50万人と推測される受験者の答案を採点する過程で、基準の変更が必要となる可能性がないとは言えない。テスト理論に詳しい専門家は「採点ミスをゼロにすることは不可能。ミスが0.1%だったとしても、50万人規模になると影響は大きい」と指摘。2次試験までの時間が限られる「短期間大規模採点」に不安が残る。

※「毎日新聞」2019年4月5日朝刊「大学入試:新テスト試行 記述式正答、国語↑数学→ 採点、解けぬ不安」

点数評価ではなく区分が違えば10点差も

この記述式で採点ミスがあれば、受験生の人生を大きく左右することになるのは言うまでもありません。さらに、このリスクをさらに増大させかねないのが評価方法です。

先に書いた、共通テストの決定事項で、「国語の記述式はマーク式(200点)とは別に採点」「国語の記述式は『正答の条件』をどの程度満たしているかにより、小問ごとに段階別で評価。記述式全体を5段階で総合評価」、この2点について、さらに解説します。

現在のセンター試験・国語はマーク式で200点満点です。

一方、共通テスト・国語はマーク式で200点満点、とセンター試験と同じ。では、記述式の3問は、と言えば、この200点満点に含まれません。

では、記述式はどこに消えたか。当然ですが、消えません。

「正答の条件」をどの程度、満たしているかによって、段階別で評価。5段階評価で合否判定に利用します。

となると、もし採点ミスがあった場合、区分が違えばそれだけで大きな差がついてしまうのです。

採点のぶれが合否に直結する可能性もある。国語の記述式はマーク式の問題とは別に段階別の評価が導入される。まず三つの問題を、正答条件に沿ってそれぞれ4段階で採点し、そのうち解答文字数が最も多い80~120字程度の問題の評価を1・5倍する。その上で全ての評価を合計し、5段階に区分する。今回は評価が高い順に、段階A14・5%▽B14・6%▽C29・9%▽D30・8%▽E10・3%となった。

国立大学協会は国語の記述式評価のガイドラインで、段階評価を点数化することを示している。多くの大学が記述式を40点満点とする方式を採用する予定で、1段階異なると10点近い差が出ることになる。南風原朝和・前東京大高大接続研究開発センター長は「採点のわずかなずれが、結果的に大きな得点差になる」と批判する。

※「毎日新聞」2019年4月5日朝刊「大学入試:新テスト試行 記述式正答、国語↑数学→ 採点、解けぬ不安」

なんと、採点ミスによっては、10点もの差が出ることになります。

しかも、これだけリスクが大きすぎる割に、50万人の採点結果を全数、点検するのは無理。

となると、採点ミスは0.3%(1500人)どころか、さらに増える確率の方が高い、と言わざるを得ません。

自己採点もかなりの「無理ゲー」

記述式は、採点ミスも相当な問題ですが、受験生による自己採点も問題です。

マーク式であれば、自己採点はそれほど難しい作業ではありません。

何しろ、答えがはっきりしているわけですし。

ところが、記述式だとどうでしょうか。マーク式に比べれば、どうしてもブレが出てしまいます。受験生よりは知識がある採点者ですら、採点ミスのリスクが高いことは前記の通り。受験生の自己採点は採点ミス以上にブレが生じます。

受験生にとって気がかりなのが、2次試験で出願する大学の判断材料となる自己採点の難しさだ。今回の試行調査では、国語の記述式で約3割の生徒の自己採点結果が実際の評価と一致しなかった。(中略)関西地方の高校の国語教諭(48)は「そもそも一定の学力がなければ、複雑な正答条件を理解して適切に自己採点をすることなどできない」と疑問を呈する。

※「毎日新聞」2019年4月5日朝刊「大学入試:新テスト試行 記述式正答、国語↑数学→ 採点、解けぬ不安」

自己採点にブレがあれば、志望校の選定にも大きく影響します。実際の得点が低いのに、高めに出してしまうこともあれば、その逆もあるでしょう。こうしたブレが受験生に利益をもたらすことはありません。

まとめますと、記述式には、総合評価という煩雑さ、採点ミスの高さ、自己採点のブレというリスクがあります。

この記述式についても、できるだけ早い時期に再検討の上、英語民間試験と同様、延期した方がいいと私は考えます。

試験実施団体もいい迷惑

年内にも解決すべき問題は上記4点ですが、根本的な問題として国と民間団体・企業の境界線をどこまでにするか、こちらも検討すべきでしょう。

英語民間試験は2024年度まで延期となりましたが、この境界線をはっきりさせないと、同じ問題を引き起こすだけです。

英語民間試験の導入問題では、「民間実施団体・企業に任せるなんて商業主義的」「一方で参考書・問題集を販売しておいて、一方で合否判定に使うのはマッチポンプ」との批判が強くあります。

私もそこは同意見ですが、一方で、民間試験の実施団体・企業に対して同情的でもあります。

民間試験の実施団体・企業が参考書・問題集を販売する、これはその実施団体・企業がビジネスを継続する、という点では当然のことです。

その実施団体・企業に共通テストについて、国・文部科学省から丸投げした、というのが実態です。

丸投げされた実施団体・企業が1団体・企業であれば、そこまで問題が複雑になることはなかったでしょう。

何しろ、受験者数が約50万人と決まっている以上、センター試験と同様の会場手配をすればいいわけです。

ところが共通テストで利用するとした民間試験は7種類。しかも、大学により、どの民間試験を利用するかどうかがバラバラです。

そのため、受験者動向が実施団体・企業からすれば全く読めません。ビジネスの原理から言えば、受験者数が確定してから試験会場を決めよう、という話にもなります。

それでいいじゃないか、と考える論客もいるでしょうけど、そう話は単純ではありません。受験生からすれば、センター試験と同じように受験できることを期待します。そして、それは受験生の我儘、というわけではありません。教育の原理からすれば当然のことですし、まして、日本国憲法、教育基本法に定められた「教育機会の均等」にも合致します。

一方ではビジネスの原理があり、一方では教育の原理があります。そこを調整できるのは、国・文部科学省しかありませんでした。

が、実際には、実施団体・企業に丸投げしただけでした。

現行の大学入試センターは試験は独立行政法人の大学入試センターが実施するため、管轄する文科省の指導力が及ぶ。一方、英語民間試験はセンターが実施団体と協定を結ぶという形で調整が進められてきた。

「民間の実施団体は指導対象外。どうしてもセンターを挟んでの『お願い』にならざるを得ない」(文科省幹部)。しかし、ある実施団体の担当者は「地域や経済的な不公平さの問題も、試験団体として、できることとできないことがあると言い続けてきた」と反論する。

※「毎日新聞」2019年11月2日朝刊「身の丈発言 火消し優先」

横浜の受験生が仙台で受験という異常事態も

試験会場の問題は地方の高校生にとって、大きな不利益をもたらす、と批判が強くありました。文部科学省は地方受験生の交通費支援制度を設けることで対応しようとしましたが、それだけ解決できる問題ではありません。

複数の試験を採用し、どの試験に受験生が集中するか、全く読み切れません。

萩生田文科相が英語民間試験の導入延期を発表した11月1日、私は横浜で高校教員向けの講演(無償化法について)をしていました。

休憩中の雑談で話題となったのが、試験会場問題です。ある高校教員は、こんな話をしてくれました。

「地方が不公平とよく言われるが、この神奈川を含めて都市部だって他人事ではない。試験会場が満席で、他の会場でしか受験できない、という可能性だってあった。たとえば、横浜会場が満席、東京も千葉もダメ。仙台会場しか空いてない。で、その試験を受けないと志望校には受験できない。そういう事態をなぜ、文科省は想定できなかったのだろうか?」

当然ですが、地方生への交通費補助を決めたら決めたで、都市部の不利益を受けた受験生との格差が問題となります。

2024年度以降も同じ問題を繰り返す?

英語民間試験の導入は2024年度まで延期となりました。

が、試験会場問題は、ビジネスの原理と教育の原理、どこで折り合いをつけるのか、国・文部科学省がはっきりさせるべきです。単に実施団体・企業側に「お願いをする」「連携をする」だけでは、5年後にも同じ問題を繰り返すだけでしょう。

しかも、2024年度と言えば、今のところ、「高校生のための学びの基礎診断」を導入する予定です。

細かい説明は省略しますが、こちらも、漢字検定、数学検定、「スタディサプリ」(リクルートマーケティングスタディーズ)など民間試験に丸投げする構造は全く同じ。

つまり、試験会場が不足して、地方の受験生が受験できない(その逆に都市部の受験生が地方会場でしか受験できない)リスクは大きく残ったままです。

しかも、2024年度には共通テストでは以下のことが決まっています。

・共通テストの英語を廃止→民間試験に完全移行

・国語の記述式問題を増量(回答文字数を増やす)

・地歴・公民分野、理科分野でも記述式を導入

・共通テストの複数回実施

いずれも、問題を抱えているのは言うまでもありません。

これらをどうするか、改めて検討しないと、結局は同じ問題を繰り返すだけになります。

与野党とも、日本の教育をどうとらえるのかも含めて検討する必要があります。

では、なぜ、共通テストに衣替えすることになったのか。というあたりは次回にでも。

追記(2019年11月4日18時30分修正)

記事中で、プレテストにおける記述式の修正率について、「0.2%~1万人」と記載していましたが、正しくは1000人でしたので修正します。ご指摘いただいた、ほっぱぁ様、ありがとうございました。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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