内定辞退「直接会って、まず感謝」記事が賛否両論~正しい方法は?

カレンダーを見る就活生(イメージ)。内定辞退は決断が重要、と専門家は力説。(写真:アフロ)

日経産業記事「直接会って、まず感謝」記事が大炎上

選考解禁が6月1日という割に、内定率がすでに50%に届く2020年卒就活。就活生の関心は段々と最終選考、複数内定からの選択、それから内定辞退というところに移りつつあります。

このタイミングがドンピシャだったのが日経産業新聞の就活探偵団コラム「内定辞退の正しい伝え方、『直接会って、まず感謝』を」記事です。

5月15日に有料会員限定で公開されたところ、5月16日にTwitterのトレンドワード入り(8万件以上)をするなど、大きな注目を集めました。

賛否両論となった日経産業新聞記事
賛否両論となった日経産業新聞記事

記事では学習院大学で開催されたキャリアセンター主催の「内定獲得後のマナーセミナー」に触れています。同セミナーで講師となったのが、淡野健・担当事務長。

「自分を選んでくれた企業に感謝の心を持ちましょう」。キャリアセンターの淡野健担当事務長が集まった学生を前にこう述べる。

(中略)

先に内定していた企業の人事担当者に連絡を取り、「進路について相談したいので伺いたい」と告げるべきだという。淡野さんは「メールの送りっぱなしや電話で完結してはダメ。必ずその企業に足を運ぶことが重要」と力を込める。

「全ての企業にとって、内定を出すことは重要な経営判断」であるためだ。自分を評価して重要な経営判断を下した企業に対して、学生とはいえ「礼を尽くすべき」と指摘している。

そして、いざ担当者と面会した場合、ポイントとなるのは「内定をくれたことへの感謝を、いの一番に伝えること」。

この記事に対して、

「謎マナーすぎる」

「学生を落とした時はテンプレお祈りメールで済ます癖に、内定辞退には直接会えとか増長し過ぎ」

「地方大学の学生だと、多くの場合は直接会いに行くのだって交通費がかかるんだよ! 」

など、就活生などを中心に反発する意見が多数噴出。

社会人からも、採用担当者や大学教職員を含め、「直接訪問は行き過ぎではないか」と疑問の意見が多数出ました。

漫画家のよしたにさん(『ぼく、オタリーマン。』『ガンダム系の人々』など)は、この内定辞退についての漫画をTwitterに投稿。

よしたにさんの漫画ツイート。6986RT(5月18日現在)まで伸びる。
よしたにさんの漫画ツイート。6986RT(5月18日現在)まで伸びる。

採用担当者からの電話「内定を辞退するならちゃんと出向いて謝るのが筋だろうが。そういうとこ、大事にしないやつはどこに行ってもダメだ」

就活生「元カノがまだ自分のこと好きと思ってるタイプの人類ですか?(その価値が御社にゃねぇって言ってんだよ)」

これが支持を得て、2019年5月18日現在、6986RTまで伸びています。

内定辞退の直接訪問、氷河期ではよくあったが

内定辞退については、私の過去の著作、『就活のバカタレ!』(PHP、2010年)にも登場します。同書はオムニバス形式の漫画なのですが、冒頭に出ているのが漫画家・高世えり子さんの体験談。元は高世さんの同人誌をコミティアで購読しまして、いずれお仕事をしたい、と思っていました。就活漫画企画が出たときに、真っ先にお願いしまして、同人誌の草稿に大幅に加筆していただきました。

高世さんが就活をされたのが2004年。就職氷河期の真っただ中です。細かいストーリーは省略するとして、高世さんは2社から内定を得ます。1社には内定辞退の電話を入れますが、結局、アポなしで断りの挨拶に行く、というシーンがあります。

高世えり子さんの体験漫画。内定辞退で直接訪問のシーンもあり。
高世えり子さんの体験漫画。内定辞退で直接訪問のシーンもあり。

就職氷河期だった2000年代、内定辞退をする企業に直接訪問をする、というのは良くある話でした。日経産業新聞記事に出ている淡野健・学習院大学キャリアセンター担当事務長の「直接会って、まず感謝」はこの就職氷河期のマナーを踏襲したもの、と思われます。

内定承諾は法的拘束力なし

内定辞退はどうあるべきか、という前に、内定辞退と内定取り消しについてご説明します。

学生の都合による内定辞退は、基本的には合法であり、内定承諾書を取り交わした後でも、内定辞退は可能です。

内定承諾書はそもそも論として法的な根拠は特にありません。

内定辞退で学生に損害賠償を請求できる可能性があるとすれば、内定承諾書とは別に研修(それも海外研修など高額、かつ、その研修を受けないと就業が難しいもの)に関する契約書を交わすなど特殊な事例のみです。基本的には、

日本国憲法22条1項(「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」)、民法627条1項(「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する」)

が適用されます。

極端な話、学生側の内定辞退理由があいまいだった、何となく嫌だった、というものであっても、問題はないのです。

このあたり、企業の採用担当者から「同じチャラでも学生都合の辞退はお咎めなしで、企業都合の内定取り消しだとお咎めあり。おかしくないか」

との意見がありますが、法的にはそうなっているのであきらめてください、としか。

ところで、内定は、労働契約が成立している、とするのが一般的です。

 労働契約が成立していれば、労働基準法が適用され、学生であっても労働者と同じく解雇の4要件(人員整理の必要性、解雇回避努力義務、被解雇者選定の合理性、手続きの妥当性)に当てはまるかどうかが問われます。

 要するに、本社と工場が地震で壊滅・企業活動が継続できないとか、よほどのことがない限り、解雇の4要件に当てはまることにはなりません。

 内々定段階だと、労働契約は成立していない、となります。が、この場合でも内定取り消しをした場合、民法の信義則違反が問われる可能性が高くなります。

採用担当者は「手段よりも期限を決めてほしい」

では、現在の就活で内定辞退はどうか、採用担当者4人と大学キャリアセンター職員、就活カフェ主宰者(大学キャリアセンター勤務経験あり)に取材して回りました。

全員が、

「内定辞退は企業にとって頭の痛い問題」

としたうえで、

「売り手市場である以上、学生が複数企業から内定を得るのは当然。辞退されても致し方ない」

と回答しました。

意外だったのは直接訪問かメールか電話か、という手段よりも期限を気にする回答が採用担当者からあった点です。

「うちは内定を出すのが2月と早い。学生は他社の内定が出そろうのが6月中旬から下旬ごろ。そこまでは待つが、内定承諾にしろ、内定辞退にしろ、検討中にしろ、連絡がないのが一番困る」(IT)

「弊社は他社の選考も含めて『いつまでも待つ』というスタンスです。ただ、承諾するのか辞退するのか、『迷っている』と言い続ける学生だと、こちらも冷めてしまいます」(小売)

「内々定から内定承諾の期限は2か月。もちろん、それ以上かかりそうな事情があるなら待つ。ただ、あまりにも決断を先延ばしにしすぎると、正直『そんな決断できないようならうちではいらない。他社に行ってくれないかな』と内心では思う。そんなこと、就活生には言えないけれど」(商社)

直接訪問か、メールか、電話か、いずれの手段が適当か聞くと、電話が3社、メールが1社で直接訪問を指示する企業はありませんでした。

「正直なところ、辞退という前提で来られてもお互いに時間のムダ」(商社)

メールか電話か、だとメールと回答した企業も、

「就活生も忙しいからメールというのは致し方ない。ただ、できれば電話くらいは欲しい」(IT)

と電話が適当との見解。

残り3社は、

「電話ではっきり辞退の意思を表示してくれる方がありがたい」(小売)

「メールと電話、両方がいいけど、どちらか、というなら電話でしょう」(商社)

「電話が確実」(IT)

とのこと。

他大のキャリアセンター職員は「直接訪問は条件付き」

とある私大のキャリアセンター職員は、

「淡野さんもとんだとばっちりですね」

と苦笑い。

就職氷河期には、内定辞退は直接訪問がマナー化していたことを認めつつ、今は違うのではないか、との説明してくれました。

そのうえで、内定辞退について直接訪問した方がいいケースはなくはない、とも話します。

「3つほどあります。一点目は、数人程度しか内定を出さない中小企業です。数十人ないしそれ以上、内定を出す企業であれば1人内定辞退をしても、それほど痛手ではありません。しかし、数人程度しか内定を出さない中小企業だと1人辞退するだけで大きな痛手です。もちろん、企業側も大手企業に内定学生が流出するリスクを検討するべきですが、就活生の方も一言あった方がいいでしょうね」

「二点目は、就活中にお世話になったとか、内定式の10月を超えた段階で翻意して内定辞退をしたとか、よほどの事情があるケースです。特に後者、内定式の後ですとか、卒業間近に内定辞退となると、その企業は追加募集をしたくてもできなくなります。就活生が内定辞退をするのは一応、合法であり、損害賠償を求められることはありません。ただ、あまりにも遅すぎる内定辞退だと、下手をすれば損害賠償、という話にもなりかねません。そうでなくても、このケースだと、直接訪問、と言う方が適当でしょう」

「三点目は内定承諾をした企業と内定辞退をする企業が同じ業界であるケースです。内定辞退をした企業と承諾先が同じ業界なら、就活生が入社した後も、どこかで接点があるかもしれません。その際に『無責任に内定辞退したヤツか』と思われるかどうかでビジネスにも大きな差が出てしまいます」

このキャリアセンター職員も内定辞退は学生なりに期限を決めて、その間に決断した方がいい、と話しました。

「迷うようであれば、内定先企業に改めてOB訪問・社会人訪問を依頼してみてはどうでしょうか。就活生の段階ではOB訪問・社会人訪問のあっ旋を断る企業は多くあります。が、内定者となれば話は別。大半の企業がセッティングしてくれます。そこでぶっちゃけ話を色々聞いて判断材料とする方がいいでしょう」

「6月なら6月、7月なら7月と『この時期までに内定承諾の是非を決めます』と早いうちに意思表示をしたうえで、その期限内に内定承諾か、辞退か、返事をすることです。決断しないまま先送りする、というのが一番良くありません」

就活カフェ主宰者「直接訪問はちょっとあり得ない」

就活カフェ「キャリぷらplus北海道」を主宰する赤坂武道さん(大学キャリアセンター勤務経験あり)にもお伺いしました。

キャリぷらplus北海道で就活生の相談に乗る赤坂武道さん(右)。
キャリぷらplus北海道で就活生の相談に乗る赤坂武道さん(右)。

日経産業新聞記事を見せると、

「直接訪問は、ちょっと今だとあまりない選択ですね。私は行き過ぎと思います」

と話したうえで、内定辞退はメールよりも電話、と説明してくれました。

「メールだと担当者が読んでいない、あるいはメールソフトの仕様でエラー扱い、ということもあります。その点、電話だと担当者にはっきりと伝わるので、電話が一番ではないでしょうか。担当者が不在、というのであれば、メールを送り、日時を改めて電話、という手もあります」

「直接訪問は、よほどの事情があるなら別ですが、そうでないなら、企業側も学生側も時間を浪費するだけのような気がします」

悩んでも最後は決断を

就活が佳境となると、私のところにも複数企業から内定を得たがどの社がいいか、という相談が増えます(「周囲は内定を得ているのに自分は未内定で嫌になる」という相談も増えますが本稿では省略)。

「内定先をどこにするかは自分の一生に関わる。ここで失敗をしたくない」

と話す就活生もいます。

どの企業にするのかは、大学受験以上に難しい選択です。何しろ、内定承諾をした企業がずっと安泰か、と言えばそんなことはなく。

もっと言えば、この内定辞退、決して最近の話ではありません。

大卒就活が定着した大正時代の1921年(大正10年)には、住友本社(現・住友商事)で内定辞退がすでに発生しました。しかも、重役参加の懇親会で内定者答礼挨拶をした学生が辞退したのです。

大正、昭和、平成、そして令和とどの時代においても学生は内定先をどうするか悩み続けました。そして、それは今後も新卒就活が壊滅しない限りは全く同じでしょう。

悩むにしろ、どこかで決断することが必要です。学生であれ、社会人であれ「デモデモダッテ」のループで決断を先送りし続ける限り、その人が支持されることはありません。

その決断がその時点で多くの人から支持を受けないものだったとしても、決断したことは就活生のキャリアを一歩進めることになります。

就活生には、迷うにしても、どこかで決断することを強くお勧めします。

なお、先にご紹介した住友本社の内定辞退者ですが、その学生は興業銀行(現・みずほ銀行)に入行しました。

なぜ、その記録が残っているか、と言えば、この住友本社の内定辞退者はのちの東京都民銀行頭取となったからです。

『日本就職史』(尾崎盛光、文藝春秋、1968年)では「食い逃げ第一号」と評していることをここに付記します。

付記・記事変更(2019年5月18日19時)

記事中にある、よしたにさんの漫画ツイートですが、よしたにさんにお許しをいただいて、画像を貼り付けました。